雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第18話

 雛見沢村には、しばらくの平穏が訪れた。

 

 梨花ちゃんから聞いた話では、これからまた色々と騒動が起こり、そして5年後の昭和58年には梨花ちゃんが死ぬという話だった。聞いてしばらくの間は、その惨劇に向けて、俺も村の中で怪しい人物や、危険な人物がいないかを個人的に探っていた。

 両親に村の情勢を聞いたり、興宮で何か起きていないかを事情通の魅音ちゃんに尋ねてみたりもした。ただ、何かあるとすればあの採石場での一件ぐらいで、それが梨花ちゃんに関わりがあるようにも思えなかった。

 

 梨花ちゃんの話が、ただの作り話の口から出まかせだったなら、こんなに嬉しいことはないんだが……そういうふうには、なかなか考えられなかった。

 

 梨花ちゃんの予言の後も、日々の暮らしは何も変わらない。暑い夏を過ぎ、涼し気な秋を過ぎ、雪降る冬を過ぎた。待てども待てども梨花ちゃんから何か言いつけられることもなかった。

 

 そんなこんなで、今年もまた綿流しの祭りの日が来た。

 

 俺は綿流しの祭りの実行委員会の中でもイベント部会とかいうところに参加して、いつもの弾き語りをした。昭和54年にもなれば、ちょうど某有名ロックバンドが人気だった。

 村人からもそろそろわかりやすい邦楽を歌えというようなプレッシャーを受けていたもので、当時のヒットソングを歌うことになった。

 

 普段音楽をやってるのは自己満足だが、綿流しの時に演奏をするのは俺の自己満足ではなく、祭りを盛り上げるための余興なのだ。盛り上がってもらうためなら、いくらでもみんなの好きな曲を弾こうというものだ。幸い、評判は悪くなかった。

 

「おーい、ユウ!何してるの?こっち来なよ!」

 

 先に行っていた魅音ちゃんが手を振って俺を呼んだ。考え込んでいた俺は、ふと気がつくと神社の境内の中、みんなと少し離れたところに立ち尽くしていた。

 

 自分の出番を終えたあとは大人たちに任せ、俺は魅音ちゃん、悟史くん、沙都子、梨花ちゃんという友人フルメンバーで祭りを楽しんでいた。綿流しの祭りには去年よりも人が沢山いた。それこそ、ダムの戦勝記念ということだろうか。

 

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしててね!」

 

 取り繕うようにそう言って、俺はみんなの輪の中に戻った。

 

「大丈夫?暑いし、体調悪いなら休憩したほうが……」

 

「大丈夫だよ。ほら、行こ?」

 

 悟史くんが心配して声をかけてくれる。

 今年の綿流しの祭りは、前日が悟史くんの誕生日だった。俺たちは学校でささやかながら誕生日会を開いた。珠玉の遊び道具を用意して盛大にお祝いをした。悟史くんはここ最近元気がないこともあったが、誕生日会を経て、祭りに来てくれるくらいには元気を出してくれた。

 

「ユウ、迷子にでもなっていたんですこと?わたくしが手を繋いで、はぐれないようにしてあげてもよろしくってよ?」

 

 俺を挑発するような口調で沙都子がそう言った。

 

「そうだなあ……じゃあ頼んだ!」

 

 俺は冗談混じりにそう言って、沙都子の手を握ってそばに寄り添った。もちろん恋人繋ぎだ。

 

「えっ、あっ!ちょ、ちょっと!急に距離が近すぎますですわよー!」

 

 俺の急な接近に照れ臭くなったのか、顔を赤くした沙都子が、握ってない方の手でぺちーん、と俺の頭をはたいた。悟史くんと魅音ちゃんは笑った。

 

「頭を叩かれて、かわいそかわいそなのです」

 

 梨花ちゃんはくすくす、と笑いながら俺の頭を撫でる。が、俺を見つめる目はどこか冷たかった。俺の精神年齢を知ってるから当然か。私の沙都子と何を手なんか繋いじゃってるのよ?と言いたげだ。

 

 梨花ちゃんが沙都子に対して、深い親愛を抱いてるのは俺にも分かる。俺が小さく頭を下げると、梨花ちゃんは「分かれば良いのよ」と、許してくれるような表情を見せた。

 

「じゃあ次はさ、あそこに行ってみようか?」

 

 話が一段落したところで、魅音ちゃんの提案でまた新たな出店へと向かうことになった。俺たちはそこで、ある男性と出会った。

 

「富竹さん!祭りに来るなんて、珍しいですね」

 

「おお、こんにちは。今日は勢ぞろいだね!」

 

 彼は富竹ジロウさん。自称フリーのカメラマンの彼は、その職業に似合わない筋骨隆々の大男だ。緑色のキャップを後ろ向きに被り、夏にはいつもタンクトップ姿に登山用のズボンを履いている。服からはみ出さんばかりの筋肉は、まるでオフの日の軍人のような威圧感を醸し出している。

