雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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おまけ 六軒島編 2話

 

「……諸君!親族会議の日ではあるが……不幸な事故によってここを訪れた客人が3名。招いた客人ではないが、ぜひ歓迎してあげてほしい!」

 

 右代宮金蔵の長男であり、次期当主と目される体格のいい男が堂々と宣言した。

 彼は右代宮蔵臼。先見性のある事業を次々と展開し……残念ながら、あまり成功はしていない。

 そのことを責められないよう、常に兄弟たちに傲慢に振る舞ってきた過去がある。険悪な兄弟仲を作り出した張本人だった。

 

「あぁ、異議などあるわけもないで。もちろん賛成や。しかし、3人もおるとは……大きな船の事故があったっちゅうことかいな。可哀想に……」

 

 エセ関西弁で喋るのが、右代宮秀吉。彼は長女の右代宮絵羽に婿入りする形で一族の仲間となった。自分で屋台を引くところから外食チェーンを興して成功させた経営者であり、気の良く、親しみやすい男だ。

 

「かもしれねぇな、秀吉さん。男女の二人組と、女の子1人だったか?全く、デートしてる中にこんな嵐で遭難するたぁ、ついてねぇこったな」

 

 ニヒルな笑みを浮かべるのが次男の右代宮留弗夫。ダーティな稼業にも手を染める彼には、金銭、男女関係と、色々なトラブルがついて回る。

 

「もうすぐ譲治たちも来るそうだわ。全員で挨拶しましょう?」

 

 扇子を広げ、夫を見つめて小首を傾げているのが右代宮絵羽。長男の蔵臼に対抗意識を燃やしており、当主の座に相応しいのは自分であると言わんばかりに、男顔負けの商才、知能、運動能力を持っていた。

 

 ドンドン、とノックする音が鳴った。ざわざわとしていた室内が静まり、皆が音がした方を見た。

 

「源次でございます。……お客様がお戻りになられました」

 

 使用人の源次が扉を叩く。厳粛な声だった。

 

「こちらへお招きしろ」

 

 蔵臼の言葉に、源次は扉を開いた。

 

 彼と共に、3人の男女が部屋に入ってきた。彼らが恭しく一礼したあと、少しして戦人、譲治、朱志香、真里亞、楼座たちもやってきた。

 

 大きな談話室の中、親族たちは招かれざる客をじっと見つめていた。

 

「ようこそいらっしゃいました。私が右代宮家次期当主の右代宮蔵臼です。こちらは、妻の夏妃。船が来るまでの短い間とはなりますが、この館を我が家とお思いになって、ごゆるりとお寛ぎください」

 

 蔵臼と、妻の夏妃が軽く頭を下げて挨拶をする。客人の3人も、それに応えて頭を下げた。

 

「初めまして。自己紹介申し上げます。古戸ヱリカと申します……」

 

 美しい紺色の髪をツインテールにして、何処かのお姫様のような華美な洋服を身に纏っているのは古戸ヱリカという女性だった。

 

 一同の関心を惹いたのは、そばにいる女性に顔が瓜二つであることだった。大人たちは態度には示さないが、子供たちは双子なのか、と2人の顔を見比べるようにしていた。

 

 もう1人の女はその不躾な視線に目を細めてから、口を開いた。彼女は、落ち着いた雰囲気の、暗い紺色の洋服を身に纏っていた。

 

「私は古手梨花です。……顔立ちは似ていますが、こちらのヱリカさんとは何の関係もありません。この度は私たちを救助していただき、ありがとうございます」

 

「牧野雄星です。蔵臼さんとは先ほど、少しお話しさせていただきましたが……本当に助かりました。梨花も私も、みなさんに助けて頂かなければ、間違いなく死んでいました」

 

 落ち着いた黒い洋服に身を包むのが古手梨花、雨で濡れたのを先ほど乾かしたばかりのコートを着ているのが牧野雄星だった。

 

「そう!私は雄星くんとは、先ほど少し話したのだ……彼は中部地方の資産家、園崎グループと深いつながりがあってね。まだ高校生なのに、ビジネスへの深い理解がある、天才なのだよ!はっはっは……」

