雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第13話

 観光客の赤坂さんとは俺はその後会わなかった。

 

 元々俺が観光に同行するのは昨日だけだったし、今日来ているのかどうかもわからない。普段通り、学校に行き、授業を受けて家に帰った。

 家に帰った際に店番をしていた父親によると、村で起きていた何かの事件が解決したとかされたとかなんとか。まぁ、俺にはあまり関係のないことだろう。

 

 俺は赤坂さんを案内した次の日に、綿流しのお祭りのために古手神社の境内に来ていた。綿流しの祭りとはこの村唯一のお祭りだ。綿を川に流すから、綿流し。何のためにかはよく分からない。

 大それた祭りというわけでもないが、村の年寄りからすると堂々と皆で酒を飲む大義名分にはなるのだろう、親父たちは楽しそうにしている。

 

 俺は1週間に何度神社に来ればいいんだ、というくらい、何度もこの神社の長い階段を登っている。……とはいえ、父や村長なんかはそこそこの年にもかかわらず、死守同盟のために毎日集会場に集まっている。年寄りなのにご苦労なことだ。子供の俺もこれくらいは我慢することにする。

 

 俺は境内を散歩していた。境内にはいくつかのテントやゴザが設置されていて、村の自治体からお酒が振舞われていたりもする。

 

 今日はお祭りだが、境内にはそんなに人は集まっていない。ほとんどが死守同盟の集まりで見た人ばっかりだ。一応はこの村唯一の神社の、年に一度の行事のはずなんだが……この村には祭りで盛大に騒ぐような余裕はない。

 

 村民たちは抗議運動に忙しいのかもしれない……祭りの日の神社の境内よりも、昼間のダムの建設現場の前の方が人が多かったりして。

 

 俺がそんなことを考えていると、少し遠くのテントに座る男性が手を振って俺を呼んでいるのが見えた。見知った顔だった。

 

「おーい、こっちこっち。ユウくん、ちょっと座りなよ」

 

 俺は古手神社の神主さん、つまり梨花ちゃんの父親から誘われてテントに入った。自分の神社で祭りをしているというのに、ゆっくり休憩する余裕があるんだろうか。あるに違いない。何せ、特にイベントがあるわけでもなく、みんなで酒を飲んでいるだけなのだから。

 

 誘われるままに、差し出されたパイプ椅子に座る。すぐに神主さんにビールを注ぐ。悪いね、なんて言って神主さんはグラスを傾ける。注がれ慣れてそうだった。

 

「ユウくんは偉いねえ。うちの梨花は、ちょっと変わったことをするから困っちゃうんだ」

 

 神主さんはしみじみと俺に語りかけてくる。俺たちの話題と言えば、梨花ちゃんのことかこの村や神社についての歴史くらいだ。

 

「確かにちょっと変わってるところはありますけど。でも、梨花ちゃんはとっても賢い子です。不思議なことをやっても、それにはきっと何か深い意味があるんだと思いますよ」

 

 そうなのかなぁ、とかうーんとか、色々と考え込んでいる様子の神主さん。確かにこの人のことを優柔不断だと言う村人のことも分からないでもなかった。

 

 話すネタに気を遣って梨花ちゃんの話題を出してくれたのかもしれないが、変なことを言って本人に伝わっても面倒だ。話を変えることにした。

 

「ところで、綿流しのお祭りってどういう祭りなんですか?」

 

 何となく知ってる話ではあるが、試しに神主さんにも聞いてみることにする。俺の質問に、笑みを浮かべたまま何かを考える神主さん。

 

「そうだね……冬の間、お布団や毛布にお世話になるだろう?ユウくんも、寒いのがとっても苦手だって聞いてるよ」

 

「そうですね。冬はストーブをつけて、毛布を被ってギターを弾いてますよ」

 

 彼の言う通り、俺は寒さが苦手だ。理由は……俺が死んだ、あの日のことを思い出すから。彼は俺の言葉を半ば冗談だと思ったらしく、歯を見せて笑った。

 

