雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第15話

 綿流しの日から数日後。その日は、沙都子の誕生日だった。

 

 未来を予言する梨花ちゃんから、根拠はわからないが、ダムの建設はそのうち中断されるということを俺は聞かされている。

 しかし村の風潮としてはやはりダムの建設は村の死活問題であり、依然北条家の村八分も解かれてはいなかった。

 

 北条家の村八分はダムがどうなるかに関係なく断行されるだろう。村八分は自分たちの利益のためにダムに賛成したからというよりも、村の──言い換えれば、御三家の──総意に反して、村人の結束を乱すようなことをしたから行われていることなのだ。

 

 今でも悟史くんと沙都子はクラスで少し浮いた存在だった。俺や梨花ちゃんといった、村の中でも知られた人物が仲良くするので邪険には扱えないが、親や大人たちからは見放されているので仲良くもしづらい。

 

 まだ小さい子達はその辺がわからないために普通に接しているが、小学2、3年を超え出した子達は周りの空気を読める。あるいは中学生になり、村の状況もわかり始めた子達はもっと扱いづらそうにしている。

 

 なんせ、村の中でも有数の権力を持つ魅音ちゃんですら、学校の外で表立って2人と喋ろうとしないのだ。心の中では2人のことを悪く思ってはないようだが、園崎の跡取りとして隙を見せられはしない。仕方ないことだ。

 

 そんなわけで、魅音ちゃんよりもしがらみが少ない俺は毎日のように2人と話すようにしている。俺が彼らに構うのに同情の気持ちがないとは言えない。でも2人とも面白いし、ほっとけない。本当にいい奴らだ。

 

「悟史くん、沙都子。飯でもくおーぜ」

 

 俺は両親に北条家と必要以上に表立ってつるむなと言い含められた結果、あまり目立たないところを選んで一緒にご飯を食べることも多かった。

 いちいち俺の姿を探して、俺が北条家と共にいたことを大人にチクるようなやつは少ない。そんなことがあれば、誰が言ったかすぐにわかるし、俺も流石にキレる。

 

 それに、子供達にも心の底から北条家が憎いなんてやつはいない。周りや大人に合わせているだけで、積極的に2人をいじめてやろうとは思っていないのだ。なので俺は、少しでもそういう空気をなくそうと普段から悟史くん、沙都子、そして梨花ちゃん、たまーに魅音ちゃんと昼飯を食べていた。

 

 今日は北条兄妹の2人だけだ。梨花ちゃんは珍しく違う子たちに誘われて違うグループでご飯を食べていた。魅音ちゃんは家ぐるみで付き合いのある上級生を含む数人と食べていた。

 

「そういえば、沙都子。今日誕生日だよね」

 

 俺が切り出した。プレゼントの候補がいくつかあって、家の雑貨屋で仕入れてきたものを見繕ってあった。どれがいいか聞くつもりだった。

 

「そうですわ。私に相応しい、素晴らしいプレゼントを用意することですわね!をーほっほっほ!」

 

 沙都子は良くぞ気づいてくれました、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。

 今日は悟史くんも元気がなくて休憩時間も寝ていたりしたから、誕生日であることに初めて気づいたのが俺だったのかもしれない。

 悟史くんは今気づいたような口ぶりで、

 

「あ、たしかにそうだね。沙都子、おめでとう」

 

「にーにー、言うのが遅いですわよ!」

 

 沙都子が不満そうに口を尖らせた。

 

「で、沙都子。なんか欲しいものとかないの?」

 

「欲しいものなんて、べつにありませんわ……みんながこうして一緒にいてくれるだけで、わたくしは満足ですのよ」

 

 先ほどプレゼントを用意するように、と言った手前、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめて、小さな声で沙都子はそう言った。照れ隠しなのか、黙って俺の弁当からミートボールを奪って咀嚼している。

 

「なんていい子なんだ、お前は……!」

 

