雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
どう書くかすごく悩みました
「さて、男連中もいなくなったことだし、女子会のスタートだぜっ!」
朱志香の言葉にぱちぱち、と慎ましやかな拍手が起こる。
雄星、戦人、譲治の3人が出て行った後の部屋には、ベッドの上で寝転がる朱志香、ソファに深く腰かける梨花、椅子の上にお行儀よく座る紗音の3人がいた。
「朱志香様、梨花様。お手柔らかにお願いしますね?」
「そんなに長い間話す気はないわよ。……恥ずかしいんだもん」
小さく呟く梨花に、朱志香と紗音が顔を見合わせてにやにやと笑う。今までも何度もしてきた、女の子同士の秘密の会話に、新たな友人が参加したことへの期待だった。
梨花は2人から向けられる好奇の目線を黙殺して、飲み物に口をつけた。
「それでそれで?梨花は、雄星のどこに惹かれたんだよ?」
弾むような声で言う朱志香。
「……あいつは、私の人生を救ってくれた。大切なものにも気付かせてくれた。ぶっきらぼうな私を、それでも好きでいてくれて……」
そっぽを向いて、早口で言う梨花。朱志香と紗音は楽しそうな顔で頷いた。
「でもね!鈍感だし、たまに無神経だし。優柔不断で人任せなとこもある。誰彼構わずに愛嬌を振り撒くところも嫌。自分のことを顧みないくせに、人にはああだこうだと言ってくる。……だけど、そんな欠点だって愛しい。それくらいには、彼のことは好きよ。……ほら。これでいい?」
顔を赤く染めたままの梨花の独白を、満面の笑みを浮かべた朱志香が頷いて答える。
「うんうん、ほんとに妬けるぜ!そんな彼氏、どこで見つけてくるんだよ」
「生まれてからずっとの幼馴染よ。お互い、小学校に入る前から知ってるわ」
「くぅ〜!年上の幼馴染なんて、一番憧れるやつじゃん!私たちも、こんな島に閉じ込められてなきゃなあー。な、紗音!」
悔しそうな顔をして紗音の方を向く朱志香。朱志香の予想に反して、紗音は真剣な表情をしていた。
「欠点も愛しい、ですか。その、失礼かもしれませんが、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、何かしら」
「例えば……雄星様が、梨花様に何か重大な隠し事をしていたら?本当の自分を隠していたとしたら。どう思われますか?」
紗音は梨花の目を見つめた。梨花と目があって、彼女は遠慮がちに目を伏せた。
その真剣さを感じ取った梨花も、少しの間考える。
「何それ。恋愛サスペンスみたいなシチュエーションだなぁ」
冗談めかして言った朱志香。
その言葉に口元を緩めて笑う紗音に向けて、梨花は言った。
「どうしてそれを私に伝えてくれなかったのか、聞くと思う。私は彼のことならどんな秘密だって受け止めるのに──秘密を抱えさせてしまったのには、それを伝えるに値しないと思われていた自分にも責任があるはずよ」
「梨花様は、雄星様を深く愛されているのですね」
「そ、そうかもね」
羨ましそうに呟く紗音の言葉に、梨花は照れた顔で頷いた。
「じゃあ、逆だったら?もし梨花がさ、何か大切な秘密を隠してて、それをずっと言えなかったとしたらどーする?」
「そんなことあり得ないわ。あいつは、私のどんなところも受け入れてくれるもの。私たちの間に隠すことも隠されることも、何にもないわ」
何の気なしにした質問に堂々と胸を張って答えられて、朱志香はため息をつく。
「はぁ〜。私たちの完敗だぜ、紗音。このバカップルには敵わないぜ」
「……」
紗音は黙って俯いていた。朱志香は沈黙に耐えかねて、明るい口調で言った。
「しゃ、紗音はどうなんだよ?譲治兄さんとの関係は上手くいってるんだろ?」
「は、はい。その……実は今夜、譲治様から呼び出されていまして……そこで、もしかしたらプロポーズされるのでは、と」
驚いて立ち上がる朱志香。
「えっ、えーっ!?しゃ、紗音!そんな大切なことがあるなら、準備しないといけないじゃん!何時?何時に約束してる?」
「あ、ええと……まだ時間はあります」
狼狽えながら時計を見る紗音。その目を梨花がじっと見つめた。
「何か言うべきことがあるなら、後悔しないように言っておいた方がいいわよ」
紗音はその言葉を聞いて、静かに頷いたのだった。
