雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
綿流しの日から1週間が経つ。休みがちだが梨花ちゃんは学校に来るようになった。
梨花ちゃんの書類上の保護者は公由村長に決まったらしい。
古手家の家系にはもう梨花ちゃんしか残っていない状況になり、来年からの綿流しの奉納演舞は梨花ちゃんがやることになったようだ。
これが、彼女が言っていたこと。奉納演舞をやる日はそう遠くない、ってやつだった。
そしてそんな梨花ちゃんは、両親が亡くなったことに対してそれほど深い衝撃は受けていないようだった。いつも通り沙都子を揶揄い、可哀想なやつを慰め、大人たちには満面の笑みで気に入られている。普段とそれほど変わらない様子だった。
俺はそんな梨花ちゃんを見て、複雑な気持ちでいっぱいだった。
傷ついているなら話を聞いて慰める。空元気で頑張って明るく振る舞うなら一緒に遊んで悲しい気持ちを忘れさせる。そんなことが出来たかもしれないが、そのどちらでもないのだから。
梨花ちゃんの事件に関しては、俺は当事者ではない。しかし、なぜ俺に相談してくれなかったのだろう、という気持ちは残っていた。
あの日、梨花ちゃんは次の犠牲者は教えられないと言った。
それは、俺を巻き込まないためなのか、あるいは両親を救うのを諦めたからなのか。それとも、今年自分の両親が亡くなることは知らなかったのか……?
一度も2人で話す機会はなく、俺はその真意を聞けないままでいた。いや、機会があったとしても聞けるかどうか。俺はこれからも起こるであろう惨事に対しての心の準備が出来ないままでいた。
もしかすると、俺の友達や知人が亡くなることだってあるのかもしれない。そして梨花ちゃんはそれを許容できるのかもしれない。俺はその時、どうすればいいんだろうか……?
「ユウ、何をボーッとしてますの?いらないなら、そのコロッケを食べて差し上げますわよ?」
沙都子が考え込んでいた俺に言う。
今は学校の昼休み。梨花ちゃんは今日は来ておらず、魅音ちゃんはたまたま違う友達に誘われており、俺は北条兄妹と共に昼ごはんを食べていたところだ。
「うん?欲しいならあげるよ……?」
いつものように張り合う元気がなかった俺は、気の抜けた返事をする。訝しげな表情になった沙都子は、張り合いがありませんのね、と俺のコロッケを摘んだ。
「ユウ、あんまり元気ないね」
悟史くんが俺の顔を覗き込んで言った。
「うーん、そうでもないんだけど、悩んでるというか、何と言うか……?」
「そういう時はパーっと遊ぶのが一番ですわよ?私は今日、裏山に行く用事がありますの!ユウも一緒に来ませんこと?」
沙都子が俺を誘ってくれる。これはどう考えても、俺を慰めるために声をかけてくれているのだろう。
この子は無鉄砲なところもあるが、とても友達想いの良い子だ。いつもなら張り合う俺を、自分の秘密基地に誘って元気づけてあげようという、その優しさが身に染みて感じられた。
「沙都子、お前はほんとに良い子だなぁ……。そうだな。その遊びに俺も付き合わせて欲しいな。悟史くんは?」
「僕は遠慮しとくよ。沙都子のトラップが怖いし、それに……」
それに、の先は教えてくれなかった。悟史くんは微妙な表情で弁当をつついた。あんまりポジティブな理由ではなさそうだ。
「そっか。じゃあまた、野球の練習を見に行かせてもらうね?俺は雛見沢ファイターズのアナリストだから、自分のチームの選手の癖も理解しとかないといけないからね〜」
雛見沢ファイターズというのは、彼が参加している野球チーム。入江診療所の入江先生が監督を務めており、最近誘われて入ったらしい。
「ははは、ありがたいことにね。またもうすぐ試合があるから、また見に来てね?」
俺は何度か雛見沢ファイターズの練習に参加させてもらったが、あんまり野球のセンスはなかった。守備はそこそこだが攻撃が下手で、何と打率3割を誇る優秀なバッターである悟史くんと比べれば、あんまりチームの役には立っていなかった。
何せ同じグラウンドで練習している興宮タイタンズはそこそこ強い。雛見沢ファイターズもそれに合わせて高いレベルを求められるのだ。とはいえ、俺以外の子供達は、低年齢でも外を駆け回って遊ぶ子が多いこともあってか身体能力が高い。案外いい勝負になっているらしい。
