【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
久々に帰省すると言っても、つい二年前まで普通に住んで大学に通っていた実家だ。
特に持って行くような物もなく、むしろ家から多少私物を持って帰ってこようかなという感じ。
「あー……うー……そのー」とか言いながら、自分の服の裾を揉みつつモジモジしていたシュシュさんに休暇の間の事を任せ……
俺はパソコンの入った鞄だけを持って、徒歩で駅へと向かったのだった。
「ただいまー」
「あーおかえりー、あんた歯ブラシ買っといたから」
「はいはいー」
久々の実家は何も変わらず。
家も家族も俺の部屋も、二年前どころか七年前とも全く変化がない。
仕事の事も、親にも兄貴とその嫁さんにも特に何も聞かれる事はなかった。
うちの家は商売をやっている関係か、昔からあんまり子どもに干渉しないのだ。
「建築の仕事は辞めた」と言えば「そうなのか」と返ってくるし。
「今は社長だ」と言えば「そうなのか」と返ってくる。
興味がないわけじゃなくて、元気にやってるなら別にいいだろうという感じだ。
とはいえ、四年制大学まで出してもらって入った新卒の仕事。
そこをさっさと辞めた事について怒られもしなかったのは、ちょっとありがたかった。
「せっかく揃ったんだから寿司行こう」
「久しぶりねぇ」
そんな話をしていた父と母に、晩には回転寿司に連れて来てもらい。
俺は膝の上ではしゃぐ姪っ子をあやしながら、一家団欒を楽しんでいた。
実家の商売を継いだ兄貴は俺の五歳上だが、結婚が早かったからもう七歳になる娘がいるのだ。
「コーちゃんも社長さんなのぉ? お父さんといっしょ?」
「そうだよ」
「何のしごとー?」
「芸能だよーん」
「げいのー? アイドルだぁ。ゆっこもねぇ、もうちょっと大きくなったら、らぁらみたいにアイドルやるんだぁ」
小学二年生の姪っ子は、二皿目のコーン寿司を食べながらそう話す。
この子が大人になる頃には、もうVtuberもごく普通の概念になっているだろう。
前周では、マジでしばらく会わないでいるうちに中学生になっていて「おじさん誰?」って感じだったからな。
せっかく死に戻ったんだから、年一ぐらいはちゃんと実家に帰って来るようにしよう。
「コーちゃんのとこのアイドルはプリパラ出てるー?」
「出てなーい」
炙りサーモンとチーズサーモンと炙りバジルサーモンを並べて食べながら、姪っ子の振り回す腕からビールのコップを遠ざける。
「
「買ってなーい」
「
「いらなーい」
父は昔から車に夢中で、自分はファミリーカーにしか乗らないのに車の話ばっかりしている人だ。
兄は野球好きで、将来東京ドームのシーズンシートを契約する事が夢らしい。
要するに、うちの家の男はみんな趣味があるという事だ。
趣味を仕事にしてしまったのは俺ぐらいだが……
お互い趣味の方向性が違いすぎて、もしかしたらそれも伝わっていないのかもしれない。
「芸能って事はタレントさんの送り迎えとかもあるんだろ? ボロい車で行ったら恥ずかしいぞ」
「うちは送り迎えとかないし。そもそもスポーツカーで送り迎えする会社なんかないよ、ドラマじゃないんだから」
「まぁそうか、芸能事務所の社長が乗るのは
こっちをそっちのけで趣味の話をする父の言葉を聞き流しながら、俺はレーンから四皿目のサーモンを取る。
その時、ダウンの内ポケットに入れていたスマホがポコンと鳴った。
「コーちゃん、スマホ鳴ってるよ」
「はいはい」
取り出してみると、相手はシュシュさんだ。
来ていたのは『そっちどう?』というよくわからないチャットのメッセージ。
「かのじょぉ?」
「上司ぃ」
「えーっ? コーちゃん社長さんじゃないのぉ? うそじゃん」
「社長なんて儚いもんだよ、全然偉くないし」
俺はそう言いながら、茶碗蒸しを食べるうちの
インカメラを起動して、自分と姪を画角に入れた。
「写真撮っていい?」
「いーよー」
彼女はそう言って俺のサーモンを一貫取りながら、ほっぺたにピースをくっつけた。
そんなツーショット写真をシュシュさんに送って、俺はまたスマホをしまう。
今は夜の八時、そろそろ配信も始まる頃だろう。
だというのに……
俺のダウンの内ポケットのスマホには、それからしばらくの間、メッセージがポコポコと届き続けていたのだった。