「ははは、そうだよね。布団や毛布に感謝して、これまでの厄を布団の綿に込めて川に流すのが綿流しの由来なんだ」

 

「結構面白そうですけど……でも、あんまり来てる人は多くないんですよね。建設現場の周りにあれだけの人が集まれるなら、もう少し集まっても良さそうですけど」

 

「うーん、やっぱり今はダムのことがあるから、みんな気楽にお祭りっていうわけにはいかないんだろうね。僕は中立な立場だからダム戦争のことには何も言えないけど、やっぱりお祭りには人が来てくれた方が嬉しいねぇ」

 

 神主さんはどこか憂いを帯びた表情でそう言い、ビールを飲み切った。俺がビールを注ごうとすると、神主さんはそれを遮って指を振り、もういいと合図をした。

 

「僕はもうすぐ用事があるから行かないといけない。ごめんね、ユウくん。またお話ししよう。じゃあ、僕はこれで!」

 

 神主さんはそれだけ言い残して社務所の方へと帰ってしまった。俺は残ったジュースを飲み干した。初夏の風がジュースをすっかりぬるくしていた。喉に残る不快な甘さが不愉快な気持ちにさせる。……これならまだ、ビールの方がいい。

 

 父からはせっかくだから祭りに参加しろなんて言われたが、ほとんど来てるのは大人だ。遊ぶところもない。集会場では酔っ払った大人たちが屯しているだろうし、行っても揶揄われるだけで楽しくはないだろう。俺は途方に暮れた。

 

 そういえば、今日は梨花ちゃんを見かけていない。神社に来たらちらっと目にすることは良くあるのだが、今日はもう夜だし、家で寝てるのかもしれない。

 俺も早く家に帰って寝たいものだが。まだ親父たちを含めた年寄り連中の話は続きそうだった。

 

 さて、どこに行こうか?大人に面倒な絡みをされず、時間を潰せるところとなると、神社のさらに奥の展望台くらいしかない。あそこで夜風に当たり、歌でも歌えば、気持ちも晴れるかもしれない。

 

 行く前に、久しぶりにお参りでもすることにした。

 

 ポケットに入った小銭入れから5円玉を取り出して賽銭箱に入れる。お辞儀を2回、拍手を2回。そして最後に一礼を。

 前世ではお賽銭には気前の良い額を入れてたもんだが、今の俺にはお小遣いも大した額じゃないからな。オヤシロ様には5円くらいで満足して頂こう。ご縁がありますように、というやつだ。

 俺はオヤシロ様の祟りはあんまり信じてはいないが、だからと言ってお参りをしないわけじゃない。もしもいるなら、俺たちを守ってくれ、と祈りたい気持ちだ。

 

 神社へのお祈りは済んだ。俺は手持ち無沙汰に展望台まで歩いていくこととしたのだった。

 

 

 

 展望台までの道はちょっとした坂道だ。神社からの距離はそう遠くないが、木々に囲まれた坂をゆっくりと歩いていく。

 この坂道は冬には雪で閉ざされることもあって、年がら年中見れるというわけではない。

 

 俺が展望台まで行くのも久しぶりだ。高所で風が強いため、雪が溶けてすぐの春に行っても結構寒い。寒いのが嫌いな俺がここに登って美しい村の景色を見る時期は、だいたい夏だ。

 

 斜面を歩き、林を抜ける。俺はそこで、坂の上で誰かが会話をしているのに気付いた。

 別に疾しいことはないんだが、夜にこんなところで会話しているとなると男女の逢瀬かもしれない。この鄙びた村にも、カップルくらいいないこともないだろう。俺は一応、気を遣って展望台に行くのを遠慮した。

 

 片方は多分赤坂さんだった。もう一方は……シルエットから、髪が長く女性であるのは確かだと思うが……展望台の手すりに掴まっていて、いまいち見えない。

 

