雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第36話

「ねぇ。この後、時間ある?」

 

 帰りのホームルームが始まる前の空き時間、俺が自分の席で荷物を整理していると、魅音ちゃんが話しかけて来た。いつもは見せない、真剣な表情だ。

 学校がもうすぐ終わるのではしゃいでいる周りの子供達とは対照的で、少しの間返事をするのが遅れた。

 

「ええと……うん。どうしたの?」

 

「この後残って欲しくてさ。ちょっとした相談があるんだよ」

 

 ちょっとした相談……魅音ちゃんがわざわざ前置きをするとは、大事な用事に違いない。何のことかは想像もつかないが……あまりハッピーなことではないのは確かだった。

 

「何のお話をしてますですか?」

 

 後ろの席から、梨花ちゃんがちょいちょい、と俺の肩を叩いて話に加わろうとする。それに、遠慮がちな表情をした魅音ちゃんが答える。

 

「あー、梨花ちゃん。ユウのこと、ちょっと借りていいかな?」

 

「壊しちゃダメなのですよ?」

 

 きょとんとした顔で言う梨花ちゃん。壊すってなんだよ。

 

「あはは、大丈夫。それじゃ、また放課後。校舎裏で待ってるからね!」

 

 そんなことを言って、魅音ちゃんは自分の席に戻っていった。梨花ちゃんの方を見てみると、いつもの無垢な笑顔だった。

 

「何の用事か知ってる?」

 

「さぁ。ボクには想像もつかないのです。にぱー⭐︎」

 

 梨花ちゃんは満面の笑みを見せた。魅音ちゃんが何の話をするかは、分かっているに違いない。

 

 

 放課後になって、俺は魅音ちゃんに言われた通り、校舎裏に来ていた。

 魅音ちゃんは資材置き場のようなところで待っていた。日陰の建物に背中を預け、腕を組んでいた。俺が来たのを悟ると、手を振って俺を呼んだ。

 

「お待たせ。暑いのに待たせてごめんね」

 

「ううん。今来たとこ」

 

 いつもだったら、付き合いたてのカップルかよ!なんて言って笑わせようとするところだが、生憎今回はそんな雰囲気ではなかった。

 魅音ちゃんは、辺りを見回してから話を始めた。

 

「ユウ、最近悟史が叔母さんに当たられてるの、知ってる?」

 

「いや、初耳。俺の聞いてた話じゃ、沙都子の方が虐められてるって話だったけど……?」

 

 俺の言葉に小さく頷いて、魅音ちゃんは、息を吸い込んでから、口を開いた。

 

「それがね。最近叔母さんの様子がちょっとおかしいらしくて。家事は十分やってるのに、それでも怒ったりするみたいなんだよ。沙都子は家にいる時間を減らしたり、隠れたりしてやり過ごしてるらしいんだけど、悟史は変なところで真面目だから、叔母の叱責をそのまま受け入れたりしてるみたいなの」

 

 昔の沙都子は両親に対しても反抗気味だった。だからこそ、両親との関係も良くなかっただろうし、村の人たちに対しても失礼な態度を取っていたに違いない。

 今はどうだろうか。今では、反抗する意味はないことに気付いたと言ってた。かつてよりも、何倍も要領良くなったのだろう。

 

 では悟史くんはどうかというと……多分、今でも不器用な性格は変わってないと思う。それが悟史くんの良いところでもあるのだが……少し、不安なところもある。

 

「確かに、最近沙都子が遅い時間に家に遊びに来たりすると思ってたけど……叔母さんはどうしちゃったんだ?」

 

「……2年目の祟りが起こるまで、北条家に対する村八分は北条家の両親とその子供たちだけだった。それがあの事故によって、子供達への差別はほとんどなくなりつつあるでしょ?今では、村八分にされてるのはあのヒステリックな叔母だけなんだよ。村の一員として認められてる子供たちを虐めてるから、誰も叔母には同情しないし、むしろ叔母に対する風当たりは強くなってる」

 

「叔母は、その現状すらも子供達のせいだと思ってるってことかな……?」

 

「そうなのかもしれないね」

 

 魅音ちゃんは、やり切れない顔でそう言った。

 この現状は俺が村に対して働きかけたことが原因になるわけだ。となると、俺が悟史くんの心労を作ったと言っても過言ではないのだ。必要以上に自分のやったことを悔いるわけじゃないが、アフターケアがもう少し必要だったのかもしれない。

