【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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【玉チル】底辺Vtuber奮闘記10

荷物を持って立ち上がったカレンさんに続いて、鞄にパソコンを入れた俺も店を出た。

日増しに暑さを増す太陽が、路面をじりじりと照らしている。

歩いていると、しばらく滞在していた喫茶店で引いたはずの汗がまた吹き出してきた。

だがどういう魔法を使っているのだろうか、隣を歩く師匠は涼しい顔でスマホをいじっている。

 

「ちなみにさぁ……おうがさんってクレカ停止民?」

「いや、クレカは大丈夫ですよ、限度額三十万ぐらいですけど」

「じゃあネット通販も使えるね。ま、そこらへんはフレキシブルにして……まずMIDIコンから見ていこっか」

「MIDIコン」

 

知らない言葉を手元のスマホで検索し、時にはカレンさんにも尋ねながら、楽器屋だらけの御茶ノ水を歩く。

 

「オーディオインターフェースはネットでもいいかもねぇ」

「そのオーディオなんとか……? はもう持ってますよ」

「おうがさんAG03だよね? あれでもいいけど、あれはあくまで配信用のオーディオインターフェースだから」

「え、なんで機種名わかるんですか……?」

 

今俺が使っているのは、就職してすぐに友達と通話しながらゲームをするために買ったオーディオインターフェースだ。

 

「鯖で言ってたじゃん。ほら、鯖管(うんえい)に相談してる時に」

「えっ? あんなの見てるんですか?」

「そっ。見てる人は見てるんだよねぇ」

 

そう言いながら、カレンさんは何が嬉しいのか目を細めてケタケタと笑った。

 

「おうがさんさぁ、ギターもSNSに写真上げてたよね。危ないよー、やめたほうがいいよー。あたしみたいなのが見るとなんでもわかっちゃうんだから」

「そ、そうなんですか……?」

 

ギターなんか見て、一体何がわかるというのだろうか?

 

「おうがさん、あのレッドサンバーストのストラト、ららぽーとで買ったでしょ」

「えっ!?」

 

思わずそう小さく叫んだ瞬間、背中に痛みが走った。

どうやらびっくりしすぎて、どこかの筋を痛めたようだ。

 

「おうがさんのギターのあの色の在庫あったの、関東じゃららぽーとのあそこだけなんだよね」

 

嬉しそうにカレンさんは言うが、たしかにあのギターはららぽーとの中の楽器屋で買ったものだった。

しかし一体……この人には一体何が見えているというのだろうか?

 

「あっ……もしかして……カレンさんってハッカーってやつですか?」

 

そう尋ねると、彼女はスタッズの光る舌を出して「そんなわけないじゃん!」と爆笑し、俺の背中をバシバシと叩いた。

 

「ハッキングなんてできなくてもさ、今は結構なんでもわかっちゃうんだよね。駄目だよー、木目のわかるギターSNSに上げちゃあ」

「えぇー……」

 

楽器屋の中を移動しながらカレンさんが語ってくれた事には……

俺が買ったのはそこそこ珍しいギターで、楽器屋のホームページを確認すればどこで買ったのかぐらいはすぐにわかったそうだ。

それにしても、楽器屋のホームページなんて無数にあるんじゃないかと尋ねてみれば、更におっかない答えが返ってきた。

 

「おうがさんってSNSで『退勤』とか言ったり、途中で食べたご飯の画像上げたりしてるでしょ? あれと帰宅時間でだいたいの沿線もわかっちゃうからねぇ。だいぶ絞れんだよね」

「えぇ……こわぁ……」

 

そこからも、カレンさんの口からはどんどん俺の個人情報が飛び出してくる。

もうちょっとしたホラー体験だ。

どうやら俺は、Vtuberとしてというか……ネットで活動をする者として、セキュリティがゆるゆるだったらしい。

話が進むにつれ、日記のように歌っている歌の歌詞からの推測情報なんてものまで出てきて……

夏の昼間だというのに、なんとも肝が冷えるネットリテラシー講座となったのだった。

 

「ていうかカレンさんは、なんでわざわざそんな事調べるんですか?」

「えぇ? 趣味ぃ」

 

カレンさん曰く、そういうネットで完結する個人情報の収集行為の事をネットストーカー、略してネトストと言うらしい。

 

「気になったら何でも調べちゃうんだよね、ネット民の病気だよ」

「そういうもんですか?」

 

俺は全然気にならないが、まぁたしかにそういう人がいると思って動くのは大事なんだろう。

ネットで生配信をしている人の家にリスナーが訪ねてくるみたいなニュースも教えてもらい、迂闊な発信はしないようにしようと思えたのだった。

そんな事を話しながら歩いた御茶ノ水では打ち込み? というのに使うというMIDIコンやギター用品を買い込み、秋葉原へと移動する。

アニメショップやゲームセンターの印象が強い街だが、本来は電気屋街。

機材系はだいたいここで揃う、というカレンさんの後ろについて、人混みをかき分けていく。

 