 もしかして、ダムの建設について秘密の話でもしているのか?女性でダムの抗議活動に関わるとなると、魅音ちゃんとかが、実は国土庁の偉い役人である赤坂さんに直談判しているのかもしれない。俺はつい、興味本位で近づいて話を聞くことにした。

 

「……ことも、なくなった。それでも、……って言うのか?」

 

「……じゃない。……、……にすぎないの」

 

 声の色から、なんだか深刻そうな話をしているようだと思った。神社の裏山に、強い風が吹きつけた。

 

 俺はますます興味を惹かれた。あまり趣味のいい行為ではないのはわかりつつも、少しずつ、斜面を上がっていった。バレたら怒られるかも、とも思うが、それはそれで公の場で秘密の話をするなよ、と言いたいところだ。

 

「……なんて、言っちゃダメだよ」

 

 赤坂さんが諭すように言った。

 

「……知らないのね。……のに」

 

 どうやら赤坂さんと話しているのは梨花ちゃんらしかった。冷酷な声で、赤坂さんに何かを告げている。

 

「まず来年、……」

 

 風がまた強く吹いた。思わず、目を閉じてしまうような、強い風だった。木の葉が舞い、夜の空に鳥か蝙蝠が飛んでいく。

 

 俺はその勢いに怯んだ。この話を聞かない方がいい、と。さっきお参りしたオヤシロ様が言っているようにも思えた。俺は話を聞かなかったことにして、斜面をゆっくりと降りた。

 

 好奇心は猫をも殺す。俺は猫じゃないが、殺されるのはごめんだ。あとで赤坂さんが降りてきたらお話でもしよう。

 

 斜面を降りていくと、恰幅の良い男が急いでこっちに来るのが分かった。そのシルエットから、以前出会ったある男を思い出した。

 遭遇は避けられない。俺は、遠くに見えるその人に会釈をした。

 

「こんばんは、お久しぶりですね。大石さん」

 

「これはこれは、牧野さんの息子さん。確か……雄星くんでしたか?」

 

 大袈裟にリアクションをする恰幅の良い男。彼は大石蔵人という名の、この辺りでは有名な警官だった。このあたりで揉み消されたりしがちな多くの犯罪を暴こうと全力な、不真面目そうで真面目な警察官だと聞いてる。

 以前魅音ちゃんを追って家に来たのも彼だった。

 

「そうです。いつもご迷惑をおかけしてますか?うちの両親は」

 

 俺の言葉に大石さんは大笑いした。

 

「なっはっは!そりゃあ、そうですよ。全く、困ったもんです。お利口な雄星くんを見習ってほしいもんだ」

 

「そんなにお急ぎで、何かこの先に用でもあるんですか?」

 

 俺の言葉に大石さんは目の色を変えた。顔は笑っているが、瞳は真剣そのもの。俺に対しても警戒心を抱いているように見える。

 

「ええ、ある人を探しているんです。神社の前でその人を見かけたという話がありましてね。しかし神社の境内にはいませんでしたので、この先にいるのかと」

 

 大石さんはしばらく話すと、急に黙った。そして、俺を睨みつけるような鋭い目で、ゆっくり口を開いた。

 

「……もしかして、雄星くん。君もこの先にいる人を知っていたり?」

 

「さあ。斜面を登ってるところで、遠目になんだか男女が逢瀬をしているようだったので、気を遣って戻ろうとしていましたよ。誰がいるんですか?」

 

 とぼけた顔の俺。大石さんは俺の言葉に声をあげて笑った。

 

「逢瀬!逢瀬ですか。小学生が言う言葉じゃあないですよ。ははは!」

 

 俺の問いには答えず、大石は黙って俺の横を通り過ぎようとした。

 

「すいませんね、急いでるもんですから。私は先を急ぎますよ!」

 

 俺は曲がりくねる斜面の先が見えない様子の大石さんに言葉をかけた。

 

「いや、急ぐ必要はないかもしれませんよ」

 

