【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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ハセやんもうなぁ、ほんまギャンブルすっきゃねん

結局最後まで手を離してくれなかったシュシュと、散らかった部屋で気だるい日の出を迎えた後……

俺は彼女と一緒に、朝風呂ができる遠くのスーパー銭湯に向かいながら、改めてきちんと計画の事を話した。

つまり、ビットコインを買って儲け、会社の運転資金にする予定だったという話をだ。

そうしなければ、シュシュはなんだか一人で暴走して、どこまでも行ってしまいそうな気がしたからだ。

 

「ふーん、ビットコ……? ってやつ買って、上がれば儲け? でも儲けたら会社に入れるつもりやったん? それやったら会社の金でやったらよかったのに」

「ギャンブルだよ? そんなの会社の金でできるわけないじゃん」

 

あまり降り慣れない駅で降り、銭湯に向かう朝の道。

シュシュはそこをゆっくりと歩きながら、俺の服の袖を掴んでいた腕をブラブラと揺らした。

 

「それって投資とちゃうのん?」

「投機だよ」

「どっちでもわからんのちゃうかなぁ……どのみち、好きにつこてよ。ハセやんが稼いだお金やし」

 

俺に全部任せると、彼女は簡単に言ってくれるが……

 

「失敗したら全部パァなんだよ。会社の金でギャンブルしたら、たぶん失うものってお金だけじゃなくて……これまで取った評判も、ライバーや社員からの信頼も、会社も、もしかしたら全部なくなるかも」

「そうなんや」

「そう」

「したらさぁ、また稼ごや。ハセやんが考えて、うちが気張って」

 

そう言いながら、彼女は笑った。

 

「稼げるかなぁ……」

「いけるいける。大丈夫やから、パーッといこ!」

 

彼女は子犬のように俺の周りを回って、ダウンの上から腕に抱きついた。

気楽に言ってくれる……

でもそこまで言われたら、俺も男だ。

腹を決めて、今回の賭けにはカノンボール丸ごと乗せさせて貰おう。

今は会社は好調だ、もし成功したとしても、後から「必要のない賭けだった」と言われるかもしれない。

でも、俺が最後に生きていた2025年も、世界は激動の中にあった。

そのうねりの中を、本気で社員を背負って生き残っていくつもりなら……

金を稼げるチャンスでいくら稼いだって、稼ぎ過ぎという事はないのだ。

ライバーや社員には申し訳ないが、そもそも何も賭けずにデカくなれるベンチャー企業なんてない。

みんな賭けている、金を、人生を、そして命を。

そこを行けば、今回賭けるのは金と信用だけ。

 

「駄目で元々かぁ」

 

職業訓練を辞めた時に考えていた事が、思わず口を突いて出た。

 

「そうそう、どうなってもアパートの家賃ぐらいは残るやろ」

「そうだねぇ……」

 

家賃三万管理費千円、風呂なしトイレ台所共用。

おまけに隣人は、とんでもないぶっ飛び女。

きっといくら落ちぶれても、今の暮らし以下はないだろう。

そう考えれば、いっそ気楽だった。

 

 

 

そんな首脳陣の間で関係の変化が起こった日から、二日後の昼下がり。

俺はなぜか、大阪にいた。

 

「こちら、康介さん」

「……はじめまして。私、長谷川(はせがわ)康介(こうすけ)と申します」

 

俺とシュシュの前にいるのは、彼女の父、母、兄だ。

シュシュから「ハセやん、こっから二日空けて」と言われ、なんとかして二人分開けたスケジュール。

その休みの朝から、何の説明もなく無理矢理連れてこられた場所が、大阪は枚方(ひらかた)

その住宅街の一軒家で……

俺はわけもわからず、こうして彼女の家族に挨拶をしていたのだった。

そしてそのまま難しい顔で、全員がしばらく無言で目線を交わしあったあと……

ちょっと気難しそうなお父さんが、俺とシュシュを交互に見比べ、静かに声を上げた。

 

「えーっとぉ……そ、そゆ事?」

 

どういう事?

完全に誤解とは言わないが、別に俺は結婚の挨拶に来たつもりもないぞ。

とはいえ……とりあえず挨拶は大事。

俺は名刺入れからカノンボール社長としての名刺を取り出し、相手に差し出した。

 

「私、お嬢様が会長をされている会社で社長をさせて頂いてます」

「お、お嬢……? 社長……?」

 

その名刺をゆっくりと受け取ったお父さんは、まじまじとそれを見つめ……

その後ろからその手元を覗き込んでいたお兄さんが、こわごわと俺に尋ねた。

 

「え……AVの会社?」

「違います」

 

男たちが顔を突き合わせてそんな話をしている中、シュシュは俺の膝をパンと叩いた。

 

「オトンら、パチンコでも行ってきたら? ハセやんもうなぁ、ほんまギャンブルすっきゃねん」

「え、そうなん?」

「オカンとご飯作っとくから、行って行って」

 

そう言われて、なんとなく男全員で立ち上がる。

ご飯なんか作れるのか? とは言わない、なんだか墓穴を掘りそうな感じがしたからだ。

 

「ほなキョーイチ行きます?」

「この時間からやからなぁ……鏡? ギアス?」

「お任せします……」

 