 俺は健気なこの子を褒めてあげたかった。ご飯を飲み込んだ様子の沙都子に、後ろから優しくハグをした。悟史くんは偉いね、と頭をかき撫でた。

 おほほ、と恥ずかしそうに笑う沙都子に、俺は何をプレゼントするか悩むのであった。

 

「よし!今日の夜、2人の家に行ってもいいかな?プレゼントを用意するからさ!晩御飯にお邪魔しても良いかな?それとも、急に行ったら邪魔かな?」

 

 沙都子と悟史くんは顔を見合わせて考えている。2人とも、あまり乗り気じゃない顔をしていた。俺は慌てて遠慮を口にした。

 

「沙都子の誕生日だからな。沙都子があんまりだったら、家族水入らずで祝ってくれたらいいんだよ?プレゼントは学校が終わったら持ってくからさ」

 

「嫌というわけではないんですけれど…散らかっていますし、恥ずかしいですわ。それに、両親もいますし……」

 

 言いづらそうにそう返事を返した沙都子。多分、本当の理由は最後の部分。両親のことだ。悟史くんは何とも言えない顔で沙都子を見ていた。

 

 北条家の母親は離婚・再婚を繰り返しているのだと悟史くんから聞いていた。

 沙都子としても、友達に不仲な両親との関係を見られたり、あるいは両親に友達との関係を知られたりしたくないだろう。

 

 もしも本当に北条家にお邪魔するなら、もう少し状況がマシになってから行くことにしよう。

 

「そうだよな。晩御飯はご両親に聞いてみないとわかんないよな。今日は諦めて、また家に遊びに行く時は事前に伝えとくよ。学校が終わったら家に行くプレゼントだけ渡しに行くから、待っててくれよな」

 

「そうだ!プレゼントを渡すだけなのでしたら、私がユウの家に行ってもいいんですことよ?雑貨屋さんをやっているのですから、色んなおもちゃやゲームがありそうですわ!」

 

 沙都子はワクワクした顔で俺にそう言った。……沙都子が誰かの家に遊びに行くことは、ほぼあり得ない。この村では、俺や梨花ちゃん以外の誰もが、北条家の人間を家に入れたくないのだ。

 しかし、幸せそうな顔をしている沙都子を見れば、それを断ることなんて出来ない。

 

「少人数でやるゲームはそんなに仕入れてないけど、ボードゲームとかはいろいろあるよ。せっかくだったら悟史くんも来ない?俺の家、色々と本もあるからさ。おすすめの本を貸してあげるよ」

 

 悟史くんは、一瞬は嬉しそうな顔をするものの、すぐに浮かない顔になった。この様子では、多分来てくれないんだろう。

 

「むぅ……。僕も是非行きたいんだけど、用事を頼まれてるから。ごめんね?沙都子は誕生日だし、せっかくだったら行って来なよ」

 

 悟史くんは申し訳なさそうな顔でそう言った。沙都子はえ〜、と不満を口にする。

 

「にーにーの分まで、ユウの家を遊び尽くしますわよ?本当にいいんですの?」

 

「うん。ごめんね、ユウ。沙都子、僕の分まで楽しんできてよ。そうだ!沙都子に、ユウのおすすめの本を渡しておいてくれない?読み終わったらきっと返すからさ。その時に、感想でも言い合おうよ」

 

 取り繕ったように明るく振る舞う悟史くん。何か、家で辛いことでもあるのだろうか。いや、あるに違いない。無理矢理にでも、俺の家に遊びにきてもらって気晴らしをしてほしいとも思った。

 

「もちろんいいよ。沙都子、俺の本に悪戯しないでくれよな」

 

「そんなことしませんですのことよ!レディーを舐めないでほしいですわ!」

 

 そう食ってかかる沙都子。その変なお嬢様口調に、思わず笑みが溢れた。何笑ってるんですの!とさらに噛みついてくる。可愛い。

 

