雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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おまけ 六軒島編 8話

 3人は地下へと続く長い階段を降りた。

 

 時期は10月初旬の夜で、外は雨。隠し通路の中の気温は低く、薄寒い。

 

 階段を降り始めてしばらくは、隙間から染み込んできた外の雨水が壁を伝って通路を流れていた。

 ぽちゃぽちゃと滴り落ちる水音と共に、3人の足音が静かに響き渡る。

 

 真っ暗な通路を、ヱリカと雄星が持つ電灯の光が照らす。

 階段は大きな螺旋を描くような形になっており、先がどれくらい続くのかは誰にも分からない。

 

「梨花、今までどれくらい歩いたかな?」

 

「うーん……10分てとこかしら。どうかした?」

 

「帰りに懐中電灯の電池がなくなったら……俺たちどうなるかなって不安になって」

 

「ちょっと!怖いこと言わないでよ」

 

 梨花の言葉を聞いて、ヱリカが振り向いて言った。

 

「もしそうなったとしても、明日の朝には私たちがいないことに気づいた人間が探してくれるはずです。心配はご無用です」

 

「ま、もう少し歩いて様子を見てみようか」

 

「そうね」

 

 それから3人は無言で歩いた。暫くしてから、雄星がふと思い立ったように聞いた。

 

「そういえば……梨花がこの前言ってた課題ってどうなったの?旅行に持ってきて全部やるって言ってたけど……紙、残ってる?」

 

「あ!……もう、嫌なこと思い出させないでよ。素直に失くしましたって言うわよ」

 

「ベタな言い訳だね」

 

「本当のことなんだから、仕方ないでしょ!」

 

「知恵先生なら、紙を無くしたことより危ないところへ行ったことに怒ってきそうだね」

 

「船が出るっていうんだから、危険はないって思うじゃない。まさか、こんなことになるなんて……」

 

「命があって本当によかったよ。これからは、船旅には気をつけようね」

 

 そこで、遠慮がちにヱリカが聞いた。

 

「……我が主。お二人は、一緒の学校に通われているのですか?」

 

「いいえ。私が一年生で、彼は一個上。私は辺鄙な田舎の村の小さな学校に通ってるの。彼は近くの街の高校に通ってて、私ももうすぐそこに入学するのよ」

 

「そ、そうなんですねっ」

 

 梨花の言葉に、素直に頷くヱリカ。いつものような厳しい言葉は返ってこない。

 

「俺はヱリカさんのことを聞いてみたいな。俺たちと同じくらいの歳に見えるけど、学生なんだよね……?」

 

 何を気安く聞いてくるのか、とばかりに鋭い目で雄星の方を見たヱリカ。

 しかし、梨花もヱリカの方を見ていて、たまたま目が合った。ヱリカは慌てて媚びるような笑顔を作った。

 

「私も興味があるわ。教えて頂戴」

 

「は、はいっ!私もお二人と同じく学生です。関東の学校に通っています」

 

「そうなんだ。趣味とかは?俺は音楽が趣味で、梨花の趣味は……何だろ。お酒?」

 

「バカ。私の趣味は旅行よ」

 

「俺のお金で、ね」

 

 そこでニヒルな笑みを浮かべた梨花が一言。

 

「あら、これはプランニング料っていうのよ」

 

 2人が笑ってオチがついたところで、ヱリカは恐る恐る言った。

 

「わ、私の趣味は……推理小説や推理漫画を読むことと、演劇を鑑賞すること、です」

 

「そうなんだ。俺も梨花も、結構本は読む方だよ。ジャンルは問わないタイプだけど」

 

「推理小説……あの忌々しい、バールストンギャンビットって知ってるかしら?」

 

「ええ、ええっ!もちろん存じ上げております。バールストンギャンビットというのは──」

 

「知っているから説明は結構よ。それにしても演劇鑑賞とは珍しいわね。まだ若いのに」

 

 得意げに語り出そうとしたヱリカを制して、梨花。その顔はにこやかだった。

 

「どんな演劇を見るの?俺も好きな小説の舞台化とか興味あるんだけど、とっつきにくくて」

 

「はい。色々見ますが、お勧めなのは──」

 

