【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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え? そゆこと?

『え? マスク? あー、あれは需要があるから、売り切れないようにめちゃくちゃ作って貰ってるそうですよ……もうしばらくしたら一部ドラッグストアにも置いてもらえるようになるらしいですけど』

 

他の商品全部売り切れでもいつでもマスクだけ残ってる

白衣頼(せんせい)がいたから作られた商品だもんな

あれうちでも使ってるよ

みんな送料の調整でカートに入れるから家に何箱もありがち

花粉症だしあればあるだけいい、百均のマスクなんかより全然しっかりしてるし

マスクにつけるチャームが売り切れたきり帰ってこないのをなんとかしてほしい……

 

『マジで医療現場で使われてるN95っていう規格があるんだけど、それまで作ってもらっちゃって嬉しいやら申し訳ないやら。古巣に送ったらみんなびっくりしてたよね。こんな商品作って売れるの? って』

 

前にカノンが、自分がインフルにかかったから社長がマスク作り出したとか言ってたっけ?

あの二人お隣さんだったからなぁ

今もそうじゃないの?

医療関係者にドン引かれるて、やりすぎだろハセやん

さすがに引っ越してるだろ

なんか先生って社長にめっちゃ大事にされてるよね

 

暑さマシマシの八月の早朝。

俺はそんな白衣頼(はくいらい)の朝活放送を眺めながら、プレス向けの文章を書いていた。

 

「おはよー、ハセやん。配信終わったー」

「おはおつー」

 

ちょうどそこに、昨夜からの長時間配信を終えたシュシュが部屋から出て来て、後ろから画面を覗き込んできた。

 

「なになに? 白衣頼(せんせい)のブランド? 会議で言うてたあれ、ほんまにやんの?」

「うん、マスクとか消毒液とか絆創膏とか、だいたいOEMだけど……一応ドラッグストアチェーンとかにも納品し始めたから」

「おーいー……? そうなんや」

 

保健医の立場と努力に全乗っかりになってしまって申し訳ないが……

俺は彼を大々的に売り出す事によって、コロナへの事前対策をギリギリのラインで誤魔化そうとしていた。

うちは本気で白衣頼(はくいらい)のブランドを打ち出して商売するんだぞって事を各所に通達し、マスク会社には「売りまくるから作りまくって」と言った。

もうすでにマスクの在庫は積み上がっていて、社内からも疑問の声は上がっているが……

今だけはその言葉を無視して、社長権限で物事を進めさせてもらう。

 

「ハセやん、朝ご飯作るけど食べる?」

「食べる食べる」

「ほなウインナー焼くなぁ」

「ありがとう」

 

最近はシュシュもちょっとずつ料理をし始めた。

というのも、お盆の時期に一緒にうちの実家に帰る事に決まったからだ。

うちの母が「手伝って」と言ってきた時に手伝えなかったら怖いからという理由らしい。

多分言わないと思うし、どっか外食行くと思うんだけどな……

そんな事を考えながら、俺は海外から飛んできたメールに返信を返す。

別に海外展開ってわけじゃない、ちょっとマスクの原料を買っただけだ。

マスク会社に「絶対全部買うからもっと原料仕入れといて」と言ったら「置き場所ないよ」と言われたので、協議の上でこっちにて確保する事にしたのだ。

今マジでデカい倉庫を借りてあるので、そこに年末までにガンガン原料を集めて詰め込んでおく予定。

独裁体制じゃなきゃ社員や株主に引きずり降ろされていたかもしれない行動だが、俺は大株主の社長だからな。

暴走独走、全然オッケーだ。

この間あった会議でも『公式通販の商品在庫が常にゼロなのはファンに対して情けない事。私が改善します』と断固たる態度を示しておいた。

本音では売り切れ大歓迎なのだが、まぁそこはコロナが終わったらしれっと方向転換すればいいだろう。

 

「あい片付けてー」

「はーいはい」

 

シュシュの言葉にパソコンを閉じてどけると、机の上にウインナーと目玉焼きの乗った皿が置かれた。

俺も立ち上がって、ご飯をよそいに行く。

一年以上住み続け、もうすっかり我が家といった感じのこのアパート。

一応簡易シャワーは導入してあって、巣ごもりもできるにはできるが……

コロナは長い、そればっかりでは気が滅入る日もやって来るだろう。

さすがにそろそろ、まともな風呂のある避難先の一つでも見繕っておくべきなんだろうな。

 

「いただきまーす」

「いただきます」

 

俺はミックススパイスをウインナーに振りかけながら、隣に座るシュシュの方を見た。

 

「なぁ」

「ん?」

「どっかさぁ、普通のマンションも借りない?」

「え? なんで?」

「いや、ここ風呂ないし……」

 

シュシュは醤油をかけた目玉焼きを十字型に切りながら、うーんと唸る。

 

「でもシャワー入れたし……」

「それだけじゃなくてさ、色々手狭じゃん。俺もやっぱ将来、色々欲しいものとかもあるし。ここってやっぱ社員も来るしさ、そん時に困りそうじゃない?」

 

俺がそう言うと、目玉焼きを口に運ぼうとしていたシュシュは、舌を出したまま固まっていた。

そしてしばらくすると、なんだか急にエヘエヘと笑い始める。

 

「え? ええーっ……? ほんまにぃ?」

「え? 何?」

「いやいやいや、え? そゆこと?」

「何が?」

「いやー、うちらまだ二十四よ? いや別にええんやけどぉ。おかんも早かったって言うてたし」

「何がぁ?」

 

なんだかわからないが、一人で盛り上がりだしたシュシュは急に乗り気になり……

結局俺たちは、その日のうちに不動産屋へと行く事になったのだった。

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