雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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ノリで書いたおまけです。続きませんが、よろしければご覧ください。
初見の方は、おまけは飛ばして1話からご覧ください。


おまけ
おまけ 六軒島編 1話


1986年10月3日。伊豆半島沖の島嶼部にある小さな孤島、六軒島に、嵐のような大雨が降り注いだ。

 

 重く暗い雲に覆い隠された空からは滝のような雨が降り、時折雷の音を轟かせる。島の半分以上を占める森の木々は風にその葉を揺らして、ざわざわと蠢いていた。

 

 六軒島は大富豪の一族である右代宮家が所有する島。この島には一族の人間と使用人、あとはごく少数の関係者しか立ち入らない。

 

 右代宮家の当主である右代宮金蔵はこの島に特別な価値を見出し、自身の財力やコネを使って島一つを買い上げた。そしてそこに自分の家となる洋館を建て、ひっそりと住んでいるのだった。

 

 現在、彼は高齢で表舞台には滅多に姿を現さない。そんな、孤独な大金持ちの所有する島ということで、周囲の人間たちからはさまざまな憶測が立つこともある。六軒島とは、知る人ぞ知る場所なのだった。

 

 

 

 

「すごい雨になっちまったな……この様子じゃあ、帰れるのは当分先だぜ」

 

 大きな洋館のそばに立つゲストハウスの中で、美しい装飾の施された窓越しに外を見て、青年が言った。

 彼は長身で、派手な髪型をして、クリーム色のスーツと赤いシャツを着こなしている。右代宮戦人という名前だった。

 

「そうだね。昼間はあんなに晴れていたのに……不思議なこともあるものだね」

 

 そう返事を返した男は、メガネをかけて、インテリめいた優しい顔つきだった。彼は右代宮譲治。同じく外の風景を眺め、考え込んでいた。

 

「ま、海の天気は変わりやすいって言うんだぜ」

 

 見た目に似合わない口調で、若い女──右代宮朱志香がそう言った。右代宮一族の紋章が目立つブラウスを着て、上品な赤いネクタイをしていた。

 

「うー。真里亞の薔薇……」

 

 一段と年が若い少女、右代宮真里亞が、不満げにベッドに足をバタバタと叩きつけた。

 少女は昼間にバラ園に咲いていた一輪のバラに目印をつけて、可愛がっていた。それが散っていないかと心配なのだった。

 

「真里亞、大丈夫だぜ。雨が降ったぐらいでバラが散ったりはしないさ」

 

 不服そうに小さく独り言を呟いた少女に、青年が声をかける。

 それでも尚、不安をあらわにする少女に対して、眼鏡の男が優しく微笑みながら、皆に言った。

 

「戦人くん、朱志香ちゃん。雨がマシになったら、後で一緒に庭に行って真里亞ちゃんの薔薇を見に行こうか」

 

「いいぜ、行こう。真里亞も、見に行けば安心するだろ?」

 

「うー!行く行く!」

 

 少女は打って変わって嬉しそうな表情を浮かべて、こくこくと頷いた。

 

 

 彼らはこの島を所有する右代宮家の人間だった。年に一度の親族会議のため、この六軒島に訪れていた。

 

 大人たちは親族会議の度に、複雑な事情のために色々と気を揉んでいたが、子供達からすると、この親族会議はそれほど嫌なイベントというわけではなかった。ちょっとした旅行感覚で、いとこの家に遊びに行くぐらいの気軽な気持ちでこの場に訪れていた。

 

 大人たちは金のことや仕事のこと、事業のことを話し合うために来ているのを子供達は知っていた。そして、会議のたびに話し合いが紛糾していることも。

 

 さらに今年の会議は、より一層大きな火種があった。

 右代宮一族の当主である右代宮金蔵が余命を宣告されてから、もう暫く経つ。大人たちは、そんな父親の財産をどうやって分配するかで頭がいっぱいなのだ。

 

