雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第10話

 長い神社の階段を下りていると、疲れが一気に込み上げる。今日はいろいろな事があった。

 単純に体を使った遊びをずっとやるだけでも疲れるのに、そこに沙都子の祭具殿でのトラブル。あれだって、梨花ちゃん次第では大変なことになってた。

 

 もしかすると、沙都子や俺が両親に泣いて謝って、梨花ちゃんの両親にも許しを請うようなことになったりしたかもしれない。それくらい、宗教や信条とは重要視されて然るべきものなのだ。まだ今は昭和の時代で、この村には少なからず信仰を元にした文化があるのだから。

 

 その後の、梨花ちゃんによる追及……びっくりした。俺も浅はかだった。クイーンがすでにデビューして有名なんだったら、俺の知っている曲もきっと発表されているだろう、と。この世界で聞いたことのない音楽を何となくの真似で披露するなんて。

 

 長い間過ごしていて脇が甘くなってしまっていた。しかも、なぜだかはそれを梨花ちゃんが知っていたわけだ。『地獄に道連れ』なんて、あの怖い顔の梨花ちゃんが言ったら冗談には聞こえない。

 

 俺はともかく、少なくとも梨花ちゃんは誰に誘われても地獄に行くようなタマではなさそうだが、何か事情があるのだろう。既に結末の決まっているダム戦争を超えた先に、さらなる悲劇が待っている、とのことだったが……。

 

 子供がどうこうという言葉に反応したし、俺と同じく、中身は大人なのかもしれない。それであの無邪気で可愛らしい子供を演じているんだから、俺の何倍もの演技力を持っているわけだ。

 

 あるいは、アニメか漫画の影響を受けて変なことを言ってみたい時期なのか……どちらにせよ、あんまりつつくと良いことはなさそうだ。結局どんな事情があるのかはよく分からないので、そっとしておくことにしよう。

 

 考えながら階段を下りていくと、そこには何か小さな人影があった。

 

「おーい、何してるんだ?」

 

 そこにいたのは沙都子。俺が声をかけると、不安そうな表情でこちらを見上げて、作ったような笑みを浮かべた。

 

「き、奇遇ですわね。まだ神社にいましたの?」

 

「まーね。ちょっと、梨花ちゃんとおはなし。沙都子は?」

 

 沙都子はちょっと暗い顔になった。

 

「私は……自転車が誰かに乗っていかれてしまったみたいで。どうしようかと迷っていたところですわ……」

 

 見ると、そこには自転車が2台。片方は俺のだ。沙都子の体格にしては明らかに大きく、沙都子が乗って家に帰れるとは思えない。

 もう一つのものが、間違えた子のものだろう。代わりに乗って帰ればいいのに、とも思ったが、鍵がかかっている。

 

 ということは、子供たちのうちの誰か1人が、自分で鍵をかけた自転車と間違えて沙都子の自転車に乗り、最後に残った一台は鍵がないと役に立たないポンコツになってしまったわけだ。

 沙都子の家は神社からはそう遠くない。が、もう夕暮れ時だし、小学一年生が1人で歩くのは辛いだろう。

 

「そっか。大変だな。鍵、かけとかないとなあ」

 

 俺はポケットから取り出した鍵を自転車に刺した。

 ガチャリ、とロックが外れる音が鳴り、動き出せるようになる。俺が自転車のスタンドを倒して歩き出すと、沙都子は依然、不安そうな顔でこちらを見るのみだった。

 

 俺は沙都子に手招きをした。

 

「お前を置いて家に帰っちゃうと思った?まさか、そんなことしないよ。沙都子の家、歩きだとちょっと時間かかるでしょ?歩くのがしんどかったら、俺のに乗って帰っても良いよ?おれんち、結構ちけーからさ」

 

 実は俺の家は全然遠いのだが、そんなのはいい。意地っ張りなところがある沙都子が素直に俺の自転車に乗って帰れる口実を作るためだった。

 

