【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
そんな同期からの電話がかかってきてから三日ほど後の事だ。
俺が共用の台所で晩飯のハンバーグを焼いていると「あのぉ」と声をかけられた。
振り返ると、そこには隣の部屋の女がいた。
彼女は卑屈そうな笑みを浮かべて、頭を下げているようにも、単なる猫背にも見える角度で首を曲げている。
「なんスか?」
そう尋ねると、彼女は「いやぁ~」なんて言いながら髪の毛を揉み、モコモコのピンクのスリッパの先をもじもじとすり合わせる。
「ちょっと待ってね」
とはいえ、ハンバーグを焼いている最中だ。
俺は一旦彼女の相手をやめ、フライパンの上の肉に集中する。
百グラムサイズのハンバーグ二つと、余った肉で作ったちっさいハンバーグ。
三つをゴロンとひっくり返して水を加え、ガラスの蓋で閉じた。
「おわっ」
そしてもう一度振り返ってみると、隣の部屋の女は俺のすぐ横に移動してきていた。
マジで肩と肩が触れ合いそうな距離だ。
この女……距離感バグってんのか?
そしてさっきのもじもじは何だったんだ?
「自炊してるんですか?」
「え? ああ、まぁ……」
「ええっと……あのぉ……」
「あ、
「あ、そうですよね? 長谷川さんはぁ……」
そう喋りながらも、彼女の視線はハンバーグに釘付けだ。
お腹が減っているんだろうか?
「最近~、その~、何か困った事とか……」
「困った事ですか? いえ、特には……」
「あ、そうなんですねぇ~、いやいやいや、そりゃあ良かったなぁ」
意味がわからない事を言いながら、女はじっとハンバーグを見つめている。
あまりの要領得なさに、俺も彼女の黒髪の頭を上から見下ろしながら、だんだん居心地が悪くなってきた。
「あの?」
「あ、はいっ! なんですか?」
「よかったらですけど……ハンバーグ、食べますか?」
結局何が言いたいのかはわからなかったが……
結局彼女は「悪いですよぉ~」なんて言いながらも、普通サイズのハンバーグを一個とポテトサラダ、そして山盛りの米を受け取り、自分の部屋へと帰っていった。
『だからぁ! お隣さんとは大丈夫やっちゅうねん! 今日もハンバーグ食べますか~? 作りすぎてしもて……っちゅうてうちにくれはったぐらいなんやから!!』
そして、夜の配信で謎が解けた。
多分だが、彼女は自分の配信の視聴者から、隣人の俺とのトラブルについて指摘されたんだろう。
ためしに検索してみたら『
やっぱりな。
動画の中では、俺が壁に手をついてしまった後に『壁ドンやん』『壁ドンw』というコメントが弾幕のように流れる様子や……
俺が電話している時に『お隣さんセコカンやん』とか『うるさくせんと寝かしたれよ』というコメントが多数送られてきていたようだ。
それで昼間は俺に「うるさくないか」と聞きに来たんだろうが、結局聞けず。
昼飯を貰ったという話をして、関係は悪くないと視聴者に説明しているのだろう。
まぁ、何でもいいけど……俺のキャラクターもかなり捏造されてるな。
さすがはアンチスレで『あのアホ』とだけ呼ばれていた女だ。
俺はパソコンで職業訓練の内容を一通りおさらいして、イヤホンをつけて眠った。
お隣さん、俺がいびきをかかない体質でよかったな。
もしいびきマンだったら、耐久配信になっていたところだ。
そんな日々を過ごしていたのだが……
ある日を境に、ピタッと壁の向こうからの声が止んだ。
また炎上でもしたのかな……と思っていたのだが……
ある夜、壁の向こうからか細い声が聞こえてきた。
しかしそれは、ネットの向こうに語りかける言葉ではなく……
『はせがわさぁん……』
はっきりと、俺に対して語りかけていたのだった。