 

 魅音ちゃんはニヤリと俺に笑いかけた。

 

「だからさ。悟史の気晴らしのために、私たちで遊びに誘ってみない?」

 

「でも、いつも誘っても家事を理由に断られちゃうでしょ?」

 

「そこでだよ!これは学校の部活動ってことにすればいいんじゃないかな。叔母さんも、雛見沢ファイターズの活動には文句言わないみたいだからさ。友達と遊んでて遅れたって言うとダメかもしれないけど、部活動をしてたっていう言い訳があったら、家に帰るのが遅れても怒られないんじゃないかな?」

 

「どうだろう……ま、誘うだけ誘ってみるか。何して遊ぶの?汚れたらダメだし、外でってわけにはいかないよね」

 

魅音ちゃんは力強く拳を握って、親指を立てた。自身ありげな顔で俺に提案をした。

 

「そりゃあもちろん、ボードゲームやテーブルゲームだよ!知ってると思うけど、おじさんの家にはもっとたくさんのゲームが眠ってるからねぇ。いくら遊んでも尽きないよ?」

 

 魅音ちゃんはゲームを集めるのが趣味だ。たまに家にお呼ばれしたりすることがあって、集めているゲームを遊ばせてもらうことは何度かある。悟史くんに気も遣わせず、俺たちも楽しい。なるほど、一石二鳥だと言えるだろう。

 

「確かに!海外のゲームとか、普通にはなかなか手に入んないのもたくさん持ってるよね。俺も楽しみだよ。じゃあ、俺も家のやつをいくつか持ってくるね?」

 

「よし、じゃあそういうことでよろしく!おじさんは梨花ちゃんや沙都子にも声をかけとくからね」

 

 と、魅音ちゃんは俺に手を振ってその場を後にした。

 

 どうして俺と一緒に梨花ちゃんや沙都子にも話をしないのかと思ったが……下級生たちに心配をかけたくないから、とかだろうか。

 

 沙都子にこのことを話すと……ゲームで遊ぶことは歓迎だろうし喜ぶだろう。しかし兄の心労を軽減するために開催されているとなると、家で叔母に噛みついたりしそうだ。

 

 梨花ちゃんは……どうだろう。さっきの彼女はすでにこの部活動ができることも知っていそうだ。彼女もみんなで遊ぶのは大好きだし、きっと参加するだろう。

 

 とりあえず、叔母と悟史くんの不和については頭の中に入れておくことにした。今年の祟りの犠牲者の話も含めて、このことを梨花ちゃんと話しておきたかった。

 

 

 

 

 次の日の放課後。俺たちはいつもの仲間で放課後の教室に残っていた。俺らが我が物顔で教室を使っていいのか?という疑問もあったが、学校に残って勉強をする勤勉なやつは今の所いないらしい。

 学校に残って遊んでいる子供たちは、グラウンドでボール遊びをするのみだった。なら、俺たちがボードゲームで放課後に遊んだって問題はないだろう。

 

 俺、悟史くん、魅音ちゃん、そして沙都子と梨花ちゃん。5人が、机を並べて顔を合わせる。魅音ちゃんが誘った全員が、この部活動に入部することになったわけだ。

 

「ここに、我が雛見沢分校の部活動の開始を宣言するーっ!」

 

 魅音ちゃんが椅子から立ち上がり、高らかに宣言する。それに合わせて、俺たちは掛け声を上げた!

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 掛け声の後に、なのですとか、ですわとか、ちょっとした語尾が混じるのはご愛嬌。悟史くんも、恥ずかしそうにしながら掛け声を言ってくれたみたいだ。少なくとも、無理やり付き合わされてるっていう感じはしない。

 

「部活動会則第一条!狙うは一位のみ!」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 部活動会則第一条。

 当然のルールだ!誰かを勝たせてあげようという気遣いは、むしろゲームをつまらなくさせてしまうことだってある。コツやヒントを教えるのはありだが、自分が負けに行くなんてあり得ないことだ!

