【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
会社としては力を入れている綾キンだが、もちろんうちはVtuber事務所だ。
Vの本分はインターネットでの活動、それは依然変わっていない。
そしてそれを一番意識していたのは、もしかしたらカノンボールの下部組織のようなものである『配信品質向上委員会』の面々だったのかもしれない。
彼らはこれを好機とばかりに
『甲子園企画。各チャンネル及び、主催
【b 198】
うっちー@騎空士部 20:15
『(監督)ノ』
『準備期間短くね? 監督やるけど ノ』
アノールマンボ 20:19
『他誰決まってんの?』
『今手上げた二人と俺、あとは
『監督やる!』
『監督! ノ』
ゆっくん@毎日投稿 20:20
『参加したかった…… (´・ω・`) 』
アーマード・コアの新作は必ず来る 20:20
『登録者1000人以下で底辺甲子園企画やりませんか?』
【b 34】
+ アーマード・コアの新作は必ず来る 20:20 『登録者1000人以下で底辺甲子園企画やりませんか?』
歴史系Vtuber
『1000人以上5000人未満も入れてよ……』
【b 8】
企画チャンネルにはそんな募集が飛び交うようになり、Vtuber大甲子園、Vtuber大サカつく、Vtuberラップバトル選手権、Vtuber寄席、Vtuberプロゲーマー志望部、V
どれも個人の旗振りでは実現が難しく、なんなら集客も厳しそうなそれらの企画。
それを彼らは、五百人を超えるその頭数と、人気者のカノンボールライバーを気軽に呼んでこられる環境を頼みにバンバン打ちまくった。
自らをカノンボールチルドレン、略して『玉チル』と号した『配信品質向上委員会』の面々。
彼らはコロナ禍というブーストタイムにおいて、ついにそれらを自らの強みとして使いこなし始めたのだった。
そんな活発なインターネット空間に対して、逆に全ての動きが止まったと思われていた綾辻キングダム。
なんとこちらはこちらで、緊急事態宣言中にも関わらず大きな動きが起き始めていた。
『どぅおりゃああああ!』
『でええええええ!』
『うおらぁぁぁ!』
動画の中に女三人の叫びが響く。
首から上を隠す丸枠にVの顔を貼り付けた女たちが、なんだか年季の入った
その足元を、
『みんなが来れない間に、まずは綾辻キングダムの食料自給率を上げようと思います』
動画の冒頭で突如そう宣言した綾辻さんは、柵で囲った農地の中で
とにかく、今いる人間でできる事をやろうという考えなのだろうが……
どうやら綾キンの作業予定の中でも結構キツい部分を、王様自ら率先してやってくれるつもりらしい。
恐らくこれはうちの側からのディレクションではないだろうし、ついてくれているテレビの撮影班側から提案か何かがあったんだろう。
カノンボールは細かい活動内容は基本全部ライバー任せだからな。
『じいちゃん! 切り株出てきたぁ!』
『おぉ? 切り株ぅ? あぁ、王様よぉ、こんぐらいの切り株ならなぁ、ジャッキ使ったらすーぐ抜けるわ』
『ジャッキ? じいちゃん今日持ってきてる?』
『今日? ないない! 次よ次! 王様よぉ、次持ってきたるからな』
農業の指導は綾辻さんのお爺さんで、みんなが指導を受けている間にはお婆さんがご飯を作ってくれている。
ちゃんと祖父母の顔は隠してあるから大丈夫だと思うけど、俺からすれば綾辻さんもなかなか思い切ったなという感じだ。
『あんた方、ご飯できたけどすーぐ食べるかねぇ?』
『食べるー』
『あ、いただきます!』
『ありがとうございます!』
『そんじゃあお皿持ってきてぇ』
ちなみに、お婆さんが作ってくれていたのはカレー。
いただきますをした後は、綾辻さんの
肉体労働をしたからか、艶のないスプーンでどんどん掬われる皿の中身はみるみるうちに減っていく。
その豪快な食べっぷりに、リビングで俺と一緒にその画面を見ていた
「ハセやん、今日うちもカレーにしよや」
「別にいいけど、肉は豚だよ」
「えぇーっ? 豚も美味しいんやけどさぁ、たまには牛にならん?」
「ならんなぁ、俺が作るなら豚肉になるんだよねぇ」
関東は豚、関西は牛なんて俗説が本当かは知らないが。
うちのカレーは豚、シュシュの実家のカレーは牛だった。
別にどっちでもいいような気がするし、食べる分には肉の種類なんか気にしないのだが……
自分で作るとなると、不思議なもんでなぜか牛ではしっくり来ないのだ。
「牛がいいならシュシュが作って」
「ほな豚かぁ……」
牛がいいけど、自分で作るほどのモチベはないらしい。
まぁカレーってのはそういうもの。
家庭の味はあるけど、基本どう作っても美味しいからな。
そしてそんな話をしている間に……
動画の中では食事を終えた綾辻さんが、夕焼けでオレンジに照らされる畑に苗を植え付けていた。
『この野菜で、夏には夏野菜カレーを作ります!
『いいっすねー夏野菜カレー、その頃にはカノンボールのみんなで食べれるかなぁ』
『きっと食べれますよ! きっと!』
夕暮れの中、畑にしゃがみ込みながらそんな事を話す女性たちの映像は結構エモく……
自粛警察に絡まれていないか、正直ちょっと心配していたコメント欄も「畑やりてー」とか「この動画だけが最近の楽しみだわ」という好評なコメントが多くて安心した。
緊急事態宣言中という状況もあり、公式配信でも動画の一部が流れた事もあり、そしてもちろん……本人の頑張りもあり。
『綾辻キングダムへの道』と題された、綾辻さんのアウトドア動画シリーズ。
その再生数は、日を追う事に伸び続けていったのだった。