雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第25話

 いつもなら、授業が始まる前に校庭で遊んでいる子供たちも俺に声をかけてきたりするが、今日は誰一人として外で遊んではいなかった。

 やはりもう授業が始まっている時間ということらしい。

 

 誰もいない靴箱で、上履きに履き替えて教室に向かう。廊下で誰ともすれ違わなかったのは幸運だ。いちいち、何か聞かれてそれに個別に答えるのは大変だからだ。

 

 俺が意を決して教室の扉を開くと、勉強を教えあったりする声で騒々しかった教室は、急に静まり返った。俺の席まで行こうとすると、みんなが隠れてこちらを見ているのを感じた。

 ただでさえ俺の両親が亡くなったことが知れ渡っていて気まずい気持ちだというのに、授業中に教室の前扉から堂々と入るのだから、注目を浴びるのも仕方ないというところだろう。

 知恵先生はこっちをみて、優しく微笑んだ。

 

「……牧野くん。事情は知っています。遅刻を怒ったりはしませんから、席について授業の準備をしてくださいね」

 

 ちょうど低学年の子に何かを教えていた知恵先生だったが、俺が入ってきたことに気付いたようだった。俺を安心させようとする、どこかぎこちない笑みからその気遣いが伝わった。

 

 俺は授業の準備をしつつ、クラスの様子をチラリと見た。北条家の2人は学校に来ていたが、2人とも元気のない様子で俯いていた。魅音ちゃんは心配そうな表情でこちらを伺っていた。一番気になる梨花ちゃんは……どこか申し訳なさそうな表情で顔を伏せていた。

 

 クラスの誰もが昨日のことを知っているようだった。この狭い教室で、1人でも昨日の出来事を知っている奴がいればすぐに広まっていくだろうし、不思議はない。沙都子や悟史くんはもちろん当事者だし、両親のことを誰かにポロっとこぼしてしまったのかもしれない。

 

 こういうのは、下手な噂が広がる前に先に手を打つべきだ。俺は意を決して挙手した。

 

「先生、おそらく昨日起こったある出来事について、クラスに変な噂が流れているかもしれません。そのことについて少し話しても良いですか?」

 

 先生は突然手を挙げた俺に驚いていたが、

 

「今は授業中ですが……構いません」

 

 心配そうな表情だが、快く頷いてくれた。話のわかる人だ。

 

 俺は授業の準備もそこそこに立ち上がって、教卓の前についた。村を騒がせる「オヤシロ様の祟り」について、話してやろうと思ったのだ。

 

「みんなおはよう。知っている子も多いかもしれないけど、俺の両親は今日の早朝、北条家の親御さんと共に交通事故で亡くなった。……ええと、父親はまだ行方不明だけど……生きていてくれてることを願ってる。俺が一番言いたいことは"オヤシロ様の祟り"について」

 

 少し溜めて、切り出した。

 

「オヤシロ様の祟りで俺たちの親が事故に遭ったなんて言う人がいるらしい。北条家がダムに賛成してたから、そのせいで祟りにあったなんてことを言ってる奴がいれば、俺がぶっ飛ばす。オヤシロ様の祟りで人が死ぬなんてこの世には存在しない。あるのは人が起こした事故だけ。そうだ。そうに、決まってる……」

 

 ふと目を向けると、梨花ちゃんは気まずそうな顔で机に俯いていた。

 

「悟史くんも沙都子も、その親御さんも悪くないってこと。悪いとしたら、俺の父さんが運転を事故ったぐらいかな」

 

 俺の冗談は誰も笑わなかった。ちょっと面白いと思ったんだけど。

 

「とにかく!オヤシロ様は自分の意にそぐわない者たちを事故に遭わせて殺すような悪い神様ではないはずだ。このことを理由に2人を揶揄うようなことは絶対にしないでほしい。みんなの家族にもそう言ってくれ。俺も悟史くんも沙都子もショックは大きいけど、すぐに立ち直るから、今まで通り接してくれ。以上!」

 

 クラスの反応はまあまあと言ったところだった。人望がない方ではないつもりだが、スピーチのセンスはあまりないらしい。

 