 しかし沙都子は首を振った。まあ、当然だったかもしれない。俺と沙都子ではかなり体格が違う。頑張って足を伸ばしても、沙都子が乗るのは危ないだろう。じゃあ、プランBだ。今日沙都子はちょっと疲れる出来事があったし、もう暗くなりつつあるし。家まで送っていくとしよう。

 

「じゃあ、もう遅いし送ってくよ。俺は帰りは自転車だし、早いから気にしないで。きっと間違えて乗ってったやつも明日には気づいて謝りに来るだろうしさ。一旦家に帰ってゆっくりしなよ」

 

「……そうですわね。そうしますわ」

 

 俺と沙都子は夕暮れの輝く田舎道を2人で帰った。今はいつもの生意気な口ぶりは鳴りを潜め、素直な、優しい女の子だった。

 

「にーにーからは、色々とユウのことを聞いていましたわ。人の良いにーにーを悪い人が騙そうとしてるんだと、思っていましたけど……」

 

 俺はそのあけすけな言い方に苦笑した。沙都子も、うふふと上品に笑った。そして言葉を続けた。

 

「本当に、ありがとうございますですわ。あなたがいなかったら、私はきっとまだあの暗い倉庫の中で泣いていましたわ」

 

 目を見て、沙都子の言葉を受け止める。苦労を感じさせるその目は……小学一年生のものには見えなかった。

 

 この子もいろいろなことを経験してここまで生きてきたんだろう。涙が出そうになった。俺が子供のころはこんなに良い子だっただろうか?そんなわけはない。スマホゲームしかしてなかった。

 彼女も、こんな村に、こんな時代に生まれなきゃ、もっと気楽だったろうに。

 俺は、この子や北条家を村八分にし、のけものにしようとするこの村の風潮が嫌いだ。

 

 美しい自然を誇る雛見沢だが、その実ここに生きる人たちは……どこか歪んでいるところがある。小学生なんて、もっとバカで、何も考えてなくていいのに。人は過ちから学び、成長するものだ。子供が建物に忍び込むくらいなんだってんだ。

 

「俺がいないと出れなかったぁ?沙都子のことだし、案外、するするっと、上に登って抜け出して来れたかもよ?それで俺は見つけられなくて、かくれんぼはお前の1人勝ちだったかも」

 

 俺の軽口に沙都子は嬉しそうな顔になった。

 

「えへへ、それなら、別にユウの手を借りるまでもなかったですわね?今日は勝ちを譲ってあげたのだから、感謝することですわね。をーほっほっほ!」

 

 沙都子は大きく笑った。子供は笑ってるのが一番だ。俺も真似をして、おっほっほ、と笑う。

 沙都子はムッとした顔で、ちょっと違いますわ、と俺の頭をペシっと叩く。

 

 少しの沈黙があったあと、俺は切り出した。

 

「沙都子。お前、家で上手くやってるか?」

 

「いいえ」

 

 あっけらかんと言い切る沙都子。こりゃあ、悟史くんも困るはずだ。

 

「沙都子、お前も大変だろうけどさ、辛かったらたまには悟史くんと一緒に俺んちに遊びに来なよ。なんせ、俺は高校生になったらメジャーデビューするからね。そのお金で遊びにでも行こうぜ」

 

 冗談めかして俺はそう言った。流石に突飛過ぎたかもしれない。

 

「めじゃーでびゅー?ってなんですの?」

 

 可愛らしい顔に、疑問符が浮かぶ。そりゃそうか。田舎町の小学生はメジャーデビューなんか知らなくて当然だ。

 

「そりゃあ、俺の作った音楽が世間で売れまくりモテまくり。印税収入でとにかく儲かって……てな感じだよ。……と、それはまぁ冗談なんだけどさ」

 

 冗談なのはもちろんわかっている、とでも言いたげな表情で沙都子は言葉の続きを待つ。

 

