【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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それがええんよ

シュシュの言っていたスープラ、これは二人乗りだったので買わないという事になったが……

「その代わりに」というプレゼンを受けて、彼女は四人乗りの車を買った。

別に自分の稼いだ金なんだから、車ぐらい好きに買えばいいとは思うのだが……

彼女曰くマンションの駐車場が一台分しかなかったから、どうしても俺の許可が欲しかったらしい。

結局ほぼ一年ぶりのシュシュの里帰りは、納車されたばかりのその車で行く事になった。

 

「前乗った時はハチロクはあかんと思っとったけど、ターボついたら結構ええやん! このコンプリートお買い得やったなぁ! 即納やったし! ハセやん? どう? どう?」

「うるせー車」

「それがええんよ」

「なんかプシュプシュ言ってるけど大丈夫なの?」

「そういうもんなんよ」

 

まるで空でも飛びそうな音を出しながら高速を走る車の助手席で、俺は耳栓代わりにイヤホンを耳に差して尻の痛みに耐えていた。

 

「このシートどうやって倒すの?」

「横のダイヤル回してぇ」

「難しい車だなぁ……」

 

そうぼやきながらも、どんどん旅程は進む。

まだ帰省シーズン前の平日で道も空いているからか、朝に東京を出て昼には大阪に到着。

関西ではメジャーだというラーメン屋で昼飯を食べて、枚方(ひらかた)の実家に向かう。

そんな俺達の車の後部座席には、一泊分の荷物と、段ボール一箱分のマスクが載っていた。

 

「やっぱ積載あった方がよかったでしょ?」

「スープラでもこんぐらいなら載ったと思うけど……いや載らんかな……どうやろ」

 

そんな話をしながら家に入ると、飯田家のお母さんが出迎えてくれた。

 

「おかえりーっ……て、なんやえらい大荷物やなぁ? 何やのそれ?」

「マスクやマスク、うちの製品。これからインフル増えるからつこて」

「これ全部マスク? はぁーっ、そしたらご近所さんにも配らなあかんなぁ」

「うちの仕事の事は言わんでよ」

「あんたの仕事よぉわからんから、東京でアイティー関係の仕事してるって言うてるわ」

「それでええええ、今は言うたあかん事いっぱいあるからな」

 

まぁ周りにはIT関係と言ってもらえれば間違いないんだろうけど、身バレはどこで起こるかわからないからな。

本来はこのマスクもちょっと危ないのかもしれないけど……

それを加味しても、こうしてマスクを渡しておく事は、きっと後々意味が出てくるはずだった。

 

「せや、昨日高島屋(デパート)行った帰りにな、あんたんとこの店行ったで。若い人がよぉけ並んではったわ」

「店? あぁー、なんばのショップな」

「あんなとこ家賃凄いんちゃうの? それでクレープあんな高いのん? あ、これ堂島ロールな」

 

久々に会った娘と話が止まらないお母さんは、クレープと一緒に貰ったのであろう、賢獣ラムダのコースターでコーヒーを出してくれた。

こういうグッズが実際に使用されてるとこって……何気に初めて見るかもしれないな。

カノンボールの飲食事業はすでに始まっていて、現在は東京大阪福岡の三店舗が動いている。

タピオカドリンクやコーヒーなどのドリンクメニュー、それとクレープや唐揚げやハンバーガーやホットドッグといった手軽な食べ物。

それらをテラス席やテイクアウトで提供し、悪魔の作り出したブラインド商法のキャラグッズを、メニューひとつにつき一個つけるという商売だ。

 

「ゆっくりしよか(おも)たけど席一杯やったわ、あんなんで儲かるんか? もっと席数増やした方がええで」

「基本は食べ歩き用なんよ」

「クレープなんかよう食べ歩かんわ」

 

コラボカフェなどは基本的に予約制なのだが……

席をテラス席に絞り、テイクアウトを基本にする事によって、うちの『カノンボールカフェ』は予約システムそのものを不採用とした。

土日祝は結構並んでる時もあるみたいだけど、それでも何時間待ちとかじゃない。

 

「おとんとお(にぃ)は仕事?」

「そら火曜やねんから。あ、そういやなぁ、あんたの中学の同級生の藤田さんおったやろ?」

「こーこちゃん?」

 

俺は置物になって二人のローカルトークを聞きながら、出されたロールケーキでコーヒーをゆっくりと飲む。

そんなマッタリとした時間を過ごしながら、飯田家の全員が帰宅するのを待った。

そして夜になって全員揃ってからは焼肉へ連れて行ってもらい、そのあとは前と同じようにリビングで眠った。

 

「ハセやん、顔あろ(あらっ)たら行こかぁ」

「んっ? あっ、はーい」

 

翌朝、そんな言葉と共にシュシュのお父さんに起こされ、前日に助太刀をお願いされていた一戸建ての建築現場に連れて行かれた。

工務店を営む彼の仕事を手伝うのは、別にいいんだが……

その下の職人さんたちからの俺への扱いは、なんとも困るというか、ちょっと反応しづらいものだった。

 

「ハセやんはいつまで東京おんの? はよ大阪おいでやぁ」

「そうそう、はよ代替わりしたらななぁ」

「シュシュちゃんも今何歳やっけ? 東京行ってえらいええ人捕まえてきてくれたなぁ」

 

まだまだタバコが吸えた中華料理チェーン店の中。

俺はパンチのないラーメンを啜りながら、そんな話にひたすら愛想笑いを返していたのだった。

ちなみに、シュシュの方はというと。

ちょうど今日が休みだったお兄さんと一緒に夜中に家を出て、昼過ぎまでひたすら車を乗り回していたらしい。

俺とお父さんが夕方に家に帰ると……遊び疲れた彼女は、リビングのソファで大口を開けて爆睡していたのだった。

 

「どうもお世話になりました」

「またお父さんの仕事手伝うてもろて、こっちがお世話になりましたやで」

「シュシュも寝とるし、明日の朝帰ったらええのに」

「いえ、明日は昼から会議があるので……」

「そうなんかぁ」

 

そんな話をしながら、ほぼ寝ぼけているシュシュをリクライニングさせた助手席へと押し込んだ。

そして後部座席に、お母さんが買ってきてくれた有名らしいチーズケーキの箱と、おかきの缶を置く。

シュシュにシートベルトをつけて助手席のドアを閉めると、お兄さんが急に肩を組んできた。

 

「なぁハセやん、ツードアでチャイルドシートはしんどいで」

「え? はぁ……」

「いつでも言うてや。トヨタ党やろ? アルファードでもヴォクシーでも、ええタマ入れるから」

「……ありがとうございます?」

 

ニヤニヤ笑うお兄さんに肩をニギニギされながら運転席に移動し、ドアを開けて椅子の位置を調節する。

そしてエンジンをかけると、馬鹿みたいなデカい音でアイドリングが始まった。

 

「ハセやん気ぃつけて帰りやぁ」

「またおいでなぁ」

「結構出るから捕まんなよー」

「ありがとうございました!」

 

トラック以外では久々のマニュアル操作に戸惑いながらも、俺はなんとか道路へと漕ぎ出した。

しかし……今からこのアホみたいな車で高速走るのか……

プシュプシュとうるさい車を走らせながら、カーナビのテレビボタンを押す。

 

『……名簿の復元は不可能だと語り。政府は桜を見る会問題に……』

 

車内に六時のニュースが流れる中、俺は大通りのヘッドライトの群れへと合流し、そのまま軽バンの後ろへつく。

そして「来年はもう、この街には来れないかもしれないな……」なんて事をぼんやりと考えながら、十二月の街をゆっくりと走ったのだった。

 

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