 俺の言葉に、大石さんは雰囲気を変えた。仕事中に子供に呼び止められていることに少し苛立っているのか、ムッとした顔で振り返る大石さん。

 

「まだ何か?急ぎの用なんですがね」

 

「降りてきたみたいですよ。2人」

 

 俺の声か、大石さんの笑い声が聞こえたのかもしれない。斜面の先からは2人の人影がこちらへ向かっていた。

 

 先に見えたのは赤坂さん。前に見た時のラフな観光客姿とは打って変わって、体に包帯を巻いて松葉杖をついている。今日何があったかはわからないが、やはりただの観光客じゃなかったらしい。

 

 赤坂さんは最初に大石さんの姿を認め、その次に後ろにいる俺を見て驚いた顔をした。

 その後ろには、小さな女の子。梨花ちゃんがいた。

 

「赤坂さん!本当にこんなところにいたんですね……!」

 

 大石さんは梨花ちゃんには目もくれず、赤坂さんの方へと走っていった。

 

「あんたは怪我してるんだから、診療所に帰らないと。行方不明と聞いて、肝を冷やしましたよ。ほら、肩を貸しますから。早く帰りましょう」

 

「す、すいません。ちょっといろいろあったもので……」

 

 赤坂さんは申し訳なさそうな顔で言った。なんでここにいるのがばれてるんだ、という驚きもありそうだった。この村の人間はいろんなものを見てるし、噂話が好きだからな。大石さんが赤坂さんを探そうと思って聞き込みをすればすぐに見つかるだろう。

 

 その一方で、梨花ちゃんは赤坂さんとは違う意味で衝撃を受けているように見えた。いつも余裕そうな梨花ちゃんが見せた、驚きに満ちたその顔はとても印象的だった。

 

「赤坂さん、こんなところで何をやっていたんですかあ?まさか、古手梨花さんとお話しするためにここまで来たわけじゃあないでしょう?」

 

 大石さんの言葉に、赤坂さんは深刻な顔で考え込んだ。梨花ちゃんは、不思議そうな顔で赤坂さんの横顔をじっと見つめていた。

 

「いえ……わかりました。すぐに診療所に帰ります。実は仕事が終わったことを妻に電話したくて散歩していたら、梨花ちゃんに会って……」

 

「なっはっは。それなら、神社で貸してもらうといいですよ!」

 

「それは少し恥ずかしいですよ。明日の朝に電話することにします。今日は診療所に帰らせていただきますよ」

 

 恥ずかしそうに笑う赤坂さん。仕事ってのが何のことだかは知らないが、この場でそれを問い詰めようとは思わない。

 

「そうしてください。誰かに誘拐されたかと思いましたよ」

 

「あはは……心配かけてすみません。2人も、色々とありがとう。短い間だったけど、お世話になったね」

 

 赤坂さんは大石さんと共に現れた俺に、少し驚いたらしかったが、すぐににこやかな顔に変わった。

 大石さんは赤坂さんを支えて、共に斜面を降りていった。俺は去っていく赤坂さんの背中を無言で見送った。どうやら赤坂さんは何かで怪我をしたが、病院が退屈なので散歩でもしていたらしい。それを大石さんが迎えに来るのが不思議だが……やはり、何らかの偉いさんなんだろうな。

 

 2人が消えた山の中には、俺と梨花ちゃんだけが残された。ひぐらしのなく声と、あとはぬるい風が木々を通り抜ける音だけが静かに聞こえた。

 

 ゆっくりと梨花ちゃんが俺の方に近づいてきた。そばで立ち止まり、俺を真っ直ぐ見据えた。

 

「……雄星。ボクたちの話を、どこまで聞いていたのですか?」

 

 梨花ちゃんは疑うような口調で俺を問い詰めた。

 俺は木にもたれかかって座ったまま、振り返ってその表情を確かめた。

 

 彼女は、祭りの日に友達と会ったにしては不自然なほど冷静な表情だった。何の話をしていたんだろうか?それは欠片でも聞かれたら問い詰めないといけないものなのだろうか?なんと言おうか?