「辛かったら、悟史くんだけじゃなくて、もっと周りを頼れよ。俺も、梨花ちゃんも。……沙都子はあんまり仲良くないかもしれないけど、園崎魅音てやつも頼れるんだよ。とにかくさ、意外とこの村なんて広くない。世界には何十億人も人がいて、日本もこんな山ん中の村だけじゃないんだ。嫌な事があれば、逃げたっていいし、人に頼ってもいいんだ」

 

 沙都子は俺の言葉を、意外にも真面目に聞いていた。

 

「オヤシロ様のこと、祭具殿の中でのことなんだけどさ」

 

 話が一段落したところで、俺は新たに切り出した。

 

「中で、なんかあった?言いたくなかったら、言わなくてもいいけど」

 

 意外にも沙都子は力強いまなこで俺の目を見た。祭具殿の中で途方に暮れていた時、自転車がなくて困っていた時に見た弱々しい目ではなかった。

 

「大丈夫ですわ。もしも、助けがなければ……きっと祭具殿の中の、道具を伝ってなんとか脱出するつもりでしたけれど。でも、みんなが来てくれたから。何にも手はつけてませんわ」

 

「そっか、良かった!俺なら、凄そうなもの盗んでるかも!……あ、俺がこんなこと言ったって秘密だぜ」

 

「私が入ってしまったんですもの、誰にも言えるわけないでございましょう?」

 

 沙都子は笑った。

 

「そうだな。それにしても、あんなとこに秘密の建物を置くなって話だよな。沙都子が出てきた時、中のオヤシロ様に睨まれた気がしたけどさ。大迷惑ってやつだぜ」

 

「……ユウは、祟りとか、罰とか。怖くないんですの?」

 

 罰、か。嫌な言葉だ。「罰当たりの北条」という言葉を何度聞いたことか。俺は安心させるように、沙都子にサムズアップをしてみせた。

 

「ま、俺たちが祟られたら一緒に、この村から全力で逃げようぜ!」

 

 何それ!沙都子はそう言って吹き出した。

 笑う俺たち。今日で沙都子とも、だいぶ仲良くなれた気がする。

 

 最初は俺は悟史くんを奪った悪いやつ、みたいな感じに嫌われていた。一緒に遊んだりするうちに徐々に心を開いてくれて、こうなった。

 

 デジタルの時代ではこうはいかない。メッセージがどうとか、既読がどうとか。今となっては、前世は面倒臭い時代に生まれてしまったものだ。ゲームやアプリなんか、なくても困らない。必要なのは、家族、友達、それと……色々あるけど。俺はこの時代に生まれ直して、よかった。そう実感した。

 

 

 そうこうしてる間に、俺たちは北条家の前に到着した。沙都子は少し暗い表情を浮かべながらも、やがて覚悟を決めたような顔でこちらへ向き直ると、綺麗に一礼をした。

 

「何度も言いますけれど、今日はありがとう。また明日、学校で会いましょうですわ」

 

「あぁ、またな!」

 

 俺もそう返事をして、自転車にまたがる。ここから家まで……数十分もあれば着くか?こんな遅くに家に帰るのも久しぶりだ。

 

 

 

 家では両親が待っていた。普段は真面目な小学生の息子が連絡もなく夕方に帰ってきたら、当然のことかもしれない。

 

 何で遅くなったのか、とか、どこに行っていたのか、とか。そんな追及をする両親に、神社で遊んだあと、友達を家まで送ってたんだ、と適当に話を合わせて晩御飯を食べて眠った。

 

 布団の中で、梨花ちゃんの言葉を思い出した。俺の行動で苦労している人がいるとすれば、両親。

 確かにそうだ。俺の両親は死守同盟の重役でありながらも、その子供は裏切り者の北条家とも仲がいい。もしかすると、色々と気苦労をかけているのかもしれない。労ってあげないとな、と。そう思った。

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