 子供達にも、それは何となく伝わっていた。

 せめて自分たちだけでも楽しく遊ぼうと、昼間は薔薇庭園にピクニックにでも行ったり、美しい浜辺で水遊びをしたり、いろんな曰くつきの森を散歩したり、ホテルもかくやという豪勢な夕食を楽しんだり……子供達にはそんな楽しみがあった。

 

 しかし、それを妨げるような台風が島を包み込んだ。となると、彼らにできることはテレビを見て、ぼーっと外を眺めたり、トランプをすることぐらいのものだった。

 

「うん?電話がかかってきたぜ?」

 

 そんな彼らの部屋に、備え付けの電話のコール音が響いた。戦人がそれに反応して、受話器へと向かう。

 

「何だろうね。夕食の時間はもう少し先だと思うけど……」

 

「だよなぁ。私も、まだそんなに腹は減ってないぜ」

 

「俺が出るよ。……はい、もしもし。どちら様ですか?」

 

 と、戦人が答える。

 

『あら、戦人くん。お休みのところごめんなさいね。今、そこにみんなはいるかしら?」

 

 電話の相手は右代宮絵羽。彼女は譲治の母親で、戦人からすると叔母に当たる存在だった。

 

「絵羽おばさんですか!はい、みんないますよ?何かありましたか?」

 

『実は、この島の近くで海難事故があったそうなの。それで、その事故に遭った人が数人、この島に漂着したみたいで……』

 

『マジっすか!それは可哀想に……それで、ゲストハウスに泊めてあげる、って話ですか」

 

「そう。余ってる部屋がいくつかあるでしょう?その客人たちはお風呂に入って貰っているんだけれど、上がってきたらみんなで一言くらい挨拶をしよう、ということになったの。すぐじゃなくてもいいんだけれど、今から数十分後ぐらいに本館に来てくれるかしら?」

 

「分かりました。みんなにもそう伝えときます!」

 

「ええ、頼むわね。では、また後で!」

 

「はい。じゃ、切ります!」

 

 戦人は驚いた顔で受話器を置いた。その様子と話していた内容を踏まえて、部屋にいる従兄弟たちは口々に疑問を口にした。

 

「うー。戦人ぁ、何かあった?」

 

「どうしたの?戦人くん。ゲストハウスに誰か泊まるのかい?」

 

 戦人が電話に答える声が聞こえていた、譲治が問う。

 

「ああ、絵羽おばさんが言うには、近くで海難事故があって、その事故に遭った人たちがこの島に流れ着いたんだとさ」

 

「こんな雨の中、可哀想に……その人たちは無事なのかよ?」

 

 朱志香の言葉に、戦人が答える。

 

「今は風呂に入ってるって言ってたから、命に別状はないみたいだぜ。それで、後でみんなで挨拶するから、俺たちも本館に来てくれ、って話らしいぜ」

 

「それは良かった。じゃ、ついでに真里亞の薔薇も見に行くとしようぜ」

 

 朱志香は、安心した様子で胸を撫で下ろした。

 

 彼女の父はこの六軒島をリゾート地として売り出そうとしている。近郊の海で事故が起こり、漂着した人間が亡くなったなどという話が出れば、ビジネスにも大きな支障が出ることは容易く想像ができた。

 朱志香の言葉に真里亞がうんうんと頷く。

 

「うー!無事で良かった良かったー!真里亞の薔薇もきっと見つかるー!」

 

「じゃ、もう出るとしようぜ。そうだ、傘はあるよな?」

 

 戦人の言葉に朱志香が頷き、子供達は部屋を出ていった。いまだ強く降る雨が窓を叩く音だけが、客室には残された。

 

 

 子供たちはバラ庭園を通り抜けて本館に向かう途中、

 

「うー!ない!ない!真里亞の薔薇がないー!うーうー!」

 

「雨風で飛ばされちまったのかなぁ……本当にここにあったんだっけ?」

 

「ここ!ここなの!絶対にここにあったのに……!」

 

