【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】   作:関係ないよ

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うんうんうん

お隣さんの言う事には、彼女はあのアパートのオーナーの姪らしい。

高校卒業を期に実家のある大阪から東京に出て来たというお隣さんは、アパートの管理人業務をするという事を条件にほぼタダで住ませて貰っているのだとか。

まぁ叔母さんの方も姪っ子がうるさいという苦情を受けて家賃の値下げをするあたり、あんまりあのアパートで儲けようとは思っていないんだろうな。

 

「でね! アイちゃんを見て思ったんですよ! これは絶対にウケるって、ああいうのって先にやってた方が得じゃないですか? だから持ってたお金全部()ぎ込んで、キャラデザとLive2Dのモデルを……」

 

ちなみにその代金には高卒から今まで働いてきた貯金と、趣味で乗っていた車を売った金を使ったらしい。

ちょうどパワハラを受けて転職のために仕事を辞めたタイミングでVを始め、今はそのまま無職であると……

巻き戻る前のまとめ動画なんかで、そういう話を聞いた事があったような気がしたが……

実際本人の口から聞いてみると、改めてめちゃくちゃだ。

背水の陣すぎるというか、衝動的すぎるというか。

まぁ、深く考えないタイプだからこそ、本人の目論見通り先行者利益でVtuberとして大成したのだろう。

とはいえ、順風満帆のまま破滅へ突っ込んでいった、死に戻る前の周とは違い。

俺という存在のせいで燃えかかっている今周では、どうやら事情が違うようだ。

 

「でもねぇ……最近はちょっと、あんま上手くいかんっていうか……」

「そうなんですか?」

「うーん、視聴者さんとの関係が難しいというか……」

 

家と銭湯の間にある公園のブランコの上。

すっかり湯冷めしたであろう身体の前で腕を組みながら、彼女は目を瞑ったままそう言った。

 

「このままやってく自信が、あんまりないんですよね……」

「えっ? なんでですか?」

「お金もなくなってきたし、登録者数も増えないし、なんかある事ない事言われるし……向いてなかったのかなって」

「もったいないんじゃないですか?」

「え?」

 

彼女はそう言って、夜の公園の闇の中でこちらを見た。

そのくりっとした黒目が、遠くから照らす僅かな光を反射して淡く光っていた。

ぶっちゃけ、実家まで特定されて観光名所にされていた前周の事を思えば、今辞めた方が彼女にとって幸せなのかもしれない。

でもそれよりも先に、俺は「もったいない」と……そう思ってしまったのだ。

これから始まる狂熱のV時代に、枚方(ひらかた)カノンというキャラクターがいないのはもったいないと、そう感じてしまったのだ。

俺は彼女のファンではなかったが、底抜けのアホである彼女と絡んでいる他のVtuberを見るのが好きだった。

俺は彼女のファンではなかったが、未来で彼女が作る事務所(はこ)の中には、俺が大好きなVtuberがいた。

俺は彼女のファンではなかったが、切り抜き動画から彼女のバカ笑いが聞こえてきて……きっと救われた夜もあったはずだ。

だからだろうか、気づけば俺はブランコの上で、熱く拳を握っていた。

 

飯田(おとなり)さん、さっき言ってたじゃないですか、Vは絶対にウケるって。あれ、俺もそう思うんですよ」

「うん」

「多分、もう夜明けはすぐそこですよ。絶対にVの時代は来ます! だって誰だってVになれるんですよ? きっと今よりずっとずっと数が増えて、Vtuberの数だけで何万人にもなるような、そういう時代が来ますよ!」

「うんうん」

「続けてれば、絶対に芽はあります! 今は嫌な事もあるかもしれないですけど……絶対、どんどん界隈ごと面白くなっていくと思うんです!」

「うんうんうん」

「今なら開拓者(パイオニア)になれます! Vはまだ、ドームライブどころかリアルライブもしていない。企業や国とのコラボだって、コラボカフェだってまだやられていない。グッズもアパレルも、まだまだ手つかずです。今なら、どんな事をやったって珍しがって人はついてきてくれると思うんです! Vtuberは、これからが面白いんですよ!」

 

拳を握ったままそこまで語って、俺ははっと正気に戻った。

俺はこんな公園で、一体何を熱弁していたんだろうか……

気づけば思っていたよりも大きな声を出してしまったようで、どこかの家でワンワンと犬が鳴く声が聞こえる。

恥ずかしくなって握った拳を下ろし、隣を向くと……

お隣さんはなんだかさっきよりも近い位置にブランコを寄せて、じっとこちらを見ていた。

 

「長谷川さん……」

「はい……」

「私って、これからどうしたらいいと思いますか?」

「それは……」

 

そう言いかけたところで風がびゅうっと吹き抜け、背筋がブルっと震えた。

寒くなってきたし、大声出しちゃったし……場所を変えるか。

 

「飯田さん、ちょっと移動しませんか? 国道沿いのデニーズにでも」

「えっ? えーっとぉ……」

「あ、オゴリですオゴリです。なんか熱く語っちゃってすいません……」

「いやいや! そんな事! でもなんか悪いなぁ~」

 

そんな事を言いながらも、彼女は率先して立ち上がった。

心なしか、白いMA-1の背中がさっきよりも伸びているような気がする。

やはりよっぽどお金がないんだろうか?

でもファミレスおごりぐらいで喜んでくれるなら、こっちも気楽なものだ。

と、そう思っていたわけだが……結局激論は夜明けまで続き……

俺はシャツ一枚脱がないままに、ヘトヘトで朝帰りをする羽目になるのだった。

 

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