雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第41話

 俺たちは昼休みの時間で、机をくっ付けて弁当をつつき合っているところだった。

 俺は対面する悟史くんの顔をじっくりと眺める。恥ずかしそうに目を逸らす彼の顔には、いつもにない違和感があるのだった。

 

「さっきから気になってたんだけど……どうしたんだよその顔。もしかして叔母に殴られたのか!?」

 

「いやぁ、ちょっと色々あってね……」

 

 悟史くんの顔には、誰かに殴られたような痣があった。まさか家庭内でそんな惨い暴力が行われたなんて思いたくはなかったが、その傷跡を見れば、嫌な想像も思い浮かぶというものだ。

 

 今日は話すタイミングも少なくて、昼飯で顔を近くで合わせるまではなんとなくの違和感でしかなかったが……それは気のせいではなかった。

 

「悟史は、興宮で不良に絡まれた私を助けてくれたんだよ。ねっ?」

 

 魅音ちゃんが笑いながら言う。つまり、不良に殴られたってことか?案外、興宮って治安が悪いのか?

 俺がそのことについて、何と聞こうか悩んでいたところで、恥ずかしそうな顔で悟史くんが口を開いた。

 

「そうなんだよ。魅音が停められてるバイクを倒しちゃって、不良に詰め寄られてたんだ……」

 

 しかし、魅音ちゃんがヤンキーに絡まれるとは。どんなやつにどんな因縁をつけられたのかは知らないが、魅音ちゃんなら2、3人ならぶっ飛ばしてしまいそうなもんだが。

 

「そこをね?悟史が来て、私を助けてくれたわけ。あの時の悟史、ヒーローみたいだったよ!」

 

 悟史くんは見かけによらずガッツがあるタイプだ。きっと誰が困っていても、そうするに違いない。

 魅音ちゃんは機嫌良さそうに悟史くんの背中をぽんぽんと叩く。悟史くんは、むぅ、と黙り込む。褒められて別に嫌な気はしていないが、照れ臭いんだろう。

 

「魅ぃちゃん、悟史くんに助けてもらったんだよね!」

 

 そこにレナちゃんまでもが参戦してくる。レナちゃんは最近では部活動にも参加するようになっており、俺たちの仲間入りをしていた。レナちゃんは料理も上手く、持ってくる弁当は俺たちにつつかれてすぐになくなってしまう人気者だった。すぐに飽きられた俺の煮卵・ソーセージ弁当とは大違いだ。

 

「悟史くん、やっぱりやる時はやる男だよな!でも魅音ちゃんに喧嘩売るなんて、その不良も命知らずだね。魅音ちゃんは優しいけど……おっかない大人たちに血祭りに上げられなくてよかったね、その不良たちも。悟史くんはそいつらのことも助けたわけだ」

 

「まぁね?いつでもぶっ飛ばせたんだけどさぁ、せっかく悟史が助けてくれたんだからね。いやぁ、流石の私も囚われのお姫様みたいでうれしくなっちゃったよぉ!」

 

 魅音ちゃんも満更でもなさそうだ。魅音ちゃんは男勝りな感じで振る舞う割には、結構乙女チックなとこがあるのを俺は知っていた。冗談めかして言ってはいるが、きっときゅんきゅんしたに違いない。

 

「そういえば、そんなこと前にもあったよね」

 

 俺も、ふとそんなことを思い出して口にした。確か、あれは数年前のことだった。俺が親父の買い出しについていった時だった気がする。

 

「えぇ?そだっけ?」

 

 魅音ちゃんは覚えていないのか、知らないふりをしているのか。どちらかは分からないが、とぼけた顔をしていた。

 

「覚えてない?魅音ちゃんが興宮に来てた時に、バイクを倒しそうになっててさ。俺は魅音ちゃんを見つけて後ろから驚かそうとしてたんだけど、2人でギリギリ倒れそうなバイクを掴んで立て直したやつ」

 

「あぁ〜!なんか、あったような!そんな気もするかなぁ、うんっ!」

 

