【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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【玉チル】底辺Vtuber奮闘記3

『配信品質向上委員会』のサーバーの中にある『なんでも挑戦委員会』というチャンネル。

そこはまるでやる気ビジネスマンの集まりのような場所だった。

各自それぞれの挑戦、というか目標を立てて、それに向けて頑張るというチャンネルだ。

良く言えば自己啓発集団、悪く言えば節操なしに足掻く人たち、そういう感じだった。

 

パトレもん

『今日も英語の自主勉終了。朝と夜で一時間やりました』

 

檸檬堂(れもんどう)カレン

『おつー』

 

コウモリをモチーフにした獣人系Vのパトレもんさんは二言語話者(バイリンガル)を目指し、去年のサーバー稼働からずっと英会話教室に通っているらしい。

最近も家族でハワイ旅行に行ってきたそうで、さっそく実戦で語学力を試してきたらしい。

将来的には自分の動画に英語字幕を入れ、海外展開も見込んでいるというワールドワイドな視点を持っている。

ちなみに普段やっているのは、競馬の予想動画。

動画の伸びは正直言って俺以下だが、インテリは大器晩成型、なかなか侮れない男だった。

 

淮海(ワイファイ)(ちから)

『今日も絵描いたよ〜、これで毎日お絵かき継続120日目〜』

 

檸檬堂(れもんどう)カレン

『おつー』

 

ノット・キング・コール

『すご』

 

十津川扇

『すごくね?』

 

特命社長

『すげすぎ』

 

地雷系チャイナVを自称する淮海(ワイファイ)(ちから)さん。彼女はキャリア三ヶ月の俺など足元にも及ばないぐらい上手い絵描きで、いつかVtuberのママになることを目標にしているらしい。

今は『お絵かき1000日継続チャレンジ』に挑戦し、毎日SNSに絵を投稿し、その過程を動画に纏めてV活動としているようだ。

バ美肉Vである彼の動画は俺と同じぐらい伸びていないが、SNSの方のフォロワーはすでに五千人を超えていた。

 

緋牡丹(ひぼたん)ゲーミング

『今日もボイトレ行ってきまーす』

 

檸檬堂(れもんどう)カレン

『おつー』

 

金髪ゆるふわ黒ギャル風Vの緋牡丹さんはリアル女性で、Vtuberとして声優を目指しているらしい。

目標はシンプルに『声優デビュー』だ。

歌も好きな彼女はよくカラオケ配信を行っていて、そこではそこそこ人を集めているようだ。

もちろん動画で時々披露する演技も、配信でやっている歌もプロ級というわけではないが……

登録者は堂々の三千人超えで、このサーバーでもかなり上位のランカー。

他にも様々な人物がこの『なんでも挑戦委員会』にいたが、現在も挑戦を続けているのはだいたい十人ほど。

その努力が実を結びかけている者、まだまだ時間がかかりそうな者、様々いるが、その熱量だけはみな変わらなかった。

 

「みんなすげぇなぁ」

 

俺は挑戦に挑んでいるみんなのチャンネルを確認しながら、思わずそう言葉をこぼした。

 

「そんで、やっぱ厳しいよなぁ」

 

同時に、思わずこういう言葉も出る。

このチャンネルの中で一番数字的に恵まれている、登録者三千四百人の緋牡丹さん。

俺にとって目も眩むような数字を持つ彼女ですら、企業勢と比べれば吹けば飛ぶような底辺である事には変わりなかったのだ。

登録者二百万人超えのツシマアイを頂点として、その下には五十万人超えの電動姉貴クロや、カノンボールトップの枚方(ひらかた)カノンを始めとした、化け物みたいな数字を持つ連中がゴロゴロといる。

一万人は超えて当然、十万人からが界隈で認知される最低ライン、そういう感じだ。

もちろんカノンボールにも、二期生の宰相ムルールのように登録者五千人にも満たない人もいる。

だが逆に言えば、彼女が伸びていない事を俺がいちいち覚えているぐらいには珍しいという事だ。

 

「やっぱ織元さんたちは才能あったんだ、社長(ハセやん)はそれをちゃんと見抜いてたって事か……」

 

『配信品質向上委員会』の中からカノンボールにすくい上げられた三人の上澄みは、今やしっかり全員一万人の壁を超えて活動を続けている。

かたや残された側は、これだけ毎日頑張っていても五千人の壁も超えられない状況なのだ。

それを見て「俺も頑張らなければ」という危機感を煽られるのは、ある意味当然の事だった。

そしてずっと黙ってチャンネルのログを読んでいた俺は、今ついにはじめの一歩踏み込んだ。

 

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『こんにちは! 今V活動三ヶ月目で、俺もなんか挑戦したいんですけどオススメありますか?』

 

そしてカノンボールFESから受けた衝撃を受け流すような形でVを始めただけの、考えなしの俺は……

ここに来ても全くのノープランだった。

 

檸檬堂(れもんどう)カレン

『新人だ!』

 

十津川扇(とつかわおうぎ)

『囲め囲め!』

 

緋牡丹(ひぼたん)ゲーミング

『ん? 今何でもするって言ったよね?』

 

幸い書き込みをしてから二十分ほどでどんどん人が集まってきてくれて、色々と相談に乗ってくれた。

みんなが俺のチャンネルを確認しに行ってくれているようで、もともと五十再生ぐらいだった直近の動画の再生回数がどんどん回っていく。

 

