【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

3 / 74
ハンバーグ食べますか~? 作りすぎてしもて……

そんな同期からの電話がかかってきてから三日ほど後の事だ。

俺が共用の台所で晩飯のハンバーグを焼いていると「あのぉ」と声をかけられた。

振り返ると、そこには隣の部屋の女がいた。

彼女は卑屈そうな笑みを浮かべて、頭を下げているようにも、単なる猫背にも見える角度で首を曲げている。

 

「なんスか?」

 

そう尋ねると、彼女は「いやぁ~」なんて言いながら髪の毛を揉み、モコモコのピンクのスリッパの先をもじもじとすり合わせる。

 

「ちょっと待ってね」

 

とはいえ、ハンバーグを焼いている最中だ。

俺は一旦彼女の相手をやめ、フライパンの上の肉に集中する。

百グラムサイズのハンバーグ二つと、余った肉で作ったちっさいハンバーグ。

三つをゴロンとひっくり返して水を加え、ガラスの蓋で閉じた。

 

「おわっ」

 

そしてもう一度振り返ってみると、隣の部屋の女は俺のすぐ横に移動してきていた。

マジで肩と肩が触れ合いそうな距離だ。

この女……距離感バグってんのか?

そしてさっきのもじもじは何だったんだ?

 

「自炊してるんですか?」

「え? ああ、まぁ……」

「ええっと……あのぉ……」

「あ、長谷川(はせがわ)です」

「あ、そうですよね? 長谷川さんはぁ……」

 

そう喋りながらも、彼女の視線はハンバーグに釘付けだ。

お腹が減っているんだろうか?

 

「最近~、その~、何か困った事とか……」

「困った事ですか? いえ、特には……」

「あ、そうなんですねぇ~、いやいやいや、そりゃあ良かったなぁ」

 

意味がわからない事を言いながら、女はじっとハンバーグを見つめている。

あまりの要領得なさに、俺も彼女の黒髪の頭を上から見下ろしながら、だんだん居心地が悪くなってきた。

 

「あの?」

「あ、はいっ! なんですか?」

「よかったらですけど……ハンバーグ、食べますか?」

 

結局何が言いたいのかはわからなかったが……

結局彼女は「悪いですよぉ~」なんて言いながらも、普通サイズのハンバーグを一個とポテトサラダ、そして山盛りの米を受け取り、自分の部屋へと帰っていった。

 

『だからぁ! お隣さんとは大丈夫やっちゅうねん! 今日もハンバーグ食べますか~? 作りすぎてしもて……っちゅうてうちにくれはったぐらいなんやから!!』

 

そして、夜の配信で謎が解けた。

多分だが、彼女は自分の配信の視聴者から、隣人の俺とのトラブルについて指摘されたんだろう。

ためしに検索してみたら『枚方(ひらかた)カノン、隣人トラブルまとめ』という動画がニゴニゴ動画に上がっていた。

やっぱりな。

動画の中では、俺が壁に手をついてしまった後に『壁ドンやん』『壁ドンw』というコメントが弾幕のように流れる様子や……

俺が電話している時に『お隣さんセコカンやん』とか『うるさくせんと寝かしたれよ』というコメントが多数送られてきていたようだ。

それで昼間は俺に「うるさくないか」と聞きに来たんだろうが、結局聞けず。

昼飯を貰ったという話をして、関係は悪くないと視聴者に説明しているのだろう。

まぁ、何でもいいけど……俺のキャラクターもかなり捏造されてるな。

さすがはアンチスレで『あのアホ』とだけ呼ばれていた女だ。

俺はパソコンで職業訓練の内容を一通りおさらいして、イヤホンをつけて眠った。

お隣さん、俺がいびきをかかない体質でよかったな。

もしいびきマンだったら、耐久配信になっていたところだ。

 

 

 

そんな日々を過ごしていたのだが……

ある日を境に、ピタッと壁の向こうからの声が止んだ。

また炎上でもしたのかな……と思っていたのだが……

ある夜、壁の向こうからか細い声が聞こえてきた。

しかしそれは、ネットの向こうに語りかける言葉ではなく……

 

『はせがわさぁん……』

 

はっきりと、俺に対して語りかけていたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。