「土日のアキバってこんなに混んでるんですね」

「日曜はホコ天だから、今日(どよう)なんか全然マシマシ。ホコ天も昔はコスプレした人いっぱいいてさぁ、今の比じゃないぐらい盛り上がってたよ。シュタゲの頃とかヤバかったなー」

「今ってコスプレ禁止なんですか?」

「そっ。色々あってねー、路上で撮影とかしてたら怒られるんだって……あっ、UDXでヤニ入れてっていい?」

「もちろんです」

 

タバコ休憩を挟みながらも、ポイントのつく電気屋で見つけた評判のいいオーディオインターフェース、無線屋のようなところの壁にかかっていたケーブルや変換プラグ、オーディオ専門店で見つけたマイクにつける丸い輪っか、とにかくカレンさんが言うものをどんどん買っていく。

店を回るほどに腕と肩に重くのしかかるようになる荷物と日差しに耐えかね、喫茶店に休みに行ったり。

時にはカレンさんの買い物をしに、アニメイトに向かったり。

なんだか端から端まで回ったような気がする秋葉原が夕焼けに照らされる中、やってきたのはこれまで存在すら知らなかったイヤホン専門店。

そこでカレンさんに紹介されたのは、二万円弱もするヘッドホンだった。

 

「ヘッドホンも一応持ってますけど……」

「これはそういうのとは用途が違うかな。おうがさんのヘッドホンは多分リスニング用でしょ? これはモニター用ヘッドホンだから」

「ど、どう違うんですか?」

「リスニングは聞いてて楽しくなるような味付けのもので、モニターは何の音が鳴ってるかちゃんと聞き分けるためのもの」

「あ、味付け……」

「まぁ今日色々買ったけど、どっちかというとこれが一番買ったほうがいいものかな」

「あ、じゃあこれ買います」

 

俺は試聴ができるヘッドホンの前につけられた札を、なるべく値段を見ないようにして取った。

高いけど、必要かどうかはわからないけど……

カレンさんが買っといたほうがいいと言うからには、本当に買っといたほうがいいのだろう。

 

「ちなみにおうがさん、ヘッドホン何使ってんの?」

「えーっと、ネット通販のセールのときに買ったやつで……」

「いくらぐらい?」

「三千円かなぁ……」

「そっ」

 

俺が値段を言うと、カレンさんは壁に吊るされた試聴用ヘッドホンの海の中から、すぐに一台のヘッドホンを見つけだした。

 

「これ?」

「えっ?」

 

そう尋ねる彼女の手の中には、黒くてごつい見慣れたヘッドホンがある。

 

「あっ、多分これです! ……えっ? なんでわかったんですか?」

「まぁ三千円って絞りやすいからねー」

 

カレンさんはそう言って笑っているが、同じ価格帯のヘッドホンなんかこの店には何本もあるのだ。

一体この人には何が見えているんだろうか?

そして何をメモっているんだろうか?

謎は尽きない。

 

 

 

「カレンさん、今日はありがとうございました」

「いーよ、人に物買わせるのって一番楽しいし」

 

夕暮れに染まる秋葉原の駅前、そう言った彼女の顔は本当に楽しそうだった。

今日の俺は本当に帰るのがおっくうなぐらいに、百均でいくつか買ってきた袋がパンパンになるほど物を買い込んでいた。

カレンさん曰くほとんど全部ネットで買うよりも安く済んだとの事で、あとは教えてもらった通販でいくつかのものを買うのと、ダウンロード用のソフトを買うだけという感じだった。

 

「あと、これあげる」

「えっ?」

 

そう言いながら、彼女は俺が両肩から下げた袋に更に何かを入れた。

 

「帰ってからのお楽しみで、正直それがヘッドホンの次にオススメの機材かな」

「すいません、ありがとうございます!」

「んじゃね~、またネットで」

「あっ、お疲れ様でしたー!」

 

言いたいことだけを言って、カレンさんは秋葉原の駅に消えていった。

お礼に晩の食事を奢ると言ったのだが……そのお金でこのVST買って、と追加の購入機材を言い渡されてしまった。

彼女は見た目は凄いが、中身は本当にストイックなミュージシャンなのだ。

いい師匠を持てた事に感謝しないとな。

 

「俺も帰るか」

 

重い荷物を持ったままではどこにも寄れず、まっすぐに家に帰って荷物を下ろす。

 

「……マウス?」

 

そしてカレンさんが最後に渡してくれた機材は、電飾がついているボタンの多いマウスだった。

まぁ、これでしっかり作業しろという事か。

それからはカップ麺を食べながら、カレンさんに指定されていたソフトを色々と買い込み、頂いたパソコンにそれらをダウンロードしている間に、曲を作って投稿して……

やることをやった後は、肩と腕の筋肉痛に耐えながらベッドに入って眠ったのだった。

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