【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【進行中】 作:関係ないよ
平日夜に急遽開かれた、学校近くの飲み放題の激安焼き鳥屋での、我が母校の剣道部の飲み会。
そこには微妙に顔を知っている後輩と一緒に、顔も名前も知らない後輩たちが沢山集まっていた。
「まぁまぁまぁ、飲んで飲んで」
「ごちそうさまです!」
「先輩! ごちそうさまです!」
飲み会への人の集め方は簡単。
OBとして部活に顔を出して、飲みに行くぞと連れ出してきただけだ。
今日部活に来ていない奴も呼び出させ、飲みながらどんどんラインを交換していく。
俺がまだ大学を出てから二年しか経っておらず、顔見知りの後輩がそこそこいたのが大きかったのか……
突発にも関わらず、結局飲みには二十人以上の後輩が参加してくれた。
「
「そうだよ」
「やっぱ営業って外回りとか言ってパチンコ行ってんの?」
「そんなわけないじゃん」
ついでとばかりに暇そうな同期も呼び出し、懐かしい顔を見ると同時にちょっとだけ予算の圧縮にも成功した。
それはいいが、問題は本題だ。
今日後輩たちを飲みに連れだしたのは、当然思惑があっての事。
カノンボールの
俺はそれを、後輩たちに歌わせようと思っていた。
「おつかれ、飲んでる?」
「
「
「どんどん飲んで、俺も久々に後輩の顔見れて嬉しいわ。やっぱ就職すると剣道できる場所ってなくてさぁ……」
後輩たちにどんどん飲ませて、ラインIDを回収していく。
そのついでに、ちょっとだけ話を振っておく。
「実は今度男の声出し必要な時があってさぁ、バイトできる人探してんだよね」
「声出しめっちゃ得意っすよ!」
「バイトっすか?」
「イベントかなんかですか?」
「そうそう、デカい声でちょっと簡単な歌うたうだけで三千円。しかも撮影終わったらすぐ帰っていいの」
「撮影? YoTubeかなんかっすかぁ?」
「そうなんだよねぇ、ほら、結婚式とかで動画撮るじゃん。YoTubeの企画で、ああいう感じの撮りたいって人がいて、声でかい奴探してんだよ」
「へえーっ、知ってるチャンネルっすか?」
「多分知らないかなぁ」
「俺めっちゃ声デカいっす!」
「俺も!」
「ていうかいつっすか?」
このYoTubeの撮影という話の持っていき方は、実は檸檬堂カレンさんが考えてくれた。
曲を録音するって言ったら怪しいから、ビデオメッセージみたいなのを撮るって事にしたら? と言ってくれたのだ。
たしかに、きちんと曲を録るって言われると身構えるが、結婚式みたいな感じで歌のビデオを録ると言えば誰でも参加しやすい感じがするからな。
「どこでやるんすかぁ?」
「この近くだよ、駅の向こうに小桜ホールっていうとこがあって、そこでやる予定」
学校の近くのダンスやヨガの教室なんかに使うようなホールが、昼間の中途半端な時間だけ開いていたので押さえてあるのだ。
ダンスなんかで音楽を流すのや、楽器練習もOKらしいから、野太い声で歌うのもまぁOKだろう。
「あっ、そこぐらいなら俺いつでもいけますよ!」
「スーツっすか?」
「全然私服でいいよ、裸とかじゃなきゃ」
実際、三千円という激安価格でもみんな大乗り気だ。
まぁちょっと動画のために歌うたって三千円って言われたら、大学生の頃の俺だって乗ったかもしれない。
「もちろんその後また飲み連れてくから!」
「いいんすか!?
「えぇ、なんか面白そうな話してんじゃん、
盛り上がりすぎたのか、同期まで寄ってきてしまった。
「今週末今週末」
「あーっ、今週末仕事だわマジで」
「西村さん警察でしたっけ?」
「そうなんだよねぇ」
お硬い道に進んだ同期は、今でも職場で剣道を続けているらしい。
俺もそっちに進んでいれば、経験者枠としてカノンボールに入れた可能性あったかもなぁ……
なんて事を一瞬考えたりもしながら、なんだかんだと楽しく飲みは続き……
一軒目と同じような学生御用達の別の激安居酒屋に移動して、二次会まで開いて帰る頃にはへべれけ。
こりゃ下手したら全員バイトの件覚えてないかもなぁと思ったのだが、意外とみんな覚えているもので。
週末のレンタルホールでの録音……もといビデオの撮影会には、なんと十人の剣道部員が集まっていた。
「みんな曲覚えてきてくれた?」
「バッチリっす!」
「いけますよ!」
「一応聴いてきましたぁ!」
来れると返事をくれた人には俺の歌った仮歌のファイルを渡し、週末までの時間で歌を覚えてきてもらった。
まぁ全員が覚えてくるわきゃあないので、何回か歌練して、そこそこ揃ったところで録る予定だ。
「ていうか、撮影のスタッフさん、
「あっ、それ俺も思った」
「やっぱこういう業界の人って違うんすねぇ、髪青いもんなぁ」
「俺あっちの金メッシュのお姉さんめっちゃいいと思ってて」
「ダメダメ、仕事先の人だから! 紹介できないよ」
なんだか大学生の元気が爆発しているようだが、今日は録音のためにサウンドチームの他のメンバーも参加してくれていた。
『サウンドチームから繋がった仕事じゃん、そりゃあ手伝うよね』
ノット・キング・コール
『ていうかそれサウンドチームのイベントでしょ (笑)』
『あたしにも手伝わせてね。パワプロ対決、やって良かったって思いたいし……』
みんなそう言って、忙しい中色々な手伝いを申し出てくれた。
ノットさんは家からダイナミックマイクを何本も持ってきてくださり……
カレンさんは本番機材なる、うん十万円もするらしいハードケース入りのオーディオインターフェースを持ち込んでくれている。
なんだか、俺よりもみんなの方が気合いが入っているような、そんな気すらする中……
マイクスタンドは立てられ、ケーブルは回され、サウンドチェックは進んでいく。
俺はその間に、後輩たちと歌の練習だ。
「
後輩たちになんとか歌を覚えさせようとしている中、
「あっ、マジすか。ちょっとストップ! あっちのマイクの前移動しようか!」
「はーい!」
「了解っす!」
ガタイのいい大学生たちがぞろぞろと向かっていく中、
「うん、水も全員分買ってあるから、歌う前に渡すね」
「あっ、そうか! そういうのも用意しなきゃだったんだ……すいません、マジでありがとうございます。今日は本当に、何から何まで迷惑かけ通しで……」
そう言って、俺は改めて
なんというか、本当にみんなには世話をかけすぎている気がする。
これは俺個人の案件なのに、こんなに総出で手伝ってもらってしまって……
果たして自分は皆にこういう事があった時に、何が返せるんだろうかと……そう思ってしまう。
だが、頭を下げた俺の肩を、
「もういいって、そんなん。みんなやりたくてやってんだよ?」
そして、下げていた俺の頭をぐいっと手で上に持ち上げ……ほっぺたをその柔らかな手で挟んだ。
「そもそもうちら、
そう言って、
その小さな肩の向こう側では、大学生たちがこちらを指差して「あーっ!!」と大騒ぎ。
ノットさんはなんだか面白そうな顔でこっちを見ながら、手元のケーブルを八の字に巻き。
その隣からは、俺と
なんだか機嫌の悪そうな顔をしたカレンさんが、腕まくりをしながらこっちに歩いて来ていたのだった。