雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第37話

「う、うわぁーっ!そっちかぁあ!」

 

 魅音ちゃんが叫ぶ。その顔は驚きに満ちていた。

 

「ということは……これで上がり、ですわ!」

 

 俺たちはしばらくトランプで遊んでいた。途中、他のゲームをいくつか試したりもしたが、最終的に今日の部活動の勝者を決めることになり、もう一度変則ジジ抜きをすることになったのだ。

 

「くっそー!沙都子に負けるなんてぇ……!」

 

 魅音ちゃんと沙都子の2人は、一対一の駆け引きをしているところだった。で、魅音ちゃんは沙都子の手札から最後に残るカードを引いてしまったらしい。そして、何が最後に残るカードなのかを選択したのは──つまり最初にジョーカーを配られたのは──魅音ちゃん本人のようだ。

 

「をーっほっほっほ!まさか、魅音さんが最初にジョーカーを引いていらしたなんて!」

 

「じゃあ……罰ゲームってこと?」

 

 最初に上がった悟史くんが、可哀想なものを見るような目で魅音ちゃんに言う。

 

「そうなるのです。せっかくジョーカーを引いたのに、全然揃わなくて魅ぃはかわいそかわいそなのです」

 

 梨花ちゃんが揶揄うように言い、崩れ落ちる魅音ちゃんの頭を撫でる。その顔には、とっても楽しそうな笑みを湛えていた。梨花ちゃんは一度も負けることなく、そこそこの成績で今日の部活動を終えた。

 

「どんな罰ゲームをしてもらったらいいんだろうね。そうだ。今日一番戦績が良かった人が、罰ゲームを指定したらいいんじゃない?となると──」

 

「にーにー!にーにーですわ!ビリも多かったですけれど、一位も一番とっていらしてよ?」

 

 俺の言葉にすかさず反応した沙都子。まるで自分のことのように嬉しそうだった。悟史くんは運が絡むゲームでは中々手強い。彼はビリになることもあったが、一位の数は一番多かったのだった。

 

「むぅ……魅音に罰ゲームかぁ。そうだなぁ、帰り道に僕の荷物を持ってもらおうかな?」

 

「それくらいでいいならお安い御用だけどね。もしおじさんが罰ゲームをするなら、もーっと酷いことをさせちゃうよぉ?」

 

 魅音ちゃんは楽しそうに言う。今日の魅音ちゃんはそんなに上手じゃなかったが、これからが怖いところだ。というか悟史くんと俺以外の全員が、罰ゲーム選びには躊躇しなそうだ。俺も覚悟をしなくては……。

 

「じゃあもう夕方だし、キリもいいし、こんなところにしようか」

 

「そうだね。今日の部活動はここまでとする!では、かいさーん!」

 

 魅音ちゃんの号令に、俺たちはみんなで声をあげて答えた。今日遊んだゲームやトランプをロッカーに片付けて、帰路につくことにした。

 

 

 

 魅音ちゃんの家は北条家とは逆方向にあるが、魅音ちゃんはちょっと遠回りをすることになる。せっかくなので、俺も北条家のある方に着いて行くことにした。となると、全員で古手神社・北条家の方角へと歩いて行くことになった。

 

「いやぁ、みんな中々やるねぇ。おじさんも、もっと上手くならないといけないなぁ」

 

 魅音ちゃんは悔しそうな顔で俺たちに言った。彼女は用意周到なタイプだ。裏でコソ練してくるに違いない。これからの部活動は大変厳しいものになる予感がした。

 

「魅音ちゃんが上手くなりすぎると、罰ゲームが今から怖いからなー……練習とかしないでよね」

 

「はっはっは!ユウや悟史に着せるための、かーわいい制服、用意しとくよ!覚悟しとくんだね!」

 

「うぇ。ゾッとするなぁ……」

 

