雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第20話

 

 俺と親父は、いつものワゴン車に乗って興宮へ向かっていた。俺は親父から仕入れのセンスを認められた結果、少なくとも仕入れの2回に1回、2週に一度くらいは興宮の商店街で物を選ぶ機会があった。

 

「ユウ、事件の話は知っとるんね?」

 

 親父は物憂げな顔だった。父は今日昼過ぎまで店番をしていたが、俺が帰ってきた時には安心した顔をしていた。両親は俺を天才少年と持ち上げてくれる。だが、どれだけ俺が早熟だろうが、イカれた殺人犯に狙われればどうにもならない。父は、仕入れが終わった後園崎家で働く母親を迎えに行くとまで言っていた。

 

「うん。ダムの現場監督が……って奴でしょ。学校もその話で持ちきりだったよ」

 

「まさか、祭りの日にこんなことが起きるっちゅうんやからなあ。しかも、まだ犯人は見つかっとらんしなあ。ユウも用心せなあいかんよ」

 

「そうだね。これから、みんなと待ち合わせて学校に行こうなんて話にもなったよ。犯人もすぐ見つかるとは思うんだけどね」

 

 ここは興宮の街。殺人犯が歩いてここまで来ている可能性もなくはないと言う親父だったが、まさか商店街で新たな殺人を起こすわけない、と説得して俺は1人で店を回ることにした。

 うちの店は生活用品や食料品も少しは扱っていて、そうした商品の仕入れに俺が着いていってもほとんどやることがないので暇なのだ。

 

 沙都子の誕生日ももうすぐに迫っていた。

 最近の俺は友人たちの誕生日を祝う際には、可愛らしい小物や雑貨を贈ることが多かった。親父は店の宣伝になると言って、そうした小物を買うお金を多少負担してくれたりもする。俺としてもいい物を探すモチベーションになった。

 

 いつもの雑貨店に赴き、見て回る。小さいぬいぐるみはもうあげたことがあるから、何か違うものの方がいいだろうな。とか、色々と考えながら店内を見て回る。

 

 インテリアやアンティークなどが置いているような雑貨店の雰囲気は、前世と変わらない。若者向けの店だとそうでもないんだろうが、むしろレトロな雑貨がたくさん置いてあって、俺としては見ていて飽きない、とても面白い品揃えだ。

 個人的な趣味としては、ティーカップやティーポットみたいな洋食器を集めたりしたいものだが……ちょっとお高いので見るだけにとどめる。

 

 悩んだ結果、沙都子にあげるプレゼントは豪華なカチューシャにした。沙都子は動き回るタイプなので普段からつけるには邪魔かもしれないが、ちょっと特別な日にはエレガントなカチューシャをつける機会もあるだろう。

 身に付けるものを本人に好みを聞かずに選ぶのはちょっと気が引けるが、そんなに奇抜なデザインでもないし、きっと大丈夫なはず。

 

 俺は商品を購入して店を出た。親父が用事を終えるまでは少しまだ時間がある。

 

 商店街を出て、街をぶらぶらと歩くことにした。この世界にはスマートフォンやインターネットはない。面白そうな店は誰かに聞いたり、自分の足で探したりしないと見つからない……しかし歩いても見つかるのはちょっと変わったレストランくらいのものだった。

 

 一旦散策をやめて商店街へと戻ろうとした時だった。

 目の前の歩道を歩く少女の後ろ姿が、なんだか俺の友達に似ていることに気づいた。とはいえ、後ろ姿だけで判断して声をかけると、間違っていた時に恥ずかしい。

 

 彼女の行く方向もどうせ商店街の行き道だし、もうちょっと観察してみて、信号で止まったら顔を見て判断するか。

 そう考えて、少しの間その子についていくことにした。もしも本当に俺の友人その人だったら、話しかけようと思ったからだ。

 

 彼女に着いて行くと、あることが起こった。

 ぼーっとしていたのか、違法駐車されているバイクにぶつかりそうなのだ。彼女は華奢な女の子だが、気付かずにぶつかってしまったので勢いがあったらしい。衝撃でバイクがゆっくりと傾く。

 一台が倒れると、そばに止めてある2台のバイクもそのままドミノ倒しになりそうだ。その子は倒したことに気付いて、あ!と口から声が漏れたのが聞こえた。

 

「危ないっ!」

 

 俺もそれに気付いて、急いで倒れそうになっているバイクのグラブバーを掴む。その子も反応して、倒れゆくバイクを抑える。

 

 倒れたバイクを立て直すのは子供の力では難しいが、まだ倒れる最中だったのが幸いした。俺たちはバイクの車体を持ち上げ、元に戻した。

 危なかった。この一台が倒れたら、そのままドミノ倒しになっていたかも。その音に持ち主が気付いたりして、良くないことに巻き込まれていた可能性だってある。俺はホッとした心地でその少女に向き直った。

 

「ありがとうございます。おかげで倒さずにすみました……って、あれ?」

 

 少女はいつにない恭しい口調で、俺にお礼を言った。やはり、その顔は俺の友人に酷似していた。というか、本人だった。

 

「魅音ちゃん!ちゃんと前見て歩かないと。もしも倒れてたら、怖いお兄さんに絡まれてるとこだったよ。きっと、あそこの人たちのバイクなんじゃない?」

 

 俺は近くの店の入り口でたむろする3人の男を顎で指した。昔ながらのリーゼントで、お喋りに夢中で下品な笑い声をあげていた。もしも倒れていたら、それに気づいてこちらに向かってきていたに違いない。

 

「そ、そうだね。助けてくれて、ほんと助かったよー!」

 