一方、男子組は一階のロビーで集まっていた。
外の冷たい風が部屋を冷やして、和気藹々とした雰囲気に反した肌寒さを感じさせた。
「じゃ、俺たちは何の話をする?」
「そりゃあ、男でしか出来ない話だろ」
雄星の言葉ににやりと笑う戦人。
「どんな話だよ……?」
「いっひっひ。さぁて兄貴、何から聞くぅ?」
戦人は、いやらしく笑いながら譲治に問いかける。
しかし譲治は戦人のだらしない表情とは全く違って、緊張気味な顔で雄星に言った。
「ゆ、雄星くん……梨花ちゃんには、もうプロポーズはしたのかい?」
「ぷ、プロポーズっ?どうしてそんなことを?」
素っ頓狂な声を上げて、譲治の言葉に反応する雄星。
「実は……今夜僕は、紗音に……僕の気持ちと、僕らのこれからについて、伝えようと思っているんだ」
「マジかよっ!譲治の兄貴。そりゃ一大事じゃねえか!こんなところでおしゃべりしてていいのかよっ!?」
先ほどまでふざけていた戦人も、ことの重大さに真面目な顔になる。
「う、うん。紗音にはもう約束の時間を伝えてあるから、それまでだね」
「はぁ、もう俺たちもそんな歳か。俺はまだそんな相手はいないけど、ちょっと羨ましくなるぜ」
ため息をつく戦人に、2人は笑った。
「それで……雄星くん。君はまだ、プロポーズはしていないのかな」
「うん、してないよ。その……実のところ、彼氏彼女の関係ってわけでもないし」
少し笑いながら、言い切る雄星。
「そっか。もうプロポーズの言葉は考えてあるんだけど、何か参考にさせてもらえれば、と思ったんだ。2人は僕からみても、お似合いで仲の睦まじいカップルだと思うんだけど……2人は、どんなことを大切にしてるのかな?」
「その、俺たちはカップルってわけじゃないんだけどね。俺たちの関係を言葉にするのは難しいね。……とにかく、俺は梨花の全てを受け入れたいと思ってる。いいところも、欠点も含めて、ね。それぐらいかな」
「僕も一緒だ。僕は紗音の全てを受け入れたい。だけど、それを面と向かって伝えたことは、なかったかもしれない……」
「うん。それを相手に伝えることが大事だと思う。言わなきゃわかんないしね」
その言葉に、譲治は何度か頷く。
「ありがとう。参考になったよ。僕は、紗音に“どんな未来でも隣にいてほしい”って伝えるつもりなんだ。たとえ、何か秘密を抱えていたとしても──それも含めて、彼女なんだから」
「……譲治の兄貴、そいつはいい言葉だな」
戦人が感慨深い顔で頷く。その場に、少しの沈黙が訪れた。
「じゃあ、戦人は?戦人も彼女はいそうだけど」
場の雰囲気が湿っぽくなったのを感じ取って、雄星は明るい雰囲気で戦人に話しかけた。
「俺はさ、あんまりそういうのは分かんないんだよ。1人の女の子と遊ぶよりも、みんなで遊ぶ方が楽しいっつーか……そこまで好きな女の子もいないしな」
「ふーん。戦人のことを好きな女の子はいそうだけどね」
「そ、そうかなぁ……」
自分の話にはバツの悪そうな顔で黙る戦人を見て、譲治と雄星は笑った。
ある時、女性陣が集まるいとこ部屋の電話が鳴った。ちりんちりんちりん!と、喧しい音を立てて、誰かが応えるのを待っていた。
「こんな時間に、何の電話だ?」
眉根を顰めて、朱志香が呟いた。時計を一瞥する。本館からかかってきたとしたら、少し非常識な時間だ。
「もしかして、譲治様でしょうか……?」
「譲治さんはすぐ下にいるんでしょ?何かあったら直接言いに来ないかしら」
怪訝な顔を浮かべる梨花と紗音。
受話器に一番近かった朱志香が電話をとった。
「私がとるぜ。……もしもし、朱志香ですけど。あれ、ヱリカさんかよ?……はい、はい……」
彼女は少ししてから受話器を離した。小さく首を傾げながら、朱志香が言う。
「梨花、ヱリカさんが呼んでるぜ」
梨花は怪訝な表情で頷き、受話器を受け取る。
「代わりました、梨花です。ヱリカさん?……ええ、ええ……」
それから数分ほどの電話が終わると、2人に向き直って言った。
「ちょっと、用事が出来てしまったわ。傘と、懐中電灯か何かもらえないかしら」
梨花は、ロビーにいた雄星を連れ出してゲストハウスを出た。
外は真っ暗。雨はほんの少し勢いを弱めてはいるものの、気軽に外を出歩けるような空模様ではなかった。
ゲストハウスの扉を閉めると、雨音だけが2人の間に残る。