 

 とても穏やかな人で、俺も何度か会ったことがあった。昔から一年に数度はこの村に来ていたらしいが、ダムのことで村がピリついている頃にはあまり来ていなかった。最近になってまた雛見沢を訪れるようになったとのことだった。

 

「最近はこの村も落ち着いてきましたからね。富竹さんが雛見沢で良い写真を撮って、何かのコンテストで入賞でもしてくれればきっと観光客も増えるはず。頑張って良い写真撮ってくださいね?」

 

「まずはメジャーデビューするところから、なのです」

 

 梨花ちゃんが厳しいことを言う。カメラマンってメジャーデビューとかあるのか?知らないが、富竹さんは痛いところを突かれたというように苦笑した。

 

「あ、ははは……努力するよ」

 

 実際のところ、ダム建設の危機を免れた雛見沢の有力者たちは何とかしてここを観光地や避暑地として移住者・観光客を増やそうと躍起になっていた。

 空き地に別荘地を作ることで、この辺の土地に価値が生まれれば、村人の持っている土地の値段も上がる。ちょっと山奥の方に行けばそこらじゅうにある崩壊寸前の空き家だって、リフォームすれば宿泊施設にでもなるだろう。この村が長く繁栄していくためには、外部からのお客さんを呼び込まないといけないのだ。

 

「あ!もうすぐ梨花のお母様の奉納演舞が始まりますわよ!みんな、行きましょう!」

 

 富竹さんと話している最中、沙都子が声を上げた。古手家は代々生まれた女の子を巫女とする習わしがあるとかなんとかで、梨花ちゃんの母は今日の綿流しの祭りでも儀式をすることになっていた。

 

「もうそんな時間なんだね。じゃあ、僕も見に行こうかな!」

 

 富竹さんと俺たちは神社の境内で人々が集まっているところへと向かった。ちょうどその時、祭りのために特設された小さな舞台の上に梨花ちゃんのお母さんが入ってくるところだった。巫女服を着て祭具を持ち、堂々と歩く姿はどこか神々しかった。

 

 俺たちは友人の母親が神聖な儀式をする様を、固唾を飲んで見守っていた。

 梨花ちゃんのお母さんは、太鼓の音に合わせてゆらゆらと舞い踊り、鍬のような祭具で布団を叩く。中からは綿が溢れた。

 

「梨花ちゃんも、大人になったらあれをやるんだろ?結構大変そうだね」

 

 祭事が一段落した頃、俺はそばにいた梨花ちゃんにそう尋ねた。

 

「……もうそのうち、やることになるのです。でも、長い間やってきましたですから、きっと上手くやれるはずなのですよ」

 

 俺にしか聞こえないくらいの声で、そう答えてくれた。まだ小学生なのに、儀式の練習をしてるのか。良い家に生まれてくるのも楽じゃないな。俺は呑気に梨花ちゃんの言ったことを受け止めた……いや。よく考えてみれば、梨花ちゃんの未来視だか、逆行だかなんだかで経験があるってことか。

 

 俺たちはその後も色々と遊んだ。そのうちに、自然と解散する流れになって、俺たちは互いに別れを告げて神社を後にすることにした。梨花ちゃんは家がすぐそばなので、もういない。俺、魅音ちゃん、悟史くん、沙都子の4人で階段を降りていた。

 

「今日も楽しかったねえ。ずっとこんな日々が続くといいねえ」

 

「なに感傷的になってんのさ。私もみんなも、しばらくはここを出て行ったりしないよ。もう寂しくなって来ちゃった?」

 

 魅音ちゃんが俺を揶揄うように言う。

 

「そうだね。魅音ちゃんは中学受験とかはしなそうだしね」

 

「何それ!私のこと、バカだって言いたいわけ?」

 

 ちょっとムッとした顔で言う。そういう意味じゃなく、雛見沢分校を愛しているだろうし、そもそも園崎本家から通える私立中学校なんてないだろう、と思ったのだが。

 

「いやでも、魅音ちゃんなら金の力で何とか……」

 

「ばかやろーっ!そんなことするかーっ!」

 

 俺の冗談に、魅音ちゃんは大袈裟なリアクションで返してくれた。俺たちは笑った。

 

 階段を降りてすぐ、北条兄妹とは別れた。寂しそうな顔をする沙都子と、それを宥める悟史くん。いつもの光景だった。

 少し歩いて、魅音ちゃんとも別れる。俺は1人、暗くなりつつある田んぼ道を歩いた。間抜けな、カエルの鳴き声がこだましていた。

 カエルは夜と雨が降る前に鳴く。静寂を埋めてくれているのは助かるが、雨に降られるのはごめんだ。急いで家に帰って、風呂に入って寝ることにした。

 

 次の日には、恐ろしいニュースが……祭りの当日にダムの建設現場で殺人事件が起こっており、現場監督の男性の遺体がバラバラに損壊されて遺棄されたのだという知らせが村中を駆け巡っていた。

 

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