 

「それほどではありません。園崎家の方に信用して頂いて、事業をお手伝いさせて頂いているだけですから。それに、いくらお金があっても天国には持っていけませんから。右代宮家の皆さん、蔵臼さんには助けて頂いて、本当に感謝しています」

 

「ということで、皆。彼らを歓迎してやってほしい!」

 

 自分の顔を立てられて満足げな蔵臼がそう言うと、その場は親族一同の拍手に包まれた。3人はもう一度深く一礼をした。

 

 

 

 

 それから少しして、客室は賑やかになった。何せ、今までは関係者以外1人たりとも足を踏み入れたことのない六軒島に、3人も来訪者が来たのだ。

 それも、子供たちとそう歳が変わらない若い男女が。それはそれは、話が盛り上がるわけだった。

 

 中でも蔵臼は雄星のことを気に入っており、盛んにこれからのビジネスの話をしていた。

 雄星の話に、深い共感と共に頷いた。

 

「そう!雄星くんのビジョンは私にも想像できぬものがあるのだ。20年後、今は軍事用でしかないインターネットが世界の大衆に広まっていて、一人一人が情報を発信する時代が来るとな。ふふふ……実に面白い。私はリゾートやレジャー開発ばかりに目を向けていたが、そういった分野の将来性も捨てがたい!」

 

「あなた、このような若い方に感化されて、あやふやなものに投資をしては……」

 

「夏妃。これはビジネスマン同士の会話だ。悪いが、お前は……」

 

 苛立ったような顔を見せる蔵臼。

 

「いえいえ。蔵臼さんの、バブル経済に乗ったリゾート開発も面白いと思います!ただ、それだけだとパンチが足りないと思いますし……六軒島に伝わる伝説なんかを下敷きにして、テーマに沿ったリゾート開発をしてみるとかはどうですかね。ついこの前、東京にディ……じゃなくて、何とかランドができたばっかりですしね。伊豆には他にも島がたくさんありますし、温泉もありますから、ライバルも多いです。このバブル経済だって、あと5年続くかはわかりませんから。何か付加価値を加えるような……」

 

 口出しをする妻を否定しようとする蔵臼を見て、あまり良い雰囲気ではないことを感じ取った雄星は、早口で捲し立ててその会話を遮った。

 

 2人は、雄星が気を利かせたことに気づいた。今の会話を客人の目の前で見せるべきではなかったと反省して、咳払いをしてから会話を戻した。

 

「おお、面白い!確かにその通りだ。そうだな、この島に伝わる伝説と言えば……」

 

「魔女、伝説……」

 

 少し離れたところにいた楼座がボソッと呟いた。賑わっていた客間だが、その言葉は皆の耳に届いた。ほんの一瞬、沈黙が訪れた。

 

 何か、面白い話があるのか?あるいは、曰く付きの触れるべきではない話なのか?

 雄星にはどちらかは分からなかったが、興味を惹かれてそのことについて聞いた。

 

「魔女伝説ですか。それはちなみにどんな?」

 

「は、はは……大層なものではないよ。この島には黄金の魔女ベアトリーチェが存在する、なんていう与太話だよ」

 

「うー!与太話じゃない。ベアトリーチェはいるもん!」

 

 蔵臼の言葉に、楼座のそばにいた真里亞が反応する。その剣幕に蔵臼は不思議そうな顔になり、楼座は顔をこわばらせて怒鳴った。

 

「真里亞!」

 

「ええ、きっと魔女はいます。僕の連れも魔女みたいなもんですから。ね?」

 

 話が悪い流れになったのを感じて、雄星はすぐに話を振った。雄星に目配せされた梨花は小さくため息をついてから苦笑した。

 

「変なところで会話のパスを寄越さないで、全く。……まぁでも、そうね。この世にはよく分からないことだって、よくわからない存在だって、よくわからない病気だって、たくさんある。今更魔女がいたって、驚きはしないわね」

