雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第26話

 両親が亡くなって──父親はまだ行方不明だが──一週間が経った。その間、俺は両親の遺産の相続や親権者の選定などに追われていた。

 

 結論から言うと、祖父が俺の親権者になってくれた。祖父母は雛見沢に住んでいるが、村の中でも奥の方に住んでいるため、頻繁には会わない。名義上の親権者になってはくれたが、孫である俺の生活を金銭的に保証することは難しいと正直に伝えられた。そのため、俺が向こうの家に行ったり、逆に向こうが俺の家に移り住んだりはしないことになった。

 

 俺としては構わなかった。むしろ、祖父母が俺の住む家に移り住んだ場合には介護や家事の手伝いをしないといけないだろう。この雛見沢でヤングケアラーをするのはちょっと遠慮したいところだった。

 

 相続手続きも、園崎家から優秀な弁護士や司法書士を紹介して頂くことでなんとかなった。俺の両親は園崎と深いつながりがあったので、そのおかげだ。本当に魅音ちゃんとお魎さんには頭が上がらない。

 

 俺は古物商の免許も持っていない上に未成年だが、村の人たちのご厚意で残っていた商品をある程度売却させてもらった。日用品や雑貨類やもろもろは多めにあっても困ったりはしないからか、ほとんどを買い上げてくれた。

 親の口座に入っていたお金や事故の保険金も含めれば、かなりの金額になった。切り詰めて暮らせばここから成人するまでくらいは暮らしていけるだろう。

 

 ただ、父が興宮で買ってきたよくわからないセンスの小物やグッズは買い手がつかずに残っている。雑貨だった頃の痕跡を全て売ってしまうのも悲しいので、売るわけでも無いが店頭に並べている。奇妙な置物とか、可愛くもないストラップとかばっかりなので、気に入ってくれる人がいるなら、タダであげても良いくらいだ。

 

 村の人は若くして両親を亡くした俺を哀れに思い、買い物先では様々な配慮をしてくれる。何かおまけしてくれたり、売れ残りを安く販売してくれたり。これがいつまで続くのかは分からないが、これから節約して生きていかないといけない以上、ありがたい話だ。

 

 それはそうと、北条家の2人は雛見沢に住む叔母の家に引き取られた。

 

 叔父は興宮の愛人の家から滅多に帰ってこないというが、叔母は雛見沢に住んでいた。ダム賛成派の北条の親類ということで村からは嫌われており、厄介ごとはごめんだ、と2人を引き取るのも嫌がっていた。しかし行政からの指導で渋々受け入れたということらしい。

 

 気になるのはその家庭環境。話を聞くかぎりでは、沙都子はその叔母とは仲良くなれなそうだ。悟史くんの顔も、日に日に暗くなっている。

 

 さらに彼らのストレスになっているのが警察官の大石さんだ。

 大石さんは今年の綿流しの日にあった交通事故を園崎が起こした人為的なものだと考えて、個人的に捜査をしているらしい。北条家にも俺の家にも、度々訪れては、何かおかしいことはなかったか、事件の前日はどんなことがあったかなどを聞かれる。

 

 大石さんの話では、事故後の車内の状況に不審な点があるとかなんとか。一応は話を聞いたが、被害者の感情としてはどうでもいい、と思った。

 

 俺にはその真偽はわからない。検死の結果なども教えてはくれるが、その情報にどの程度の信頼性があるのか、大石さんがそこから俺に説明するおかしなところがどれくらい本当のことなのか、俺にわかるわけもない。

 

 俺は少なくとも、母の死に目には会えた。一言も喋ったりはしていないが、それだけで十分だ。父はまだ行方不明だが……川に流されたのなら、そのうちひょっこり見つかるかも。いずれにせよ、両親の遺体など、見たくはない。

 

 食事会に行く前の日までの段階でも、牧野家と園崎家は良好な関係だった。じゃあ、園崎家と北条家は、というと……仲良くはないだろう。だが、だからといって園崎家が北条家を殺すとはとても思えない。それに、今では園崎家は北条兄妹のことを、少しも憎んではいないのだから。

 

 お魎さんは、俺と魅音ちゃんの説得の後も、北条家の子供達を許す、と明言したことはなかった。しかし事故が起こってすぐの会議で、こう言ったらしい。

 

「村の子供たちが、気の毒な目に遭うた……皆知っとるとは思うがの。……子供らの痛みは私らの痛みじゃあ、大人が子供たちを助けんで、誰が助けるというんかねぇ……」

 