 こんな日常が続けばいいな、と。ぼんやりそう思った。

 

 

 

 

「ここがユウの家ですのね。すごく広そうですわ〜」

 

「沙都子、店の部分が広いだけで、雄星の部屋はきっと狭いのです。あまりハードルを上げすぎてガッカリしては、雄星がかわいそかわいそ、なのです」

 

 梨花ちゃんは慰めるような顔で背伸びして、俺の頭を撫でる。余計なお世話だ。

 

 俺と沙都子、梨花ちゃんは俺の家に一緒に来ていた。昼食を食べたあと、沙都子は隣の席の梨花ちゃんもこのささやかな誕生日会に誘って、3人で家に来ていた。

 

 正直なところ、俺の両親が沙都子を家に連れてくることにどんな反応をするのかはわからなかった。しかし、梨花ちゃんもいれば沙都子が悲しむような場面は減るはずだ。まさか梨花ちゃんの目の前で沙都子に厳しい態度をとることはないと思いたい。

 

 俺たちは店の中に入った。カウンターには誰もいない。キャッシャーには鍵をかけてるとはいえ、不用心が過ぎる。もちろん村に万引きをするような奴はいないが、観光客がゼロってわけでもないんだ。もう少し気をつけてほしい。

 

「お父さんは奥にいるみたいだな。先に声をかけてくるから、ちょっとだけ待っててね?すぐ戻るから」

 

「はーい、なのです」

 

「勿論ですわ」

 

 2人は頷いて、店頭に出ている変な商品を見て回り出した。俺は、店の奥へと進んでテレビでも見ているはずの父を探しに行った。

 

 父はリビングで座ってテレビを見ていた。うちは雛見沢には珍しく?カラーテレビがある。午後のワイドショーを見ながら、父はぼーっとお茶を飲んでいた。

 

「父さん。今日はちょっと友達が来ててさ。2階の俺の部屋に上がってもらうね?」

 

「おいおい、梨花ちゃまでねぇんか!こんな狭い家に呼んでええもんかぁ?」

 

 居間から俺らのことが見えたのか、あるいは単なる予想かはわからないが、父は来客の1人を言い当てた。

 梨花ちゃんが家に来ることは、父からすれば緊張こそすれど、歓迎するべきことだろう。では、沙都子はどうだろう。

 俺は意を決して、もう1人の名前を出した。

 

「それで、もう1人は沙都子っていう女の子なんだ。うちにあげていいかな」

 

「ん、んん。ああ、構わんね」

 

 沙都子の名前を出した時、少し父は眉間に皺を寄せた。

 なんせ、父も村八分を断行する園崎家とは関わりがある。北条の村八分に参加していないとなると、何かしらの苦言が呈される可能性もあった。

 

 俺の我儘で、沙都子や悟史くんと付き合っているのだ。突き上げが来ていてもおかしくない。

 

「ごめんね。迷惑をかけるかもしれないけど」

 

「あぁ、気にせんでええんね。ユウもその子も子供なんやからな!」

 

 父は俺の言葉に秘められた意味を悟った上で豪快に笑った。俺はその表情に深い安心感を抱いた。

 

 俺は店先に戻り、変わった商品を見てキャッキャと会話をしている2人を家に招き入れる。父は、その2人ともにいらっしゃい、と声をかけてくれた。もしも沙都子だけを無視していたら、俺は悲しかったし、両親のことを見損なっていただろう。父の優しさに感謝した。

 

「お邪魔しますのです」

 

「お邪魔いたしますわ!」

 

 2人は、いつもの独特の口調で挨拶をして、俺の部屋に上がり込んだ。

 

「へぇ、ここがユウの部屋ですのね。いろいろなものがあって面白そうですわ!」

 

「沙都子、変なものがないか探すのですよ。男の子の部屋には秘密の何かがあると相場が決まってるのです。きっと何か隠しているものがありますですよ!」

 

