雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第21話

 今年の沙都子の誕生日会もなかなか楽しいものだった。

 

 俺たちは当初、放課後に誕生日パーティーを開こうとしたが、バラバラ殺人の件がまだ解決していないので居残りはできなかった。そのため、古手神社の集会場でパーティーは開かれた。

 

 今は死守同盟もそれほど活発には活動しておらず、いるのは梨花ちゃんを崇める老人くらいのもの。老人たちは裏切り者の北条には厳しいが、梨花ちゃんや俺たちが遊んでいるところを邪魔しにくるほどでもない。

 誰も北条家を仲間はずれにしない学校を除けば、沙都子の誕生日会には最適なロケーションだと言える。

 

 神主さんである梨花ちゃんのお父さんはダムに対しては中立な立場で、沙都子をいないもの扱いしなかった。よく来てくれたね、と俺たちを歓迎してくれた。

 梨花ちゃんのお母さんもそうだが、梨花ちゃんが年相応の遊びをしているのを見ると安心するのだろう。是非また来て欲しいなんて言われた。

 

 しかしこんな優しそうな人でも、祭具殿に入った奴がいれば半殺しにするんだろうな。宗教ってのは怖いものだ。

 魅音ちゃんは親類の店からいろいろなゲームを持ってきて遊び、悟史くんは照れる沙都子の頭を撫でて、甘やかす。俺は沙都子を揶揄ってトラップにかけられ、最終的に負けた方が梨花ちゃんに慰められる。かけがえのない、いつもと変わらない日常だ。

 

「はー、今日も楽しかったねえ!みんなで遊ぶのがこんなに楽しいなら、誕生日じゃなくても定期的に遊びたいね!」

 

 魅音ちゃんはテーブルゲームやトランプなんかが大好きらしかった。めちゃくちゃ上手というわけではないが、俺が持ってきた自作のテーブルゲームも割と早い段階でコツを掴んでいた。

 

 そういえば、興宮での魅音ちゃんの様子についてもこっそり聞いてみたが、あんまり納得のいく返事はなかった。もはや、すごく顔が似てる別人と会って、たまたま向こうが話を合わせてくれたのかとすら思えてきたところだった。

 

「にしても、ユウはどうしてこんなに色んなゲームを思いつくんだい?やっぱり僕も難しい本を読めるようになったほうがいいのかな……?」

 

 むぅ、と考え込む悟史くんは逆に、何となくでゲームを遊んでいた。頭脳で考えるゲームはあまり上手ではなかったが、運要素のあるゲームだと善戦した。運がいいのか、意外と手強いのだ。なかなか曲者揃いな俺の友達たちだった。

 

「ユウは、きっと本で読んで色んなことを知ってるのです。私も、日々絵本を読んでべんきょーしてるのですよ!ほら、にゃーにゃー!」

 

 集会場に置かれていた猫の絵本を手に取り、猫の真似?をする。可愛い。

 真剣な時の顔を知ってるだけに、その猫被りには複雑な感情になってしまうが、可愛らしいのは確かだ。老人たちが彼女に夢中になるのも頷ける。

 

「きっとユウより、梨花の方が物知りでございますわよ?ユウは変なところで世間知らずのところがございますし。梨花は料理も出来ますし、お裁縫も出来ますし。どこで身につけたのか、教えて欲しいくらいですわね〜」

 

 沙都子は俺がプレゼントにあげたカチューシャをつけていた。お姫様のような、華美な装飾が施されたそれは、今日のようなお祝い事の日にはちょうど似合っていた。

 

「きっとさ、梨花ちゃんは俺たちの知らないところでめちゃくちゃ努力してるんだよ。梨花ちゃんは努力を隠すタイプってこと。俺なら逆に努力を見せびらかすけどね。その方が絶対年寄りのウケがいいし!沙都子もやってみれば?」

 

「さいてーですわ!」

 

 沙都子が笑った。それにつられて、みんなも笑った。

 

「じゃあそろそろ帰ろっか。暗くなったら、殺人犯が出てくるかもしれないしね。くわばらくわばら」

 

「出てくるのは現場監督のおっさんの霊かもしんないよぉ?おい、よくもレンガを投げてくれたなっ!てさ……」

 