「大丈夫だよ、真里亞ちゃん。きっとすぐに見つかるよ……?」

 

 癇癪を起こしたように騒ぐ真里亞に、優しく対応する譲治を見て、小声で戦人と朱志香が話す。

 

「おい……どうしちまったんだ?何もあそこまで……」

 

「たまにさ、真里亞は頑固になる時があるんだよ。こだわりが強いっていうか……昼間、戦人が魔女なんかいないって言った時も、結構マジに怒ってただろ?」

 

「あ、あぁ……なるほどな。あと15分ぐらいなら探せるぜ。客人と会うまでには見つけて、機嫌を直してやんないといけねえな……」

 

 2人が小声で話している時、真里亞が不意に2人の方を見た。その目は何処か不気味で、2人はたじろいだ。

 

「どうしたの?何か探し物でもしてるのかしら?」

 

 そんな時、騒がしい声を聞きつけて、1人の女性が本館から歩いてきた。傘をさしているが、彼女の美しい金髪と肩は、横殴りの雨に濡れていた。

 

「ろ、楼座おばさん。実は、真里亞が朝目印をつけた薔薇がなくなっちゃって、それを探してるんです」

 

 その人は真里亞の母親、楼座だった。

 

「うー!ここなの!ここなのっ!ママも探して!」

 

「うん。一緒に探してあげるから、落ち着いて……」

 

 楼座は取り乱した様子で喚く娘を見て、疲れた顔になった。

 その様子から、こうしたことが珍しいことではないのを真里亞以外の子供たちは感じ取った。

 

 合計5人は、薔薇庭園の一帯を暫く探したが、バラは見つからない。楼座は無意識に、ため息をついた。

 

「はぁ……本当にここ?他の場所の間違いじゃないかしら?誰かが抜いちゃってたりしない?」

 

「ここ!ここ!ここにあるのに!ママも信じてくれない!」

 

「ちゃんと、信じて探してるわよ。……お客様が来てるのよ。一緒に、挨拶をしてからじゃダメ?」

 

 楼座は疲れた顔で、真里亞に問う。しかし、真里亞は変わらない。

 

「うー!見つけたら行く!真里亞、見つけてから行くの!うーうー!」

 

「ちょっと我慢するだけでしょ?」

 

「うー!真里亞の薔薇!抜いたのだれ!?返して!返してーっ!」

 

 楼座はなおも大声を上げる娘を見て、うんざりした顔になった。そして、うーうーと喚く娘に鋭い眼差しで一歩ずつ近寄った。そして、手を張り上げて……

 

「ごめんっ!君の薔薇が綺麗だったから俺が一輪抜いちゃったよ。君の薔薇は、きっとこれだと思うよ!」

 

 そこに、その場の誰も聞き覚えのない声がした。

 

 楼座はハッとした顔で振り向いて、目を見開いた。そこには1人の青年がいた。

 

 

 戦人はその男を見て、自分と同年代ぐらいだろうと思った。今までに見たことがない顔だったので、きっと客人に違いなかった。

 

 きっと館で借りたのであろう洋服から雨水を滴らせてしゃがみ込んだ。傘をさしてはいるが、それを雨も気にせずに薔薇を探す真里亞の方に向けていて、大粒の雨が彼に降り注いでいた。

 

 しかし彼はそんなことは気にせずに、真里亞と目線を合わせて、申し訳なさそうな顔を浮かべた。

 

「あ、あら!牧野さん。これはお見苦しいところをお見せしたわね……!」

 

「いえ。えーっと……真里亞ちゃんだよね。本当にごめんね?君の薔薇はこれかな。綺麗に咲いてたから、一本抜き取っちゃったんだ」

 

「うー……これ、ほんとに真里亞の薔薇?」

 

「きっとそうだよ。ここで、目立つところに咲いてるのを見て……抜き取っちゃったんだよ。ごめんね?君のだとは知らなくて……」

 