 興宮も園崎家は多大な影響力を持つのだが、ああいうチンピラやヤンキー崩れにはいまいちその威光はわからないだろう。ちょっとした揉め事になっていたかもしれない。そんな未来が想像つくのか、大人顔負けの胆力を持つ魅音ちゃんも慌てた顔をしていた。

 

「なんだか今日は可愛らしい雰囲気だね。その髪型も似合ってるよ。魅音ちゃんは何しに興宮に来たの?」

 

「あ、ははは……えっと、そっちこそ、何してるの?」

 

 普段とは違って髪の毛を下ろしており、これはこれで可憐な雰囲気だ。

 だが、普段とは少し様子が違うような気もした。何か、探り探り会話をしているような感じだ。

 

「あぁ、俺は親父の買い出しだよ」

 

「私は興宮に住んでる親戚のおじさんのところで用事だったんだけど、興宮で会うなんて、珍しいね!」

 

 魅音ちゃんは気を取り直してそう言う。確かに、魅音ちゃんが村の外に出ている姿を見るのは初めてかもしれない。

 

「そうだねぇ。今日はあの事件のことがあるから、忙しいのかと思ってたよ。意外とそうでもない?いや、園崎家で実はもう犯人を見つけてたりするのかな?」

 

「あ、ははは。どうだろうね。聞いてみないとわかんないね……」

 

 魅音ちゃんにしては歯切れが悪かった。やはり、何か事情があるのか、このまま長話をしたくないような雰囲気だ。俺もそんなに時間に余裕がある訳でもない。あまり引き留めずに、俺も父の元に戻ろうと決めた。

 

「用事中に引き留めてごめんね?また明日学校で!」

 

「う、うん。また明日!」

 

 早歩きで魅音ちゃんはどこかへ歩いていった。俺も父が待つ商店街へと歩き出した。今日の魅音ちゃんはなんだか不思議な感じだった。いつもの快活な雰囲気ではなく、大人しかった。他所行きの魅音ちゃんはいつもあんな感じなんだろうか?あのしおらしい感じは、あれはあれで可愛い。

 

 

 

 俺たちは雛見沢に帰る車の中だった。父は今回もいろいろな物を仕入れており、求めたものが意外と安かったとかなんとかで機嫌が良かった。

 

「ユウ、可愛らしいもんもっとるなあ」

 

 父は俺が鞄から出したカチューシャを見て、ニコニコとした顔で話しかけてくる。

 

「これは俺の友達の誕生日プレゼントだよ」

 

「すったらんと……梨花ちゃまにあげるんかい?」

 

「梨花ちゃんの誕生日は8月だよ。去年も夏休みに遠くまで買いに行ったでしょう?これは沙都子の分。去年家に来てた子だよ」

 

「あ、ああ。北条のとこのちっこい子かあ」

 

 沙都子の名前を出した途端、父の顔は難しい表情に変わる。

 

「……沙都子にあげるプレゼントは家のお金からは出せないかな?それなら、俺のお小遣いから払うけど」

 

 俺の言葉に、父は考え込んだ。車にはカーステレオの音と、少しだけ空いた窓から差し込む風の音だけが聞こえた。しばらくしてから、父は観念したように口を開いた。それはまるで、心に秘めた決心を口にするようだった。

 

「どこの家だとか、誰の子供だとか、ユウはそんなもん気にせんでええ。……北条は好かんけど、子供に罪はねえからなあ」

 

 俺の父は、言いづらそうな顔だったが、確かにそう言った。父は、北条家の両親は別にしても、悟史くんと沙都子と俺が仲良くする分には問題ない、と。そう言ったのだ。

 

「ほんと?」

 

「ああ、本当や。誰も聞いてねえから、正直に言う。お前がお魎さんに直談判しに行ったぁゆうのは、聞いた。肝が冷えたもんやが、俺も子供たちまでダム戦争の犠牲になる必要はねえと思うんね。あれはもう決着が付いたことや。北条が謝りさえすれば、お魎さんもきっとわかってくれるはずや」

 

「父さん……本当に、ありがとう」

 

「ああ、気にせんでいいんね、こんなもん。今でこそ北条は裏切り者扱いされとるんが、元々俺らは同じ村でやってきたんね。それにあの子らは俺の息子の友達やからなあ、それなら俺の子供みたいなもんやんね」

 

 北条の言い分は当時の父にもある程度理解は出来た。しかし、ダム賛成派が村に増えれば、特に村の外にコネもないうちは困る。何より、お世話になっている園崎家がダム反対派の元締めなのだから、まさか父がそれを許容することはできない。

 北条の父は乱暴で協調性がなく、園崎家を中心とする村に対しても敬意を払わないと父は言う。しかし、子供たちは違う。父は苦しそうな顔で語った。村人も子供達を好き好んで仲間はずれにしているわけではないわけだ。

 

「謝罪もなくいきなり元通りいうわけにはいかんけどな、子供らのことについては、俺らも少しずつお魎さんに話を通していくつもりや。ユウ、安心せえ」

 

 父は不器用な笑みでそう言った。

 夏の日差しが車内に差し込む。朴訥な雰囲気の坊主頭に、汗が浮かんできらりと光った。そんな、お世辞にもスマートだとは言えない親父のことを、俺は今まで人生で見た中で、一番格好いい人間だと思った。

 

 梨花ちゃんの言う通りに、すでに事件は起こってしまった。現場監督は殺され、犯人もまだ見つかってはいない。しかし、村の雰囲気はこれから少しずついい方向に向かっていけるような気がした。

 梨花ちゃんが言っていたように、惨劇がこれから何度も起こりそうには俺には思えなかった。

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