 でも、言いたいことは伝えた。色々な人が努力した結果として北条兄妹の村八分の解除が現実的になってきた今、事故が起こったからと言ってその歩みをなかったものにはしたくなかった。俺の両親はそのために死んだ……と言うと2人に悪いけど。だが、俺たちはそのために頑張って来たんだ。

 

 俺は自分の席に戻り、教科書を開いた。今日は大人しく勉強しよう。本を読むのも、いつものように他の人たちに教えて回るのもなし。ちょっと気分を入れ替えるきっかけになるかもしれない。

 

 

 

 授業はつつがなく終わった。俺に何かを教えてほしいと言いにくる子は今日はほとんどおらず、俺は久方ぶりの落ち着いた授業時間を過ごした。たまには真面目に勉強をするのも悪くない。

 

 昼休みになって、俺はいつも通り悟史くん、沙都子、魅音ちゃん、梨花ちゃんにご飯を食べようと誘おうと思った。が、あることに気づいた。

 

 弁当がないのである!そりゃそうだ。だって、それを毎日作ってくれていた、俺の母親はもういないんだから。

 どうせ遅刻なんだから、行き道に商店街にでも寄ればよかった。ショックが大きくて、何も考えていなかった。

 

「ユウ、一緒にごはん食べない?」

 

 魅音ちゃんが俺の機嫌を伺うような表情で俺に聞いてくる。魅音ちゃんは本当に優しい。気遣いのできる本当にいい子だ。しかし、ほんの少し空気が読めないところがあるといえばあるかもしれない。

 

「ありがとう、魅音ちゃん。是非ご一緒したいんだけどさ、今日の俺には弁当がないんだよね。どっか行って食べ物買ってこようかなって思ってるから、ごめんね」

 

 まずい話題に触れてしまったという顔の魅音ちゃん。俺が遅れて学校に来たから、弁当も用意してると思ったのかもしれない。気を遣わせて悪いな。

 

「え、あ、うん。そう、だよね。それなら私のお弁当、あげるよ?」

 

 魅音ちゃんは申し訳なさそうにそう言う。

 

「気持ちは嬉しいんだけど、俺は結構食べる方だから申し訳ないよ。今から急いでパンでも買ってくるよ。どれくらいかかるかもわかんないから、先に食べてて。またお喋りする時間はたくさんあると思うからさ!放課後にでも遊ぼうよ」

 

 俺は先生に軽く事情を話して、外の商店街にでも行って食べ物を買ってくるつもりだった。もし北条家の2人も食べ物がなかったら買ってきてあげようかとも思ったが、彼らは弁当を持っているらしかった。兄妹のどちらかが頑張って早起きして作ったんだろうか。偉い。

 

 悟史くんは1人で、沙都子は梨花ちゃんに、一緒に食べようと誘っているみたいだった。

 

 俺の言葉を聞いて、何を言おうか悩んでいる様子の魅音ちゃんににっこりと微笑んで、教室を出ていった。職員室に向かって、先生にそのことを報告しようと思った。

 

 職員室には大体の場合先生は1人しかいない。校長はいつもいるわけではなく、何か用事がある際に来るのだ。

 

「知恵先生、お邪魔します」

 

「牧野さん……今は寂しい気持ちだと思います。しかし、ご両親はあなたのことを見守ってくれています。先生も、いつでもここにいます。どんなことでも相談してください。私はあなたの味方ですから」

 

 知恵先生は、俺の目を見つめて、優しくそう言った。涙が出そうになったのを堪えて、俺は要件を伝えた。

 

「あ、ありがとうございます。えぇと……知恵先生、今日はお弁当を持ってくるのを忘れてしまったので、少し外で買い物をしてきてもいいですか?」

 

 知恵先生は職員室の小さな事務机にカレーの弁当を置いて、食べているところだった。

 

「ええ、構いませんよ。車に気をつけて行ってくださいね。お金は持っていますか?なければ先生が……」

 

 知恵先生は優しい瞳で俺に微笑みかける。その言葉に大丈夫です、とだけ返すと、職員室を後にした。昼休みに外で遊んでいる子供たちの喧噪をよそに、俺は靴を履き替えに行った。

 

 下駄箱の前、玄関の角に立っている小さな人影がこちらを見ていた。

 

