【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
2019年が始まった。
この年はある意味Vtuber業界にとっては試練の年というか、色々な事が起こる年というか……
ある意味やればやるだけウケた2018年とは違い、だんだん客の目が厳しくなり始める年だ。
業界全体の歴史で見れば、まだ間違いなく黎明期のうちに入るのだろうが……
どんなコンテンツでも、一度伸びに陰りが見えると「オワコン」と言われるもの。
飽きて更新を絶やしてしまう個人勢はもちろん、思っていたよりも伸びず終了となる大規模企業プロジェクトも出始める年だ。
ここから先の舵取りは、去年にも増して慎重に行っていかなければならないだろう。
「それでは、全体会議を始めます。まずはみなさん、あけましておめでとうございます」
ホワイトボードの前に立つ俺がそう言うと、周りから挨拶が返ってくる。
都心の貸会議室、そこに集まった俺以外の十一人。
そのうち十人の顔には、なんとなく緊張感が走っているように見えた。
ちなみにあんまり緊張していないのは会長、緊張しているのは社員八人とインターン二人だ。
インターンのうちの一人である大阪住まいの賢獣は、年末から正月の番組収録のために出てきていたので、そのまま出席となった。
「ではまず会長から、新年のご挨拶を」
俺が上座にいる会長に手を向けながらそう言うと、目の前に色々な菓子やジュースが入ったコンビニの袋を置いたシュシュに全員の視線が集まった。
「えーっと、あけましておめでとう……ござい、ます。あの、お菓子とか……ジュースとか……買うてきたから、好きに食べてね……」
後ろにいくほど小さくなる声でそう言った彼女は、周りにペコペコ会釈をした。
「会長、ありがとうございます」
その言葉で、全員の視線がこちらに戻る。
「はいでは、まずさっそくですが、今年の大方針を発表致します。カノンボールは去年と同じく、守りを固める……いや、守りを極めます」
俺がそう言うと、最近入った社員のうちの一人が手を上げたので、それを当てる。
「社長、守り……ですか?」
訝しむようにこちらを見つめる彼は3Dモデラーで、VRchatのワールド作りをする個人Vとしても活動していた。
「守ります。具体的に言うと、わけのわからない事はしない、人の喜ぶ事をする。徹底してこれを行います」
「わけのわからない事とは……?」
「一部の人だけが喜ぶ事です。市場のない場所に市場を作ろうとしたり、マニアだけが喜ぶコンテンツにお金をかける事、と言い換えてもいい。要するに、現段階での海外展開やVR展開ですね」
「なるほど、VRはたしかに……でも海外はシェアがありそうですけど……」
「もちろん、シェアがあるなら行きます、今はあるかどうかわからないから行かない。それだけです」
まぁ、海外シェアは美味しそうに見えるよね。
実際美味しいんだろうけど、十人しかいない会社で無理してまでやる事じゃない。
とにかくここから三年は、まだ事業的な挑戦は必要ない時期だ。
人と物と金が適切に揃っていれば、きちんと上昇気流に乗れるはずだった。
「他になければ、今年の計画を発表します」
全員がこちらを見て、それぞれに頷いた。
俺はホワイトボードに『リアルイベント』と書き込んだ。
「まずはリアルイベント、できればこれを月に一回は打ちます。はい、どうぞ」
プログラマ上がりの男性社員が、小さく手を上げていたのを当てた。
「すでに二月に雷神拳イベントと、五月に二期生イベント、七月にカノンボールFESが入ってますけど、これ以外にって事ですか?」
「そうですね、できれば毎月ファンが集まれる場所が欲しいです。東京以外でも開催していきたいですね」
イベントはまず赤は出ないし、演者もファンもやって楽しいものだ。
もちろん出たくない演者もいるから、そこは要調整だが……
