雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
朝焼けが眩しく輝く、夏の朝。
2人の男が、河岸でタバコを吸っていた。恰幅の良い男が、額の汗をタオルで拭う。彼はまだ朝だというのに、やけに汗をかいていた。
そんな男に、もう1人の若い男が飲み物を手渡す。缶コーヒーのプルタブを開けて、勢いよく口をつけた。
「大石さん、お疲れ様です」
「熊ちゃんもご苦労様です。どうです?捜査の首尾は」
黄色いテープで立ち入りが制限された区画に2人はいた。
フロントガラスが完全に損壊し、いたるところが凹んだ状態の廃車を眺める。彼らは、興宮署に勤務するベテランの警察官、大石蔵人と、その相棒の熊谷勝也だった。
「うーん……なんせ、目撃者は0人。推測することしかできないっすからねぇ……」
悩ましげに唸る熊谷に、大石はにっこり笑って言う。何か有力な手がかりを見つけたのだろう、と熊谷は思った。
「こっちの方では、事故の直前にいたであろうレストランでの話をまとめて来ましたよ。こりゃあなかなか、きな臭い話です」
「にしても、よく会話の内容なんて覚えてる人がいましたね?」
「普通なら、誰もが口を閉ざすでしょう。意外にも、彼らが行ったのは園崎家の影響力のある飲食店じゃなかったんです。牧野さんというと、園崎には深く関わっている家ですが……話していた内容が内容ですし、そういうところを選んだんでしょう」
「話していた内容ってのは?」
熊谷は勿体ぶる大石に聞いた。
「北条家は、園崎家と完全に敵対しているっていう話は知ってますね?そして、村の重役を務める牧野家の一人息子が、その村八分に異議を唱えているという話も」
「ええ、もちろんです」
「それで……牧野竹蔵さん、牧野沁子さんの両名は北条夫妻に、謝罪するように伝えていたみたいなんですよ」
「それは……園崎、お魎さんにですか」
「ええ。ですが、北条夫妻の性格は想像つきますよね?夫妻が激怒して、その話し合いは決裂したようです。そのレストラン、ちゃんと個室のお店だったんですがねぇ。あまりに怒鳴り声が大きいから、他のお客さんにまでばっちり聞こえてたらしいんですよ」
「そ、そんなにですか」
個室のレストランで、話の内容まで他の客に聞こえるような大きい声。北条夫妻の苛烈な性格が、話したこともない熊谷にも窺い知れた。
「ま、流石と言うべきですかね。あの園崎天皇に啖呵を切れるような人ですから。想像に難くはないでしょう」
「……大石さん。大石さんは、この事故……事件だと睨んでるってことですか」
「この村でおかしなことが起こったら、裏で糸を引いてる人間がいることも多いんですよ……誰かは、言いませんがね」
大石は、そう言ってニヒルに笑った。
彼は去年の綿流しの日に恩師を亡くした。そしてその原因には、間違いなく村を牛耳る権力者、園崎家が関わっていると信じて疑わない。
熊谷は触れづらそうな顔で、小さく呟く。
「彼らは……園崎に楯突いたから、消された?」
「そういう可能性もあるでしょう。車の中がどうなっていたかにも目は通しましたね?」
「ええ。ナンバープレートを照合したところ、牧野竹蔵氏の所有する車のようです。完全に浸水していて、何の形跡も残っていませんでしたが……大石さんの推測では、この場所で事故を起こしたことも、黒幕の計算の上だった、ということですか……?」
「そこまでは言いませんよ。でも、探ってみる価値はありそうです」
そこで、パトカーに搭載されたトランシーバーから音声が流れて来た。熊谷はすぐにそれに応答した。
「こちら熊谷です。どうぞ」
「こちら××。行方不明者を捜索しているダイバーが、下流でハンマーを見つけたとの報告がありました。ハンマーには血液が付着しています」
「熊谷、了解。ええと……車の窓ガラスを破るための、緊急用のハンマーですか。確かに、運転席の窓ガラスが割れてましたね。それで割ったということでしょうか」
「車の窓ガラスってのは、相当硬いですから。硬貨を袋に入れてクルクル回して窓ガラスにぶつければ割れるなんてよく言うでしょう。あれも、実際にはそんなに簡単には割れないもんです。運転席の窓をハンマーで割ったというのは妥当なところでしょうな」
大石は納得したように頷く。
「にしても、車が転落した時には窓ガラスは割れてなかったんでしょうか?割れてたとしたら、ハンマーを出す必要はありませんよね」
「そうですねえ。窓ガラスが割れているのは、運転席と、後部座席ですか……そのハンマー、鑑識に回せばもうちょっと情報は掘り出せそうですねぇ」
そこまで言って、大石は何かに気がついたかのように車の中を覗き込んだ。不審な表情をして、熊谷に目を向ける。
「熊ちゃん。そのハンマー、咄嗟に出せるところに置いておくとしたら、どこに保管しますか?」
「そうっすね、やっぱりダッシュボードじゃないですか?」
「でしょうね。ですが……ダッシュボードは閉まっているのに中のものはからっぽで、しかし外に書類が散乱してる。こりゃあ、どういうことだろうなぁ……」
大石は熊谷にも見せるようにその場を譲った。助手席の床にはいくつかの書類が濡れたままになって散乱していた。
「車が川に突っ込んで浸水した状態で、すぐにハンマーを取り出すのはわかります。でも、そこからダッシュボードを閉めたっていうのが変な話ですよね」
「その通りです。慌てて逃げ出したっていうんなら、閉めたりはしないでしょう。なんせ命がかかってるんですからねぇ。それに、牧野竹蔵さんがハンマーで窓を叩き割って外へ出て行ったんなら、どこかで見つかっていないとおかしいはずですが……」
「まだ見つかっていないんですもんね。うーん、ますますわからなくなって来たなあ……」
大石は考え込んだ後、すぐには結論づけられないままで、熊谷に向き直った。
「とりあえず、周囲に聞き込み調査です。情報は足で稼いでこそ、ですからね!」
「うっす!」
この件は、掘れば掘るほど何かが出て来そうだ。おやっさんの仇を取るためなら、何だって利用してやる……!
そんな思いを胸に、大石は自分が追い求める真実に向けて捜査を再開した。
こういうのがやりたくて書き始めました。
原作の、TIPSからストーリーへの関連を考えるのがとっても好きです。