最終防衛学園、65日目。侵校生の総大将ヴェシネスは黒いミイラとなって地に臥し、特防隊の面々も余力は残っていないようだった。共喰いを経験し異血を大量に吸収したヴェシネスは本来最終防衛学園をその手中に収めているはずだった。だが、そのヴェシネスは蒼月によって異血を吸収され無残なミイラへとなり果てた。
蒼月と澄野が向かい合う。澄野は血に濡れた我駆力刀を砕かんばかりに握りしめ、蒼月だけを眼に映している。
「お前だけは絶対に殺してやる!!」
蒼月はその瞳に自分しか映っていないことに歓喜し、唇は弧を描いている。その状況はずっとずっと待ち望んでいた二人だけの世界を創り上げていた。では、他の特防隊は?自分たちを守るために霧藤を手にかけ、たった今化け物と戦う澄野を呆然と眺めることしかできないのか?答えは是。自らの実力不足、連戦による疲労、だまされていたことに対する不甲斐なさ、色んな感情と状態とがごちゃ混ぜになって誰もかれもが動かなかった。
「(オレ、なにしてんだ?)」
丸子の胸中に感情が折り重なる。仲間を失った悲しみと裏切られた怒り、そしてこれからまた仲間を失うであろう予感と恐怖。彼は取り巻く状況のすべてが自分の足を地中へ引っ張っているような錯覚を覚えた。
「(そうだ、きっと澄野なら大丈夫だろ…だって、あいつめっちゃつえーし。特防隊のリーダーなんだ、だからきっと大丈夫だ!今までツいてこなかったんだ、こんな時だからこそ運が向いてくるはずだ…!!)」
まるで言い訳のように虚ろな希望を抱く。意味があるかないかなんて大事じゃない。そう思っていないと不安が涙になって流れてしまう。リーダーが戦っている後ろでおろおろと泣く姿だけは見せたくないというプライドのかけらが丸子を押し留めていた。
「はは…ボクの、負けか…」
力なくへたり込む蒼月に学生兵器を突き付ける澄野。空しい押し問答の末、蒼月は息絶え、澄野も地面に倒れこむ。
「す、澄野!!」
自分だけでなく、川奈、喪城も駆け寄ろうとした瞬間、澄野の胸ポケットが淡く光った。
(キミなら絶対にみんなを救える。生き残るんだ!)
(…頼んだよ。)
「FB…っ…」
横で川奈の驚く声が聞こえる。アイツが最後に残した意思、それに応えるように澄野が動き始めた。立ち上がる力もないのに、なんでそんなに頑張れるんだ?オレには分からなった。コイツが背負ってるものも何を為そうとしているのかも、多くを語ることはなくいつだって選び続けてきた澄野が。選んだあと、失ったものを思いながら蒼月を殺したコイツが。
…いや、本当は分かってんだ。こいつは親父やおふくろみたいな底抜けのお人好しなんだと思う。皆が助かるように戦って傷付く、それを苦しいと思いながら決して止まることはしなかった。今、澄野が目指す先には霧藤の遺体がある。誰も澄野を止められない、止めるべきじゃない。走って這ってやっと握った手の先にコイツは何を見るんだ?
「霧藤…やっと、終わったぞ……」
そう呟いて澄野は目を閉じた。残されたオレたちもやっと動けるようになってきた。
「…この先、どうしていくよ…」
「……黙りなさい…」
オレは口をつぐむ。大鈴木がどんな様子かくらい、見なくても分かった。学生兵器のスコップを杖代わりにして大鈴木が二人に近づく。
「どんだけ一緒にいたいのよ。このバカカップル…」
死は救済なんて馬鹿げた言葉、信じる気にもならねーけど。こいつらなら死んでも幸せに青春してる、なんて思っちまうほど安らかな笑みを浮かべる二人。生きてるオレらとは対照的だ。
「はぁ~。オレってホントついてねぇな…」
生き残ってしまったオレたち特防隊。SIREIも澄野たちもいないオレらの青春はおわった。でも人生は続いていく。アイツらの分まで生きていこう。この朱い夏を。