【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【26年8月17日発売】 作:関係ないよ
めちゃくちゃ書き下ろししましたので、手にとっていただけたら嬉しいです。
特典SSがある店舗もございます。
メロンブックス様 「メロンブックスに行こう!」
ゲーマーズ様 「ゲーマーズに行こう!」
BOOK☆WALKER様 「BOOK☆WALKERで本を読もう!」
各種電子書籍 「VTuber事務所のネット通販事情」
以上それぞれ特典SSありますが、BOOK☆WALKER様は「BOOK☆WALKERで本を読もう!」と「VTuber事務所のネット通販事情」がダブルでついてちょっとお得です。
『流るるオイルを血潮に変えて 行けよ若人この道を
青き鋼の鉄の花 学びの庭に揺れる時
今一度だけ空見上げ 衛星軌道を仰ぎ見よ
ああ我らロボロボ高校の 気魂激しく勇ましく』
校歌!? 歌ってんの誰!?
すげー
めっちゃおもろい
ヤバ!
そんな校歌から始まった生放送に、チャット欄は沸きまくっているようだ。
俺の周りはそんなチャット欄の倍以上の沸きっぷりで、ノットさんなんか「うおーっ!」っと雄叫びを上げている。
「いきなり流れたね!」
「コメントめっちゃ盛り上がってる!」
当の俺はというと、なんだかちょっと呆けてしまっていた。
「いやぁ、なんか現実感ないですね」
「同接(同時接続者数)五千人だよ! 五千人! ヤバいよ!」
「あっ、待ってみんな! 始まる!」
校歌が流れ終わり、『えーっ』と
なぜならば、ここで
『これヤバいでしょ! やーばいわこれ!』
マジでめっちゃいいじゃん
ロボ高OBとして誉れ高い
ガチ球児が歌ってる?
自分で作ったの?
『これはねぇ、向上委員会の仲間である
そんな人いるんだ
あー、そういやパワプロ企画やってたな。校歌も作ってたわあの人
謎人脈
しらねー
『
ド根性
怪童
あー、あの名前読めない人ね
そんな奴いんのか
『
右に座っていた
「よかったね、おうがさん」
気がつけば、俺は泣いていたらしい。
無我夢中で、色んな人の力を借り続けて、どうにかこうにか続けてきた音楽活動。
そこで奇跡的に掴んだ、憧れのカノンボールからの仕事。
その納品先から、まさかこんな事を言ってもらえるとは……
「
俺はそう言って、三人に頭を下げた。
今回の仕事は、絶対に俺一人ではできなかった事だ。
俺たちサウンドチームが、VTuberユニットとして上に行こうとなんとかもがいて、なんともならず。
それでも見ていてくれる人がいて、チャンスをくれる人がいて、それに対してもそれぞれができる事をやった。
この
「おうがさんが頑張ったからじゃん!」
「そうだよ、俺たちもいい夢見せてもらったよ!」
「おうがさんが始めたんだよ、もっと誇って誇って!」
三人の声に、俺はますます頭を下げた。
本当に、本当に誇らしい事だ。
……だが、同時に俺は強い強い喪失感を感じていた。
ずっと目標にしてきたカノンボールFES。
遥か遠くにうっすらと見えていた気がしたそのバックステージの入口が、今完全に見えなくなってしまったような感じがしたのだ。
今日、
自分の作った曲を褒められ、あまつさえ尊敬しているとまで言われた。
その事実にとんでもない幸福感を感じるのと共に……
俺は、自分の中の芯がぽっきりと折れてしまった事も感じていた。
「……サウンドチームに入れた事は、俺の人生で一番の幸運でした」
「おうがさん、大げさだよ」
「ねっ、頭上げて配信見ようよ」
「そもそもおうがさんがいたからできたユニットじゃん」
俺が三人に言ったことは、掛け値なしの本音だった。
なぜなら正直言って、俺はこの三人との関わりがなければ……
多分もう、とっくにVTuberではいられなかっただろうからだ。
だって、俺、
いや、
本当に、本当に、本当に本当に、少しも面白くないのだ。
これまではなんとかごまかして、いつかなんとかなると信じて、そこから必死に目を逸らしてやってきた。
いつか何かのきっかけでバズるかも、いつかどこかでコツを掴むかも。
……違うんだ、そんな奇跡は起こらない。
だって
面白い人のマネをしてスベって、自分でも面白くないなと思いながら喋り続けて。
それが怖くて、辛くて。
「持ち曲があれば選択肢が広がる」というハセやんの言葉に身を任せて、音楽に逃げた。
