雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
祭りの次の日の学校は騒然としていた。
まさか、この狭い村で残虐な殺人事件が起きるなんて。狭い村のコミュニティでは村の外で起きた事件なんて広まらないが、村の中で起きたちょっとした諍いや不和はすぐに広まる。それが殺人事件であれば、なおさらだ。
村の中には殺害された現場監督のことを知っている人間も沢山いる。魅音ちゃんもその1人だった。
俺と魅音ちゃん、そして俺の後ろの席の梨花ちゃんと沙都子もその話をしていた。梨花ちゃんは少しも動じていないような、平気な顔で昨日のことを話す。沙都子は気丈に振る舞っているが、話を聞くその顔からは恐怖が滲み出ている。一方、悟史くんは自分の席で静かに本を読んでいた。全く、マイペースなやつだ。
「うーん、殺されたってなると流石に気の毒なんだけどさ。あのおっさん、本当に嫌なやつだったからなあ」
魅音ちゃんは微妙な顔でそう言った。実際、その現場監督には俺も会ったことがある。
悪い人間ではないのかもしれないが、少なくとも両親が死守同盟に入っている俺は敵認定されており、凄く高圧的な態度を取られたのを覚えていた。
「普段がどんな人だったかはわからないけど、建設現場で酒盛りしてた人たちと口論になったんでしょ?まさか殺すまでする奴がいるだなんて思わなかっただろうね」
「主犯格の1人が行方不明なんだってね。みんな、本当に気をつけなよ。特に、沙都子や梨花ちゃんは家もちょっと遠いし、ちっさいんだから。変な人がいたらすぐ逃げなさいよ。おじさんとの約束!」
魅音ちゃんは低学年の2人にそう言う。いつもは勝気な沙都子も、殺人犯がいるとなれば怯えた顔をしていた。梨花ちゃんは……別に気にしてはいないようだった。かつて聞いたように、これが起こることを知っていたんだろう。
その余裕そうな顔を見てると、俺たちが必要以上に気を張る必要もなさそうに思えた。何か俺たちに危機が迫っているなら、きっと教えてくれるだろうし。
「とはいえ、魅音ちゃんも女の子だしな。誰か変な奴と出くわしても逃げた方がいいよ」
俺がそう補足する。まるで強い大人の女性みたいに振る舞ってはいるが、魅音ちゃんもただの小学生の女の子だ。十分に気を付けるべきだ。
……とはいえ、人を殺せる人間を相手に男女や年齢はあんまり関係ないだろう。もし出くわしたら、俺や俺の父親だとしても、すぐに逃げなきゃピッケルで頭をかち割られて死ぬだろう。
「う、うん」
魅音ちゃんはどこか照れくさそうに頷いた。
「俺は今日は親父と一緒に興宮の商店街に買い出しに行ってくるんだけどさ。みんな、今日はあんまり外に出ない方がいいよ。突発的な犯行なんだったら、警察が全力で探せばすぐ見つかるだろうからさ。今日は家でゆっくりしようぜ」
俺の言葉にみんな頷く。この村から興宮に出ようと思ったら、この村にしては人通りの少なくない興宮への道路を行かなくてはならない。村人からの目撃情報はないらしいので、山の方に潜伏しているのだろう、と村の人たちは推測していた。
というところでチャイムが鳴る。ざわざわとしていたクラスで、席を立っていた子たちが自らの席に戻った。
「さ、みなさん。授業を始めますよ〜!」
知恵先生が入ってきて、教科書を教卓に置いた。普段と同じように振る舞ってはいるが、先生も動揺しているように見えた。そして、それを悟られないように過剰に明るく振る舞ってるようだ。
「みなさん。既に知っている人も多いかもしれませんが、この近くの場所で、昨日ある事件が発生しました。今日は学校が終わったら、居残って遊ぶことはできません。集団下校をします。勝手に帰らないように!」
俺たちは静まり返っていた。普段であれば、学校終わりにグラウンドで遊ぶ子も少なくはないが、子供達からは不満の声の一つも出ない。クラス中が、昨日の事件の顛末を知っているからだ。
上司だったはずの人の体を、バラして捨てられる奴が村に潜伏しているかもしれないのだから、恐怖するのも当然のことである。
「きっとすぐに犯人も見つかって、元に戻りますから。心配しなくて大丈夫ですよ。さ、授業を始めましょう。委員長」
「きりーつ、れーい」
魅音ちゃんが言う。彼女はこの年でもうこの小中学校の委員長を務めていた。
雛見沢分校の授業はなかなかに自由なスタイルだ。放課後の勉強会のように仲のいい子たちで席をくっつけたりして、互いに教え合ったり、わからないところがあれば先生に質問をしたりする。
実のところ、先生はほとんど小学生低学年の子どもたちを優先して教えるため、中学生は問題集をやりこんで分からないところだけ質問するというやり方になっている。
俺は基本的には自習をすることが多い。俺よりも小さい子達が多くいるこのクラスでは、先生の手を煩わせないように1人で学習する。
といっても、前世は塾で講師のバイトをしていた身だ。地方とはいえ国公立の大学を出ている……4年目で死んだから卒業はしてないけど。とにかく、頭は悪い方じゃない。今更小学生の勉強をやってられないので、他の子達とはちょっと変わった問題集を解いたりしている。
最初こそ知恵先生には怒られたり変な目で見られたものだが、今では俺が家でめちゃくちゃ予習をしているということになっていて、ある程度の自由が許されている。
