【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
隣がどれだけ暴れようが、俺にはあんまり影響がない。
むしろ角部屋のお隣から俺の部屋を挟んだ反対側の部屋の住人が心配だが、幸いな事にそこは空き部屋。
もう一個向こうはだいぶヨボヨボのお婆さんが住んでいて、あんまり気にしていなさそう。
というわけで、お隣さんは楽しい配信生活が出来ていたわけだが……
とある夜、事件が起きた。
『はぁーっ!? こいつチーターやろ! こんなもんチートやチート!』
お隣のそんな声をBGMに、俺は椅子に座ってスマホでネットサーフィンをしていた。
時間は深夜一時。
そろそろ寝るかと立ち上がり、背筋をグイッと後ろへ伸ばした。
だが、片足を寝袋の上に乗せていたのが良くなかったのか、バランスを崩してしまい……
ドンッ!
そう音を立てて、お隣さん側の壁に手をついてしまった。
「あ……」
『…………』
その瞬間、あんなにうるさかったお隣さんの声はピタッと止んだ。
そんなつもりはなかったんだが……壁ドンだと思われたんだろうか?
とりあえず、なるべく音を出さないようにして眠った。
翌日、共用の台所で俺が朝飯のパンを焼いていると、背後から「おはようございます」という声が聞こえた。
昨日の夜からそのまま寝ていないのだろうか?
ボブカットの黒髪にピンクのインナーカラーを入れた彼女は、オーバーサイズのトレーナーの胸の前で指を組んでこちらを上目遣いで見つめている。
「あ、おはようございます」
俺がそう答えると、彼女は不器用そうな作り笑いを浮かべてこう言った。
「……そのぉ、昨日とかってぇ……うるさかったですかね?」
「え? あ、すいません昨日は早めに寝たもので……」
「あ、そうなんですか。へぇー……」
揉めてもめんどくさいので、適当にウソをついて煙に巻くと、彼女は露骨に安心した様子になった。
そして「うるさかったらすいませーん」と部屋に戻っていく。
多分これから寝て、また深夜の配信に備えるんだろうな。
それから三日ほどは、彼女の配信のトーンも抑えめになっていたのだが……
そんな事で静かになるような女じゃない事は、俺だって百も承知。
『なんで
あっという間に声量は元に戻り、隣の部屋は元通りうるさくなる。
別に俺もそれはどうでも良かったのだが……
ある晩、またアクシデントが起こった。
「あれ……安田か……」
夜中のゼロ時半に、普段あんまり連絡を取っていなかった大学の同期から電話がかかってきたのだ。
「はいもしもし」
『ハセコー? 俺だよ俺ぇ~! お前仕事辞めたってぇ?』
「あー、それねー」
電話の向こうの声はだいぶ泥酔している様子。
どうやら酔っ払った勢いで、久々に電話をかけてきてくれたらしい。
『なんでだよぉ~、俺そっちの会社落ちたのにぃ』
「落ちて正解だったと思うぞ。すんげぇブラックだったから」
『ブラックって、
「いやいや、もうそういうレベルじゃないんだって。ほぼ毎日現場泊まり込みでさぁ、たまに帰れる日も洗濯しに帰ってるようなもんでまたすぐ現場戻ってたからな。有給取ってもお構い無しで呼び戻されてたし」
『えぇ? そうなの? 大手なのに?』
「あんま関係ないんじゃない? 外食しかないから貯金もできないし、俺は一抜けた」
『お前これからどうすんのぉ?』
「CADオペなるわ、今職業訓練通ってるとこ」
『そうなんだぁ……』
酔っぱらいとそんな会話をしている中、俺は隣の部屋の声がピタッと止まっている事に気づいていなかった。
この部屋の、馬鹿みたいな壁の薄さにもだ。