「梨花、ちゃん……どうしたの?」

 

「雄星がかわいそかわいそなので、慰めてあげようと思いましたのです」

 

 俺が教室から出ていくのを見て、先回りしていたんだろうか。

 

「……沙都子とご飯を食べるのかと思ってたよ」

 

「悟史はともかく、今の沙都子は大丈夫そうでしたのです。魅音が今はついてくれてますです。どちらかというと不安なのは、雄星の方なのです」

 

 梨花ちゃんは、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。昨日の事故に関して、彼女のことを疑っていない、と言えばそれは嘘になる。梨花ちゃんとの話は長い話になりそうだった。

 

「梨花ちゃん、ごめん。慰められたい気持ちはやまやまなんだけど、弁当を忘れちゃってさ。食べものを買いに行くんだけど、一緒に来てくれない?」

 

「仕方ないのです。そう言うかと思って、ボクのお弁当も持ってきたのです。食べながら、どこかで2人で話しましょうです」

 

 梨花ちゃんは笑顔で俺についてきてくれた。それは、俺に対する信頼の証だとも思えた。しかし俺は……強い疑念を彼女に抱いている。 

 

 俺の中には、俺たちの両親は梨花ちゃんに見殺しにされたと思う気持ちがあった。その真偽はどうであれ、本人に真相を聞きたかった。

 

「あまり時間もない。行こう」

 

 そうしようと思ったわけではないが、俺が言った言葉はどこか冷たい感じだった。梨花ちゃんはいつもの笑みで頷いた。俺にはその笑みがどういう意味なのかすら、わからなくなっていた。

 

 

 

 牧野さんちの可哀想な一人息子である俺に対して、商店街ではいろんなサービスがあった。ちょっと惣菜屋さんで食べ物を買って帰るつもりだったが、1人では食べきれないくらいの食べ物をもらってしまった。

 

「それも日頃の行いの賜物なのですよ」

 

 梨花ちゃんはそう言って、あどけない笑顔で笑った。俺はこの可愛らしい少女が俺の両親を見殺しにしたとは思いたくなかった。しかしその一方で、この子の本性はどうなのだろうか?という疑念はぬぐい切れなかった。

 

 俺たちはしばらく黙って座れるところを探した。学校の方に戻る途中で見かけた空き地のベンチに腰掛けて食事を始めた。梨花ちゃんは小さなお弁当をつつき始めた。小さな口でぱくぱくとご飯を食べていた。……かわいい。

 

 昼休憩の時間はそれほど長くはなかった。学校に戻る時間も含めれば、静かなところで話せる時間はほんの2.30分くらいだろう。ゆっくり話をしたいのはやまやまだが、途中で帰ることになる方が面倒だ。俺は惣菜屋でもらったコロッケを齧りながら、本題に入った。

 

「ここまで付き合ってくれてありがとう。話をしよう。俺の聞きたいことは一つ。梨花ちゃんは……俺の両親が死ぬことを知ってたのか?」

 

 梨花ちゃんは、しばらく間を置いた。それはどう答えれば俺を納得させられるか考えているようにも見えた。

 

「……昨日、誰かが死ぬかもしれないということは分かっていましたのです。でも、それがまさか雄星のご両親なんて、夢にも思わなかったのですよ」

 

 しばらく経ってから、釈明するように俺に言う梨花ちゃん。

 

「じゃあ、具体的に誰が犠牲になるはずだったんだ?」

 

 梨花ちゃんは躊躇いを顔に表した。俺のした質問に対して、梨花ちゃんは言うかどうか悩んでいるようだった。しばらくして、決心したように口を開いた。

 

「……落ち着いて聞いて欲しい。私は、あなたに疑われたくない。だから、私の知ってることを話す。信じられないかもしれないけど……」

 

 俺は頷いた。

 

「昨日……北条家の両親の2人が亡くなるかもしれない、と思っていた。死因は……教えられない、いいえ、あの子のためにも教えたくないけれど。少なくとも交通事故で死ぬなんて私にはわからなかった」

 

 子供に諭すように、俺の目を見て、ゆっくりとそう言った。しかし、それが分かってて北条兄妹に黙ってたっていうのか!熱くなった俺は食い気味に言い返した。

 