突然連れ出されて、不思議そうな顔のままの雄星が、梨花に言った。
「一体どうしたの?もう遅い時間だし、何も今からじゃなくても……」
「ヱリカさんが碑文の謎を解いたんですって。それで、礼拝堂に来て欲しいって」
「ふーん……」
「ヱリカさんに碑文の謎を解いて欲しいって言ったのは私なの。こんな時間だし気乗りはしないけど……電話で呼ばれたら、流石に無視はできないわよ」
「そっか。じゃあ、仕方ないかなぁ……」
小さく息を吐いて、雄星は傘を持ち上げた。
「右代宮一族の余興でしょう?黄金ってのは親族限定か嘘なんでしょうけど、参加賞くらいはくれるんじゃない?」
気乗りしない様子の雄星に、梨花は言う。
「参加賞なんてもらわなくても、命を救ってもらっただけで十分だけどね」
「あら、沙都子に習った倹約はもう忘れちゃったの?もらえるものは何でも貰っておくものよ」
見かけによらず図々しい梨花のセリフに雄星は苦笑した。
日付も変わろうとする頃。降り頻る雨と夜の暗黒の中、2人は静かに礼拝堂へと歩いて行った。
2人が礼拝堂へと向かっている頃、譲治と紗音は束の間の逢瀬を楽しんでいた。
「待たせたかな、紗代」
「いいえ。今来たところです。譲治さん」
「あはは……そっか。ならよかった」
そう言って譲治は、紗音の隣に腰掛けた。
紗音はその譲治の手に、自分の手を重ねた。お互いの手の、ほんのりとした暖かさが2人に伝わった。
「紗代……僕が何を言いたいか、わかるかい?」
紗音は黙って、小さく頷いた。
少しの間を置いて、譲治はスーツのポケットから小さな箱を取り出した。
それを、ゆっくりと紗音に差し出す。震える手で、ゆっくりとその箱を開いた。
その中に収められていた銀色の輝きを目にして、紗音は息を呑んだ。
小さく息を吸い込んだ後、彼女は緊張した面持ちで、譲治の目をまっすぐに見た。
「僕と、結婚してほしい。これは……君を、僕の妻にする。そのための指輪だ」
譲治は意を決した表情でそれを差し出す。紗音は、感極まった表情で口を開いた。
「ありがとうございます、譲治さん」
そこで、一度言葉を区切った。
譲治は次に何と言われるのか覚悟して、唇を固く結んだ。
「……それを、受け取る前に。私がずっと……隠していたこと。それを、話してもいいでしょうか……?」
紗音の声は震えていた。譲治は一旦指輪の入った箱を置いて、安心させるために紗音の肩を抱いた。
「何でも話してごらん。僕は、君の全てを受け入れる。僕は君のことを愛しているから」
紗音は苦しみに耐えるような顔で、ゆっくり口を開いた。
「……譲治さん。私は……あなたの子供を産むことが出来ません。……子供を産みたくても、産めない体、らしいのです」
譲治は暫しの間、言葉を失った。母親である絵羽の言葉が頭をよぎった。
"譲治、あなたは右代宮家の当主となり得る器の人間なのよ。一時の気の迷いで、一生を添い遂げる伴侶を選ぶなんて──"
何度も言われたことだった。紗音と自分の結婚は、少なくとも母親には祝福されていない。それに加えて自分の子供も産めないというのは──両親から、結婚を認められるとは思えない。
しかし、その目線を紗音の目から離すことはしなかった。震える彼女のことを、そっと抱きしめた。
「……今まで、子どもに囲まれた老後だなんて、僕の理想を押し付けてごめん。それでも、僕は構わない!僕は、君と一緒にいたい。それだけなんだ」
紗音は譲治のその言葉を聞いて、目を見開いた。そして、大粒の涙をこぼした。
「ごめんなさい。ごめんなさい……っ!今まで、隠していて……」
「いいんだ。言いたくないことは、誰にでもある。だから気にしないで。子供がいなくたって。僕は、構わないさ」
「……その言葉が聞けただけで、私はこの世に生まれてもよかったのだと、そう思えました。本当に、ありがとうございます」
溢れる涙を堪えようと、手で目元を拭く紗音。しかし涙は止まらず、彼女の服を濡らした。
「大袈裟だよ。そ、それで……僕のプロポーズは受け入れてくれるのかな」
遠慮がちに聞こうとする譲治。
「もう一つ、あるんです」
「え?」
「もうひとつ、もっと大事なことが……」
「それは何かな?」
涙で潤んだ紗音の目がゆっくりと閉じて、もう一度開かれた。
「私は──」
夜の六軒島を、強い風が吹き抜けた。