「あなりすと?って何ですの?」
話に入りたいのか、沙都子が俺たちを見比べて聞いてくる。
「アナリストってのはね、相手のチームがどんな奴らかを調べる人だよ。沙都子も、トラップをかける前に相手にどんな癖があるのかしっかり観察するでしょ?」
俺が説明をした。沙都子はなるほど!と納得がいった様子で頷いた。
試合で活躍するのを諦めた俺は、その代わりに軽く試合を眺めて、相手のチームを分析することにした。といってもお遊び程度だが、どの選手が脅威で、どこの守備が甘い、誰がどこに飛ばしてくるか、みたいなものをノートにとって予測している。
入江監督もチームの子供達もそれを歓迎してくれており、俺はよく試合を見に行っていた。
「そうですわね、例えば……ユウは、何か自分の意見を話したい時は何かにもたれかかって、よく腕を組みますわね。考え事をしている時は、ボーッとした顔で一点を見つめていることが多いですわ。それから、面白いことを思いついたときは……」
ぶつぶつと俺の特徴を呟く沙都子。
「恥ずかしいからもういいよ!沙都子、どこに集合する?裏山にそのまま集まっても良いし、それとも、学校が終わったらそのまま行くか?」
「ユウは私のトラップにかからず裏山に来れる自信がありまして?何もわからないなら、きっとひどーい目に遭いましてよ?をーっほっほっほ!」
沙都子はそう言って豪快に笑った。そうだ、裏山に用事とは何かと思ったら、きっとトラップを作りに行くんだ。
沙都子は裏山にたくさんのトラップを仕掛けている。かつて両親との仲が険悪な時にはそれはもう危険なトラップを使っており、その中にはまともに食らえば病院送りになるようなものもある。俺1人で裏山の集合場所に行こうというのは、沙都子の言う通り危険に違いなかった。
「それは怖いなぁ。それなら、一度家に帰ってから沙都子の家に寄るから、合流してから一緒に行っても良いかな?」
仕方ないですわねー、と嬉しそうに頷く沙都子。その元気のまま、友達に誘われて遊ぶために外へと駆け出していった。
「ユウ、いつもありがとうね」
ふと悟史くんが言い出した。
「沙都子には少し悪いけど、多分……ユウがいなければ僕はもっと大変だったかもしれない。沙都子は今の叔父と叔母にも懐いていないんだけど、昔よりも怒られるようなことをする頻度は減ったんだ」
「それがどうして俺のおかげだって言うんだ?」
「昔の沙都子は、きっと頼る人を探してた。両親から叱られたことだってほとんど耳に入れずに、僕を盾にして無視をしてた。でも、ユウや梨花ちゃんたちと出会ってから、少しずつ変わっていったんだよ。きっと、みんなと出会って、兄である僕以外にも、頼れる人や良い人がいることに気づいてくれた。だから、両親とも仲良くなり始めていた……」
俺は独白するような悟史くんの言葉を、黙って聞いていた。
「そんな中であの事故が起こってしまったわけだけど。でも、ユウがご両親を通じて働きかけてくれたおかげで、園崎家からの風当たりもずっと落ち着いた。知ってる?今は、僕も沙都子も無視をされたりしないんだよ。魅音がこっそり教えてくれたんだけど、両親を亡くしたユウと僕たちを気の毒に思って、お魎さんが村の集まりで言ってくれたらしいんだ」
そのことは知っていた。だが、悟史くんの口から、変化を実感出来ているということは初めて聞いた。
確かに、俺や両親の努力は身を結んだのだ。
「それは……俺も、とっても嬉しい」
「うん。本当に、本当にありがとう。それで、沙都子は今も叔母さんと仲良くはないんだけど……叔母さんは、たまにおかしくなっちゃう時以外は、僕らにあんまり関わろうとはしないから。両親が健在で、沙都子が反抗していた頃よりも穏やかに暮らせてる。……乱暴な叔父が帰ってくる時は、沙都子はどこかに逃げて行っちゃうしね」
俺は、それを聞いて少しほっとした。俺が何年もかけてやったことは、そして何より俺の両親の命は無駄にはならなかったのだ。しかし、沙都子が叔父と叔母から逃げているせいで悟史くんが辛い目に遭っているのかもしれない。少し申し訳ない気持ちもあった。
「そっか……」
「だから、ユウが困ったことがあれば何でも言ってね。僕たちは絶対に、ユウの味方だからね」
悟史くんはにっこりと笑って俺にそう言った。その素敵な笑みは、男である俺でも見惚れそうだった。