雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第104話

 入江が居なくなってから、数十分後。

 名ばかりの責任者がいなくなった入江機関は騒然としていた。

 

「だから……どういうことよ!?どうして入江がいないの?見張りをつけろと言ったわよね。たかだか住民の対応をするだけで、それがどうして姿を見失うなんてことになるのよ!?」

 

「そ、それが……も、申し訳ありません。実行部隊からの連絡が途絶えておりまして……」

 

「最後は何と言ってたの!?」

 

 鷹野が問いかける。

 

「その……"民間人の妨害に遭った"と……」

 

「はぁっ!?民間人?……きっと園崎家の差し金ね。入江がどうにかして助けを呼んだんだわ。入江の身柄がなければ、作戦は実行できない!もうそうなれば、もしそうなれば……!」

 

 目を血走らせて、山狗に対して声を荒げる。しかし、山狗としても事態が掴めていないのは同じだ。返す言葉はなかった。司令室には気まずい沈黙が流れた。

 

 その静寂を切り裂くように、チャイムが鳴った。来客が来たのだ。

 鷹野はすぐさま反応した。

 

「今度は誰!?まさか入江じゃないでしょうね!?」

 

「すぐに出ます」

 

 これ以上鷹野の癇癪に付き合うのはごめんだ。

 そんなふうに考えた山狗が1人、駆け足でインターホンに応答しに行った。

 

 鷹野は、今度は誰が来たのか、と監視カメラの映像が映るモニターの方へ向かった。そして、そのモニターに映る大柄な男を見て、司令室に響き渡るような大きな舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 山狗がインターホンに応答する。

 

「入江診療所です。どなたですか。何の御用ですか?」

 

「おおっと、なんだか慌ただしい感じですねぇ。お休みの日にお邪魔します。私は興宮署の大石です」

 

 診療所への2人目の訪問者は、大石だった。

 山狗も、まさか鷹野の計画がバレているとは思わないにせよ、緊張しながら返事を返した。

 

「け、警察官の方ですか。一体どんな御用で?」

 

「このあたりで、ちょっとこわぁい事件が起こったらしいんですねぇ。人が1人、行方不明なんです」

 

 焦った口調の山狗に対して、いつも以上にゆっくりと、大石は尋ねた。インターホン越しだったが、思考を見透かされるようで、山狗はたじろいだ。

 

「ど、どなたがですか。当診療所と関係があるのですか?」

 

「それが……最後にその人を見かけたという証言があるのが、この診療所のすぐ近くなんですよ。責任者の方はいますかぁ?監視カメラのデータなんかがあるなら、見せて欲しいんですが……」

 

「しょ、承知しました。すぐに責任者を呼びます」

 

 もちろん、追い返したい気持ちは山々だったが、作戦の決行を前に、警察官に周辺を嗅ぎ回られては却って苦労することになるのは分かった。有耶無耶にして、怪しまれては今後の支障になる。

 

 山狗は急いで鷹野がいる作戦室に戻り、報告をした。

 

「鷹野三佐……警察官が来ています。周辺で行方不明者が出たとか」

 

「まさか富竹のこと!?それで?どうしてここに?」

 

「監視カメラの映像を確認したい、と。任意協力のはずですので、断ることはできますが……」

 

 富竹の居場所など、こちらが聞きたいくらいだった。

 

「警察に周辺を嗅ぎ回られてる状態で、作戦の決行なんて出来るはずがないじゃない!監視カメラは所長室でも見れるわよね。そこに招いて、適当に映像を見せて帰らせなさい!」

 

「そ、それが……先ほどの、入江所長を追うために車を出したところも、カメラの記録には残っています。ですから……」

 

「監視カメラの情報を向こうが見るということは、実行部隊が入江の車を追いかけるところまで、見られてしまうというわけね。もう……どうして!こんな時に面倒なことが押し寄せてくるのよっ!?」

 

 言いづらそうな顔をする山狗に対して、鷹野は叫ぶように言った。

 

 

 

 少ししてから鷹野は落ち着いて、大石を所長室に通した。

 

「すみませんねぇ……休日なのにこんなに忙しそうで。話は聞いて頂けましたか?実は──」

 

「周辺で行方不明者が出たんですってね。お気の毒ですわ。それで、監視カメラの映像を見たいということですわね?」

 

 大石の言葉を遮る鷹野。不機嫌な様子を、隠そうともしなかった。大石は少しの間きょとんとした顔になるが、すぐに気を取り直して普段通りに戻る。

 

「ええ、話が早くて助かりますよぉ。その方を最後に見掛けられたのがこの診療所の付近だとお聞きしましてねぇ……」

 

「その行方不明者は何という名前の方ですか?」

 

 鷹野は睨みつけるようにして大石を見た。大石は、申し訳なさそうな顔をして返した。

 

「プライバシーに関わることですので、申し上げられません。すみませんね」

 

「べ、別に構いませんわ。……それでは、カメラの映像を早送りで流します。気になるところがあれば止めてくださって結構です」

 

 鷹野はぴしゃりと言い切って、カセットテープをセットした。監視カメラの映像が、モニターに流れ始める。

 白黒の映像の中に、窓についた雨粒のようなノイズが走る。その映像を大石は、食い入るように見ていた。

 

 診療所では、監視カメラのデータは5日分をテープに保存する決まりだ。

 その行方不明者がいつ診療所の前を通ったかは知らないが、鷹野に都合の悪い情報はほとんどないはずだった。

 

 VHSのテープに保存されたカメラの映像が、早送りで流される。

 大石は、ところどころで映像を止めるが、核心に繋がるような情報はないらしく、すぐに映像を進めた。

 

