【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
「いやー、こんな事になるならちゃんとしたエフェクター持ってくりゃ良かったよねぇ」
「えっ? メタルゾーンってちゃんとしてないんですか?」
「え? いやいやいや……あはは……」
俺とノットさんがそんな話をしているのは、レコーディング後の飲み会だ。
俺たちは女二、男二で対面に座り、ジンギスカンを焼きながら今日の話題で盛り上がっていた。
「あとはミックスだけど、おうがさん基本は知ってるんだっけ?」
「いちおう勉強しましたけど、全然自信ないんで……一回やったらカレンさんに見てもらってもいいですか?」
「全然いいよ、いつも通り投げといて」
「ありがとうございます」
音楽制作でいつもお世話になっているカレンさんにそう言って頭を下げると、向かいの席に座っていた
「はい、焼けてるよ」
「あっ、すいません」
「それよりさぁ、なんか一緒に告知とかやる? せっかくCD作るんだから、動画ネタにもしようよ」
「いいっすね」
そんな話をしていると、斜め向かいのカレンさんが「そんな事やっちゃっていいの?」と隣の席の
「何がですかぁ?」
「
「別にアイドル売りってわけじゃないですから」
「そうなんだ? アナリティクス*1の男女比エグいんじゃない?」
たしかにカレンさんの言う事には一理どころか三理ぐらいあるのだ。
Vtuberの男女コラボには、世間の目は非常に厳しい。
ただでさえ男性Vtuberというのは、女性Vtuberと比べたら散々な評価なのだ。
自然、
しかし、動画か……
もう最近は低空飛行する登録者数や再生数に一喜一憂する事もなくなったとはいえ、俺はVtuberなんだ。
いい加減に作曲ばっかりじゃなくて、動画のネタも練っていきたいんだよな。
「ノットさんは、最近動画どうですか?」
「俺? 全然?」
レモンサワーを飲みながら、彼は爽やかにそう言った。
「もう伸びとか気にならなくなっちゃったよね、コメントついたらラッキーぐらいの」
「あー、たしかにコメントって一番嬉しいですよねぇ」
「ね、再生数別にいいからコメント伸ばす方法ないかなぁ」
「やっぱ地道にお願いするしかないんじゃないですか? コメント頂けると励みになりますって」
ノットさんを俺なんかと一緒くたにして申し訳ないが、登録者数が百人前後の我々超底辺男性Vがそんな話をしている間にも……
登録者数、余裕の千人越えの女性Vたちは、白熱したトークを繰り広げていた。
「じゃあ、一生女性とコラボしかできないじゃないですか」
「そっ、まぁ売り方次第だけどね。
「雑味ってそういう言い方……」
気づけば、鍋を挟んだこっちと向こうで、全然温度感の違う真剣V座談会が始まっていた。
まぁ同好の士のオフ会なんだから、当然の事かもしれないけど。
「俺も最初はね、カノンボールに入りたいって思ってたけどさぁ……実際やってみたら、あんなの絶対無理じゃんねぇ。企業勢って喋り上手すぎるんだよね」
「いや、めちゃくちゃわかります。でもノットさんは喋り全然上手じゃないですか、僕未だに生放送始まると頭真っ白になりますもん」
「キツいよねぇ生、特に一人だとさぁ」
「二人組とか羨ましくなりますよねぇ、ユニットでチャンネルやってる人たちとか」
「ああいうチャンネルもさぁ、元が別でチャンネル持ってると*2、だんだん喋ることなくなって自然消滅していくじゃん」
「でも自然消滅する頃には、お互い結構人気になってたりして……」
「そうなんだよなぁ」
俺がそう言うと、ノットさんは肉を追加しながら二度三度と頷いた。
Vtuber同士が一緒に生放送や動画をやる『ユニット』という手法は、この界隈では結構な力を持っているのだ。
有名なので言うと、カノンボール一期生がメンバーの『雷神拳』や、枚方カノンと