 それはつまり、俺だけではなく、沙都子と悟史くんも村の一員であると認める。そして、彼らのことを助けてやれ、という意味だった。魅音ちゃんはその会合があった次の日に、小声で俺にそれを伝えた。嬉しそうな顔をしていた。

 

 すぐさまその情報が行き渡り、沙都子たちの状況が改善するかは、俺にはわからない。しかし、怪我の功名とでもいうべきか、2人を取り巻く環境は、良くなった部分もあるみたいだ。……親が死んだんだから、怪我というか、大怪我も大怪我だけど。

 

 そんなふうに、俺たちをかき回す大石さん。今日は、彼は俺の家に訪ねてきていた。

 俺は大石さんを店の中に入れて、人目のないところで会話をしていた。

 

「牧野さん……何でもいいんですよぉ。ご両親は、家を出る前に何か言ってませんでしたか。あるいは、園崎魅音さんから何か言われませんでしたか」

 

 大石さんはたまに俺の家、あるいは学校にすら訪ねてくる。別に悪い人ではないのだが、事件の真相への執着心は本当に強い。俺がどれだけわからないと言っても、日を改めて聞きにくる。

 北条家の2人にも同じように何度も聞いて、どこかでボロが出てくるのを期待しているのか、あるいは俺たちの話を相互に聞いて照らし合わせているのかもしれないと思えた。

 

 俺が気になるのは、その執着心の出所だ。縁もゆかりもない2つの家庭の親が亡くなったとて、彼には何の関係もない。それなのに、様々なリスクを冒してまでどうして調査を続けるのかは不明だ。

 

「何度も言いますが、俺の両親は本当に北条家の子供達を村八分から解放しようとしていただけです。園崎家との関係は今も良好ですし、北条家との仲は……俺と兄妹は仲良いですけど。両親たちの仲は良くも悪くもありませんでした。誰かの故意なんかではなく、あれは不幸な事故だと処理するべきものだと思います」

 

 俺の言葉を、興味深そうに聞く大石さん。

 

「まして……大石さんが考えるように園崎が自分たちに楯突いた二つの家庭の両親を消したなど、あり得ません」

 

 大石さんは園崎を中心とする、村の御三家が近年の「オヤシロ様の祟り」を引き起こしたのではないかという疑いを持っているのは明らかだった。捜査をする動機は、この事故から園崎家が暗躍していることの証拠を掴めると思っているからではないか、と俺は勝手に推測していた。

 

「なっはっは!牧野くんは厳しいですねえ。そこまでは思っていませんよ。ただ、この事件にも、去年のバラバラ殺人同様上からの圧力がかかっている……これをどう見るかということです」

 

「これは本当に僕の個人的な意見ですが……園崎家は黒い噂こそ多いですが、その実本当に非道なことはしていないと思います。去年の事件だって……園崎が関わっているとは、俺は、思いません」

 

 俺がそう言った途端、大石さんは顔を強張らせた。自分の長年の勘と推理を、否定されたからだろう。その顔とは裏腹に優しい口調で俺を問い詰めた。

 

「ほうほう、そう思う根拠は?牧野くんは園崎魅音さんのお友達ですよねえ?何を知ってるんですかぁ?」

 

「村の人たちが園崎の意向を伺うのは、もちろん園崎が怖いというのもあります。でもそれ以上に、園崎が村から頼られているんですよ。恐怖だけでは人の心は支配できないと思います。この人なら村を引っ張ってくれる、そう思われているから園崎は村の盟主なんだと思います」

 

 俺の言葉をいまいち信用していないらしく、ニヤニヤしながら大石さんは口を開いた。

 

「……村に住んでいる牧野くんがそう言うなら、そうなのかもしれませんねえ。それでは、あなたのご両親が亡くなられた事件は、本当にただの交通事故だと?」

 

「……本当のところがどうなのかは誰にもわかりません。ただ、悪いことは全て園崎のせいという考え方は間違っていると思います」

 

 ほう……と、大石さんはニヤニヤしながら頷く。

 

「その、本当のところがどうなのかが知りたいんですよ。私は警官ですからねぇ。分かりませんでした、では終われませんから」

 

「そこを明らかにするのは、僕の仕事じゃありません。それに……それを暴いても、僕には得はありません。自分に不都合な真実なら、見ない方がマシだ。例え、梨花ちゃんと魅音ちゃんが共謀して俺と沙都子たちの両親を殺したのだとしても……俺はそれを信じない。信じる意味も、信じたくもない。だからこれは事故としか思えないと言ってるんです」

 

