【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
動画を最初から再生すると、事情がわかった。
以前キャンプ動画で鬼バズりをしていた
『前にキャンプしたこの場所、うちのおじいちゃんの土地なんですけど。おじいちゃんに聞いたら、
ガンメタの軽バンをバックに着ぐるみを着て、焚き火の前でそう語る彼女。
『ここからここまでを王宮にして、同じデカさのトイレを隣に作ります。このトイレは王とカノン先輩専用です』
綾辻さんはそう語りながら、拾った棒で地面に線を引いていく。
結構というか、かなりの広さがある林のようだ。
周りに木や草は生えているが、キャンプできるぐらいだからそこまで鬱蒼とした感じはない。
車で行けてるわけだし、多分ある程度手が入っている土地なんだろうな。
『ここは大浴場、もちろんカノン先輩が好きなサウナも作ります』
その後も着ぐるみの彼女は、楽しそうに妄想の宮殿の部屋割りを発表し……
『あっ……あーっ! おかずが!!』
最後は鍋で温めていたサバ味噌の缶詰を地面にこぼし、意気消沈して白米とデザートだけを食って終わった。
そんなシュールな絵面の動画だったが、やっている事は超がつく大正解。
ここから日本中が巣ごもりを始めるのと同時に、キャンプブームもやってくる。
あらゆる意味でタイミングが良すぎる一手だ、さすが伸びるライバーは物が違う。
俺はすぐに、
「綾辻さん、先日のキャンプの動画を拝見させて頂きました」
『あ、ありがとうございます? ……ていうか、あのぉ……社長から電話が来るって事は……私なんかやっちゃいましたか?』
なんだか不安そうな声でそう尋ねる彼女に、俺は「いやいやいや」と否定を返す。
「とんでもないですよ、面白そうな事やってるなーと思っただけです」
『そ、そうすか……ありがとうございます』
「それで、綾辻キングダムの件なんですけど……」
俺がそう続けると、彼女はなんだか焦ったように声を上げた。
『いや、社長! あれはね、ちょっと言葉の綾っていうか、冗談で……もちろん本気じゃないですよ?』
「とんでもない! 冗談なんてもったいないですよ!」
『えっ?』
「やりましょうよ綾辻キングダム! ていうか
『なんで? ……っていうか綾キンって……』
なんだか彼女は本気じゃないような事を言っているが、こっちとしては是非ともやらせてもらいたい。
テレビでもネットでも、どこかを開拓して何かを作るというコンテンツは根強い人気がある。
しかも長いスパンで取り組める事で新人ライバーへのファン誘導にも使え、作るものによってはグッズの企画にも絡められる。
リアルの土地を使っての企画でもあるので、他のV事務所にもそうそうマネはできない。
綾辻キングダムは、ドル箱コンテンツになる予感がビンビンするのだ。
「綾キンは絶対に伸びますよ! 是非やらせてください! お願いします!」
『綾キンやめてください! ていうか、あそこってほんとに何もない場所ですよ?』
「それがいいんですよ。色々やれそうじゃないですか」
それからも説得は続いたが、最終的に綾辻さんは「まぁ社長がそこまで言うなら……」と許可をくれた。
もしかしたら彼女としては、冗談の一発ネタで終わらせるつもりだったのかもしれないが……それはあまりにももったいないからな。
とはいえこれも、一時期俺が一期生のマネージャーを務めていた事もあり、ある程度の信頼関係があったから通った話かもしれない。
これからもできるだけ、社員やライバーとはコミュニケーションを取っていかないとな……
そんな綾辻キングダムの予定地。
話を聞けばそう秘境にあるわけでもない、実際には都心から一時間ちょっとの場所にある土地らしい。
『なんかバブルの頃に周りの土地が原野商法ってのに使われたって、お爺ちゃんが言ってました』
「なるほど」
つまりちょい僻地で、色々な理由で土地が安い部類の地域って事だな。
加えて地主の綾辻さんが言う事には……
その土地は彼女のおじいさんの知り合いの土建屋が、しばらく会社の車を置くのに使っていた場所なのだそうだ。
だから車で入っていけるぐらい、ちょうどいい空間ができていたというわけだ。
「なるほどなるほど。じゃあ弁護士の先生と一緒に相談してみますんで、またお話聞かせて下さい」
『え、弁護士ですか?』
「ほんとに開拓するとなると、ちゃんと調べておかないと木一本切るのも犯罪になっちゃいますから」
『え!? そうなんですか? あぶなかったぁー! 適当に木切ったりする前でラッキーでした』
ラッキーなのはこっちの方だ。
ここからどんどん、人が集まる事への締め付けが厳しくなる状況で……
やりたい放題できて車で入っていける土地があり、しかもそれをタレント自身が持ってるなんてのは出来すぎだ。
木や草を切り開いての、ちょっとした開拓。
ライバーたちの拠点となる建物や、ベンチや遊具、またはフォトスポットなどの建築。
プランターなどを持ち込めば、ちょっとした農業だってできるかもしれない。
もちろん基本はプロを招いて指導を受けながら、要所でチョコっとだけ作業という事にはなるが……
コロナ禍にこそウケる、アウトドアの撮れ高無限大の神企画だ。
エンタメ企業として、これに乗っからないなんてのは嘘だろう。
俺はすぐに顧問弁護士に相談し、土地系に詳しい弁護士を紹介してもらった。
その弁護士さんと千葉にある綾辻キングダムについて調べまくり、法律的にある程度開拓ができる土地である事を確認。
そしてそれが確定した翌日、俺は箱内に『綾辻キングダムの国民募集』という通達を回した。
その内容はこうだ。
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『公式番組内、綾辻キングダム企画参加者募集』
・実写企画になります
・長期スパンでの企画となります
・参加日程は応相談
・土木作業、農作業等があります(プロによる指導があります)
・着ぐるみ未作成者は優先支給します
・希望者は生身のまま活動も可(作業服、空調服支給。映像加工します)
・敷地内での動画撮影OK(地主と要相談)
・各種免許取得支援制度あります
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だがぶっちゃけ「これってVのやる事か?」という感じもある。
なのでこれで応募がなければ、そのためだけに新人を入れるぐらいのつもりだったが……
『ラムダやります!』
全体チャットにそれを送った瞬間、すぐさま賢獣から参加スタンプと同時に返信が返ってきた。
こいつ絶対内容読んでないだろ……
とはいえ獣たちの長が参加するという事は、その下も続くという事。
『
『聖獣フワフワ、講義ない日はいけまーす』
こうして人気者のケモケモズが参加を表明してくれた後は、弾みがついたのかどんどん人が続く。
『突破口アケミ土日いけます!
『
『
『
『
『
そんなメッセージが続く中、家のトイレからも返事が聞こえてきた。
「カノンやります!」
……チャットで返してくれよ。
正直言ってVの本流からは大きく外れた企画だとは思うが、意外にも応募者は多く集まり。
この感じだと、曜日ごとにメンバー入れ替え式で撮影を回せそうだ。
ただ、なぜかしれっと応募してきた
彼だけは社長としてストップを出し、綾キンの非常勤医師という事にしてもらった。
先生はさ、これからどんどん忙しくなるからね……