【書籍化】告知事項(隣人がVtuberです)【26年8月17日発売】 作:関係ないよ
書籍版はタイトルが変わって「隣人がVTuberです VTuber黎明期に死に戻ったリーマン、大手事務所を作る」となります。
めちゃくちゃ書き下ろししましたので、手にとっていただけたら嬉しいです。
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前回の話。
2020年4月、新型コロナウイルス感染対策のための緊急事態宣言が出された。
都道府県間移動の自粛要請のため、千葉にある綾辻キングダムは孤立無援の戦いを強いられていた。
ライバーの
そして千葉在住の社員たちとテレビ局スタッフの尽力により、テレビに特番が流れ。
東京大阪福岡に存在するカノンボールカフェは、
コロナへの備えをしてきた事もあり、好調に見えるカノンボールではあるが……
社会は未だコロナという病の脅威に怯え、暗雲が立ち込める状況であった。
2020年6月。
四月から続いた東京近郊の緊急事態宣言が開けた。
すぐに動けるライバーと我々スタッフはマスクフル装備で複数台の車に分乗し、窓を開けっ放しで千葉の綾辻キングダムへと向かう。
「今どうなってんやろなぁ!」
「テレビで見た通りだと思うけど!」
「もう畑とかできとんやろ!? なんか
「野菜ってのはそんなすぐにできないよ!」
普段からうるさいのに、窓を開けているとなおさらうるさいシュシュのスポーツカー。
あまりにうるさいそれに乗りながら、俺たちは大声でそんな会話をしていたのだった。
千葉の某所。
王国のある森の入口に入っていくと、その先には工事現場にあるような車止めが置かれている。
そしてその隣の草むらには軽バンが止めてあり、傍には椅子に座った警備員さんがこちらを見つめていた。
「あのぉ、テレビ局の方ですか?」
「
運転席側から話しかけてくる警備員さんに、会長の身体越しに名刺を手渡す。
こういう時会長は何の役にも立たないからな。
ドライブスルーの店員さんにまで緊張している事があるぐらいだ。
「えっ、社長さん?」
「これから出入りが増えると思いますので、よろしくお願い致します」
「あっ、これはどうも……」
やはり世間の社長と比べると若すぎて貫目が違いすぎるんだろう。
警備員さんは名刺と俺の顔を何度も見比べていた。
その間で地蔵になっている女は会長なんだけどなぁ……
そしてそんな関所を乗り越えて久々にやって来た王国は、動画や報告書で見ていたよりもだいぶ発展していた。
建物こそ建っていないが、王国建設予定地の周りの木々には人の手が入ってこざっぱりとしていて、前よりも圧迫感がない。
草むらもだいぶ払われていて、なんだか明るくなったようにも思える。
「うわっ! めっちゃええやん! えらい変わったなぁ!」
車から降りたシュシュがそう言いながら子どものように走って行って、一匹の鶏に追い立てられて戻ってきた。
「ハセやん! なんか怒ってる!」
なんとも情けない、ヘロヘロのフォームで走る会長。
その後ろを羽をバタバタと動かしながら追ってきているのは、綾辻キングダムで飼われている
柵を飛び越えて逃げてきたのであろう、茶色い羽のその鶏。
その身体を捕まえようと俺が手を翳すと、鶏はコケッ! と声を上げて反転。
逃げようとしたところを、後ろにいた女性に拾い上げられた。
「あっ、社長おはようございます!」
「おはようございます」
鶏の羽の付け根を掴んだまま挨拶してきたのは、カノンボール二期生の
宮廷画家という設定を持つ、千葉住まいの漫画家兼業VTuberだ。
「あれっ、会長は?」
「鶏にビビって逃げてった」
「あはは、相変わらずだなぁ。こらっ、チョコ暴れないの。こっちおいで、ご飯あるよー」
彼女は慣れた手つきで鶏を抑え込みながら、会釈をして去っていった。
綾辻キングダムのレギュラーメンバーとして、緊急事態宣言中も番組を支えてくれた式部さん。
元々ドが付くインドア派だったはずの彼女だが、ここでの経験のお陰かもう鶏の扱いぐらいはお手の物な様子。
そして綾キンの王様こと
他の誰も応援に来れない中、テレビ局との仕事を必死で回してくれていた
そしてそれをサポートしていた千葉住みのカノンボールのスタッフたちは、なんだか緊急事態宣言の間に一回り大きくなったようにも見えた。
「……ヤバないハセやん? あれもしかして
「普通の鶏だよ」
わざわざ車の中に避難したシュシュは、恐る恐るドアを開けながらそんな事を言っている。
後輩たちが逆境の中をグングン成長しているというのに、会長は緊急事態宣言中に腹回りがちょっと大きくなっただけ。
これから、カノンボールとテレビ局の重要コンテンツとなっていく予定の綾辻キングダム。
その本格撮影開始を前にして、俺はちょっとだけ先が思いやられるような気持ちがしたのだった。