 沙都子と梨花ちゃんは俺の部屋に興味があるようで、見つけたものをああでもない、こうでもないと楽しそうに弄っていた。変なものはない。

 

 俺の部屋は6畳くらい。土地が余ってる田舎にしてはあんまり広くないが、自分の部屋があるだけ十分ありがたい。本棚には図書館で見つけられなかった本や、お気に入りの本を中古の本屋で買っておいたものが並んでいる。今でも数十冊以上は置いてあるだろう。中古の本屋なら、ベストセラーは投げ売りされてたりするからな。子供の財布には本当に助かる。

 

 小さな勉強机の下には収納式のワゴンが収められており、その中には各種ボードゲームやテーブルゲームが入っている。リバーシや将棋は自作だ。あんまり出来はよくないが、買うとまあまあ高いので自分で工夫して作った。

 

 少し恥ずかしいのは布団が出しっぱなしになっていることぐらいだった。2人はあまり気にしていないが、取り敢えず畳んで押し入れに突っ込んだ。

 

「そうだ。俺が最近思いついたゲームがあって。今自作中なんだけど……ちょっとやってみようか!」

 

 俺が前世やっていたゲームをそのままパクらせてもらったものがいくつかある。これを世間に流通させてしまうと盗作だが、個人的に遊ぶ分にはそれほど問題はないはず。

 

 引き出しから、ボードと塗装した小さなパチンコ玉を取り出す。これは「ヤバラス」というゲーム。前世でボードゲームカフェか何かでやったのを覚えていて、自分で作った。

 

「これは……五目並べみたいなものですの?」

 

 沙都子が聞く。

 

「そう!五目並べとは違って、4つ同じ色の玉を一列に並べればいいんだけど、もしも3つで揃ってしまったらその時点でそのプレイヤーが負けになるんだよね。だから、上手く数を調節して、自分の勝利を止めるためには相手が3つ揃えないといけない、みたいな状況を作り出すんだよ」

 

「ルールは覚えやすいですが、なんだか難しそうなのです」 

 

 さすがの梨花ちゃんもやったことないゲームらしい。

 俺の知ってる未来のボードゲームを全部梨花ちゃんが知ってるとは思えない。新鮮味があって良かった。

 

「やってみたらわかるよ。さあ、やってみよう!」

 

 

 

 俺たちは2、3時間ほどいろいろなボードゲームをやって楽しい時間を過ごした。

 なんでもそつなくこなす梨花ちゃんが初見のボードゲームに意外と手こずったり、沙都子が俺がお茶を汲みに行ってる間にイカサマをしようとしてバレたり。俺が談合をする2人にボコボコにされたり。

 

 俺もいい年をした大人のつもりが、子供に混じって遊ぶのに時間を忘れて夢中になっていた。しばらく遊び、一通りゲームも遊び終わったころだった。宴もたけなわ。盛り上がった誕生日会も、もうそろそろ終わるところだった。

 

 2人の家の門限が何時かはわからないが、少なくとも外が明るいうちに返さないといけない。2人とも逞しいが、女の子だし。

 

「いやぁ、2人とも結構やるなぁ。俺が作ったゲームなのに、2人が上手いから終盤は互角だったね」

 

「当然ですわ!」

 

「勝負なら、ボクたちも負けられないのですよ」

 

 えっへん、と胸を張って勝ち誇る梨花ちゃん。

 

「でも、梨花ちゃんが"スカル"で連続で失敗した時の、あの顔。面白かったな〜」

 

「いつも余裕な表情なだけに、すごく可愛らしかったですわね!」

 

 俺と沙都子が盛り上がる。梨花ちゃんはみー、と鳴いた。

 

 沙都子は、頭脳を使った計算をしないといけない難解なゲームは———イカサマやダーティプレイをしない限り———あまり得意ではないようだったが、その代わり読み合いや駆け引きのある心理戦は上手だった。

 