 魅音ちゃんはいやらしい笑みを浮かべた。彼女は親類の仕事の影響か何かで、たくさんの種類の制服を持っている。中には可愛らしいものとか、恥ずかしいようなものもあるだろう。それを着せられて写真なんか撮られた日には……俺のアーティスト生命はおしまいだ。

 

「雄星、勝てば問題ないのですよ」

 

 梨花ちゃんが笑いながら言う。梨花ちゃんは何故か結構ゲームは上手い。罰ゲームをやってる姿が中々想像できない。

 

「今日はいきなりでしたし上手くいきませんでしたけれど、次はユウを嵌めて、素敵な罰ゲームをさせてあげましてよ?をーっほっほっほ!」

 

 今日の沙都子は、それほど活躍しているというわけではなかった。精神年齢が高い梨花ちゃんを除けば、彼女は最年少と言っていい年齢なのだから、当然だろう。

 沙都子は人読みには長けてるが、計算が必要なゲームは苦手だ。

 沙都子が罰ゲームをする機会もきっとあるだろうな。もし俺が勝ったら、何をさせようかな……。

 

 俺が沙都子のことをじっと見ていると、梨花ちゃんがつんつん、と俺の肩を叩く。

 

「どうかした?」

 

「何か、沙都子で邪なことを考えているに違いないのです」

 

 小声で俺に囁いた。ちょっと恥ずかしくなって、明後日の方を見た。気にしないようにしよう。

 

 

 

 しばらく俺たちは歩いて、神社の近くに差し掛かった。ここで梨花ちゃんとはお別れかと思ったが、その時梨花ちゃんは俺の方を見て口を開いた。

 

「雄星。そういえば、神社の倉庫に置きっぱなしになっているギターの備品か何かがあるのです。みんなが整理してくれた時に出て来たので、今から神社に来れますですか?」

 

 忘れ物などした覚えはないが、梨花ちゃんの目は、何か言いたげに俺の目を見据えている。きっと、話したいことがあるのだろう。

 

「あ、そうなんだね。じゃあ、俺は神社に行ってこよーかな。みんな、今日はありがとう!またね」

 

 俺は梨花ちゃんに連れられるままに、みんなに別れを告げた。突然のことだったので、沙都子はちょっと怪訝な顔もしていたが、みんなが気にしていないのを悟ると、同じく手を振って俺を見送った。

 

 俺と梨花ちゃんは長い神社の階段をいつものように登る。梨花ちゃんは今日の要件は何も言わなかった。ということはやはり、みんなには話せない大事な話なのだろう。

 

 人っ子1人いない、寂しい境内の中を俺たちは無言で歩いた。もうこの頃になると、老人たちが神社で集まる頻度も減っていた。ダム戦争は夢の跡といった感じで、祭りの日はともかくとして、何もない日はただの田舎の寂れた神社になってしまっている。

 

 俺の前を歩く梨花ちゃんは境内を外れていく。何処に案内されるのかと思って着いていくと、そこは村の防災倉庫だった。

 

 梨花ちゃんは両親を亡くしてからしばらく経って、広い古手家本宅を引き払って境内にある村の防災倉庫の2階に住むようになった。1人であの広い建物を管理するのは大変だし、両親のことを思い出して悲しくなったりもするだろう。

 

 俺を先導した梨花ちゃんは黙々と勝手口を開け、俺を2階の居住スペースへと案内した。

 

「ほら、入って良いのですよ」

 

 梨花ちゃんに案内されるままに、俺は孤独な少女のワンルームへと足を踏み入れた。生活感たっぷりだが、綺麗に整頓されているその部屋は、梨花ちゃんの生活力の高さを表しているようだった。

 梨花ちゃんは、どこか感想を求めるような顔で俺の方を見ていた。

 

「お邪魔します。綺麗に片付けてるんだね。なんかちょっと……照れるな」

 

「どういう意味なのですか?」

 

 首を傾げる梨花ちゃん。

 

「一人暮らしの女の子の部屋にお呼ばれして入ってるわけじゃん?気を遣うというか……」

 