別に自分で作らなくても、コツコツ配信を続けて、誰かに曲を発注して歌を歌っても良かったはずだ。
だが俺は、その王道を歩む事が本当に怖かったのだ。
『俺はいつかカノンボールFESに出られるようなVtuberになりたいです』
ハセやんに吐いたそんなデカい言葉を呪いにして背負い、毎日毎日音楽を作る事で自分を正当化して、自分の中身のなさから逃げ続けた。
その先で作った音楽を評されても、別になんとも思わなかった。
だって、作曲なんてできなくて当たり前なんだから。
何もしなくても面白い人はいるけれど、何もしなくても音楽が作れる人間はそうそういないから。
そうして逃げた先の音楽に、俺はのめり込んだ。
人を楽しくさせるのとは違って、勉強も練習も、あんまり苦にはならなかった。
これまで学校や部活で、普通に毎日やってきた事だったからだ。
でも、いくら音楽を作ったって、それだけで人気VTuberになれるわけがない。
俺もわかっていた。
わかっていたが……
なんとかしようと考えても、何も思いつかず。
音楽を言い訳にして、逃げてばかりの毎日で。
時々思いついたように足掻いてみても、空回りするばかり。
最高の仲間と出会って、ユニットを組んでも浮き上がり。
動画を撮って、みんなになんとか調理してもらっても波に乗り切れず……
どうしても、どうしても、どうしても、俺は面白くなる事はできなかった。
「すいません……本当に、すいません」
絞り出したような声と共に、さっきとは別の涙が床に落ちていく。
本当に、心から自分の事が情けなかった。
「俺、もう、追えません」
「えっ!?」
「どうしたのおうがさん!」
「何何何」
三人が肩や背中を擦ってくれるが、俺の目からはますます涙がこぼれた。
「俺、もう夢を追えません……カノンボールFESを目指せません……」
「…………」
カラオケボックスの個室の中、
「俺、
「……うん」
カレンさんの相槌が、かすかに聞こえた。
「これまで、VTuberになってカノンボールに入って、カノンボールFESに出て、カノンボーラーを歌うんだって……ずっと思ってきたんです。無理だってわかってても、夢を見るのが楽しかったんです」
「……わかるよ」
ノットさんの声が聞こえ、背中をポンと叩かれた。
「でもさっき
カノンボールFESに出る。
そのためには、カノンボールに相応しい人気VTuberにならなければいけない。
その強迫観念は、実のところ、俺の心をだいぶ蝕んでいたらしい。
端的に言えば……本当に、二十何歳にもなってこうして大号泣してしまうぐらい、キツかったのだ。
「……そんなに真剣になれるのはさ、おうがさんの凄いところだよ」
「おうがさん、いいから顔上げなよ」
気遣うような他の二人とは違う、いつものカレンさんの声がした。
俺は手の平で涙を拭って、こわごわと顔を上げる。
目の前には、優しい目をしたカレンさんが座っていた。
「で、おうがさんはこれからどうするの? VTuber自体辞めて、いい思い出にしちゃう?」
御茶ノ水のカフェでノートパソコンをくれた時と同じ笑顔で、彼女はそう言った。
「……いえ、続けます。皆さんがよければ、サウンドチームも」
「あったりまえじゃん!」
その隣で、真剣な顔をしたカレンさんは、続けて聞いた。
「サウンドチームを続けて、おうがさんは何がしたいの?」
そう言われて、俺は少しだけ考えた。
だが、すぐに考えるような事もないという事に気づいた。
俺は作曲家VTuber
カノンボーラーの光に焼かれて生まれた作曲家が目指す場所は、最初から一つしかなかったのだ。
「……僕は、僕のカノンボーラーを探してみようと思います」
「うん」
満足そうに、カレンさんは頷いた。
「いいじゃんいいじゃん!
ノットさんが茶化すようにそう言うと、真剣な顔をしていたカレンさんは破顔し「アハッ」と笑った。
「それもいいですね、またみんなで音楽も作りたいですし」
「だってサウンドチームだもんね!」
カノンボールから始まった俺のVTuber人生が、カノンボールのライバーによってトドメを刺され、俺のカノンボールに向かって再び進んでいく。
それは底辺VTuber
なんて感じで、社会人ガチ泣き事件の話が終われば綺麗なんだろうが……
そうは問屋が卸さなかった。
どうやら
『なんやこれ! めっちゃええやん! うちも欲しい!!』
そんなつぶやきが某超大物関西弁VTuberのSNSに投稿されたのは、その翌日の事だった。