 ヱリカは、雄星の言葉にも嫌味なく返した。

 地下の階段を降りる中で、ヱリカと2人の間にあった距離感は少しずつ縮んでいた。

 

 そんな他愛のない話をしているとき、3人は大きな扉の前に行き当たった。

 そこで話を止め、一同はその扉の文字を見た。

 

「これは……?」

 

 戸惑いの声を上げる雄星。ゆっくりとライトを動かす。その扉に掲げられた赤い文字に、光が当たる。

 

「とうとう、ゴールに辿り着いたようね」

 

 "第十の晩に旅は終わり、黄金の郷に至るだろう。"

 

 その言葉は、碑文の謎の答えである"黄金郷"がそこにあるということを示していた。

 

「さぁ、我が主。この扉を開いて下さい。黄金郷とやらに最初に足を踏み入れる栄誉はお譲りいたします」

 

「……じゃあ、開けるわよ」

 

 梨花は、その錆びた扉をゆっくりと開けた。

 地下の暗闇の中に、扉の隙間から少しずつ灯りが漏れ出てくる。

 

 梨花が扉を開けた先は、広間のようになっていた。

 そして、入ってすぐのところに、一同の目を奪う衝撃的なものが鎮座している。

 

 輝かしいシャンデリアが照らすのは、目も眩むような黄金の延べ棒。懐中電灯の光を反射して鈍く煌めく。

 黄金の伝説は本当だったのだ。

 

 その金色の塊を見て、一同は少しの間言葉を失った。

 

「な……!?」

 

「……ビンゴ。これがお楽しみの景品というわけですか」

 

「ねぇ、雄星。よくできたジェンガなんかじゃないわよね?まさか、本当に黄金があるなんて……!」

 

 3人はその場から一歩も動けなかった。お互いに視線を交わし合って、今見ている景色が本当のことであると確認しあうだけだった。

 

「ねぇ、誰かいないの!?こんなものが置かれていて、誰も!?」

 

「梨花、気をつけて。これは決して俺たちのものじゃない。沙都子じゃないけど、盗難防止のトラップやカメラがあるはずだよ。これ以上、部屋に軽率に足を踏み入れない方が──」

 

 雄星が言ったその時。

 部屋の奥に置かれている豪奢なベッドの天蓋が揺れた。そこから人影が現れた。その人影は、ゆっくりと3人の方に向かって歩いてくる。

 

「ようこそ、私の地下貴賓室へ」

 

 金色の髪をたなびかせ、片翼の紋章が描かれた黒いドレスを身に纏う女。その姿は、まさしく肖像画に描かれたベアトリーチェそのものだった。

 言葉を失う3人に対して、遠い目をした彼女は小さく呟く。

 

「ルーレットがこんな目を出すとは、私は想像すらもしていませんでした」

 

 独り言のように静かにそう言って、俯く。

 

「あなたがベアトリーチェ、なの?」

 

「……如何にも」

 

 梨花の質問に、無表情に答えるベアトリーチェ。梨花はしばらくの間、彼女の顔を眺めていた。

 

 その間に、ヱリカは彼女のそばへとずかずかと歩み寄って、笑みを浮かべながらその顔を覗き込んだ。

 

「あなたがベアトリーチェ?あの碑文の謎を出したのはあなたなんですね?ねぇ、頑張って考えた謎を、この島に来てまだ1日も経っていない私に解かれてしまって、今どんな気持ちなんですか?」

 

「あの謎を考えたのは私ではありませんが……あれを1日で解いてしまったことには、心から感服致しました。お見事です」

 

「ふん、手応えがなくてつまらないですね」

 

 つまらなそうな顔のヱリカ。

 

「ヱリカ、やめろ。……ベアトリーチェさん。俺たちは右代宮家とは関係ありませんし、すぐに出て行きます。黄金の山のことも、秘密にしておきますから。ほら!行こう、みんな」

 

「……呼び捨てにしないでください」

 

 そんな2人のやりとりを眺めるベアトリーチェの顔は、どこか空虚だった。ここまで謎を解いたことを祝福するでもなく、悔しがるでもない。ただ、諦めたような顔をしていた。

 

 小さな声で文句を垂れるヱリカを促して、この場を出て行こうとする雄星。しかし、ベアトリーチェはそれを呼び止めた。

 

