【書籍化発売中】告知事項(隣人がVtuberです)【第二部連載開始】   作:関係ないよ

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今月8月の17日に単行本が発売されます。
書籍版はタイトルが変わって「隣人がVTuberです VTuber黎明期に死に戻ったリーマン、大手事務所を作る」となります。
めちゃくちゃ書き下ろししましたので、手にとっていただけたら嬉しいです。
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【玉チル】底辺Vtuber奮闘記22

『流るるオイルを血潮に変えて 行けよ若人この道を

青き鋼の鉄の花 学びの庭に揺れる時

今一度だけ空見上げ 衛星軌道を仰ぎ見よ

ああ我らロボロボ高校の 気魂激しく勇ましく』

 

うおーっ! なんだこれ!

校歌!? 歌ってんの誰!?

すげー

めっちゃおもろい

ヤバ!

 

そんな校歌から始まった生放送に、チャット欄は沸きまくっているようだ。

俺の周りはそんなチャット欄の倍以上の沸きっぷりで、ノットさんなんか「うおーっ!」っと雄叫びを上げている。

 

「いきなり流れたね!」

「コメントめっちゃ盛り上がってる!」

 

緋牡丹(ひぼたん)さんとカレンさんはそう言いながら、左右から俺の背中をバンバン叩く。

当の俺はというと、なんだかちょっと呆けてしまっていた。

 

「いやぁ、なんか現実感ないですね」

「同接(同時接続者数)五千人だよ! 五千人! ヤバいよ!」

「あっ、待ってみんな! 始まる!」

 

校歌が流れ終わり、『えーっ』と織元(おりもと)さんが喋りだした瞬間、我々はピタッと黙った。

なぜならば、ここで織元(おりもと)さんの口から曲への感想が聞けるかもしれないからだ。

 

『これヤバいでしょ! やーばいわこれ!』

 

この校歌どうしたの?

マジでめっちゃいいじゃん

ロボ高OBとして誉れ高い

ガチ球児が歌ってる?

自分で作ったの?

 

『これはねぇ、向上委員会の仲間である凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)さんが作ってくれました』

 

誰だよ

そんな人いるんだ

あー、そういやパワプロ企画やってたな。校歌も作ってたわあの人

謎人脈

しらねー

 

王臥(おうが)さんをご存じない? 謎の男凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)だぞ。マジでヤバい人だよ。ある日突然一日一曲作ります! って宣言して、ズブの素人から半年以上延々と毎日曲作り続けてる、めちゃくちゃクレイジーな人』

 

ヤバすぎンゴ

ド根性

怪童

あー、あの名前読めない人ね

そんな奴いんのか

ロボカン(さんきせい)も排出してるし配信品質向上委員会って結構凄いとこ?

 

王臥(おうが)さんはほんとにね、マジで凄いから。ヤバい粘り腰で毎日曲作り続けて、エグい速度で上手くなっていったからね。あんな人めったにいないよ。俺はわりとマジで尊敬してる。お前らも今のうちに推しとけ推しとけ、そのうちアニメのOPとかで名前見るかもしれないぞ』

 

右に座っていた緋牡丹(ひぼたん)さんから、ポンと背中を叩かれ、そのまま撫でられた。

 

「よかったね、おうがさん」

 

気がつけば、俺は泣いていたらしい。

無我夢中で、色んな人の力を借り続けて、どうにかこうにか続けてきた音楽活動。

そこで奇跡的に掴んだ、憧れのカノンボールからの仕事。

その納品先から、まさかこんな事を言ってもらえるとは……

 

緋牡丹(ひぼたん)さん、カレンさんもノットさんも、本当にありがとうございます。全て皆さんのおかげです」

 

俺はそう言って、三人に頭を下げた。

今回の仕事は、絶対に俺一人ではできなかった事だ。

俺たちサウンドチームが、VTuberユニットとして上に行こうとなんとかもがいて、なんともならず。

それでも見ていてくれる人がいて、チャンスをくれる人がいて、それに対してもそれぞれができる事をやった。

この織元(おりもと)さんの配信は、その結果だった。

 