自分の勉強は一旦置いておいて、最近の俺は先生気取りで他の子供達の勉強を見ていた。先生としても、1人で全ての子供達を教えるのは無理に近い。俺が他の子達に教えることは、むしろ推奨されていた。中には高校受験を控える子が俺に質問をしてくれることすらあった。俺はそれを嬉しく思った。
「ここの空欄に入る言葉を考えるためには、ここの前後で何が変わってるか考えないといけないよね。空欄の前が、このテーマについて否定的なことを言ってるのに、後では肯定的な内容になってる。ってことは、この空欄には逆説の言葉である"しかし"が入る、ってわけ!」
教室にお互いに教え合ったりする子たちは多くいた。その中でも俺に質問をしたいと言ってくれている子は中学生を中心にそこそこいて、俺は前世を思い出して懐かしくなった。
俺にある問題について聞きに来た子供が、頷いてから自分の席に帰って行った。俺と梨花ちゃんと席をくっつけていた沙都子が溜息をついた。
「ユウはなんでそんなに勉強出来るんですの?こんなの退屈なだけですわ〜!」
沙都子がそう言って机に突っ伏していた。算数か何かをやっているようだったが、もうやる気がなくて投げ出してしまっていた。
「俺はほんの少し早熟なだけだよ。それよりも、沙都子。俺が教えるから一緒に頑張ろうぜ。俺も将来沙都子や梨花ちゃんと同じ学校に通いたいしさ。やってたら、意外と面白くなってくるもんだよ」
「沙都子、ふぁいと、おー!なのです。ボクもみんなと同じ学校に行くために、お勉強頑張るのですよ?」
梨花ちゃんが沙都子に言う。梨花ちゃんは多分、小学校の授業内容はほぼ完璧にわかっている。でも、意外と中学生の学習内容だと全く知らないこともあったりするのが不思議だ。
……いや、それは冷静に考えれば当然なんだけど。もう1人の梨花ちゃんを見てしまうと、彼女は何でも知っていそうに思えてしまうのだ。きっと、それも梨花ちゃんの事情が関係してるんだろう。
「意外とこういう勉強って、役に立ったりするもんなんだよ。たとえば、算数とか理科みたいな内容をもっとわかるようになれば、沙都子は今よりももっとすごいトラップを作ったり出来ると思うよ?」
「勉強しなくたって、私のトラップはいつでも進化中ですわっ!」
沙都子が少し大きい声でそう言った。知恵先生が即座に反応して、沙都子の方を向く。
「こら、そこ。勉強を教え合うのはいいですが、あんまりおしゃべりはしちゃいけませんよ?」
沙都子は注意されて少し恥ずかしそうにしながら、もう一度算数の問題集に向き直るのだった。20歳そこそこのつもりなのに、未だに先生に怒られるのはちょっと恥ずかしい。怒られてからは、俺も真面目に勉強に取り組んだ。
忙しくしていると時間が過ぎるのもすぐに感じられる。あっという間に授業が終わり、俺たちは帰路についた。
「嫌な事件だよね。……確か、遺体がまだ、一部見つかってないんでしょ?」
「らしいね。ま、大方どっかに捨ててるんだろうけど。道端に腕が転がってたら、流石の私でも腰抜かしちゃうねっ!」
魅音ちゃんはそう言って笑い飛ばす。ちょっと不謹慎だけど、遺体を何処かに捨ててるというのは事実だろう。
「魅音。人が亡くなってるんだし、あんまり笑うところじゃないよ。沙都子も怖がってるし……やめてあげて」
悟史くんが冷静に言う。魅音ちゃんは申し訳なさそうな顔になって俯いた。
「ご、ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだけど……」
和ませようとしてくれたのは分かるが、ちょっとデリカシーはなかったかもしれない。とはいえ、魅音ちゃんは悪くない。自分自身、こんな事件が身近に起きるなんて想像したこともない。どんな気持ちでこれを受け入れればいいのか、整理がつかないのだ。
「魅音さんの気持ちもわかりますわ。……怖いからこそ、笑って誤魔化したくなるんですの。だって、普通の人殺しだったら、こんなこと致しませんわ。わざわざ、バラバラにするなんて……」
「あーやめやめ!この話はやめよう。どうせ明日になったら犯人も逮捕されて、普段通りの日常に戻るよ。現場監督のおっちゃんには悪いけどさ、俺らが危ない目に遭わなくて良かったって思うしかないよ」
悲痛な顔で事件のことについて話すみんなの雰囲気を変えるために、俺は沙都子の言葉を遮って言った。
「その通りなのです。みんなのことは、オヤシロ様が見守ってくれているのです。こういう時は、平常心でいるのが一番大切なのですよ?」
今まで静かだった梨花ちゃんが、ゆっくりとした口調でそう言った。彼女はそんなことを言うだけあって、落ち着き払っている。それは多分、この事件について俺たちよりも詳しく知っているから、という理由があるんだろう。
そんな彼女が俺たちに平常心でいろ、と言うからには、本当に俺たちに危険が及ぶことはないに違いない。
周りにいた子供達にも俺たちの会話が伝わったのか、恐怖のために落ち着きがなかったみんなは、少し冷静さを取り戻した気がした。
1人、また1人と家に帰って行き、次第に子供達の集団からは騒がしさがなくなっていった。
「じゃあ、おれんちこっちだから。みんな、気をつけろよなー」
俺は一緒に帰っていた子供達に一言かけて、家に着いた。今日はこれから、沙都子のプレゼント探しのためにも親父と興宮だ。
俺は服を着替えて、父を呼びに行った。