 話している途中で、自分の一人称が「俺」に変わったのを悟った。熱くなってしまった。ちょっと一息ついた。

 

「ほほぉ、そこでどうして古手さんの名前が?御三家繋がりで疑っている、ということですか」

 

「モノの例えです。あなたは、園崎家が全てを仕組んだという真実を欲しがってる。俺は、そうじゃない。全ては偶然の事故で、悪いのは……俺の親のハンドル捌きだけだった。そんな真実を信じている。立場が違いますから、これ以上は無意味かもしれません」

 

 俺の言葉に大石さんは黙り込む。それは俺の言葉をそのまま聞き入れたわけではないものの、部分的には納得をしてくれたように感じた。友達の親族を疑いたくないという気持ちは明かした。これ以上、俺に無神経なことを聞くことはないと思う。

 

「それに、園崎の力といっても、国家権力に楯突けるようなものではないでしょう。園崎が権力を誇るのもせいぜいこのxx県の中ぐらいで、都市の人からすれば田舎の暴力団に過ぎませんから。それが出来れば、今頃雛見沢はこんな寂れた村じゃないですよ」

 

 俺の言葉に、大石さんは気持ちのいい笑顔を見せた。

 

「なっはっは!園崎が田舎の暴力団ですか。気持ちいいことを言ってくれますねぇ。確かにその通り。我々ではその田舎の暴力団に敵わないのがつらいところですがね」

 

 あまり大きな声で言われると、他の人に聞かれた時の俺の立場が危ぶまれるからやめて欲しい。俺は相手にわかるように、露骨に嫌な顔をしてから言った。

 

「はっきり言って、俺の両親も北条の両親も、園崎が国家権力に圧力をかけて殺すほどの人間ではないと思います。園崎家が彼らのことを気に食わないんだったら、村八分にすればいいんだから。そうすれば、外で仕事をやってる北条はともかく、村の雑貨屋の牧野なんて一瞬で身を崩しますよ」

 

「ふうむ。そういうものですか……。確かに、一理あるかもしれませんね」

 

 大石さんは何か手帳にメモを取り出した。普段はおちゃらけている事も多いらしいが、こと捜査の時は真剣そのものだ。

 少しして、メモ書きを終える。どこか晴れやかな顔を上げ、俺に向き直る。

 

「ありがとうございました。色々と参考になりましたよ。捜査の角度を変えてみるのも面白いかもしれません」

 

「なら、お話のご褒美がわりに、ちょっと相談があります」

 

 彼は、さあ帰ろうとしていたところに声をかけられて、何が来るのかと少し驚いていた。大石さんは薄い目を開いた。

 

「俺を11月の天皇賞に連れてってください!」

 

 俺は満面の笑みで大石さんに伝えた。俺の前世の記憶で、今年の天皇賞を勝つ馬の名前を知っているのだ!新聞を見る限りあまり人気がない馬らしいので、有り金の一部だけを賭けても少しお金が増えるはず。もし違っていたら、二度と賭け事はやらない。

 

「なっはっは!天皇賞!牧野くんはその歳で競馬にご興味があるんですか!私とも気が合いそうですねえ」

 

 冗談だと思ったのか、大石さんは大笑いした。

 

「しかし、ここから東京競馬場はかなり遠いですから、これくらいで連れて行くわけにはいきませんよ。それに、公務員である私が未成年を競馬場に入れて、牧野くんが馬券を買ったりなんかしたら……後数年で定年なのに、退職金をもらうどころではなくなっちゃいますよ」

 

 一頻り笑い終えた後、落ち着いた様子で俺を諭す大石さん。いくら俗っぽい人だとはいえ、警察官に頼むことではなかった。大石さんはあと数年で定年退職の年なのだ。まさか子供を賭場に連れて行くなんてリスクはとても背負えないだろう。

 

「確かにそうですね。ごめんなさい。忘れてください」

 

「忘れてくれと言われても難しいですよ!んふふふ。まさか村の天才少年が競馬を見に行きたいなんてね。いや、失礼。二十歳になったら一緒に場外売り場にでも行きましょう!それまでに麻雀も覚えておいてくださいね。園崎への態度と言い、私とは気が合いそうですから!」

 

 満足したのか、大石さんは機嫌良くどこかへ去って行った。半分は演技だろうが、もう半分は本当に趣味な気がした。

 

 魅音ちゃんに聞いたことがあるが、大石さんは鹿骨市の繁華街の界隈ではかなり有名で、チンピラも彼を避けて通るほど、幅を効かせる人らしい。もしかしたら、とも思ったが、何か他に方法を考えるべきだろう。

 

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