もちろん底辺同士が組んでもあんまり意味がないのは確かだが、それはそれとして人気Vたちの真似をしてみたいという気持ちはあった。
「やっぱり合いの手あると喋りやすいし、喋り上手くなっていくんじゃないですか?」
「それな。やっぱああいうの、俺たちもやってくべきなのかなぁ。おうがさん、どう? 一緒に」
「えっ? 僕っすかぁ?」
ノットさんのVtuberの姿は、なんとなく胡散臭い感じの笑顔を浮かべた好青年。
最初はゲーム実況なんかをやってたのだが、最近は酒飲み雑談ばかりだ。
合いの手役に徹すれば……雑談力の低い俺でも、なんとか邪魔にはならないでいられるか。
「……えぇ? やります?」
「やろうよ! 雑談生とかでもいいからさぁ、一人より二人だよ絶対! 一人で喋ってるの辛いんだよね、特に同接ゼロ人になった時とかさぁ」
そんな話をしていたら、急に向かいの席の会話が「待って」という声と共に止まった。
そして首を傾けて鍋の向こうからこっちを見たカレンさんが、静かに尋ねる。
「おうがさんたち、なんかコラボやんの?」
「えーっ? いやいや、ねぇ?」
「まぁ、コラボチャンネルとかやってる人っていいなぁみたいな」
「雑談とかからやってみない? って、ちょっとおうがさんと計画中みたいな……」
「そうそう、まだ全然。ちょっと話してるだけですよ」
「ふーん……ね、コラボチャンネルやんならあたしも交ぜてよ」
「はぁ!?」
急にそんな大声を出したのは、俺でもノットさんでもなく、
どうしたんだろうか?
「
「別にぃ、あたしのブランディングなら絡んでも関係ないもん」
「そんなもん、
カレンさんの『檸檬堂カレン』チャンネルは派手派手な服装のVの姿で自分の曲の仕事をしたり、たまにマシュマロを読んだりという感じ。
対して
ゲームをしながらの雑談メインで、男性視聴者層が分厚いところがあるから、結構ブランディングに関係あるような気もする。
「だいたい音楽系は男女コラボ普通だし」
「それを言うならうちももう音楽系なんですけど!」
「
「そうそう、落ち着いてー?」
俺たちはそう宥めるが、向こうはもう二人の世界に戻ってしまったようで……
「だいたいカレンさん、Vは宣伝ぐらいでしかやらないんじゃなかったんですか?」
「そんな事言った事ないよぉ。Vtuberは、楽しいからやってるんだよぉ」
「こいつ……」
険しい顔の
隣に座る前髪メッシュの
「……カレンさん、いい加減にちょっと、腹割って話しましょうよ」
「まっ、いいケド。あたしは最初から腹割ってるよん」
声は抑まったが、なんだか会話の内容も迂闊に立ち入れないような雰囲気になってしまった。
「なんか、ちょっと静かにしてようか」
「そっ……すね、あ、お酒頼みますか」
「そうだね、あっちの分も頼んどこう」
俺たちはヒソヒソそんな事を話しながら、自分たちや女性陣のグラスが空くと酒を頼み……
モリモリとジンギスカンを食べ、コラボしたらやる予定のネタ練りを話しながら、静かに盛り上がったのだった。
そんな飲み会も、あっという間にラストオーダーの時間がやって来て、俺たちは店の外に出た。
「申し訳ないけどあたしら、ちょっともう一軒行くわ」
「ごめんねぇ……
「あっ、もちろんです!」
「飲みすぎないようにねー」
一時間近く語り合っていた女性陣も、まだまだ話し足りないとの事で……二人して夜の街に消えていった。
そして残された俺たちはというと……
「おうがさん、まだ八時だし……ちょいギリだけど楽器屋行かない? 二十一時までやってるとこあるからさ」
「いいっすね!」
「久々にギター熱高まってるからさぁ、今日俺買っちゃうかもよ?」
「マジすか?」
「もちろん嫁さんには、友達に貸してたのが返ってきたって言うけど」
「あーっ」
そんな話をしながら二人して電車に乗り、楽器屋を見てからコンビニの前で一時間ぐらい喋ってから帰ったのだった。