中古車販売店で働いているというお兄さんのワゴン車に三人で乗り、パチンコ屋へと向かう。

そのまま三人で並んで打ちながら、ぽつぽつと話をした。

俺の右側に座ったシュシュのお父さんは、どうやら工務店をやっている人らしい。

 

「え!? ハセやんセコカンやったん!?」

「そうなんですよ」

「えー? なになに? 何やってたん?」

「基本はビルのA工事が多かったですけど、会社に言われりゃどこでも行って何でもやってましたねー」

「うわー、ビルとかすごいやん。え? ゼネコン? サブコン?」

 

なんだかそんな話でお父さんとは一気に打ち解け……

左側に座ったお兄さんには、やたらと「男は車を持たなきゃ駄目」と中古車をオススメされた。

そりゃ車ぐらい欲しいけど、東京は駐車場代がめちゃくちゃ高いんだよな。

多分このお兄さんの影響で、シュシュは車が好きになったんだろう。

 

 

 

昼過ぎから時間つぶしがてら行ったせいか、戦績的には全員ダメダメ。

手ぶらで戻ってきたシュシュの実家からは、人んちのカレーの匂いがした。

 

「おかえりー」

「ほなご飯たべよか」

 

お母さんの腕99%のカレーを食べ、ビールを頂く。

 

「ほんでなぁ、ハセやん建築関係やねんて」

「えーっ、そうなんやぁ」

 

シュシュのお父さんはお母さんにひたすら俺の情報を流し続け、お兄さんはテレビに釘付け。

なんだか落ち着かないなぁと思っていたら、急に俺に話が回ってきた。

 

「あ、ハセやん、ちょ相談なんやけど」

「え、なんですか?」

「明日な、もしいけたら、ちょお戸建ての現場手伝(てつど)うてくれへん? 電工あるって言うてたよな? うち頼んでる電気の職人がな、明日オジイ一人しか来られへんねん。せやのにな、明日吹き抜けのダウンライトあってな」

「あー、まー、いいですよ」

 

正直この家で手持ち無沙汰にしているよりは、工事を手伝った方が気楽そうだ。

会社の仕事をしたい気持ちも少しあったが、この間会社でも「休暇の間は緊急時以外仕事禁止」という話をしたばっかり。

社長がそれを破っていては話にならないだろう。

 

「ほんま? ええ人やなぁハセやん! ほな八時に出るからな!」

「ハセやんええのぉ?」

「いや全然、大丈夫です」

 

お母さんにそう言いながら片手を上げていると、急に太ももを触られた。

ビクッとして隣を見ると、シュシュがニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。

何なんだよ一体……

その後は「シュシュの部屋じゃなくてええの?」と言われながらリビングで寝て、カレーの残りを食って久々の現場仕事。

そこで楽しく働いている間に、俺の休暇の時間は溶けていったのだった。

 

「ほんまに、シュシュはええ人連れてきてくれた。ハセやん、東京の水が合わんかったらいつでもシュシュとうち継いでな」

「お父さんなぁ、息子と一緒に現場行くのが夢やったから。ほらお兄ちゃん、車に夢中やろ?」

「あかんあかん、ハセやん社長さんやから。オトンより部下多いねんで」

 

そんな気恥ずかしいやらありがたいやら、という感じの話を延々と聞かされながら……

俺とシュシュは、最終便に間に合うように新大阪駅まで車で送ってもらっていた。

 

「せやかて芸能言うてたやろ? この先どうなるかなんか全然わからんで?」

「せやせや、今はまだ若いからええけどな……」

「大丈夫やから。うちとハセやんとマイク一本あったら、どんな状況からでもやり直せるから」

「え!? あんたら漫才師やったんか?」

 

ほとんど見ず知らずの俺を、親身になって心配してくれるシュシュの家族の言葉。

そしてそれに続く、芯から俺を信頼してくれるシュシュの言葉。

聞くともなしにそれを聞いていると、なんだか目が潤んでくるような感じがした。

車の窓を開けてみると、冬の空気が吹き込んできて、鼻の先がじんと痛んだ。

 

「ハセやん、酔ったん?」

「ちょっとね」

「お父さん運転荒いから」

「道が狭いねーん」

 

そんな話をしている間に、車は新大阪に着いた。

「またねー」と中から手を振り去っていくハイエースを見送り、ぽつんと二人、人だらけの夜の街に立ち尽くす。

いきなり連れてこられた大阪。

なんだかんだと彼女の家族に良くしてもらってしまったが、いきなりすぎてマジで戸惑うばかりの二日間だったな。

 

「ご両親に会わせたかったんなら、最初からそう言ってくれればよかったのに」

「いや、なんちゅうんかなぁ……」

 

シュシュはそう言って青いインナーカラーの入った髪をクシャクシャと揉みながら、俺の顔をチラッと見た。

 

「もしね、もしよ? もし会社があかんようなって、アパートの家賃も払えんようなっても……最悪ここ帰ってきたらええと思って……」

「…………」

 

なるほどね。

彼女は最悪の事態に備えて、俺を家族に面通ししてくれたというわけだ。

その気持は嬉しかった。

嬉しかったはず、なのだが……

俺たちがそういう関係になったのは、つい数日前じゃなかったか?

そう考えると、なんだかずっしりと背中は重く。

俺は新幹線のシートで左手をガッチリ掴まれながら……

まるで子泣きじじいのように背中にへばりつく、シュシュの姿を想像していたのだった。

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