「裏切り者の北条家の両親なら死んでも仕方ないって言いたいのか?誰が死んでいいとか、君が決められる事じゃないだろ」

 

 俺の言葉を聞いた梨花ちゃんは、悲痛な面持ちだった。

 

「そんなふうには思っていないわ。今回はある根拠から、その事件が起こらない可能性が高いと思っていた……あなたという想定外がいるというのに……私は、浅はかだった……」

 

 涙さえ浮かべそうな、悔しそうな表情を浮かべる梨花ちゃんに、俺は返す言葉を失った。

 俺が、彼女をこんな悲しい顔にさせているのか?彼女が事故のことを知っていたとしても……そうなるきっかけを作ったのは、俺だ。悪いのは、俺なんだ。

 

……熱くなってしまった自分を自覚した。中身がどうであれ、10歳にもならない子供を問い詰めるなんて……情けない。俺は何を考えていたんだろうか。昨日の夜からの自分が、急に恥ずかしくなった。

 

 彼女がどんな事情を抱えているのかは、依然推測することしかできない。しかし、その表情が演技で俺を騙しているようにはとても思えなかった。

 

「ごめん。熱くなっちゃった。……君は神様じゃないんだ。悪いことが起こった原因を君に求めるのは間違ってるよね。君が知っているわけじゃない。俺が間違っていた。許してほしい」

 

 一息に俺はそう言い切った。梨花ちゃんは、ほっとしたような表情をしていた。

 

「分かってくれたなら、ありがたいわ。あなたが私を信じてくれなくなると……私はとても困る」

 

 梨花ちゃんは目を伏せてそう言った。その表情は悲しい記憶を思い出しているようだ。俺はその言葉を遮って口を開いた。気持ちを入れ替えよう。

 

「よし。落ち着いた!答えなくていいんだけど、口に出して俺の中で整理をするね?梨花ちゃんが普段観測しているその事件は、この世界では俺がいることの影響で起こらないんじゃないかと思っていたっていう事だよね」

 

 梨花ちゃんは返事はしなかった。しかしその沈黙は概ねその通りだという肯定の意を示しているように見えた。

 

「じゃあ、来年の犠牲者は誰になる予定なの?答えられないなら、別に言わなくて構わないよ」

 

 俺がそう言うと、やはり梨花ちゃんは黙った。言うかどうか、決めかねている。そんな表情だった。

 

「……次の犠牲者を言うことは出来る。でも、貴方にそれを伝えるかどうかは、迷っているの」

 

「どうして?その人、あるいはその人たちが助かることは君が生き延びるのに不都合だとか?それなら、言わなくてもいい」

 

「いいえ。その犠牲者が生きていたら……少しは面倒なこともあるかもしれないけれど、生きていた方が私の生存にとってはプラスになるはず。でも、私がその名前を出して、あなたがその犠牲者を守ろうとするなら……あなたに対して申し訳ない。それに、そうすることによって、あなたの身に危険が迫ることだってあり得る」

 

 梨花ちゃんは俺のその言葉には、首を振って答えた。

 

「……言うかどうかは、梨花ちゃんに任せるよ。でも、言ってくれたら俺はその犠牲者がなんとか生きられるように努力をすると思う。その結果、梨花ちゃんの知る未来とは違う方向に進む可能性だってある。だから、それは梨花ちゃんが判断してほしいな」

 

 俺はさらに続けた。

 

「俺が本当に大事なのは俺の友達。梨花ちゃんが言う"仲間たち"に俺が含まれていなくても、俺は梨花ちゃんや沙都子、魅音ちゃん、悟史くんのために動くよ。俺にとってみんなは……親友だからね」

 

「私を……信じてくれてありがとう。でも、一つだけはっきりさせておく」

 

 梨花ちゃんは俺の目を見て、はっきりと答えた。

 

「私の言う"仲間"には、とっくの昔にあなただって入っているわ!