 

 そんなふうに話を流した。

 真里亞はその言葉にはあんまり興味がないらしかったが、その前の雄星の言葉には強い関心を示した。

 

「うー?梨花は魔女?」

 

「このお方は奇跡の魔女ベルンカステル卿ですっ!どうかお間違えなきよう!」

 

 それまで子供達と談笑していたヱリカが、突然真里亞の言葉に反応した。首を大きく動かして振り向いた。その姿に、親族一同は驚いた。

 一番優雅な立ち振る舞いをしていた彼女にも、譲れない何かがあるのだと悟ったのだ。

 

「そうなの?」

 

 雄星が、きょとんとした顔で梨花を見る。梨花は、首を傾げた。

 

「……私は古手梨花よ。違う人と勘違いしてるんじゃないかしら?」

 

「あ、あぁ……そうでしたね!そうでした!失礼しました、我が主っ!」

 

 梨花と雄星は顔を見合わせて首を傾げた。周りの人間たちも古戸ヱリカが変わった人間であることは理解したらしく、怪訝な顔を浮かべていた。

 

「客人の皆様方は学生なのかしら?」

 

 話が妙な方向に飛んでいったことに気づいてか、絵羽が聞いた。

 

「私と梨花は学生です。私は高校一年生で、梨花が中学3年生。一緒の村で生まれ育って、仲がいいんです。今日も、2人で旅行中だったんですよ」

 

「ええっ!?2人は幼馴染の恋人同士ってことかよ!全く、羨ましいぜ!」

 

 雄星の言葉に、朱志香がそんな反応をすると、夏妃は大きな咳払いをした。親がいる前で軽率なことを言ってしまった、と朱志香はバツの悪そうな顔で黙り込んだ。

 

「こ、恋人……かしら。そう見える?」

 

「あはは……僕らの関係はさておき、出身は雛見沢村という小さな村なんです。景色がいいことぐらいしか誇れることはありませんが、良い場所です。皆さんも、xx県に来ることがあれば是非来てみてください」

 

 雄星は、照れた顔でそっぽを向く梨花の頭を優しく撫でて、苦笑しながらそう言った。

 

 子供達は皆、この2人がどういう関係であるかを何となく理解した。ただ1人、古戸ヱリカだけは、仇を見るような目で雄星のことを睨みつけていた。

 

 そこで、居間にノック音が鳴り響いた。蔵臼が入れ、と口にすると、ドアが開いた。そこには体格の良い男が、にっこりとした笑みを浮かべていた。

 

「客人の皆様方、お初にお目にかかります。当家で使用人と専属シェフを務めております、郷田と申します。ご夕食の準備が出来ましたことをお伝えに参りました」

 

 彼は郷田俊朗。もともと高級ホテルの料理人をしていた男で、今は右代宮家に雇われて専属のシェフとして働いている。小心者だが、大柄な男である。

 

「雄星くん、郷田さんの飯はめちゃくちゃ美味いんだぜ。楽しみにしてな!」

 

「それはいいね。俺は美味しいご飯が大好きなんだよ。じゃあ、よろしくお願いします、郷田さん」

 

 戦人の言葉に雄星は顔を綻ばせた。

 郷田も、その反応に気をよくして笑顔になった。

 

「ええ、ええ。本日は沢山の客人がいらっしゃいますから。この郷田、腕によりをかけて作らせて頂きましたっ!」

 

 体格のいい大人なのに、子供のように目を輝かせて料理の話をする郷田に、雄星は微笑ましいような気持ちになった。

 

「何が食べられるんでしょうね」

 

 梨花も、振る舞われる料理に期待を隠さなかった。雄星はそんな彼女の姿に、思わず頬を緩めた。

 

 

 

 そして一同は夕食が用意されているという食堂へ向かった。

 

 もし、この島に漂流したのが1人だけであれば、普段使用している大きなダイニングテーブルの末席に座ることも出来ただろう。

 しかし流石に3名分の余剰はなかったらしく、右代宮一族が並んで座るダイニングテーブルと少し離れたところに3人の場所が用意された。

 

