【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
三月になり、いよいよ本格的なコロナ対策の地獄の釜が開く。
そんな中カノンボールは、ライバーのメンバーシップ限定で販売しているマスク供給を一家庭三箱に減らした。
マスクがまともに売っていない現在の事。
各所から批判を受けているようだが、こちら側にもやむにやまれぬ事情があったのだ。
すっかり家具も揃ったマンションのリビングで、後ろからシュシュに肩をニギニギされながら、俺はその事に頭を悩ませていた。
「いきなりマスク一万箱ってのは
「まぁ法律を盾に取られちゃ、うちとしてもねぇ……」
その事情のまず一つ目は、国からのマスク買い取り。
国民生活安定緊急措置法というのを根拠に、独自に緊急事態宣言を発令した北海道に送るマスクの提供を指示されたのだ。
これは他のマスクメーカーにも話が行っていて……
そのうちカノンボールの割当が五十万枚、つまり一万箱だったというだけだ。
「先生の顔立てる分はいけんの?」
「量的には全然大丈夫なんだけどね、連絡と発送する手間が多くてさぁ」
そして二つ目は、医療関係者へのマスク及び高機能マスクの供出だ。
これは今カノンボールのライバーの中で一番忙しい男、
会社と
当然、その事は全部うちのホームページで発表していく。
医療現場優先なんだ、ごめんねって話だ。
「ていうか先生大丈夫なん? 最近ずっと出ずっぱりやけど」
「今が一番顔を売れる好機だからねぇ……」
俺の頭を顎でグリグリしてくる会長が心配している
『では白衣頼さんとしては、感染は誰にでも起こり得る事だと?』
『その通り、感染症は感染者だけの問題ではなく、社会全体の問題なんです。換気とマスクと手洗いを続けて予防していく事も重要ですが……』
今もお昼のワイドショーの中で、出演者の間にモニターに映った先生が挟まれ、意見を求められていた。
うちのマスク販売の好調もあり、今や「マスクの箱に描かれている人」として有名になりつつある
そんな医療系Vtuber
最初からテレワーク体制で、感染を気にせずどこにでも呼べる元医者というのは便利すぎたらしい。
本人もガチガチに勉強し直し、医者の協会の中の知り合いとも連絡を取り合いながら動いている。
彼も医者という世界は離れたとはいえ、人を助けたいという志は忘れていないのだ。
なのでモチベーションは高いが、なんだか一種の使命感に駆られているようにも見える。
「仕事あるのはええけどさぁ、やっぱちゃんと休みあげなあかんのちゃう?」
「個人事業主だからなぁ、でも多分だけど先生自身はちゃんと休めてると思うよ」
「自身は……?」
「先生自身は家にいるからね」
忙しいと言っても、ぶっちゃけ先生自身はビデオ通話出演だからまだマシなのだ。
テレビ出演に際しての準備や勉強の時間なんかはあるだろうが、なんだかんだ朝活も時間をズラしながら続けているしな。
ぶっちゃけ今本当に一番忙しいのは、先生自身ではなく……
先生の出演セットである移動式のモニターを持って、テレビ局を行き来しているうちの営業たちだった。
そのうちテレビ局もテレワーク体制が整って、営業が行く必要もなくなるんだろうけど。
今はモニターを二セット作って、四人の人員で必死こいて回している状況だった。
申し訳ないんだけど、さすがに今月は残業四十五時間超えそうだなぁ……
俺はそう考えながら、営業たちからバンバン上がってくるガソリン代の経費精算を眺めていた。
そんなコロナで世間も弊社も大変な状況の中、うちのライバーが突然変な動きを始めた。
動いたのは一期生の
本当に素晴らしい素質を持ちながらも、ドカンと数字を伸ばす機会になかなか恵まれなかった女だ。
「見てこれ、
「え?」
シュシュがそう言って差し出したスマホを見ると、その中では……
『ここに、綾辻キングダムを築きます』
着ぐるみを着た