【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

29 / 74
カノンボーラー!

『会場にお集まりの皆様、配信画面でご覧の皆様。本日は枚方(ひらかた)カノン feat カノンボールFESにお越し頂き、誠にありがとうございます』

 

巨大LEDビジョンの右下あたりに表示された、弊社広報ライバーである大筒(おおづつ)ボーラーのLive2Dイラスト。

その中に入った吉沢さんによるアナウンスで、会場内の注意事項が話されていく……

 

あれっ?

俺らのコメント映ってる!

イェーイ! 会場のみんなー! 見てるー?

ボーラー5号だー!

VRライブみたいな演出だな

 

そしてビジョンの一番右側へ一本の縦帯が表示され、その上を公式有料配信に書き込まれたコメントが流れていく。

その様子を見て、リアル会場の観客も「すげー!」と湧く。

アニメのイベントなどでのホログラフィックライブはそこそこ行われていたようだが、Vtuberの大規模リアルライブはまだ数回しか行われていない黎明期だ。

まだまだ観客の目は肥えておらず、ある意味何をやっても喜んでくれるような状態だった。

 

『……それでは開演まで、今しばらくお待ちください』

 

注意事項を話し終わったボーラーが、画面にひょこっと沈み込むようなアニメーションで消える。

 

行かないで

ボーラーずっといて

ボーラーの3D化クラファンやったら?

次のライブまでにはボーラーの曲も作っといて

 

暗い画面の右をコメントだけが流れていく中、ファンたちのざわめきだけが会場を支配している。

俺は小さい音量でつけたマイクを左手でライバーたちに向け、右手で三本立てた指を一本ずつ折って、最後の人差し指をカノンの方に倒した。

 

「っ……カノンボールっ! いくでーっ!」

「「「おおーっ!!」」」

 

会場にかすかに響いたその掛け声に、会場が一気に「フーッ!!」と湧き、色とりどりのペンライトが振られる。

俺はマイクを切って「それじゃあいきます」と無線を飛ばした。

会場の電気が暗くなり、会場から「うおおおおおおっ!」っと歓声が上がる。

LEDビジョンには今日のために作られたカノンボールFESのOPが流れ、ライバーたちの画像が出るのに合わせて歓声が上がり、ペンライトの海が揺れる。

OPが終わった瞬間流れ出した、アッパーな一曲目。

それに合わせて、舞台脇からスポットライトを浴びたエアー着ぐるみのカノンが中央へと走り込み、観客の歓声は耳に痛いほどになっていく。

 

着ぐるみ!?

あれカノン入ってんの!?

めっちゃ可愛い

すげーわこのライブ

現地行きたかったー! 絶対クソ盛り上がるじゃん!

 

「いくでーっ! 配信のみんなも聴いてやーっ!」

 

揺れる観客席の映像を見ながら一瞬で枚方(ひらかた)カノンになったシュシュさんは、ボーカルブースに向けてそう叫ぶ。

うちの会長は相変わらず本番に激強だ。

さっきまでの弱気はなんだったのかというぐらい、いつも通りの歌声を披露している。

画面に流れるダンスは録画だが、いい具合に素人っぽいドタドタ加減が残っていてファンも大喜びだ。

やはり心配なんかいらない。

金盾Vtuberは伊達じゃないのだ。

無事に一曲目を歌い切ったカノンは、画面の暗転のタイミングでブースから離れ、トラッキングを入れてMCの態勢に入った。

 

「みんなー! どやったー!?」

 

めちゃくちゃ良かったー!

録音かと思ったけど生歌なんだ

ダンスも踊ってんの?

着ぐるみめちゃくちゃ動きっぱなしだったし、あの体力はさすがに別人かな

 

そしてフルトラでチョコマカ動きながらのMCを挟み、二曲目を歌ってから……

カノンは後輩の新聞部員の女子である、綾辻香真(あやつじかじん)に曲のバトンタッチをした。

 

「こんばんはーっ! 新聞部員のぉ、綾辻香真(あやつじかじん)です!」

 

カノンボール一期生で唯一の普通の美少女である綾辻さんは、なぜかそれで登録者数が一番少ないという不遇な目に合っていたが……

なんだかんだと才能ある人だから、これからガンガン伸びていくだろう。

今の時期ならまだギリ仕事を受けてもらえた、有名ボカロP作の持ち曲を歌った彼女は、またカノンへとバトンを戻した。

そしてカノンの三曲目のあと、次の歌い手は保健医こと白衣頼(はくいらい)だ。

 

「こんばんは皆さーん! お体の方はまだまだ大丈夫そうですか? カノンボールの保健室の先生こと、白衣頼(はくいらい)でーす!」

 

一期生唯一の男である白衣頼(はくいらい)はガンガン登録者数を伸ばし、すでに十万人を射程圏内に入れていた。

一期生立ち上げ時点の応募者にこの人が混ざっていてくれたのは、マジでシュシュさんの豪運がぶん回っていたと思う。

声よし知識よし性格よしの最強カードだ。

唯一の欠点として、面白さに若干欠ける部分もあったが……

勉強ができる人だからか、他のVとの絡みの中からどんどんそこらへんも吸収し始めていた。

強火のファンのおかげか、速攻でカラオケ入りした持ち曲を歌い切ると、彼もまたカノンへとバトンを戻す。

カノンが四曲目を歌うと、次は一期生最後のライバーである賢獣ラムダだ。

 