 梨花ちゃんは逆に、理屈っぽい動きをすることが多く、意表を突かれて窮地に陥ることがしばしばあった。2人の個性の違いが出ていてとても面白い。

 

「必ずリベンジしてやるのですよ」

 

 最後のゲームが終わり、梨花ちゃんは決意を秘めた表情で言った。いつもの無垢な子供を演じているときよりも真剣な顔だった。

 2人は今日の遊びも楽しんでくれたみたいだし、今度は他のみんなも呼んで、盛大に遊びたいところだ。

 

「もう遅くなってきたし、沙都子は家が遠いから送って行かないとだしな。一旦ゲームはお開きにして、甘いもんでも食べるか!」

 

「わ〜い、なのです」

 

「いいんですの?気が利きますわね」

 

 俺は一階に降りて、冷蔵庫に入っていたシューアイスを3つ皿に乗せた。一緒に、輸入食品店で購入した紅茶も人数分用意する。紅茶は前世からの趣味なのだが、両親の理解がなくあまりお高いものは買えないでいた。

 ティーバッグで作るお安い商品だが、そんなに味は悪くない。こうしたおもてなしの機会がたまにあるので、俺の家には大体何かしらのお菓子が用意されている。

 

 そうそう、プレゼントもだ。沙都子へのプレゼント候補として見繕っていたものを押入れに入れていた。そっちはラッピング袋に入れて、鞄にしまった。

 食べ物をお盆に載せて、2人の元へと持っていくことにした。

 

「まぁ、シュークリームですわ!にーにーにも食べさせてあげたかったですわね……」

 

 シュークリームじゃなくてシューアイスだが……どちらにせよ、こんな田舎の村では家で簡単には食べられないものだ。興宮に行かないと買えない。沙都子は歓喜の声と、そして兄への遠慮を口にした。

 

「ごめんね。これはシューアイスだから、持って帰るのは難しいな。でも、また悟史くんも俺の家に来てくれたらいいんだ。それにさ、沙都子は悟史くんの分まで楽しみにきたんだろ?」

 

 それもそうですわね、と沙都子は落ち着いた様子で答え、シューアイスを食べ始めた。

 梨花ちゃんも、凍ってカチカチのシューアイスをスプーンでちょっとずつ切り取って食べている。

 

 俺は少し溶けてから食べる派なので、先に悟史くんに貸す本を吟味しておく。

 悟史くんは賢いが、感想を話し合うなら1人で十分読めるものである必要があるだろう。俺は少し考えてから星新一の短編集を本棚から抜き取って、悟史くんに向けたメモ書きを挟んだ。

 

 

 3人で談笑しながらシューアイスと紅茶を堪能したあと、俺たちは家を出た。

 

 昼を過ぎて夕方に差し掛かる頃の空は、今日の太陽の最後の輝きを存分に示していた。ひぐらしがないている。夏の風物詩ってやつが、ひと足先に来ているらしい。今は6月末。これから暑さも本格的になっていく時期だ。

 

 2人の家はここから歩くとかなりの距離がある。とはいえ、みんなでおしゃべりしながらならそんなに長いとも思わない。

 

「それにしても、ボクはこれまで色んなゲームをやってきましたが、今日やったゲームはどれも初めてだったのですよ」

 

 梨花ちゃんが機嫌の良い様子で話しかけてきた。確かに、梨花ちゃんは時々退屈そうにしていることがある。展望台でした話などを踏まえると、一見小学生に見える齢でもその精神は長い時を生きているのだろう。であれば、いろんなことを経験済みのはず。学校の授業なんかは死ぬほど退屈に違いない。

 

「梨花が家でいろんなゲームをしてるとは、初耳ですわね」

 

「ボクはこう見えて、ゲームには詳しいのですよ」

 

 沙都子の言葉に対して、得意げな顔で梨花ちゃんが言う。

 

「それは良かったよ。図書館で本を読んでるとさ、海外の変わったゲームの知識とかもあるから。そういうのから着想を得てるだけだよ」

 

