雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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大変長らくお待たせしました。
正月もお仕事がありまして、ストックがある頃のように連続更新はできないかもしれませんが、一生懸命続けていきます。
よろしくお願い致します。


おまけ 六軒島編 3話

 晩餐会は、賑やかな雰囲気で進んだ。

 

 数年前までは毎回参加していた当主の金蔵は療養中。そのおかげで気苦労をしなくてよい親族たちの顔には余裕がある。

 

「確か今年、朱志香ちゃんは受験だったか?」

 

「は、はい」

 

 食事の合間、ふと思いついたような留弗夫の言葉に、歯切れ悪く頷く朱志香。

 

 朱志香と戦人は同い年で、どちらも受験を控える年。朱志香の母親である夏妃がその話題に乗った。

 

「そういえば、戦人くんも今年は受験ですね。どうです?勉強の方は。順調ですか?」

 

「ぐ……じゅ、順調っす」

 

 戦人も朱志香も、お互いに勉強ができる方ではない。2人とも、自分の親から顔を背けて、食事に没頭しているふりをした。

 

「ほぉ。それはいいことだ。朱志香はどうなんだね?」

 

「わ、私だって大丈夫だぜ。文化祭があったからさ、ギターの練習で忙しかったけど……これからは真面目にやるから!」

 

「はぁ。あなたは……」

 

 夏妃が深いため息をついて、朱志香を見つめた。朱志香は、自分に向けられる追及の視線を無視して、飲み物を飲んだ。

 

 夏妃は持っていたカトラリーを握り直した。それからは、もう何も言わなかった。

 朱志香は勉強ができる方ではない。次期当主の娘、という自らの肩書を、嬉しく思ったことなど一度もなかった。

 

 少し静まり返った晩餐会の静寂を切り裂くように、雄星が言った。

 

「朱志香さん、ギター弾くんですか?」

 

「う、うん……」

 

 躊躇いがちに頷いた朱志香に、雄星は歓喜の声を上げた。

 

「おおっ!こんなところで同好の士と出会えるとは思いませんでした。最近だとザ・ポリスとかっ、AC/DCなんかも良いですよね。朱志香さんはどんなのを聞きますか!?」

 

 急に早口になって語り出す雄星に、少し戸惑う朱志香。照れたような顔で返す。

 

「私はさ、ロックバンドってよりかは、日本の、もうちょいポップな感じの音楽が好きなんだけど……雄星くんもギターをやるんだ?」

 

「ええ、ええ!今でこそ、ロックスターになる夢は諦めてしまいましたけど、プレイヤーであることはやめたつもりはありません!」

 

「へへ……ギターをやってる友人が少ないからさ。私なんかまだまだだけど、同じ趣味を語れる人間がいて嬉しいぜ!」

 

「朱志香。ギターの練習よりも、することがあるのではないですか?」

 

 盛り上がる2人に、夏妃が口を挟む。朱志香はばつの悪い顔をして、黙り込む。そこで、ニコニコした顔の雄星が口を開いた。

 

「夏妃さん、誤解なさらないで頂きたいです!ロックンロールというのは、決して世間への反抗という意味だけが込められているものではないのです。ビートルズは、英国王家のショーにも呼ばれています。大英帝国勲章も与えられています。朱志香さんが音楽に励み、紫綬褒章をもらうことだってあり得ます。勿論、勉強も大事ですけど、それだけでは学べない何かがあるんです!」

 

 早口で捲し立てられて、夏妃は閉口した。しかし、客人の言うことがまるっきり間違っているとも思わなかった。小さく頷いた。

 

「は、はぁ……しかしこの子の教育は、私たち一族の問題です。あなたには関係ありません」

 

「おっしゃる通りです。けれど、ギターと音楽に偏見を持つのはやめて頂いたいです」

 

 自分には厳しい実の母だが、この客人に対しては何と言って返せば良いかわからないようで、諦めたらしい。そんな夏妃を見て、朱志香の口角が緩んだ。

 

 ぺらぺらと早口で音楽を語った雄星のせいで、その場は妙な雰囲気になった。フォローするように、留弗夫が戦人を見て言う。

 

「そうだぜ、夏妃さん。あんまり締め付けすぎても良い子供には育たねぇさ。ま、うちの戦人は締め付けなさすぎたかもしれねえがな」

 

「うるせー。クソ親父に締め付けられるなんて、死んでもごめんだぜ」

 

 戦人の言葉で、晩餐会は笑いに包まれた。

 

 

 

 晩餐も終わりに差し掛かる頃だった。

 一同の前に、1人の女の子がワゴンを押して、紅茶を運んできた。

 彼女は、右代宮家に使える年若いメイドの紗音。

 

 右代宮家では、当主の金蔵が慈善事業として支援する孤児院『福音の家』から、優秀な子供をお手伝いとして雇用する習わしがあった。

 若い彼らに支払われる給金は破格で、礼儀作法の教育を受けられることなどもあって、非常に人気だった。

 

