【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
なんだか迷いなく歩く
良くも悪くも、庶民として非常に落ち着くチョイスだった。
「
「あー結構ねー、あたし渋谷のホールで働いてんだけどさぁ、渋谷で飲んだりするとやっぱ常連に見つかったりするんだよねー」
「へー、ホールってなんですか?」
「え? パチンコ」
「あー」
「おうがさんあんまやんなそうだよねー」
ニコニコ笑いながらそう言った彼女は、迷いない口調でビール二杯を注文してこう続けた。
「結構給料いいんだよねー、ほら、ボイトレとかの月謝も払わなきゃだし。やっぱさ、いつかは養成所とかも通いたいじゃん」
「なるほど」
「でさー、養成所ってのもピンキリなわけよ、色々調べてるんだけどさぁ」
「そうなんですか?」
そんな話をしている間に運ばれてきたビール。
手に持ったそれを、彼女は俺に突き出した。
チンと音を鳴らして杯を合わせると、
「あー、夏はビールだねー」
「そうっすね」
「すいません! ビールと枝豆、あと刺身七点盛りね! ……そういやゴッドイーター3出たけど、おうがさんは?」
「あー、ゴッドイーターですか? 実は通ってなくて……」
「ふーん、じゃあモンハン派なんだ」
そんな滑り出しで始まった他愛もない話は、二杯、三杯と運ばれてくるお酒のお陰でとめどなく続いていく。
「今度さぁ、また消費税上がるじゃん」
「あー、そうなんですよねぇ……」
「なんか上がそれでめっちゃバタバタしててさぁ、前から決まってたんだからさっさと決めとけっつーの」
「うちも結構バタバタですよ」
「おうがさん何してんだっけ?」
「マテリアル系です」
「えーっ、なんか頭良さそー」
「いやいや、営業ですよ。売ってるものの事は最低限ぐらいしか……」
そうして酒杯を重ねながら、他愛のない話をしていたのだが……
二人ともいい感じに酒が回ったところで、彼女はようやく本題を切り出した。
「それでおうがさん、歌なんだけど」
「あ、それそれ、今日はその話でしたよね」
「おうがさんの曲はね……いいね、いいよ」
「あっ、ありがとうございます」
こうして真っ直ぐ褒められるとジンと来るところがあるというか、素直に嬉しいものだ。
だが、彼女からはそう見えなかったようで、
「いやいや、ありがとうじゃなくてね、本当にいいからね」
「いやいや、ありがとうございますでしょう」
真剣な顔で言う
まだまだ自分なんか、未熟という言葉では済ませられないぐらいに未熟だとは思うが……
こうして誰かから認めてもらえるという事は、本当に、本当に嬉しい事だった。
「あの曲さぁ、両輪。あれってカノンちゃんとハセやんの曲でしょ?」
「えっ? あ……一応、はい、そうなんですけど……よくわかりましたね」
言われてびっくりした。
あの曲には特になんの固有名詞も入れていないからだ。
「わかっちゃうんだよねぇ。だから言ったじゃん、おうがさんの曲ってねぇ、いいんだよ。わかりやすい」
「わかりやすいですか?」
「難しい事言わないでしょ? 情景優先っていうかさ、あたしみたいなバカでもさ『ああこれはこういう曲なんだな』ってすぐわかるっていうか」
「バカなんて事はないと思いますけど……」
「かしこなら声優志望だってV活動だってもっと上手いことやってるよぉ」
そう言いながら笑い、
「とにかくさ、あたしめちゃくちゃあの曲気に入ったんだ。シャキシャキの曲みたいな形じゃなくてさ、今度はちゃんと歌わせてよ。あたし玉チルっていうか
「それはいいですけど、えーっと……こういうのってどうしたらいいんすかね?」
「許可くれたら……あーそっか、あとオケ貰えたら嬉しいかな」
「オケですか」
「そっ、オケ」
ギターで弾き語りをしているだけの俺にいきなり飛び込んできた、超難易度のその依頼。
だが、曲作りをしている者の端くれとして、『何でも挑戦チャンネル』の仲間として。
そして
ということで俺が頼ったのは、これまた『なんでも挑戦チャンネル』。
そこに常駐している、俺の師匠の一人である
『というわけで、オケを作るための機材についてご相談できないでしょうか?』
もう一人の師匠であるノット・キング・コールさんは浮上していなかったので、先にカレンさんに相談させて頂いたわけだが……
即レスで返ってきたのは、嬉しい承諾の言葉だった。
『いいよ。あー、じゃあ明日空いてる?』
『土日休みなんで大丈夫です! 時間も何時でも!』
てっきりネットショップのおすすめ機材のURLでも送ってもらえるのかと思っていたのだが、更に返ってきたのは予想外の言葉。
『じゃあねぇ、お茶の水に十一時、十万円だけ握りしめてきて』
えっ、オフで会うのか?
なんか申し訳ない気もするけど、せっかく師匠が言ってくれているのだから、甘えてしまおうか。
『いいんですか!? お茶の水ですね、承知いたしました』
『あそことアキバ回ったら機材関係なんでも揃うからねー。おうがさん立川でしょ? ちょい遠いけどまぁ一日で全部揃うから』
「……えっ?」
リアルで声が出た。
実際は立川の隣の市だが、なんでカレンさんが俺の住んでいる場所を知っているんだろうか?
いや、自分で言ったのか……?
不思議に思いながらも、俺は翌日午前の電車に飛び乗ったのだった。