【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
『復活や~!! みんなもインフルは気ぃつけなあかんで~!!』
壁越しのSOSを貰ってから五日ほど経ち、つかの間の平静は終わった。
死にかけていたお隣さんはまた生配信を始め、俺もそれと推しの動画をBGMにしながら勉強をする。
『病院? 行った行った! 混んどったでほんま! 全員インフルやったんちゃうか?』
隣人はまた嘘をついているが、まぁ臆面もなく嘘をつき続けられるというのも一つの才能なのだろう。
俺もよく上司と職人と客先にそれぞれ別々の事を言って、現場の色々な歪みを誤魔化しまくったものだ。
『おっ! スーパーチャットおおきに! これで明日は肉でも食うか! 精付けなあかんからな!』
そんな復帰早々絶好調なお隣さんの声を聞きながら、俺はいつも通り深夜二時ぐらいまでパソコンに向き合っていたのだった。
そして翌日。
昨日は「肉でも食う」と言っていた気がするお隣さんだったが……
どうやらその予定は順延になったらしい。
「あのぉ……冷蔵庫の佃煮……ちょこっとだけ頂いてもいいですかぁ?」
「え……? あ、はい……」
うちの部屋をノックしてそんな事を言ってきた彼女の左手には、山盛りの素パスタの入った皿。
どうやら今日の食事は、共用の冷蔵庫に入れている俺のご飯のお供で、パスタをかっこんで済ませるつもりらしい。
よっぽど金のなかった大学生の頃の俺でも、さすがにやらなかったようなギリギリ飯。
そんな状況でも、世話になったからと俺にビールをお返ししてくれていたわけだ。
なんだかちょっと気の毒になってきたな。
「これ、よかったら……」
「えっ? わあっ、いいんですか?」
俺が渡したのはツナ缶だが、彼女は大げさに喜んだ。
今は2018年の初春。
まだまだVの固定給と言えるメンバーシップ制度もなく……
投げ銭であるスーパーチャットの額も、狂った金額が飛び交う後の時代に比べればめちゃくちゃに少ない。
しかも彼女はこの時代だと少数派に属する、生配信を主たる活動としているタイプのVtuberだ。
そりゃあもう、国の支援を受けて職業訓練を受けている俺と比べたってめちゃくちゃに貧乏だろう。
「…………」
翌日、俺は自分の晩飯の中華風野菜炒めを、一人分多めに作った。
そしてその皿に「よかったらどうぞ 長谷川」と書いたポストイットを貼り付け、冷蔵庫に入れておいた。
俺はお隣さん、
Vtuberという存在自体には、幾度となく救われてきた人間だ。
箱推しと言うには範囲が大き過ぎる気もするが……まぁ、この程度のリアルスパチャぐらいはしてもいいだろう。
若い女の子がお腹を空かせているという状況も、シンプルに悲しくて見ていられないしな。
とはいえ、こんな謎のオッサンが作った飯なんか食わないかもしれない。
そう思っていたのだが……
『
どうやらお隣さんは、あんまりそういうのは気にしないタイプのようだった。
それどころか、俺の事まで配信のネタにしているようで……
『ん? そうそう! 自炊? いやそれがな、お隣さんがよかったらどうぞ~って、そうそう……いや不仲違う違う! 揉めてないから! 引っ越し代スパチャいらんて! でもありがとな!』
そんな話を延々としていて、俺はなんとなく気恥ずかしくなってイヤホンをつけた。
Vがするリアル知人の話を聞いた経験は幾度となくあったが……
自分がそのネタになる羽目になるとは、さすがに思っていなかった。
しかし、お隣さんってバリバリの女性Vだよな……?
明らかに声で男だとバレてる俺の話をこんなにしていいんだろうか……?
そう考えながら、その日は推しの切り抜きをエンドレス再生しながら眠ったのだが。
翌日、ニゴニゴ動画のランキングに上がっていた動画を見て、俺は笑った。
「そらそうだよ」
というのも、『Vさん隣人に養われる』というその動画の中で……
場を荒らそうとするガチ恋ファンと口喧嘩をするお隣さんが、きっちりとネタにされていたからだ。