 新鮮な気持ちでゲームを遊んでもらえて俺も嬉しい。梨花ちゃんが俺の存在を許容しているのは、退屈な日常を変えてくれるから、というのもあるのかもしれない。

 

 しばらく歩いて、古手神社に至る大きな階段が見えてきた。梨花ちゃんは階段の前で立ち止まり、振り返った。

 

「では、ボクはここでお別れなのです。今日は楽しかったのです。また、明日!なのです」

 

 梨花ちゃんはニコニコと笑って俺たちに別れを告げた。俺たちもそれに応えた。

 

「今日の梨花は、とってもご機嫌でしたわね」

 

「沙都子は?楽しんでくれた?」

 

「ええ。次は完璧なトラップを用意して、度肝を抜いて差し上げますわっ!」

 

 沙都子はそう言って俺を指差した。俺がそれを微笑ましく思って頷くと、張り合ってこなかったのがつまらないのか、ぷい、とそっぽを向いてしまった。

 

「別に、家まで送ったりしなくても構いませんのよ。子供扱いされてるみたいで、ちょっと複雑ですわ」

 

「俺がみんなともう少し一緒にいたかっただけだよ。それに、沙都子は今日の主役だからさ。今日くらいは過保護でもいいんじゃないかな?」

 

「そ、そう言われると悪い気はしませんけれど……」

 

 沙都子はそう言って、恥ずかしそうに笑った。可愛い。

 

「楽しかったな。また、こんなふうに集まりたいね」

 

「ええ。今日はありがとうございましたわ」

 

 いつもの高笑いではなく、自然な笑顔が沙都子の顔に浮かんだ。

 

「こんなふうにお友達の家で遊べるのは、わたくしにとって当たり前のことではございませんし……」

 

「これからは当たり前のことにしよう。いつでも来てくれていいからね!」

 

 悲しいことを言う沙都子に、俺は胸を張って言う。

 

「そう言って頂けると嬉しいですわ。……でも、楽しい日が続くと、それが突然終わってしまわないか……何か悪いことが起こるんじゃないか、って不安で……こんなの、おかしいですわよね」

 

「いや。おかしくなんてないと思うよ。俺もたまに思うし。ま、そんなふうに思えたのなら、今日が楽しかったっていう何よりの証拠だよ!」

 

「ふふ、確かにそうですわね」

 

 話はそこでひと段落した。俺たちはほんの少ししんみりした、しかし暖かいムードのまま沙都子の家に向かった。

 

 しばらく歩いて、北条家に着いた。外からは電気がついているのがわかる。おそらく、ご両親共に在宅なのだろう。それを見た沙都子は嫌な顔をした。

 俺は家から持ってきた鞄に、プレゼントのぬいぐるみが入った可愛らしい袋を入れていた。それを頃合いを見て渡すつもりだった。

 

「沙都子、これはプレゼント。家で開けてみてね」

 

 俺は沙都子にカバンから引っ張り出したプレゼントの袋を渡した。

 手触りから明らかにもこもこした何かだとはわかるだろうが、楽しみを少しでもとっておいて欲しかったので、ラッピングに包んだ。

 袋の底の方には悟史くんに渡すための本も入っている。それはそれで、気づいて悟史くんに渡してくれるだろう。

 

「ありがとうございますわ!可愛がって差し上げましてよ」

 

 察しのいい沙都子としても、大体中身は想像がついているらしかった。

 

「じゃあ、また明日学校で!沙都子、今日は誕生日おめでとう!」

 

 沙都子は頷いて、感極まった笑顔を俺に向けた。そして、家族の待つ家へと帰っていった。

 

 北条家がこの村で村八分にされているのはダム建設の計画のせいだ。あんな良い子が除け者にされているなんて……やはり信じられないことだ。とっととダムの計画が終わって、彼らが許される機会が得られればいいのに。そんなことを考えながら、俺は家に帰った。

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