【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
2019年のVtuber業界が儲かっていたのかといえば、間違いなく儲かっていたのだろう。
だがどこの世界でも同じように、それは成功者だけに限られる。
動画サイトからの広告収入、メンシ、スパチャ、それらの存在は大きいが、それはあくまで個人の収入としては大きいという部類。
企業がVtuberを運営して複数人のスタッフを食わせようと思えば、案件やグッズによるデカい収入が大切になってくる。
その壁を突破できなかった者たちがいくつも空中分解していったり……
壁の向こうで悠々と活動をしていた強者たちですら、舵取りを間違えて自壊し始めていったのが、2019年という年でもあった。
Vtuberというのは元々一気に注目を集め、それ故か嫌いな人も多かった業界。
そのせいかもう各所がぼっこんぼっこん燃え、更には火のないところにまで煙を立てようとする奴まで出てくる始末。
「でもね長谷川さん、これ多分結構時間かかる割に全然お金取れませんよ?」
「いいんです、決意表明なので」
俺がそんな事を法律事務所に出向いて話しているのも、そういう奴のせいだった。
十月末、とあるチャンネルにうちの会社を名指しで批判する動画が上がり、そこそこの再生数を取った。
内容はうちの事務所が無茶なグッズ展開で破産寸前で、夏から給料未払いが続いているというもの。
当然そんな事実はないし、すぐに論破されるような根も葉もないデマだ。
普通は無視するんだろうが、うちは公式サイトですぐにそのデマを否定して、さらに相手を裁判でぶん殴る事にした。
幸い、それぐらいの金はあるからな。
弁護士さんが言うには、もしかしたら動画サイトは開示請求に応じないかもしれないが、件の人物はブログやSNSもやっているから、多分どこかで通るだろうという事だった。
「カノンボールさんは、今後もこういう事があれば同様に?」
「そのつもりです。この世界、理屈だけでは上手くいかない事も多いですから」
俺がそう言うと、中年の弁護士さんはコーヒーをかき混ぜながら、なんともいえない笑みを浮かべた。
やりすぎだという事だろうが……
俺はライバーやファンからの信用を得たいならば、それぐらいでなければいけないと思っている。
ここから先、業界は更に加熱し、ライバーもファンもどんどん敏感になっていく。
デカい金の動く人気商売だ、商売なのだ。
そうなると当然事務所所属のライバーも義理人情だけで動けるわけではなく、自分が得をする方に舵を切る事だってあるだろう。
事務所に非がなくとも、たとえその先に破滅しかなかろうとも、Vtuberが何か声を上げればファンはそちらの味方をする。
人気を取るという事は難しい、そしてそれを商売にするという事は更に難しい。
Vtuber業界というのは普通の芸能界とはわけが違う、めちゃくちゃ歪な世界なのだ。
だからこそ、お互いに不幸になるような終わり方をできるだけ避けるため……
事務所は強くあらなければならないと、俺はそう思っていた。
しかし、そう思っていても、どんな事にでも終わりは来るもの。
十一月の半ばの事だ。
カノンボールからも、ついに一人目の引退者が現れた。
異世界の王国をコンセプトにした二期生のうちの一人、元女性教師である宰相が妊娠を期に引退を申し入れて来たのだ。
当然そんなプライベートな話は表に出さないが、引退は引退、一応俺もリモート面談で慰留はした。
「産休を取って戻ってきて頂くという形でも構いません、もう少しゆっくり考えてみませんか?」
『いえ、正直言って自分の力不足を感じていたところなんです』
「そのような事はないと思いますが……」
「力不足」と言う彼女のチャンネル登録者数は、活動一年で六千人。
たしかにカノンボールの中でも、下から四番目の数字だ。
それでも、これからの二年間でいくらでも伸びる余地はあるはずだ。
だが、引き止める事は叶わず、結局彼女は引退を決めてしまったのだった。
仕方のない事だし、覚悟していた事だが、一人目はさすがに凹むもの。
凹んだので、一日中「あー」とか「うー」とか言いながら仕事をしていたのだが……
そんな俺を見かねてか、その夜はシュシュが外食に連れ出してくれた。
「ハセやん元気出してやぁ」
「うん……」
「はいお肉」
「もうちょっと焼いて……」
食べ飲み放題の焼肉屋で、シュシュが焼いてくれる肉をバクバク食べ。
「ハセやんビールやろ? うちもっぱいメガハイボール頼もかな」
「うん」
まだまだ身体が若いおかげか、ビールを飲んでいるうちになんだかんだとだんだん気持ちは上向きに。
「上カルビ二人前」
「あ、俺塩タン三人前」
食べ放題でもまだ豚のタンじゃなくて牛のタンが食えるんだな、なんて事を考えながら。
まだまだタッチパネル式になっていない注文方式で、肉を頼みまくった。
「来月また大阪帰らへん?」
「あー、そうする?」
「おかんもおとんもハセやん連れて帰っといでーってずっと言うてるし」
「じゃあ調整しよっか」
「お
「あー、車なぁ。マンションの駐車場はあるけど、大阪で買うわけにもいかないしなぁ」
「そうそう、こっちで買うたらええからな」
肉を焼きながらそんな話をしている間に、俺の頭からはライバー引退のショックがゆっくりと消えていった。
きっとこれからも何人も見送っていく事になるのだ、ナーバスになっていてはやっていけない。
火に炙られてじわじわと反っていく肉をじっと見つめながら、俺はそう思った。
そんな俺に、向かいに座ったシュシュは無邪気にスマホの画面を突き出してくる。
そこには、なんだか目つきの悪い車が表示されていた。
「そういやねハセやん、こないだお義父さんに教えてもらったんやけど。夏に出たスープラが普通に置いてる店あるらしいんよ。ほら、この車」
「え? それっていくら?」
「いや、いくらとかじゃなくて、予約で一杯で手に入らんのよ普通は」
「何人乗り?」
「いやいやいや、これがね、多分しばらくは中古の値段も下がらんのちゃうかな。お買い得やと思うんよね」
「いくらするの?」
「
「いくら?」
「いやいや、スペックの割には安いんよ? ほぼ
そんな話をしているうちに、夜はどんどん更けていき……
俺たちはすっかり腹いっぱいになって、千鳥足でマンションへと帰ったのだった。