 梨花ちゃんはジト目で俺を見つめる。ちょっとした冗談のつもりだったんだが、真面目に受け取られてしまったみたいだ。

 俺の言葉に変な顔をした梨花ちゃんは、無言で座布団とお茶を2つ用意すると、俺に座るように促した。

 

 俺は座り、お礼を言ってからお茶を一口頂く。

 人の家で飲むお茶って、家のやつより美味しい気がする。梨花ちゃんもお茶を一口啜り、ほっと一息ついてから話を始めた。

 

「はぁ……今日は話したいことがあって呼んだの。今年の祟りの話」

 

 梨花ちゃんは口調と雰囲気を変えた。俺も今から真面目な話をするのだと悟り、ヘラヘラと緩んでいた表情を引き締めた。

 

「以前、沙都子がある病に罹っているということを話したでしょう?そして、今はそれが寛解状態にあるということも。……その病は、悟史も同様に感染しているの」

 

「一緒に暮らしているしね。そういうものかもしれないね」

 

 俺の言葉に、ちょっと引っ掛かっている顔の梨花ちゃん。しかし別に大した問題ではなかったらしく、そのまま話を続けた。

 

「うーん……まぁ、そんな感じ。結論から言うと、今年の犠牲者は沙都子たちの叔母。そしてその祟りを実行する人間は……悟史なのよ」

 

 部屋には重苦しい沈黙が訪れた。

 その言葉を聞いた俺としても、正直信じられそうになかった。あのぽわぽわした雰囲気の悟史くんが、殺人?いくら追い詰められたとしても、そんなことをするとは思えない。

 

「あなたには信じがたいでしょうね。それは分かる。正直に言って、私にもこの世界の悟史がどうなるかは予測がつかない。現状ではそんな事件は起こらないように見える……しかし2年前にも、あの事故が起こったことを考えれば、あなたにも相談をしないといけない……そう思ったのよ」

 

 これを話してくれているということは、梨花ちゃんは俺のことをかなり信頼してくれているのだろう。

 祟りの犠牲者を教えてくれるのは初めてのことだし、直接的に俺に協力を頼んでくることも初めてだった。

 

 俺に協力を頼んで何とかなる可能性があると梨花ちゃんが判断したということは、今年の祟りには裏で糸を引く何者かは関係していないということなのだろうか。

 

 去年は、"どうにもならないことだから"と、自分の両親の死を諦めてしまっていた。今年の祟りは、俺たちが手を尽くせば食い止められるものなのかもしれない。

 

「これは答えなくてもいいんだけど。去年の祟りは明らかに黒幕がいるよね。俺はそれを入江診療所だと思ってる。それはそうとして……今年の祟りは黒幕が関係してるのか?」

 

 梨花ちゃんは俺の質問に対して、少し考えた上で答えた。その答えは明快なものだった。

 

「去年の事件については置いておいて、答えはいいえ。私が知っているのは、叔母が沙都子に対してする虐めを見かねた悟史が凶行に及ぶ、というだけよ。診療所が一切関係していないというわけではないけれど……」

 

 去年の事件の黒幕が診療所に関係していることは、もはや明言しないだけで俺たちの暗黙の了解になりつつあった。

 しかし、沙都子が虐められて、兄の悟史くんが決起して叔母を殺害するというのは、今の状況からするとやや疑問が残る。いくら悟史くんがブチ切れても、そこまでするんだろうか……?