 

「部活動会則第二条!勝つためにはあらゆる努力を惜しんではならない!」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 部活動会則第二条。これも大切だ。

 魅音ちゃんや沙都子のことだったら、これを恣意的に解釈してイカサマやダーティプレイを正当化してしまうんだろうが……望むところだ。バレなきゃイカサマじゃないって言うし、見破れなかったやつが悪いというわけだ。

 

「部活動会則第三条!ゲームは絶対に楽しく参加しなくてはならない!」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 部活動会則第三条。これが第一条でもいいんじゃないかというほどの、大前提だ。例え誰かがひたすら勝ち続けていたとしても、楽しくやる。勝ち負け以上に大切なのは、それを楽しめるかどうか。少なくとも俺は楽しむ準備が出来ている。

 

「さぁ、やるぞーっ!」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

 魅音ちゃんの掛け声に合わせて、みんなで叫ぶ。この頃になると、悟史くんも恥ずかしげもなく大きな声を出していた。野球の練習で声出しも良くやるからだろうし、大声を出すのには慣れてるんだろう。

 

「まず、今日やるゲームは……何にしようかな」

 

 魅音ちゃんは口上をしっかり考えて来た割には、何を遊ぶかはそんなに決めていなかったようで、持って来たゲームを鞄の中からいくつか出し、これは違う、あれも違う……と悩んでいる様子だった。

 

 悟史くん以外はよくテーブルゲームをして遊ぶのだが、ここは初心者にも配慮して、わかりやすいゲームをするのがいいんじゃないだろうか?

 

「ええと、難しいゲームだと僕はわからないから……トランプとかじゃダメかな?」

 

 悟史くんがおずおずと手を挙げてそう言った。無難なところだが、ちょうど良さそうに思える。

 

「最初だし、俺もちょうどいいと思うな。トランプも実力が出るもんだしね!」

 

「ボクも異論はないのです」

 

「私もですわ!」

 

 みんなが賛成したところで、魅音ちゃんは綺麗なトランプをケースから取り出した。新品のものらしく、今日のためにわざわざ用意してきたのが伺えた。もしかすると、最初からトランプをやるつもりだったのかもしれない。

 

「じゃあ、ジジ抜きでもやろうか!」

 

 魅音ちゃんはトランプをシャッフルしながら言った。

 

 ジジ抜きとは、ジョーカーを含まないトランプ52枚の内、1枚だけを誰にもわからない状態で抜き取った状態でやるババ抜きだ。ちょっとしたバリエーション違いだが、無くなっているカードが何なのかを推測する要素が入っているわけだ。ただ、何が最後に余るカードなのかは中々わからない。

 

 俺ももちろん、ジジ抜きをやったことはあるが……ちょっとした提案をしよう、と思った。

 

「そうだ。どこかで聞いたローカルルールがあるんだけど、こんなのはどうかな」

 

 魅音ちゃんは、聞かせてみな、という顔で俺に続きを促した。

 

 「ジョーカーを入れて、53枚でゲームをスタートする。これだとババ抜きみたいだけど……違うのは、ペアを作ったあとは裏向きで出すことと、ジョーカーが使えるカードだってこと。ジョーカーは、どのカードとでもペアを作れるワイルドカードになる。だから、最初にジョーカーを引いた人は何が最後に余るカードなのか、分かるってわけ。どう?面白そうじゃない?」

 

 俺がぺらぺらと喋ると、梨花ちゃんはにっこり笑って言った。

 

「やったことないルールですが、中々面白そうなのです」

 

「でもそれだと、ジョーカーを引いた人が有利じゃありませんこと?」

 

 沙都子が言った。確かにその通り。

 

「それなら、ジョーカーを引いてビリになった人は罰ゲームってことにしてみる?終わってからいちいち遡るのも面倒だし、ほぼ自己申告制になっちゃうけどね」

 

「あっはっは!いいね、それ。罰ゲームかぁ!おじさん、俄然やる気が出て来たよー?」

 

 魅音ちゃんが楽しそうな笑みを浮かべた。罰ゲーム……いかにも彼女が好きそうな響きだ。

 

「むぅ……お手柔らかに頼むよ」

 

 悟史くんはあんまり自信がないようで、罰ゲームの内容がどんなものなのか、今から想像して怖がっているらしい。運次第のゲームは悟史くんも中々強いんだけどな!

 

「よし。何はともあれ、やってみるとしよう!」

 

 魅音ちゃんによりカードが配られ、全員の手に行き渡る。そして、我々の部活動が、始まるのである!

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