 もしあなたが居なくなれば、沙都子や魅音、悟史はきっと深く悲しむ。もちろん……わ、私も。そうなれば、今のような日常にはきっと戻らない」

 

 少し照れたような顔で、言う。さらに続ける。

 

「大事なことは、"誰1人欠けることなく、昭和58年の6月を超えること"なの。……まだこの村にいない仲間もいるけどね。きっと、あなたも仲良くなれるわ」

 

 俺の目を見据えて、梨花ちゃんはゆっくりと言葉を紡いだ。それは、自分の覚悟を、自分自身にも言い聞かせるよう。それが嘘や誤魔化しだとは、少しも思わなかった。俺はその目に見惚れた。その小さい身体に、込められている信念、覚悟。そして勇気!

 

 俺には本当の事情はわからないが、過酷な宿命を背負うこの少女のその姿を、心から美しいと思った。

 

「梨花ちゃん、君は複雑な事情を抱えてるのに、仲間思いで、誰よりも真摯だ。君は、本当に素敵な人だね」

 

 俺の言葉に、虚を突かれたような表情で目を丸くして反応する梨花ちゃん。俺はそれがなんだか面白くて、吹き出した。

 

「俺もご飯は食べ終わったし、学校に戻ろうか」

 

 梨花ちゃんは黙って俺の後ろをついてきた。

 

 昨日寝る前は、色々なストレスがあったのか、思考もぼやけてたし変な幻聴も聞こえた。でも、今はそんなものはない。そのことを言うかどうかも迷ったが、やめておいた。

 

 梨花ちゃんを疑うのはやめだ。隠し事があるのも、俺は気にしない。友達でも、秘密を共有した仲間でも。言いたくないことや言えないことがあるのは当然のことだ。

 

 しばらく歩いて俺たちは学校に戻り、教室に入った。昼休みギリギリに戻ってきた俺たちはクラスの注目を浴びたが、特に何か声をかけられることはなかった。

 

「梨花、ユウと何をしてたんですの?もうみんなでご飯を食べてしまいましたわよ?」

 

 いつもの昼ごはんの誘いを梨花ちゃんに断られたことを不思議に思っているのか、沙都子は不思議そうな顔でそう尋ねた。

 

「告白をされましたですよ」

 

「えーっ!」

 

 沙都子は顔を赤らめて、声をあげて驚く。梨花ちゃんはえへへ、と微笑む。敢えて誤解を招いているようだった。

 

「おい!変な冗談はやめろ梨花ちゃん!沙都子も分かるよな?たまに梨花ちゃんは変なこと言うだろ。それだよ!」

 

「ボクに、素敵な人だって言ってくれたのは、嘘だったのですか?」

 

 可愛らしく小首を傾げてこちらを見る梨花ちゃん。うるうるとしたその目には、先ほどの意趣返しをしてやろうという狙いが見え隠れしていた。

 

「言ったけど!そういう意味じゃないんだって。梨花ちゃん、虐めるのはやめてくれよ!」

 

「自業自得、なのです」

 

 小声でそう言った梨花ちゃんは意味ありげな笑みを浮かべていた。

 沙都子はどういうことですのーっ!と俺と梨花ちゃんを問い詰め、魅音ちゃんは面白そうなことが起こったと笑っている。遠くからこちらを眺めている悟史くんも、妹が元気そうで少し嬉しそうだ。

 

 ひと盛り上がりしたところで、一旦座ろうと俺が勢いよく椅子を引いた。そこで光る何かがチラリと見える。椅子にはいくつかの画鋲が仕掛けられていた!

 

「危ねえ!」

 

 反応して座るのをやめた。沙都子の方を見て、トラップを看破してやったぞ、と揶揄おうとしたその刹那。天井からタライが落ちてきた。

 

「いてえっ!」

 

「引っ掛かりましたわね!罠を見破ったと勝ち誇るその瞬間が1番の隙なんですのよ!をーほっほっほ!」

 

 沙都子はいつもの高笑い。それを見ていたクラスメイトは、変わらない日常を笑った。

 タライをクリーンヒットさせられた俺も、倒れたままで大笑いした。

 

「おい沙都子っ!画鋲はやり過ぎだろっ!」

 

「をーほっほっほ!これは梨花を誑かした罰でございましてよーっ!」

 

 とまぁ、色々あったが、俺たちの関係は変わってない。両親が死のうが俺は俺だ。俺がやるべきことは、この日常を守ること。それだけだ。

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