 その薔薇は、昼間に見たときよりももっと立派なものだった。戦人と朱志香は顔を見合わせて首を傾げた。

 

「おい朱志香、あんなのだったか?」

 

「多分、違うと思う。……でも、きっと気を利かしてくれたんだろ?」

 

 その声が聞こえたのか、恭しい態度で真里亞に薔薇を捧げる青年は、一瞬耳をぴくりとさせた。真里亞はその薔薇を受け取ったが、まだ微妙な顔をしていた。

 

「真里亞ちゃん。植物に声をかけるとよく育つ、って知ってるかい?」

 

「うー……知らない」

 

「植物には、人の気持ちが伝わるんだよ。どうしてかは、俺にはわかんないけどね。君の思いがこのバラに伝わって、君が見た時よりも美しく咲き誇っていたのかもしれない。だからこそ、俺がそれを見つけて抜いてしまったのかも。本当にごめんね」

 

「うー……この薔薇、真里亞の魔法で綺麗になった?」

 

 期待したような顔で、真里亞は青年に聞いた。

 

「うん。絶対、そうに違いないよ」

 

「なら、真里亞は魔女ってこと?うーうー!真里亞は、魔女!まじょーっ!もう魔女見習いじゃないーっ!」

 

 男は満面の笑みで頷いた。真里亞はそれを見て、上機嫌になった。そして、母親である楼座が慌てて割り込んだ。

 

「ま、真里亞!お兄さんにお礼を言いなさい?」

 

「ありがとう!えっと……名前は?」

 

「俺は牧野雄星。今日、近くで海難事故に遭って、助けて頂いた旅行者だよ。よろしくね」

 

 頭を下げて、雄星は挨拶をした。その頭からは、雨の滴が滴る。さっき風呂を借りたばかりだというのに、彼はもうびしょ濡れだった。

 

「うー!ありがとうゆーせー!よろしく!」

 

「うん、よろしく。他の皆さんも、お邪魔してすみません。ちょっと雨がすごいんで。もう引っ込みますね!」

 

 見てみると、本館から使用人が慌てて傘を持ってきていた。

 借りた洋服を雨で濡らした雄星は、ぺこぺこと周りに頭を下げてから、急いで本館へと走って行った。

 

「楼座さん……さっきの人は?」

 

「さっき姉さんが電話したでしょう?彼が、海難事故に遭ったうちの1人よ。牧野くん。私は詳しく知らないけど、蔵臼兄さんが言うところには何処かの資産家のグループと繋がってて、高校生なのに大きなビジネスをしてるらしいわ」

 

「へ〜……年下なのに、すげー奴もいるもんですね」

 

 戦人がぼけっとした顔でそう言う。その声が真里亞にも聞こえていたのか、真里亞はワクワクした顔で戦人に聞いた。

 

「雄星、すごい?」

 

「あぁ、そんなすごい人に、お前は魔女だって認められたみたいだぜ?」

 

「うー!じゃあ、真里亞もすごい!」

 

「へへ、良かったなー、真里亞?」

 

 雄星と戦人の言葉で、先ほどとは打って変わって上機嫌になった真里亞を見て、譲治と朱志香、それに楼座がヒソヒソと話す。

 

「それにしても、真里亞ちゃんが落ち着いてくれて良かったよ。僕らが何を言っても、きっと聞いてくれなかっただろうし」

 

「あぁ、一件落着だな。ただ、牧野さんが着てた服、昔の父さんのやつだと思うんだけど……びしょびしょだったぜ。客人に迷惑をかけちまったな」

 

「せっかくお風呂に入ったところだというのにね……申し訳ないわね」

 

 そんなことを言いながら、一同も本館へと向かった。

 

 そんな一同を、陰から1人見守る存在がいた。

 

 手には装飾の施された封筒が携えられており、優雅な傘を携えていた。計画と違うことが起きてしまったことを悟り、顔を顰めながら下がっていった。

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