 彼女は序列が高い親族から順番に、紅茶を給仕して回る。もちろん、別のテーブルに座る3人の分も用意されているが、順番は最後だ。

 

 雄星と梨花は、顔を見合わせて、微笑んだ。

 

「紅茶か。テンションが上がるね、梨花」

 

「ええ、悪くないわね」

 

 そう言う梨花を見て、ヱリカは媚びるような笑顔を浮かべる。

 

「り、梨花さんは紅茶がお好きなんですか?私も──」

 

「……そう、良かったですね」

 

 梨花は冷たくそう言って、立ち上る紅茶の湯気を眺めていた。

 

「梨花、そんな言い方しなくてもいいんじゃない?落ち着いてよ……」

 

「私は落ち着いてるわ。ええ、あんたが貶されたからって、私は少しも怒っちゃいないわよ」

 

 雄星は、頑固なその姿勢に苦笑した。そして、ヱリカの方に目線を送り、「ごめんね?」と、謝りを入れた。

 ヱリカは歯軋りをするように苛立ちを噛み殺し、それを黙殺した。

 

 そんな噛み合わない雰囲気のテーブルに、紗音が回ってくる。

 

「ご歓談中失礼いたします。こちらが、食後の紅茶です。お好みで、ミルクとお砂糖を使ってお召し上がりください」

 

 紗音は、優しい笑みを浮かべて言った。

 それを見咎めた絵羽は、音を立ててティーカップをテーブルに置いた。その音が、食堂を静かにした。

 

「くすくす。食後の紅茶です、だって。私たちは別に構わないけれど、見ず知らずの客人がいらっしゃるのだから、紅茶の銘柄ぐらい説明すれば?ほら、何を出しているかぐらい分かるでしょう?客人に振る舞うものなのよ」

 

 紗音を睨みつける絵羽。

 自分の息子である譲治と仲が良い使用人の女への嫌味という意味もあったが、それ以上に、紗音の言い方が気になった。

 

 彼女は、福音の家出身のメイドの中でもかなりの古株。しかしどこかそそっかしいところがある。絵羽にはそんな彼女のことが我慢ならない。

 

「え、ええと、ええと……」

 

 紗音は、慌てて口ごもる。

 それを見て、絵羽は夏妃に目を向けた。

 

 右代宮本家の台所を預かる身を自負する夏妃は、自らが雇用している使用人の失態を見過ごすことは出来ない。使用人の失態は、自分の失態にも同じだからだ。

 

「紗音。早く答えなさい」

 

「あなた、銘柄もわからないものを振る舞っているの?……どこぞの喫茶店のアルバイトならいいわよ?でも、ここは右代宮家の一族が集まる、親族会議の場なの。それに応じた振る舞いをしなさい。ほら、何の銘柄なの?わからないなら、誰かに聞きなさいよ」

 

 夏妃と絵羽の2人に責められる紗音は、言うべき言葉を探して口を開けたまま、黙り込んだ。

 

「紗音さん、みなまで言わないでください。僕は紅茶が大好きなんです。飲んで確かめてみますよ」

 

 耐えきれなくなった雄星が、大きな声を出して絵羽の言葉を遮る。親族たちの目が、一身に集まった。

 

「恥かいても知らないわよ」

 

「旅の恥はかき捨てってやつだよ。じゃあ、頂きます」

 

 梨花の言葉にも笑って返して、紅茶を口に含んだ。

 

「うーん、これは──」

 

 雄星が考え込んでいる間に、そばに座る梨花も紅茶を口にした。そして、雄星が答える前に、ぴしゃりと言い切った。

 

「マリアージュ・フレールのマルコ・ポーロね。特徴的な甘い香りがする、私たちの思い出の味でしょう?あんたなら、飲まなくたってすぐにわかるでしょ」

 

「あはは……。梨花。早速、一緒にフィンガーボウルの水を飲んでくれたってわけ?」

 

「ふん、いつものことよ」

 

 慣れた様子で掛け合いをする2人。

 

 自分が使用人に向けた嫌味を、客人が切り返したことで、絵羽は少し居心地の悪い顔になった。

 夏妃も、客人の前で要らぬ一悶着を起こしたことに気付いた。何事もなかったかのように、飲み物に口をつけた。

 

 そこで紗音が戻ってきた。走って厨房に向かい、次の料理の準備をしている郷田に紅茶の銘柄を聞いてきたらしく、息を切らしていた。

 

「お、お待たせいたしましたっ!この紅茶は、『マルコ・ポーロ』というものみたいです」

 

 留弗夫が、ひゅう、と口笛を吹いた。

 梨花の答えは当たりだった。

 

「さっすが梨花」

 

「飲んだことあるんだから、普通よ。ほら、デザートが来るみたい。紅茶に合うものだといいわね」

 

 と、梨花が目を向ける先には郷田の姿があった。満面の笑みを浮かべていた。

 

「お待たせいたしました。こちらは、2種のソースとパンナコッタです。ふふ、皆様が薔薇庭園で素晴らしいひと時を過ごされたとのことで、この郷田、薔薇を使ったひと工夫を凝らしてみました。どうぞ、お召し上がりください!」