「そういうわけにもいきません。……私は、みなさんの命を賭けたのです。結果がどうであれ、私は出た目に従います」

 

 怪訝な顔をした梨花が聞く。

 

「……命を賭けた?それはどういう意味?」

 

「文字通りの意味です。私は、あの碑文の通り……殺人を行おうとしていました。あなた方というイレギュラーも含めて──この島にいるすべての人を、殺害しようとしていました」

 

 梨花と雄星は言葉を失った。ヱリカだけが不敵な笑みを浮かべていた。

 

「そんな……!じょ、冗談ですよね?」

 

「冗談ではありません。そのための手段も計画も、完璧に準備をしていました。まさかこの島に訪れた客人が謎を解いてしまうなどと、考えたこともありませんでしたが……」

 

「一体どうやって?あなた1人にそれができるとは思えません。共犯者でもいるんですか?」

 

 ヱリカが一歩前に出て、ベアトリーチェを問い詰めたそのとき。恐怖を滲ませる声が、梨花の口から漏れた。

 

「あ……」

 

 彼女の目線の先、ベッドの端に立てかけられたそれに、雄星とヱリカも目を向けた。

 

 それは旧式のライフルだった。西部劇に出てくるような、レバーアクションと呼ばれる機構のもの。この島の全員を殺すに足る弾薬のカートンもそばにあった。

 雄星は無意識のうちに唾を飲み込んだ。手に汗が握るのがわかった。

 

「それを使うってことですか」

 

 雄星の言葉に、ベアトリーチェは頷いた。

 

「……予定では、そうでした。しかし、安心してください。もう人を殺そうなどという気はありません。それが使われることも、未来永劫ないでしょう」

 

 不安げな顔をする雄星と梨花に対して、彼女はさらに続けた。

 

「このゲームの勝者は貴方達です。右代宮家当主の座をお譲りするのは難しいでしょうが、この黄金も全てお譲りします。分け方は、皆さんで決められるといいでしょう」

 

 いまいち現実感がない3人が返事を返せないでいると、ベアトリーチェは金色の髪を翻して、手招きをした。

 

「それと、こちらの仕掛けのこともお伝えしなくてはなりません」

 

 彼女は地下貴賓室の一角に置かれているアンティークの置き時計を指差した。

 静かに音を立て続けるその時計は、もうじき11時になろうとしている。

 

「この時計は、この島の地下の爆薬と連動しています。このスイッチを、上に動かした状態で12時を迎えると──即座に、爆薬が起爆します。計算したところ……この島の大部分は、跡形もなく消え去ります」

 

 ヱリカはその言葉に口元を歪めて、愉悦の笑みを隠さなかった。

 

「"第九の晩に魔女は蘇り、誰も生き残れはしない"。これは爆薬の仕掛けってことですか」

 

 面白そうに、納得がいったように頷くヱリカ。

 ベアトリーチェは、唇を噛み締めるようにして、黙り込んだままだった。

 

「しかし、謎を解いた人には全部の特典を差し上げるって?そうしたらあなたはこれからどうするんです?」

 

「……私のことはどうとでもしてください。皆さんを殺そうとしていたのですから、殺される覚悟もとうに出来ています。私はもはや亡霊なのです」

 

 雄星の言葉に返事を返して、それっきり黙って俯くベアトリーチェ。

 

「ベアトリーチェ。あなたは何故、そんなことをしようと?」

 

「……貴方にそれを伝えても、きっと理解は出来ないでしょう」

 

 悲しい顔でそう言うベアトリーチェ。しかし雄星は引き下がらなかった。

 

「謎を解いたら黄金をあげると言われても、納得できません。せめて、こんなことをしようとした理由を──」

 

「私からもお願いします。探偵が犯人を追い詰めた後に、犯人が御涙頂戴の身の上話を語るシーンは必須ですからっ」

 

 嫌味を言うヱリカの横顔を雄星は睨む。しかし彼女はどこ吹く風といった様子で、ベアトリーチェの顔を覗き込んでいた。

 

「私はもう役目を終えました。これ以上、語ることなど……」

 