 小さな丸い円卓に3人は向かい合うようにして座った。

 梨花と雄星は10年来の関係で、よく話をする。しかし、ヱリカはそうではない。

 ほとんど話していないヱリカに、雄星は話を振った。

 

「ヱリカさんも、災難でしたね。台風はもう少し続くみたいだから、明日にはまだ帰れそうにないけど、学校とかは大丈夫ですか?」

 

「ええ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 

 ヱリカは微妙な顔で頷いた。先ほど子供達と会話している時はそうは思わなかったが、彼女は人見知りするタイプなのだろうか?

 そんなふうに考えて、雄星は梨花の方に向いた。

 

「梨花はまだ雛見沢分校だもんね。……ていうか、沙都子は心配してるだろうな。後で電話でも借りようか。本当なら明日には帰る予定だったしね」

 

「そうね。あんな大変なことを乗り越えたのに、海難事故で死にかけるなんて、全くついてないわね……」

 

「死にかけるといえば、あのあとすぐ、梨花が自転車でふざけて、事故りそうになった時もすごくヒヤヒヤしたけどね──って、そんな睨まないでよ」

 

 雄星が梨花とそんな話をしていると、蚊帳の外になっていた古戸ヱリカが、突然大きな声を出した。

 

「我が主!……ではなく、ふ、古手さん。この男は一体何なのですか?あなたにとってどんな存在なのですか!このような馴れ馴れしい態度を許していて良いのですか!?」

 

「急にどうしたの?彼は私の……パートナーみたいなものよ。馴れ馴れしい態度も何も、私にとってはあなたのその恭しい態度の方が不思議なのだけれど……」

 

「ぱ、パートナーっ!?この男が!?」

 

「ま、まじまじと言われると恥ずかしいわね。……そう、道連れよ。道連れ」

 

 梨花はこほん、と咳払いをして言った。ヱリカはなるほど、と頷いて言った。

 

「なるほど……私と同じように、主に仕える駒というわけですね。こんな、軽薄で浅ましい男よりも私の方が使えることを、証明してみせましょう!」

 

「……ま、それでいいわ」

 

 くたびれた顔の梨花は、投げやりにそう呟いて、食事を続けた。

 

 雄星は何のことだかわからないままだったが、雛見沢にいる友人たちと同じように、この古戸ヱリカという女の子が曲者であることは理解できた。

 そして、ヱリカが自分を貶めるような発言をしたことに対して、梨花が怒っていることも。

 

 そのヱリカは2人と同年代にはとても見えない、優雅な所作で夕食を口にした。梨花と雄星は見よう見まねのテーブルマナーだったが、ヱリカだけは上流階級を思わせる完璧な振る舞いだった。

 

「にしてもヱリカさん、マナーが上手ですね。ここにいる間、俺たちにも教えて欲しいぐらいですよ」

 

「外側から使うだけです。……全く、この程度のマナーもわからないようでは、我が主人のそばに並び立つことは許されません!それに……」

 

「マナー違反を目の前で指摘するのが、一番のマナー違反。何かの漫画でそう読んだわ。大層なマナーなんて知らなくたって、相手を不快にさせなきゃ良いのよ」

 

 雄星をあげつらうヱリカに対して、無愛想にそう言い放つ梨花。

 

 ヱリカは、悲しそうな表情を浮かべる。雄星はそれを見て、ヱリカのことを少し可哀想に思った。

 

「でもさ、折角なら知ってた方が……」

 

「あんたがフィンガーボウルの水を飲むようなことがあれば、私も一緒に飲んであげるわよ」

 

 梨花はそう言って水を飲む。もちろん、グラスから。

 

「エリザベス女王がやったってやつ?梨花、物知りだね」

 

 梨花は、ふん、と不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

 そこで、郷田が次の料理を運んで来た。

 

 それからは、ヱリカは遠慮がちに、梨花の顔色を伺うばかりだった。雄星はそんなヱリカを不思議そうに、そして気の毒そうに見つめていた。

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