「僕の歌を聞けーっ!!」

 

登録者十万人を軽々と越した、カノンボールのマスコット的存在である彼女。

箱内外にファンが多く、3D化に当たってはクラファン開始と同時にクリエイターから売り込みがあったぐらいだ。

まぁ、中の人はほぼシュシュさんと同じクラスのライバーだと考えれば、さもありなん。

クリエイター入魂の可愛らしい二頭身ボディに、そろそろ疲れ始めてきた会場の空気もちょっと和んだ。

 

『さて、皆様にはここまで歌を楽しんで頂きましたが……ここで一服という事で、カノンボールだよ! 全員集合ーっ! 出張編!』

 

おおおおおおおっ!

公式チャンネルのやつね

なにそれ?

もしかして二期生も来る!?

全員3Dだと画面豪華だな

 

「おぉーっ!」

「やるぞーっ!」

「おー!」

「やろやろーっ!」

 

大筒(おおづつ)ボーラーの進行で、フルトラ装備の目の前の四人がそれぞれ腕を上げながら返事を返す。

Vたちが持ち曲を全部歌っても一時間ぐらいしかないからな。

二時間ちょっとのライブにするためには、こういう企画も入れていかなければいけない。

カバー曲をやってもいいんだろうが、普段からそこまで歌歌な活動はしてないからな。

 

『という事で! 最初の企画はこちら! 負けたら辛いの一気飲み! 戦え! 大喜利対決!!』

「っしゃぁ!」

「負けないぞー!」

「楽勝!」

「辛いのやだーっ!」

 

3Dキャラ同士がきゃっきゃと絡み、会場も一緒に盛り上がり……

いくつか企画をこなしたところで一旦演者たちははけ、画面にはボーラーだけが残る。

その間に俺とスタッフは、トラッキングスペースの中にレースゲーム用のコックピットを移動させた。

枚方(ひらかた)カノンの直近の大バズリは、3D化配信の時にレースゲームをしていた時に起こった、ドリフト中にパンモロになるアクシデントだ。

そういうファンの中でのノリをきちんと掴むのも、人気Vに求められる資質だった。

 

『今日の主役は枚方(ひらかた)カノン! そして枚方(ひらかた)カノンといえば、その華麗なドライビングテクニックで知られています』

 

マジ?

これだけの観客の前でパンモロドリフトを!?

パ ン モ ロ ド リ フ ト

クソおもろい

 

『レーサー枚方(ひらかた)カノン! 今日のために新衣装を用意しての登場です!』

「よっしゃー!」

 

そう言いながら画面に出てきたカノンは、まるでレーシングスーツのような衣装に着替えていた。

当然下はズボン、パンモロどころかパンチラすら起こるはずがない。

 

はぁーっ、つっかえ

駄目でしょこれ

もどして

新衣装は嬉しいけどさぁ……

二千人の前で生パン披露はなかったか……

 

会場からも「あぁーっ」という静かめな落胆の声が起こる。

とはいえカノンはそのままゲームでサーキットを一周し、レーサー姿のまま五曲目の歌に入る。

だが、その画面は横に二分割されていた。

そしてカノンの下の画面には、何の予告もなく新衣装の浴衣姿になった白衣頼(はくいらい)が現れ、その姿のままレースゲームをプレイし始める。

その瞬間ドッと会場が湧き、この部屋にまで届く歓声が聞こえた。

白衣頼(はくいらい)を映すカメラがローアングルになり、浴衣の中の青白縦ストライプのクラシックなトランクスが丸見えになっていたからだ。

 

パ ン モ ロ ド リ フ ト

そっちかい

まぁカノンのパンツは見飽きてたしな

先生体張りすぎですよ

 

保健医の尽力で場があったまった中で、カノンは四人でのMCを挟みながら七曲の持ち歌を全部歌い……

「ありがとう!」と全員で手を振って、会場が真っ暗になった後、客席から「アンコール」の声が上がる。

もちろんアンコールはしっかり用意してある。

ラストは全員歌唱での新曲だ。

 

「今日のためにぃ、この曲を用意してもらいましたぁ! カノンボーラー!」

 

『カノンボーラー』は『カノンボール』という箱を象徴する曲にすべく、公式曲として気合の入った発注をさせてもらった。

こういう箱を代表する曲があれば、これから何度ライブがあっても、最後にこの曲を歌う事で場は纏まるだろう。

 

めっちゃいいじゃん

全員で歌うっていいなぁ

次のライブでは二期生も混ぜてやって

先生と綾辻が中腰でラムダ挟んで手繋いでるのエモすぎんか?

なんだかんだ感動したわ

半年ちょっと前のカノン一人だった頃がもう思い出せない

綾辻、でっかくなったなぁ

 

もちろん、このライブも無事に纏まり……生配信のコメント欄でも大好評。

会場に来ていた客たちも、大満足で帰っていった。

そして初イベントのために激務続きだった社員たちも、ここ最近の疲れを癒やすべくしっかりと三日間の休みを取り。

その社員たちにマジで休むようにと説得された俺も、久々に実家へと帰ったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。