「人の人生に終わりがあるとしたら、死ぬ時だけです。ルーレットがどんな目を出そうが、貴方の賭け金が全て無くなろうが、そんなことで貴方の人生は終わりません」

 

「何ですか、そのキザなセリフ。鳥肌が立ちます」

 

 冷たい目をしたヱリカに切り捨てられて、恥ずかしそうな顔で雄星は黙った。

 

「ねぇ、ベアトリーチェ。貴方が恐ろしい計画を実行しようとしていたのはわかったけれど、今ならまだ、何もなかったことにもできるわ」

 

 梨花はベアトリーチェに胸を張ってそう言った。さらに続けた。

 

「私の友人……いえ、知り合いね。そいつは、素性もよくわからない悪い奴に騙されて、私や私の友達を殺そうとしたわ。だけど結局、計画は失敗した。そして、長いこと罪を償うことになった。今更大切なものに気付いて、犯した罪を後悔しながら、ね」

 

「梨花、それって……」

 

「あなたは幸運よ。今なら、誰にも罪を咎められることなく日常に戻ることが出来るのだから。ほら、悩んでることを私たちに話して、スッキリして帰りなさい。貴方を煮るなり焼くなり、私たちの自由なんでしょ?」

 

 ベアトリーチェは長い間沈黙を貫いた。

 

 しばらくしてから、小さな声でつぶやいた。

 

「私は……生まれてはいけない存在だったのです。愛される資格など、持ち合わせていなかった。それなのに私は──それを、欲してしまった」

 

「くす!想像以上に陳腐なのが出てきました。犯行動機は"愛"ですか。愛が人を狂わせる、だなんて。物語の筋書きとしては三流にもほどがあります」

 

「ヱリカ、やめろって」

 

 雄星がヱリカの頭をはたく。ヱリカはオーバーリアクションで怒って、雄星に文句を垂れた。

 それを尻目に、梨花が言う。

 

「ベアトリーチェ。……生まれた時から背負わされたものを、捨てることは出来ない。だけど、それを抱えてどう生きるかは、自分で選ぶことができるはず」

 

「私には、選ぶことなど……」

 

「私もそうだったわ。昔は何も選べなかった。いや、選ぼうともしなかった。けれど、それを変えてくれた人がいるの。貴女にもきっとそういう人が見つかるはずよ」

 

 ベアトリーチェは黙ったままだった。しかし、自分に掛けられた言葉の意味をよく考えるように、俯いて目を閉じていた。

 

「ベアトリーチェ。犯しかけた過ちを償うことも、これからの人生を生きるための希望を得ることも。どっちも、生きてなきゃ出来ないわ。だから貴方は、これからも生きなさい」

 

「……我が主、そんなふうに赦しを与えるなんて、貴女らしくありません。こほん!これまでの供述を吟味した結果、私は理解しました。貴女の目の前にいる、このベアトリーチェの正体は──」

 

 その言葉にベアトリーチェが初めて表情を歪めた。その時、ヱリカを遮って梨花が口を開いた。

 

「ヱリカ!みなまで言わなくていいわ。貴方には感謝してる。けれど、この子はもう私の友人なの。あんまり責めないであげてちょうだい」

 

「……我が主。我が主は、もう既に気づいておられるのですね」

 

 梨花は肩をすくめてはぐらかす。

 

「ヱリカ、貴方の推理は完璧でしょう。でもね、真実を暴くことが必ずしも正義とは限らない。真実が人を救うこともあれば、殺すこともある。あなたは誰よりも、それをわかっているんじゃないかしら」

 

「……私の推理を信じていただけて光栄の極みです。私にこの役目を与えた、他ならぬ貴女がそうおっしゃるなら、私はもう何も言いません」

 

 梨花の顔を立てて、引き下がるヱリカ。

 

「古手梨花さん。ありがとうございます……」

 

「あなたの心の全ては、誰にも理解は出来ない。けれど、理解してあげようとすることぐらいは出来る。会ってそれほど経っていない私たちでもね」

 

 ベアトリーチェは顔を上げた。先ほどまでとは違って、その顔はどこか晴れやかだった。

 そこで、何かに気がついたように後ろへ下がっていった。

 

「忘れていました。これも、差し上げます」

 