うちにはせっかくスターが沢山いるんだから、トークライブのようなものでも月に一回ぐらいはやっておいた方がいい。
コロナに入ってから落ち込みがちになる演者にもファンにも「この時期は楽しかった」と思ってもらえるようにしたいのだ。
「やる気ある人がいれば、いつでも企画立ててもらっていいです。話はまず各ライバーのマネージャーに持ち込んで下さい」
俺がそう言うと、賢獣ラムダの中の人から手が上がった。
「はいっ!」
「どうぞ」
「大阪で! やりたいです! なんか!」
「後で調整しましょうか」
「はいはいっ!」
ラムダのマネージャーは俺だ。
せっかくだから彼女が東京にいる間に話を詰めておこう。
「次、新拠点。これはなるはやで調達します。いずれ自宅で3D配信できるシステムは構築していきたいですが……まずは複数人で使える3Dスタジオと、一人用スタジオが二つほど欲しいです。二期生の一部も3D化間近ですし、来月投入の三期生も数字が出れば順次3D化していきますので、収録場所はいくらあっても足りません」
この話は以前から進んでいたので、特に手が上がる事もなかった。
具体的にはどっかの安めのビルのフロアを借りて、ライブで協力関係のある会社に環境を作ってもらう予定だ。
先月五千万円を使ったところだが、年末年始の大ブーストのおかげで、それぐらいの予算はなんとかペイできる。
「次、日用品をグッズにして売ります。今考えているのは、マスク、消毒液、綿棒等」
即座に手が二本ほど上がる。
俺はボーラー二号こと、元営業職の上本さんの事を指した。
「特別感のないグッズが売れますかね? 在庫になるだけでは……」
「特別感のないグッズにも商機はあると考えています。子供にはアンパンマンのマスクや消毒液がありますが、大人にもそういうものがあってもいい。特に弊社には、
「ちなみに、デザインはどういうものをお考えで……?」
「ガワだけです、中身は既製品ですね。特に期限もない商品ですので、まずはお試しで」
もちろん、先生がどうこうってのはこじつけだ。
来年再来年に向けた種まきでしかないが、正直に言ったところでわかってもらえるわけもないからな。
上本さん以外に手を上げていたもう一人も、その説明で納得したのか、再び手は上がらなかった。
「次、ファンメイドの二次創作作品への向き合い方についてガイドラインを制定します」
この話をした瞬間、手が五本上がった。
俺はボーラー五号こと
「ふっ……触れない方がいいんじゃあ……」
彼女は同人屋だからな、危惧はわかる。
とはいえ、ファンメイド作品にも色々とあるのだ。
「業界の慣習的に、そういう向きはあるのは承知の上です。ですが、私はそこに一歩踏み込みたい」
俺はホワイトボードに、大きく『カノンボールインディーズ』と文字を書いた。
そしてその下に『クリエイターサポートプログラム』と付け加える。
「二次創作はファンからのライバーへの贈り物、貴重な後押しです。なら、こちらからも彼らに返せるものがあるんじゃないですか?」
困惑気味のみんなの顔を見回して、俺はこう続けた。
これは本来『ウルトラライブ』が四年後に始める施策なのだが……
やり得だからな、お先に頂いておく。
「二次創作ゲーム及び楽曲、コミックに至るまで、申請を受ければこちらで公式に販売を行う仕組みを作ります。同時にゲームブランド及び、音楽レーベルを立ち上げる事になります」
俺の言葉に、すぐさま九本の手が上がる。
目の前のボーラー三号こと、エンジニアの井口さんを差す。
「社長、守りって言ってませんでしたか!?」
早口でそう言う彼に、俺は頷きを返す。
「もちろん、守りです」
「攻めまくってませんか!?」
「守りまくってます」
そんな白熱する会議を、シュシュは500ミリリットルパックのミルクティーを飲みながら傍観し……
その隣に座った賢獣ラムダは、会長から貰ったらしきチョコ菓子を食べながら……
しきりに首だけを縦に振っていたのだった。