【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
翌日の昼に、都内の喫茶店で行われたデッドピーマン氏との話し合い。
その場に現れた、ごく普通の女子大生という見た目の彼女。
その返答は簡潔なものだった。
「すぐ行けます、今行けます」
「落ち着いてください」
「一般職で三十社受けて箸にも棒にもかからなかったのに」とか「絵描いててよかったー!」とか興奮しながら捲したてる彼女をなだめ、チャットで文面に纏めながら諸条件を詰めた。
彼女は将来十人以上の人間を一人でプロデュースしていく、つよつよライバル企業の頭になる人間だ。
そんな人材をこんなに簡単に確保できていいのかという感じはあるが……まぁまだ本決まりじゃないしな。
よしんば入ってくれたとしてもだ。
結局うちの会社には収まらず、歴史通りになる可能性だって大いにあるのだ。
「もうアレなら、すぐインターンとして通いますよ! ほぼ単位取り終わってるので!」
「そうですか……では弊社の空気を見ていただくという意味でもそうしましょうか。インターンの間は、そうですね……時給二千円プラス、インセンティブでいかがですか?」
時給二千円は、専門職の
インセンティブは、お手軽にやる気を出してもらえるよう、簡単かつ低額に設定していこう。
「いやー、Vtuber業界って正直興味あったんで、誘ってもらえて本当に嬉しいです」
「
「それがなくてもですよ。もう今家でずーっとVの配信見てますからね。周りでもVの企業に入りたいって言ってる子も多いですよ、でも始まったばっかりの業界だから求人がなくて」
未来の配信者としての姿が見えるようなマシンガントークに頷きながら、俺はじっと彼女の話を聞いた。
なんだか頭の端に、引っかかるようなものがあるような気がしたからだ。
「こういうのって、演者になれなくても祭りには参加したいって感覚は絶対あると思うんですよ。今求人出したら他の会社蹴ってでも来る子はいると思いますよ」
「なるほど」
その言葉に、俺は天啓のようなものを感じていた。
別に、彼女の言う通りに新卒採用を打とうってわけじゃない……
手の中にある札の存在を、改めて思い出しただけの事だった。
その札とは、ライバーに応募してきてくれた各業界の経験者の履歴書。
『頂いた情報を採用活動以外に利用する事はありません』という但し書きに反する事ではないし、会長からも一応「ええんちゃいます?」という許可を貰った。
とはいえ、デッドピーマン氏の時と同じで駄目で元々だな、なんて考えながらの一手だったのだが……
Vの才能があるかどうかを主軸に採用していた最初の時とは違い、今回はそもそものキャリア順に話を持って行った結果、この作戦は大成功した。
もちろん、大半は断られてしまったのだが、なんと数人からはOKが出たのだ。
「有給消化してからでいいですか?」
「引き継ぎだけしたらいけます」
という、ほぼ即承諾組が二人。
「今持ってる案件が終わったらすぐにでも」
「この単身赴任が終わったらいけます」
「会社の補助受けて資格取っちゃったんで、上司に相談させてください……」
という、もうしばらくしたらいけそう組が数人。
「フリーランスなんで、来週からでもいけます」
そしてほぼ即OKが一人。
デッドピーマン氏が言ったように「演者じゃなくてもVtuber業界に関わりたい!」という熱意を持った人材は、たしかに存在したのだ。
今の我が社にとって大いなる救いとなる、大変ありがたいこの採用方式……これは『デッドピーマン式』と名付けよう。
うちの会社はこれからも経験者優遇で募集をかけていく事になるし、またこの方式にお世話になる事もあるだろうしな。
という事で、この夏カノンボールは
そんな変則的なリクルートをしたからだろうか?
その話を社内で共有した直後に、ある問題が起きた。
『社長〜! い〜れ〜て〜!』
それは賢獣ラムダの中の人からの、押し売り就活だった。
「社員募集してるなら言って下さいよぉ!」と言われたのだが、募集をする前に決まったというかなんというか……
「いやいや、ラムダさんはもうライバーで……」
『ライバー候補が社員になるなら、ライバーが社員なってもええでしょ〜! うちかて就活生なんですから〜!!』
「でも社員になったら取り分下がりますよ、ラムダさんなら多分ライバー契約の方が儲かると思いますけど……」
これは半ば口からでまかせだが、実際社員になったら業務委託形式の他のライバーとは扱いが違うのだ。
配信も業務扱いになって、スパチャ等も会社が総取りとは言わないまでも、取り分の割合は下げる事になるだろう。
だがその事を説明しても、彼女は折れなかった。
『それでも正社員でしょ? なら全然オッケーです。聞いて下さいよ、もう親がね〜、凄いんですよ〜!』
「親御さんが?」
彼女の話を要約すると、どのみちこのままだと大阪で就職させられそうとの事。
どうやら彼女が
そっちも契約社員との事だし、どうせなら自分もカノンボールの正社員にしてくれないかと言ってきたわけだ。
彼女の演じる賢獣ラムダのチャンネル登録者数は、開始一ヶ月ですでに五万人に迫る勢い。
なので個人的には、さっさと東京に出てきて専念すればいいのに……とは思うが、それもこれも未来を知っているからの感覚だからな。
『Vtuberって言っても親にはわからんから、なんやったら形だけでも正社員にしてもらえれば、親も納得すると思うんですよ! 一生のお願いっ! 社長〜!』
そこまで言われてしまっては仕方がない。
俺はあんまり良くない行為だとは考えながらも、彼女に総合職としての内定を出した。
もちろん、会社を辞めてもラムダは引き続きやれるが、逆に試用期間中にラムダを辞めたときは応相談という形にした。
まぁ、前周では精神的にもド安定なライバーだったから、たぶん大丈夫だと思うけど。