 最後に、ほんの数十分前に入江を追って出ていく車の映像が流れた。鷹野は平然を装って、唇を固く結んで黙っていた。

 それに対して、大石はにやにやとした笑みを浮かべながら尋ねた。

 

「今忙しいのは、これですか。んふふふ……さっき、何台もここから車が出ていくのを見ましたよ。休日だというのに、お医者さんは大変ですねぇ。急患さんですか」

 

「ええ、そのようなものです」

 

「ほぉ……何人も急患が出るなんて、不思議なこともあるもんですなぁ。何かあったんですか?」

 

 鷹野は、困ったような顔をして、少し考えてから発言した。

 

「さ、さぁ……。私どもも、患者様のことは守秘義務がございますから、詳細については申し上げられませんわ。ただ、私どもは地域のために尽力しているだけです」

 

「入江診療所がなければ、雛見沢の人たちも大変困っていらっしゃるでしょうからねぇ。本当に、頭の下がる思いですよ」

 

 大石は引き下がった。鷹野が少し安心したところに、小さく付け足した。

 

「そうそう。近くで車の事故があったようですから。もしかすると、その影響かもしれませんなぁ」

 

 嫌らしく笑う大石の目線と、動揺する鷹野の目線が交錯した。

 

 鷹野は、目を見開いた。──まさか、入江を追った車の行方を知っている?となれば、入江と共謀している?もしそうなら、一体何のために?

 鷹野が思考を巡らせる中、大石は結論づけるようにして言った。

 

「ふぅ……にしても、なぁんにも映ってませんでしたねぇ。元々、あまり確度が高い情報ではありませんでしたから、仕方がありませんが……念の為に、鷹野さんにもお聞きしてよろしいですか」

 

「な、何を?」

 

「その、行方不明の方のことです。もしも……何か知っていることがあれば。教えて欲しいものです」

 

 先ほどはプライバシーのためだと何も言わなかったのに、どうして?

 鷹野は疑問を覚えたが、何も言わなかった。すっかり、大石の老獪な雰囲気に呑まれていた。

 

「え、えぇ。どうぞ、お好きになさってください」

 

「名前は……間宮律子。興宮の方で起こったちょっとした事件に関わっているみたいでですねぇ、最後に見掛けたのがこの雛見沢だというんです。ご存知ではないですか?」

 

 その名前を書いて、鷹野は露骨に表情を変えた。少しの間、惚けたような顔になってから、それを取り繕うように咳払いをした。

 

「はぁ?……ご、ごほん。いいえ、全く。どんな方かも知りません」

 

「んっふっふ……そりゃあ、失礼いたしました。それじゃあ、私どもはこれで。お忙しい中、すみませんねぇ。失礼しますよ」

 

「ええ。大石さんこそ、暑い中お疲れ様です。誰か、大石さんを出口まで送って差し上げてください」

 

 鷹野はそう言って山狗を呼んだ。大石は、苦笑しながら所長室を出て、そのまま診療所を後にした。

 

 

 

 

 その後、車へと戻った大石を、熊谷が待ち受けていた。

 姿を見るや否や、運転席から出てきて頭を下げる。それにたいして、大石は手でひょいひょいと合図を返して、2人とも車内に入る。

 

「お疲れっす!大石さん。無事に帰ってきてくれて何よりっす!」

 

「んっふっふ、ちょっと緊張しましたよ。奴さん、戦闘員のような人間を何人も揃えてます。あっちがその気なら、私なんて何度でも殺せたでしょうなぁ」

 

「大石さんが?……そんなにっすか」

 

 熊谷が、恐怖を滲ませる声で言った。

 

「ええ。ま、熊ちゃんを車に置いて行ってるのは分かっていたでしょうからね。夜ならまだしも、白昼堂々、巡回中の警察官を2名も殺して、証拠隠滅は出来なかったわけです」

 

 熊谷は、園崎組を筆頭とする近隣の危険に、一歩も引くことなく対峙してきた大石の胆力を誰よりも知っていた。

 彼が銃撃戦に巻き込まれたことがあるのも知っている。刺されたことがあるのも知っている。そんな彼をして、そこまで言わせる入江診療所……並大抵ではない、と思った。

 

「ゾッとしますね」

 

 そして、熊谷の運転で診療所を離れ、神社に向かう2人。少ししたあと、大石が言った。

 

「……鷹野三四さん。ありゃあ、恐らくクロですなぁ」

 

「やっぱりですか」

 

「えぇ。長いこと、この仕事をやっているとねぇ……事件を起こした犯人その人に、聞き込み調査をすることもあるんです」

 

「えぇ」

 

「結構、わかるもんです。大抵の場合、自分が犯人だと疑われれば、しらばっくれます。たまに、明らかな挙動不審になる人もいますが、ほとんどはしらばっくれて、『怖いですねぇ』なんて答えます。でも、自分が疑われていない時はどんな感じだと思います?」

 

 ニヤリと笑って、大石が問いかける。

 

「えーと……安心した顔をするのでは?」

 

「えぇ。ご明察です。露骨に、安心した顔をするんです。……鷹野さん、間宮律子に対してではないかもしれませんが、間違いなく何か、ヤバいことに関わっている。興宮署に連絡を。増援を寄越してもらいましょう」

 

「うっす!神社の警備に割り当てられてる人間なら、夕方まで動かせそうですしね!」

 

 2人が呼んだ増援は、直ちに雛見沢に到着した。そして、何よりも守るべき対象の護衛についたのだった。




中途半端なところなんですが、体調悪いのでしばらく更新できません
すみません。気長にお待ちください
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