「おうがさんが頑張ったからじゃん!」

「そうだよ、俺たちもいい夢見せてもらったよ!」

「おうがさんが始めたんだよ、もっと誇って誇って!」

 

三人の声に、俺はますます頭を下げた。

本当に、本当に誇らしい事だ。

……だが、同時に俺は強い強い喪失感を感じていた。

ずっと目標にしてきたカノンボールFES。

遥か遠くにうっすらと見えていた気がしたそのバックステージの入口が、今完全に見えなくなってしまったような感じがしたのだ。

今日、織元(おりもと)さんに、あの配信品質向上委員会の綺羅星にだ。

自分の作った曲を褒められ、あまつさえ尊敬しているとまで言われた。

その事実にとんでもない幸福感を感じるのと共に……

俺は、自分の中の芯がぽっきりと折れてしまった事も感じていた。

 

「……サウンドチームに入れた事は、俺の人生で一番の幸運でした」

「おうがさん、大げさだよ」

「ねっ、頭上げて配信見ようよ」

「そもそもおうがさんがいたからできたユニットじゃん」

 

俺が三人に言ったことは、掛け値なしの本音だった。

なぜなら正直言って、俺はこの三人との関わりがなければ……

多分もう、とっくにVTuberではいられなかっただろうからだ。

だって、俺、凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)

いや、平山(ひらやま)夕弦(ゆずる)という人間はだ。

本当に、本当に、本当に本当に、少しも面白くないのだ。

これまではなんとかごまかして、いつかなんとかなると信じて、そこから必死に目を逸らしてやってきた。

いつか何かのきっかけでバズるかも、いつかどこかでコツを掴むかも。

……違うんだ、そんな奇跡は起こらない。

だって緋牡丹(ひぼたん)さんにバズらせてもらったって、俺の中にはその注目に応えられるような中身なんて、ひとつも何もなかったのだ。

面白い人のマネをしてスベって、自分でも面白くないなと思いながら喋り続けて。

それが怖くて、辛くて。

「持ち曲があれば選択肢が広がる」というハセやんの言葉に身を任せて、音楽に逃げた。

別に自分で作らなくても、コツコツ配信を続けて、誰かに曲を発注して歌を歌っても良かったはずだ。

だが俺は、その王道を歩む事が本当に怖かったのだ。

 

『俺はいつかカノンボールFESに出られるようなVtuberになりたいです』

 

ハセやんに吐いたそんなデカい言葉を呪いにして背負い、毎日毎日音楽を作る事で自分を正当化して、自分の中身のなさから逃げ続けた。

その先で作った音楽を評されても、別になんとも思わなかった。

だって、作曲なんてできなくて当たり前なんだから。

何もしなくても面白い人はいるけれど、何もしなくても音楽が作れる人間はそうそういないから。

そうして逃げた先の音楽に、俺はのめり込んだ。

人を楽しくさせるのとは違って、勉強も練習も、あんまり苦にはならなかった。

これまで学校や部活で、普通に毎日やってきた事だったからだ。

でも、いくら音楽を作ったって、それだけで人気VTuberになれるわけがない。

俺もわかっていた。

わかっていたが……

なんとかしようと考えても、何も思いつかず。

音楽を言い訳にして、逃げてばかりの毎日で。

時々思いついたように足掻いてみても、空回りするばかり。

最高の仲間と出会って、ユニットを組んでも浮き上がり。

動画を撮って、みんなになんとか調理してもらっても波に乗り切れず……

どうしても、どうしても、どうしても、俺は面白くなる事はできなかった。

 

「すいません……本当に、すいません」

 

絞り出したような声と共に、さっきとは別の涙が床に落ちていく。

本当に、心から自分の事が情けなかった。

 

「俺、もう、追えません」

「えっ!?」

「どうしたのおうがさん!」

「何何何」

 