 魅音ちゃんが怖がらせるような顔で、俺たちに言う。

 

「そんなことやってんのは魅音ちゃんだけだよ!」

 

 その場は束の間、笑いに包まれた。俺たちは魅音ちゃんの号令に従って神社を後にした。

 

 魅音ちゃんの話では、園崎でも逃亡犯の足取りは掴めておらず、現場監督の腕もまた見つかっていないということだった。この辺りでは警察以上に権力と監視の目を持っている園崎でも見つけられないのだから、しばらく逮捕はされなそうだ。

 

 俺は気楽に振る舞って口を開いた。

 

「こんな村に滞在しないでもう遠くに逃げてるんじゃない?知らない人が来たらすぐに噂になるようなこの村にいたら、隠れてちゃあその日の食事も手に入んないでしょ」

 

「確かにね。ユウ、昨日は興宮に行ったんでしょ?興宮ではあの事件のことはもう広まってたの?」

 

 悟史くんが俺に聞いてくる。彼は家事が大変なのか、興宮まで出てくるのは買い物でスーパーのセブンスマートに行く時くらい。とても興宮の商店街でお買い物をしたりする機会はないだろう。

 

「それが、あんまり知られてないみたいなんだよね。噂程度では広まってるけど、みんなが恐れてるっていうほどじゃない。興宮なら潜伏出来そうだけど、結局狭い世界なのは間違いないしね。興宮から電車を乗り継いで名古屋までいけば新幹線にも乗れるしね。もうとっくに県外に逃げてんじゃない?」

 

 俺の言葉に頷く魅音ちゃん。

 

「そうだねえ、興宮と言わず、鹿骨市ならおじさんの知り合いもたくさんいるけど、全く怪しい人物の目撃情報はないみたいだね。やっぱり、もう遠くに行ってるのかなあ……その方がいいけどね」

 

 園崎家はxx県全体にまで影響力を持つという話だ。鹿骨市内には、園崎の情報網は張り巡らされているのだろう。しかしそんな裏社会の事情にも詳しい園崎家ですら見つかっていないのなら、もうとっくにこのあたりにはいないに違いない。

 

「天網恢々疎にして漏らさず。まさか現代の日本で、バラバラ殺人の犯人が捕まらないなんてことはないだろ!」

 

 気楽にそう言った。……ちょっと難しい言葉を使ってみようとした、俺のその言葉の意味はみんなにはあまり伝わっていなかった。

 

 

 

「母さん、ただいま」

 

「おかえり、ユウくん。あ、いつものお手紙も来てたわよ」

 

「お、ありがと」

 

 母は手紙を差し出した。それは、数年前から文通を続けている竜宮礼奈ちゃんからのものらしかった。

 

「ユウくんもこの歳から、梨花ちゃまに沙都子ちゃんに、あと魅音ちゃんとも仲がいいし!茨城の女の子と文通なんて。母親としては将来が不安ね」

 

 肘でつんつん、と俺の脇腹をつつく母親。俺の母親も、父とは歳の差婚をした身だ。きっと、息子の恋愛模様が気になるんだろう……とはいえ、ちょっとうざいかも。

 

「本当に、そういうのじゃないよ。俺はクラスのみんなと仲良いから!この村の人は、人の交友関係を邪推しすぎだよ!」

 

 恥ずかしがらなくていいのに〜、とまだ俺を揶揄おうとする母親を尻目に、手紙を奪い取って2階の自分の部屋へと上がる。

 

 俺の母親もそうだが、俺の父親も俺の交友関係を邪推する。母親は俺が梨花ちゃんのことを好きだと思っていて、父親は俺が沙都子のことを好きだと思っているらしい。

 2人のことを可愛いと思うことはよくあるが、俺はロリコンじゃない。

 心外ではあるのだが、その勘違いのおかげで父親から北条家への偏見は弱まっている。あの兄妹が村の一員と認められる助けになるなら、少しの勘違いぐらいは我慢しようという気になる。

 

 部屋に入って、学習机の上に手紙を広げる。

 

 礼奈ちゃんとの文通はまだ続いていた。

 彼女が引っ越しをした当初は送られてくる手紙の文面もすごく長く、内容も日々の生活の不安が感じ取られるようなものだった。

 