 

 郷田は、ワゴンに全員分のデザートを乗せて、運び込んできた。

 その皿には、薔薇を使った美しいデザートがある。皆、それを見て感嘆の声を上げた。

 

「おいおい、すげえな郷田さん。見た目も、味も!こんなもん、食ったことないぜ!」

 

「毎日こんなええ料理を食べられる、本家の方々が羨ましいですわ!郷田さん、もし仕事に困るようなことがあれば、いつでもうちに来てくれてええからなあ!」

 

「ふふふ……この身に余る光栄でございます」

 

 外食チェーンを経営する秀吉の言葉を受けて嬉しそうな郷田。

 そのまま他の親族たちの反応を伺おうとして、テーブルを見回した。

 

 しかし、親族たちの数人は、ある一点を見つめて首を傾げていた。

 

「郷田さん。それ……何だ?」

 

「それ、と言いますと──」

 

 留弗夫が指差すそこには、一枚の封筒が置いてあった。

 

 右代宮家の家紋とも呼ぶべき、片翼の鷲が描かれている封筒が、テーブルの端の方に置かれている。

 

 片翼の鷲の紋章は、次期当主と目される蔵臼ですらおいそれと使うことはできない、右代宮家当主としての威厳を持ったもの。

 不思議な雰囲気を放つこの封筒を、誰も無視できない。

 

「んん?こんなもの、置いた覚えは……」

 

「その封筒……もしかして、お父様からのものではなくて?」

 

 何もわからない様子の郷田をよそに、絵羽が、ふと思いついたように言った。

 

「我々は何も聞いていない。まさか、そんなはずは……」

 

 蔵臼が怪訝な顔をするのを他所に、兄弟たちはその手紙のことでざわざわと盛り上がった。

 

「取り敢えず、読んでみないことには何も始まらねぇ。兄貴、読んでみてくれるか?」

 

「必要ない。これが親父殿のものなら、私が読もう」

 

 郷田が気を利かせて手紙を手に取り、蔵臼に渡そうとした。しかし、それを絵羽が遮った。

 

「蔵臼兄さん!その手紙がお父様のものなら、我々にも内容を知る権利があるわよ」

 

「私が読んで、皆に内容を伝えればいい。何か不満か?」

 

 絵羽も留弗夫も楼座も、頷きはしないものの、不満があることを隠そうとはしない。

 

「後継者のことについて書かれているんじゃないかしら。それなら、我々の一族の人間が読むのは不適だわ。一切利害が絡まない、部外者の人間が読むべきよ」

 

 直接席を立って手紙を取ろうとした蔵臼に、留弗夫の妻である霧江が言った。

 

 蔵臼が読んでしまうと自分に都合のいいように言い方を変えたりする恐れがある、という懸念を、親族の誰もが抱いていた。

 その言葉に、夏妃が立ち上がって抗議する。

 

「無礼な!我が夫が右代宮家の次期当主であることは揺るぎない事実です!その意味のわからないイタズラによって、それが左右されるようなことは絶対にあり得ません!」

 

「落ち着きなさい、夏妃。ふふ、信用がないようで、兄として大変悲しい思いだよ」

 

「御託はいいわ。早く、誰かに読ませて!」

 

 声を荒げる絵羽。蔵臼がここで多数決を取れば、弟・妹たちの勝ちに違いない。そう考えた蔵臼は小さくため息をついて、その手紙を指差した。

 

「では、申し訳ないが……客人のお三方。申し訳ないが、どなたかこれを読んでいただけるかな」

 

 蔵臼は客人3人が座るテーブルの方を見た。梨花は、面倒ごとに巻き込まれたくないとばかりに目を逸らし、雄星はデザートを食べるのに夢中。ヱリカは相変わらず、落ち着いた表情でにこりと微笑む。

 

「では……牧野くん。君に頼もう」

 

 少し悩んだ後、蔵臼は3人の中で自分と一番親交がある雄星に手紙を渡した。自分に有利なように読んでくれるのではないか、という淡い期待もあった。

 

「分かっているでしょうけど、兄さんのために変な気を利かせる意味はないわよ。どのみち、みんなで回して読むだろうし」

 

 絵羽は相変わらず厳しい言い方で、雄星を戒める。彼は無言で頷いた。

 

 雄星は緊張した面持ちでそれを受け取り、大きく咳払いをした。

 食堂に集まった親族全員が、それを固唾を飲んで見守る。

 

 梨花は雄星を心配した顔で、ヱリカは大層楽しそうな顔でその朗読を待った。

 

「えー、僭越ながら読ませてもらいます」

 

「六軒島へようこそ、右代宮家の皆様方。私は、金蔵さまにお仕えしております、当家顧問錬金術師のベアトリーチェと申します」

 

 その名前が口に出た瞬間、誰かが息を呑む音がした。

 少しの間を置いて、食堂には親族たちのざわめきが起こった。

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