 

「なるほど。……俺が知る限りだと、今叔母に追い詰められているのは悟史くんらしいよ。沙都子は上手く隠れたり、俺の家に逃げてきたりして、叔母から逃れてる。その代わりとして、真面目な悟史くんが虐められてるらしいんだよ」

 

 俺の言ったことは梨花ちゃんにとって初耳だったようで、梨花ちゃんは眉を寄せた。ということは、やはり叔母の状態は梨花ちゃんの今までの経験にはないものなのかもしれない。

 

 梨花ちゃんは少し考えた素振りを見せながら、お茶をまた一口飲んだ。ふぅ、とため息をついてから口を開いた。

 

「そういうケースもあるのね……確かに、今の沙都子は色々と成長しているものね。他に聞いた話はない?私も情報を集めているけれど、神社に来る老人は北条の話はしたがらないから。教えてくれて助かったわ。それで言うと、あの兄妹が村に受け入れられはじめているのに、叔母だけは嫌われたままだから、それも関係しているのかもしれないわね」

 

 神社に来るような年寄りは未だに北条を嫌っている人もいなくはない。そうした人たちは、そもそも北条に関する事情を知りすらしないだろう。

 

 それと、梨花ちゃんが言ったことに関してもう一つ。聞きたいことがあったんだった。

 

「さっき言ってた病気についてだが……あの叔母も感染してるってことはないか?最近、叔母が些細な物音に敏感に反応したり、何もないのに怒鳴ったりするらしいんだ。それが病気の症状だったりしないか?その病ってのは、ある種心の病気みたいなもんなんだろ?」

 

「……あり得るわね。こちらで、叔母の状態を監視しておくわ」

 

 納得したような顔で頷く梨花ちゃん。その言い方に、俺の中で少し疑問が生まれた。

 

 "こちらで監視しておく"というほど、梨花ちゃんが動かせる人間がいるんだろうか?もしも自分で様子を見に行くとかだと、それはそれで危ない気もする。今年も"祟り"が起こる可能性はあるわけで、もしかすると梨花ちゃんに危険が迫る場合もある。

 

 もしもそれが今以上に叔母を追い詰めることになったら、回り回って割りを食うのは兄妹だし。

 

「梨花ちゃんが直接動くのは危ないからやめといた方がいいんじゃないかな。俺も大石さんに伝えておくよ。何があるかわかんないしね」

 

「私が直接見に行くわけではないけど……貴方が大石に頼むのは悪くないわね。大石は"オヤシロ様の祟り"を解き明かすのに執心してる。私や魅音は信用されていないけれど、貴方はそうでもなさそうだしね。少なくとも、祭りの日くらいは監視をつけてくれるでしょうね」

 

「じゃあ、また連絡しておく。どうせ綿流しの前になったら雛見沢に来るだろうしね」

 

「そうね。……私からはこれくらいよ。貴方からはなにかある?」

 

 梨花ちゃんはお茶を一口含んで、リラックスした表情で俺に言う。

 別に特に伝えないことはないが、世間話でもしよう、と思った。

 

「そうだなぁ……梨花ちゃんの知ってる未来のことと、現状がどれぐらい違うのかが気になるかな。今日の"部活動"って、梨花ちゃんはあらかじめ作られることが分かってたの?」

 

 俺の質問に対して、何だそんなことか、と事もなげに返事をする。

 

「まぁ、そうね。作られないこともなくはないけど、多くの場合で魅音が提案してくれるわね」

 

「じゃあ、もしかしてトランプで何を引くかとかまで覚えてるの?だから今日のジジ抜きも強かったの?」

 

 俺が笑いながら聞くと、梨花ちゃんも小さく笑った。

 

「くすくす。貴方がいるから、遊ぶゲームの種類すらも違うのよ。覚えられるわけないでしょ?」

 

「まぁ、そりゃそうか。じゃあ、そのうち梨花ちゃんが罰ゲームをすることもあるってことなんだね。その時は何してもらおっかなあ。いつも良いようにされっぱなしだからなぁ」

 

「望むところよ。こっちこそ、あんたを私の犬にしてあげるわ」

 

 梨花ちゃんは不敵に笑った。俺もそれに釣られて笑った。深刻な話をしたに違いなかったが、その場は穏やかな雰囲気に包まれた。根拠はないが、今年の祟りこそは何とかなるんじゃないか?そんな気がしていた。

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