 そう言って、カードを取り出した。それは、どこぞの都市銀行のキャッシュカードだった。

 

「これには、黄金の一部を換金したものが入っています。確か……10億円以上です。暗証番号のメモもあります。受け取って下さい」

 

「10億……シュークリームで出来た家を建てられるわね」

 

「羽入がいたら喜ぶだろうけど、梨花は糖尿病になっちゃうよ。ベアトリーチェさん、これもいらないです。本来、この謎は俺たちが解くものじゃないし」

 

「そうね。ヱリカ、あなたもこんなもの欲しくはないでしょう?」

 

「ええ、私にとっては黄金よりも、謎を解かれた時の犯人の顔の方がご褒美です。さっき、あんたが正体を暴かれそうになった時の、焦った顔……くふふ、本当に傑作でした」

 

 ヱリカも梨花の言葉に頷いた。意地悪な笑みを浮かべていたが、もう正体に迫ろうとはしなかった。

 

 その言葉を聞いたベアトリーチェは彼らの言動に困惑した。

 

 金とは現代における最強の魔法。どんな人間でも、その魔法の引力から逃れることはできない。

 自分が書いた筋書きのほとんどでも、金という魔力を使うことで共犯者を作り出す予定だった。

 それなのに、この3人は金などに興味はないという。

 

 価値が高くても、換金することや島から持ち出すことが難しい黄金を欲しがらないのは、まだ理解ができた。しかし、彼らは簡単に引き出せる10億円以上の現金を迷うそぶりもなく断るというのだ。

 きっと、右代宮家の大人達なら誰もがすぐさま首を縦に振るだろうに。

 

「……私も、貴方達と同じです。私の欲しいものは、金銭などで買えるものではなかったのです」

 

「喉から手が出るほど欲しい人もいるでしょうけれどね。そのお金は、貴女の名前で親族の方々に差し上げてちょうだい」

 

「……わかりました。あなたがそう仰るのなら」

 

 そこで、梨花が何かに思い当たったように言った。

 

「ヱリカ。あの謎を右代宮家の人たちが解いたらどうなるかしら?」

 

「はい、我が主。彼らは次期当主の座と、右代宮金蔵の遺産を争っています。そこで話し合いの争点になるのは黄金の取り分と、誰が次期当主になるのか、というところですが……あの晩餐会の後、彼らはある取り決めをしていました」

 

「それは?」

 

「遺産の分配を配慮する代わりに、碑文の謎を解けるかどうかに関わらず、蔵臼さんが当主になる。黄金が見つかった場合にはその半分が次期当主、つまり蔵臼さんに。その半分は兄弟全員で四等分だとか仰っていましたが……どうせ、大いに揉めることでしょうね」

 

「部外者なのに、よくそんなことまで聞かせてもらえたね」

 

「私、人の話を聞いておくのは得意なので」

 

 雄星の質問に得意げな顔で返すヱリカ。

 

「そう。それじゃ、彼らは今もここに入る方法を探しているってことね」

 

「はい、仰る通りです。彼らはお互いを牽制しあっていますから、誰か1人だけがここにくるようなことはきっとありません。全員で揃って来ることになるでしょう」

 

 ニヤリと笑って、続ける。

 

「そこに……もしもライフルがあれば、殺し合いに発展してもおかしくはありません。何せ、これだけの黄金と右代宮家の家督なんですから。人を殺めてでも手にしようとするかもしれませんね」

 

「つまり、この黄金をそのままにしておいたら、また何かの争いが起きるかもしれないってことか」

 

 ヱリカは口を挟んだ雄星に睨みを利かす。

 

「あんた、私の推理の邪魔をしないでください!……こほん。私が先ほど書庫で碑文の謎について確認していた頃、親族の方々も謎を解こうとしていました。彼らが今入ってきたら、私たちは口封じに殺されるかもしれませんね」

 

「……それは怖い。もう命の危険は懲り懲りだよ」

 

「ねぇ、ベアトリーチェ。この部屋の鍵を閉めることは出来る?」

 

「ええ。それがどうかしましたか?」

 

 小さく首を傾げるベアトリーチェに、梨花は悪戯を考える子供のような笑みを見せた。

 

「私に考えがあるわ」

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