 そこから友達ができたのか、少し前までは当たり障りのない挨拶のような、内容の薄い文面が続いていた時期もあったのだが……ここ最近では悩みを打ち明けてくるような内容が多くなっていた。

 

 学校での些細な人間関係のトラブルや、男友達との接し方、あるいは女の子の社会での妬み嫉みのようなことに関するちょっとした愚痴まで。たまに、雛見沢に帰ってきたいということも書かれていた。

 

 数回くらいしか対面して話してないが、礼奈ちゃんは優しく、純粋で、可愛らしい子だった。

 まさかいじめられたりはしていないだろうが、小学校までを雛見沢の強固で狭いコミュニティで育ったのだ。急に人の多い街の小学校に放りこまれたらうまく馴染めないというのも分かる。

 俺だって、今都会の小学校に転校したら、俺が知識をひけらかすのを面白く思わない奴らにいじめられたりするかもしれない。礼奈ちゃんは純朴な子だったし、ドライな都会の人間関係に馴染めずに悩んでいるかも。

 

 今回はどうだろうか、何が書いているかな。俺はすこし楽しみな気持ちで便箋に細かく書かれた文字を読み出した。 

 

 俺は手紙に書かれた可愛らしい丸文字を見て、絶句した。

 礼奈ちゃんが今回の手紙に書いていたのは、小学生の友達に相談することとは思えない、ハードな内容だった。それは自分の家庭のことだ。

 

 母親が父親に隠れて会社の男性と仲良くなっており、それをどうすれば良いか、どのように接するべきか。自分も以前からその男性と遊んだことがあるのだが、これから先のことが不安だ。自分が何をすればいいのかわからない……そういう内容が、辿々しい文章で記されていた。

 

 前世の俺は20歳そこそこで死んだ。彼女はいたが結婚なんて考えもしなかった。両親との仲も良くなかったが、不倫がどうこう、離婚がどうこうとまではいかない。この相談に乗るには俺は人生経験が不足していた。

 

 しかし礼奈ちゃんは、現実の問題として、幼いその身一つでこの問題と戦おうとしているのだ。俺も、何かしら助けになることを考えて書いてあげないといけない。

 

 俺は1時間以上も悩んだ。俺は、正直な自分の思いを父親と母親に告げることを提案した。

 

 "まずは、相談してくれてありがとう。礼奈ちゃんの辛い気持ちに気付けてよかった。僕が伝えたいのは一つ。礼奈ちゃんは少しも悪くないということ。

 お母さんは誠実さを欠いているし、礼奈ちゃんにその男の人を紹介して懐かせようとしているなら酷い話だ。礼奈ちゃんがどんな気持ちになるのかを考えてくれてない。

 礼奈ちゃんのお母さんがお父さんに対して不満があるなら、何がダメなのか2人で相談し合わないといけないと思う。そのきっかけがあれば、きっと元の仲良しの家族に戻れるはずだよ。

 何を言われようと、礼奈ちゃんの人生は礼奈ちゃんの人生だから、家族に負い目を感じる必要はないよ。どんな結果になったとしても、君のご両親は君が幸せであることを祈っているよ"

 

 とまぁ、こんな感じに書いた。文章が変なところはまた後で書き直すこととする。

 俺も人生経験が薄い人間なのでタメになるアドバイスはできないが、とにかく礼奈ちゃんはまだ子供だ。家庭環境が原因で心の傷を負うことなんてあってはならない。当たり障りのないことを書いて、あとはとにかく励ますくらいしか、俺には出来ない。

 普段は大人だ大人だと威張っていても、俺は、大した人間ではない。少しの無力感を感じて、俺はペンをそっと置いた。

 

 しばらくの間、さらに何か書くべきかどうか考える。

 これだけで手紙を締めてしまうと味気ないので、綿流しの祭りの話、俺たちのグループでの遊びの話、

 あとは……最近のバラバラ殺人のことも書こうかと思ったが、やめておいた。故郷で残酷な事件が起こっていることを、わざわざ聞かせる必要もあるまい。

 身の回りで起こった当たり障りのない話で、手紙の空欄を埋めた。

 

 今こうしている間にも、彼女の心は傷ついているかもしれない。手紙を書き終えた俺は、父には早めにそれを届けてもらおうと思った。

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