三人が肩や背中を擦ってくれるが、俺の目からはますます涙がこぼれた。

 

「俺、もう夢を追えません……カノンボールFESを目指せません……」

「…………」

 

カラオケボックスの個室の中、織元(おりもと)さんの明るい声が響く他には、ただ四人分の息遣いだけがあった。

 

「俺、織元(おりもと)さんに音楽家として褒められて、安心しちゃったんです……なんだか、自分が何者かになれたような気がして」

「……うん」

 

カレンさんの相槌が、かすかに聞こえた。

 

「これまで、VTuberになってカノンボールに入って、カノンボールFESに出て、カノンボーラーを歌うんだって……ずっと思ってきたんです。無理だってわかってても、夢を見るのが楽しかったんです」

「……わかるよ」

 

ノットさんの声が聞こえ、背中をポンと叩かれた。

 

「でもさっき織元(おりもと)さんに、音楽家としての自分を褒められて。なんか、ああ、もうそれでもいいのかもなって思っちゃって……もう心が身動き取れなくなっちゃって……」

 

カノンボールFESに出る。

そのためには、カノンボールに相応しい人気VTuberにならなければいけない。

その強迫観念は、実のところ、俺の心をだいぶ蝕んでいたらしい。

端的に言えば……本当に、二十何歳にもなってこうして大号泣してしまうぐらい、キツかったのだ。

 

「……そんなに真剣になれるのはさ、おうがさんの凄いところだよ」

 

緋牡丹(ひぼたん)さんがそう言って、俺の肩を撫でた。

 

「おうがさん、いいから顔上げなよ」

 

気遣うような他の二人とは違う、いつものカレンさんの声がした。

俺は手の平で涙を拭って、こわごわと顔を上げる。

目の前には、優しい目をしたカレンさんが座っていた。

 

「で、おうがさんはこれからどうするの? VTuber自体辞めて、いい思い出にしちゃう?」

 

御茶ノ水のカフェでノートパソコンをくれた時と同じ笑顔で、彼女はそう言った。

 

「……いえ、続けます。皆さんがよければ、サウンドチームも」

「あったりまえじゃん!」

 

緋牡丹(ひぼたん)さんは、俺の肩を小突きながらそう言って笑う。

その隣で、真剣な顔をしたカレンさんは、続けて聞いた。

 

「サウンドチームを続けて、おうがさんは何がしたいの?」

 

そう言われて、俺は少しだけ考えた。

だが、すぐに考えるような事もないという事に気づいた。

俺は作曲家VTuber凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)だ。

カノンボーラーの光に焼かれて生まれた作曲家が目指す場所は、最初から一つしかなかったのだ。

 

「……僕は、僕のカノンボーラーを探してみようと思います」

「うん」

 

満足そうに、カレンさんは頷いた。

 

「いいじゃんいいじゃん! 凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)FESとかやってみる?」

 

ノットさんが茶化すようにそう言うと、真剣な顔をしていたカレンさんは破顔し「アハッ」と笑った。

 

「それもいいですね、またみんなで音楽も作りたいですし」

「だってサウンドチームだもんね!」

 

織元(おりもと)さんの配信をそっちのけで、俺たちは次の活動についての話で盛り上がった。

カノンボールから始まった俺のVTuber人生が、カノンボールのライバーによってトドメを刺され、俺のカノンボールに向かって再び進んでいく。

それは底辺VTuber凸天虹(とってんこう)王臥(おうが)にとって、とてもありがたく、救われる話だなと、そう思った。

 

 

 

なんて感じで、社会人ガチ泣き事件の話が終われば綺麗なんだろうが……

そうは問屋が卸さなかった。

どうやら織元(おりもと)さんの繋いでくれた縁は、えらいところに繋がっていたらしい。

 

『なんやこれ! めっちゃええやん! うちも欲しい!!』

 

そんなつぶやきが某超大物関西弁VTuberのSNSに投稿されたのは、その翌日の事だった。

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