 

 冷ややかな目で、しばらく黙ったままの俺を見る梨花ちゃんに、慌てて言い訳をした。

 

「いや。何も聞いてないよ」

 

 梨花ちゃんはそんなことはどうでもいいとばかりに、口を開いた。

 

「……本当に、ボクたちの話を聞いていなかったのですか?雄星が展望台の近くまで来ていたのは分かっていますです。……今更、隠す意味はありませんですよ」

 

 いつになく、真剣な顔だった。

 深刻な話をしてそうだとは思ったが、そこまで問い詰めるほどの話だったのか?中途半端に聞いて、帰ってきたのが悔やまれる。何も聞いていないか、全部しっかり聞いた上で責められる方がマシだった。

 

「ほんの少し聞こえた。だけど、話の内容がわかるほどは聞こえてない。そんなに大きな声で話してなかったろ?なんとかが意味ないとか、なんとかは言っちゃダメだよとか。そのくらいしか聞こえなかった」

 

 やっぱり聞いていたんじゃないか、とでも言わんばかりに、睨みつけるような目をする梨花ちゃん。誰にも聞かれたくない大事な話なら、もっと場所を選んで話してほしいものだ!

 

 梨花ちゃんは一歩俺に近づいた。長い睫毛をぱちぱち、と何度か瞬きして、下から俺の顔を覗き込んだ。……近くで見ても、可愛い。

 

「くすくす……。隠すと自分のためにならないわよ」

 

 無邪気な少女の化けの皮を脱いで、「もう1人の梨花ちゃん」が現れる。睨みつけるように俺を尋問する梨花ちゃん……しかし、顔が可愛いので、そんなに恐怖はない。怖いとすれば、俺のことを嫌いになってあとで村の老人たちに告げ口をされることくらいだ。

 

 ふと、ちょっとしたいたずら心が芽生えてきた。そんなに隠したい話って何なんだろうか。ちょっと話が聞こえたくらいでこんなに詰め寄られるほどのこと、中々ない。

 

 彼女が大人びた一面と、何かしらの事情を抱えてるのは知ってるが……ちょっと揶揄いたくなってきた。

 

「隠してないけど……そんなに言われると何を話してたのか気になってくるね。赤坂さんのことかな?」

 

 俺が茶化すように言うと、少し不愉快そうな顔をしてから梨花ちゃんは答えた。

 

「……全てを貴方に言う事はできないわ。そして、話すなら貴方が先。それでも良いのなら、ほんの少しだけ話してあげる」

 

 俺は考えた。別に大した隠し事はない。しかし、彼女の話というのは聞いて俺が危険になるようなものなのか?

 何もせず解放してくれるんだったら、それでいい。聞かなかったことにして日常生活を送れる方がハッピーだ。

 

「じゃあ、別に良い。好奇心に殺されたくはないね」

 

 俺は背を向けて斜面を降りようとした。

 

「待ちなさい」

 

 梨花ちゃんの冷徹な声がかけられた。

 

「あなたはそうでなくとも、私は貴方のことを知りたい。私は他のみんなのことはよく知ってるけど……貴方のことは、ほとんど知らないから。それに……貴方は私の道連れではなかったのかしら?」

 

 どこか、寂しげな目をして俺を見つめる梨花ちゃん。しかしその目の中には……かつての日の沙都子や、クラスで孤立していた時の悟史くんのような、どこかで助けを求めるような頼りなさが垣間見えた。

 

『地獄へ道連れ』か。確かにそんな事も言ったな。

 

「分かった。じゃあ、もう一回展望台まで行こうよ。せっかくなら、ロマンチックなとこで話そうぜ」

 

「……」

 

 梨花ちゃんは俺の軽口に対して不服そうにふん、と鼻を鳴らしたあと、黙って斜面を登り出した。沈黙は肯定の意味だろう。俺もそれについていくことにした。

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