檸檬堂(れもんどう)カレン

王臥(おうが)さんはゲーム配信とかやってるんだ』

 

緋牡丹(ひぼたん)ゲーミング

『凄いなおーがさん、自分でガワ作ったんだ。絵描けるんならそれ伸ばしたらよくない?』

 

淮海(ワイファイ)(ちから)

『絵描ける人は千日チャレンジをやろう、なっ』

 

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『絵もいいんですけど、もっと新しいことにもチャレンジしてみたくて……』

 

他のチャンネルからも人が来たりして、様々な意見が出てくる中……

それまで書き込みがなかった、とんでもない人からの書き込みがあった。

 

大筒(おおづつ)ボーラー(社長)

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)さん自身はどういうVtuberになりたいんですか?』

 

なんと、社長(ハセやん)からの質問が来たのだ。

 

「え? マジ……?」

 

他のみんながどんどんハセやんに絡んでいく中、俺は一旦トイレに立ち、じっくりと返信を考えてから……

ノートパソコンが置かれたデスクの前に戻った。

 

+ 大筒(おおづつ)ボーラー(社長) 『凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)さん自身はどういうVtuberになりたいんですか?』

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『俺はいつかカノンボールFESに出られるようなVtuberになりたいです』

 

キルトソングス

『マジ!?』

 

ゆっくん

『すげぇ事言った!』

 

めちゃくちゃデカい事を言ってしまったと後悔しそうになるが……

でも結局、俺がVtuberになった理由はこれが全てだ。

その夢の先にいる本人(ハセやん)に対してここを誤魔化すぐらいなら、伸びないVtuberなんてさっさと辞めてしまったほうがいい。

チャットが盛り上がって凄いスピードで進んでいく中、永遠に思えるような五分をかけて、ハセやんからの返信が来た。

 

+ 凸天虹(とってんこう)王臥(おうが) 『俺はいつかカノンボールFESに出られるようなVtuberになりたいです』

大筒(おおづつ)ボーラー(社長)

『あまり詳しく話せる事もなく、確約などできるような事もないのですが……Vtuberとしての持ち曲があると可能性が高まるかと思います』

 

マリモン

『そりゃそうだ』

 

+ 大筒(おおづつ)ボーラー(社長) 『あまり詳しく話せる事もなく、確約などできるような事もないのですが……Vtuberとしての持ち曲があると可能性が高まるかと思います』

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『ありがとうございます!よく考えてみようと思います!』

 

緋牡丹(ひぼたん)ゲーミング

『となると……ボイトレ? お仲間増えると嬉しいわ』

 

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『ちょっと考えてから、やる事を決めようと思います』

 

淮海(ワイファイ)(ちから)

『それがいいよ、始めると止まれない事もあるから……』

 

仕事から帰ってきて割とすぐに相談を投げたのに、気づけばもう夜中に近い時間だ。

俺は皆に礼を言って、動画を編集してから床についた。

そして、朝まで一睡もできなかった。

緋牡丹さんが言ったように、ボイトレをする事も考えた。

鍛えた声で、カノンボールFESに出て、憧れの人たちと共にかっこいい曲を歌う俺。

そんな夢が叶ったら、そりゃあ最高だろう。

でも、ここは現実だ。

夢を見てるだけで夢のような事が叶う場所じゃあないのだと、俺のチャンネルの登録者数が言っている。

会社に向かい、眠気覚ましの栄養ドリンクを飲みながら仕事をして、気づけば何も決まらずに退社時間。

眠いは眠いが、何も決まらない事への焦りが勝った。

 

「何かないか、何か……」

 

俺は口の中でそうつぶやきながら……家と会社の間で一番大きい駅のモールの中を歩いた。

モールには、様々なカルチャースクールが入っている。

ボイストレーニング、ダンススクール、カラオケ教室、絵画教室だってある。

だがどれもピンと来ない。

やればいいとは思うんだけど、やったところで先が見えているような気もする。

飯も食わずに、ただ歩いた。

エスカレーターを何度も登り降りし、隅から隅までモールの中を歩いて……俺は出会った。

 

「これじゃん……」

 

楽器屋の入口からすぐの場所に吊るしてあった、真っ赤なギター。

俺の目は、それを一度視界に入れた瞬間から、そいつに釘付けになっていた。

 

「これしかないじゃん」

 

ギターなんか弾いたこともない、それどころかカラオケで歌う以外の音楽なんてやった事もない。

その真っ赤な、左右に角がせりだしたギターは……

そんな俺に、一歩前に進む勇気を与えてくれる姿をしていたのだ。

もっと安い初心者用のギターも、キーボードなんかの、なんとなく親しみやすそうな楽器も、いくらでもあった。

でも俺はこれまでの人生、いつだって考えなしだった。

だから自然と、それを手に取っていた。

二十六万円、俺の少ないボーナスがぶっ飛んで余りある価格。

それを、当然……三十六回払いで。

 

凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

『ギター買ってきました。持ち曲を自分で作ります』

 

家に帰って背負っていたギターを置き……

『なんでも挑戦委員会』にそう書き込んだ後、俺はすぐにベッドに倒れ込んだ。

そして衝動で背負った借金と、完全ノープランの挑戦から目を背けるように、夢も見ずにぐっすりと眠ったのだった。

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