【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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どないですかぁ?

年末年始はほとんどのサービス業と同じで、Vtuberにとっても稼ぎ時。

特にクリスマス・イブとクリスマスの二日間と、十二月二十九日から一月三日の間はゴールデンタイムだ。

クリスマスに用事なんかなくても、周りが騒いでいれば人恋しくもなるもの。

ここに刺さるのが、バーチャルキャバクラと揶揄されるVtuberの配信だ。

そして年末年始の休みの間はみんな暇になるので、様々な分野で可処分時間の奪い合いが起こる。

昔ほどテレビが強くない今、朝から晩までネットで動画を見る人も少なくない。

 

『そうそう、ありがたい事に年末はめちゃくちゃイベントがありまして……まず二十九日にはVtuber紅白に出場させて頂ける事になりまして、三十日には(突破口(とっぱこう))アケミさんの絶対に笑ってはいけない熱海男子合宿がプレミア公開されますし、あと全員集合で一年を振り返る大クイズ大会がありますしね。それで三十一日はニゴニゴさんのバーチャル大晦日が……』

 

なんて、カノンボールの外交派筆頭の保健医こと白衣頼(はくいらい)は大忙し。

ちなみに引きこもり派筆頭は当然トップの枚方(ひらかた)カノンだ。

他のライバーも、ここまで予定は詰まっておらずとも、案件だのコラボだのボイスだので概ね忙しい。

それに応じて、うちの3Dスタジオもボイスブースもマジで連日フル稼働の状態だった。

 

「来年は3D(スタジオ)絶対もう一個作りましょうね、専属(スタッフ)も雇って」

「そのつもりなんだけどねぇ……」

 

綾辻香真(あやつじかじん)の配信が終わり、今はカノンの配信準備中。

うんざりしたような顔でケーブルをさばく吉沢さんにそうせっつかれながら、俺は頭を掻いた。

スタジオはともかく、社員が難しいのだ。

大筒(おおづつ)ボーラーは十号までいるが、これでも増やし過ぎかなと思っているぐらい。

人員というのは、ただ増やせばいいというものじゃない。

それを管理する人間が育って、初めて役立つものなのだ。

うちはまだまだ、初期メンの社員に仕事を振って適性を見ているような段階だった。

 

「私マジで二十八日から一切こっちタッチできませんよ」

「わかってるよ、あっちは頼むね」

「もちろんですよ! 企業ブースは初めてですけど、楽しみです」

 

吉沢さんが言っているのは、コミケットに出展したカノンボールのブース運営の話。

これは出展するという話になった時、彼女が真っ先に担当に手を上げた、吉沢さん入魂の企画だった。

なんだかんだとコミケはオタクの人気を計る重要なバロメーター。

そしてここから三回のコミケは2020年のイベント中止もあって、めちゃくちゃプレミアムなものとなる。

そのために作りまくってきたグッズ、そして立ち上げてきた出版事業だった。

 

「そういえば吉沢さんの本は間に合ったの?」

「間に合いましたけど、ほんとに売らせてもらっていいんですか? 同人誌ですよ?」

「コミケって同人誌を売るもんじゃないの?」

 

今回は仕事でコミケに行くため、サークル参加できない彼女だったが……

「カノンボール本作って、友達のとこに委託していいですか?」と聞かれたので、全部うちで買い取ってブースで売る事になったのだ。

その代わり名前の後ろにカッコで『ボーラー五号』と入れてもらい、半ばスタッフ本扱いにした。

腕は確かすぎるし、たぶん全部売れるだろう。

 

「あと再三言ってるけど、マジで顔出さない方がいいよ」

「わかってますけど……そんなに気にするもんですか?」

「Vのファンって、めんどくさい人は本当にめんどくさいからね。露出しすぎてるとさ、なんかあった時に槍玉に上がりかねないから」

 

ファン心理は理屈じゃない、良い方に振れる時も悪い方に振れる時も、とにかく極端だからな。

 

「まぁ、当日はほんと終日カノンの着ぐるみ着てる事になっちゃいそうですし、多分大丈夫ですよ。スタッフへの指示出しは上本(にごう)さんにお任せになっちゃいますけど」

無線(インカム)は使うんでしょ? ちゃんと隠れる場所作って休憩取ってね」

「もちろんです」

 

そんな話をしながらパソコンの設定をいじっているうちに、三つ隣の部屋から寝起きっぽい主役がやって来た。

 

「どないですかぁ?」

「準備できてますよ」

 

この会長も、最初はアパートにやって来る社員たちに緊張していたのだが……

今はもうなんともないようで、人前だというのに気が抜けた寝間着のジャージのままだ。

 

「シュシュさん、自分でトラッカーつけてください」

「えーっ、しゅーこちゃんやってぇ」

「マジで忙しいんで。会長のあと先生がメンシ用の動画撮りに来るんですから」

「えぇ? 夜中にぃ?」

「夜中しか先生の時間空いてないんですよ。忙しい人なんですから」

 

二人がそんな話をしているのを、PCをいじりながら聞いていると……

ボイス録りをやっていた二期生のうち二人が、部屋の扉から顔を出した。

 

「お疲れ様でしたぁ! お先失礼します!」

「お先でぇす!」

「お疲れ様です!」

「おつかれー」

「お疲れ様でーす」

 

そんな挨拶だけをして、二人は首を引っ込めて帰っていった。

今日はたしか、二期生で集まってお正月ボイスを録っているんだったか。

この二期生たちが3D化する前に、スタジオの件はどうにかしないといけないだろう。

とにかく年末を迎え、千客万来のボロアパート。

師匠も弟子も、社長も会長も、誰も彼もが忙しく走り回っていた。




修正→ボーラーの数え方間違い。上本を二号に
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