 魅音ちゃんは大袈裟に頷いて反応した。この反応は覚えてないんだろうな。あの時の俺はなかなかのファインプレーだと思ったんだけど。当時小学校低学年の俺たちで、よくバイクを立て直せたものだ。

 

 他のみんなもその魅音ちゃんの反応から、あんまりピンと来てない様子だった。なんとも言えない微妙な雰囲気の中、梨花ちゃんが無表情で、しかし内心ニヤニヤしてそうな声で喋った。

 

「雄星は、自分も魅ぃに褒められたくて話を作ったのですか?」

 

 その言葉で俺の顔が赤くなるのが分かった。それが本当なら俺はどんな恥ずかしいやつだよ。

 沙都子がぷっ!と大きな声で吹き出した。他のみんなは笑っていいのか分からない、微妙な感じ。俺の方を見て、弁明を求めているような雰囲気だ。

 

「ちげーよ!あの時、俺たちであのでけーバイクを立て直しただろ!?あの時は確か、魅音ちゃんが余所余所しくて、髪の毛も今みたいに纏めてなかったと思うけど」

 

 俺が必死でそう言うと、魅音ちゃんは目を少し見開いて、俺の手を握ってブンブン振った。流石に思い出してくれたらしい。

 

「あった!あったよ!そんなこと!いやぁ懐かしいなぁ。ダム戦争が終結する頃だっけ?」

 

「魅音さん、ユウに話を合わせてあげなくてもいいんですのよ?ユウは時々変なことを仰るんですから!ユウ、褒めて欲しければ私が褒めて差し上げましてよ?」

 

 沙都子が、俺を馬鹿にしたようにそう言う。その手は俺の頭を撫でてやろうか、とひらひらと動く。

 

「だーからぁ!本当なんだってー!」

 

 俺は道化に徹することにした。まぁ、覚えてなくたって仕方がない。何年前の話だし。俺が悟史くんぐらいイケメンだったら色濃く記憶に残ってたんだろうか?……悔しくなんてないもん。

 

「誰にも信じてもらえなくて、雄星はかわいそかわいそなのです」

 

 梨花ちゃんの手が項垂れる俺の頭を撫でた。されるがままにしていると、沙都子の手までもが伸びてきて俺の頭をがしがしと手荒く撫でた。

 

「かわいそ、かわいそ。ですわね〜」

 

 沙都子も梨花ちゃんの真似をして俺の頭を撫でた。優しくはなかったが、心はほっこりした。

 

「で、悟史くんは診療所には行ったの?早めに行った方がいいよ。その綺麗な顔に痣が残っちゃったりしたら、勿体無いよ〜」

 

 話にオチがついたところで、悟史くんに言う。

 悟史くんは恥ずかしそうにむぅ、と唸ると、あとは黙って弁当を食べ出した。それがなんだか面白くて、俺たちは笑った。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日のゲームはこれにしようか!"ラミーキューブ"!」

 

 時は経って、もう放課後だった。周りの子供達が帰った後、俺たちは机を向かい合わせて今日遊ぶゲームを吟味していた。

 

「お、俺がリクエストしたやつじゃん。よく探してくれたね、魅音ちゃん」

 

「いやぁ、おじさんのコネクションを辿ればちょちょいのちょいってもんよ!」

 

「みー。やったことないゲームなのです……沙都子はやったことありますですか?」

 

「もちろん、私もやったことなんてなくってよ。どうせ、魅音さんとユウだけがルールを知ってるに違いありませんわ」

 

 彼女らの言う通り、ゲームを用意するのは大体俺か魅音ちゃん。ということは、俺たちだけはゲームのルールを把握しているわけだ。確かに、ルールを先に知っていれば有利なのは間違いない。

 2人はそれがちょっと不服らしく、ぶーぶーと文句を垂れた。

 

「ユウは、本当にいろんなことを知ってるからねぇ……最近は本もあんまり読んでないのに」

 

 悟史くんは不思議そうな顔でそう言った。実際、最近の俺は遊びに忙しくて本やギターといった昔からの趣味を疎かにしつつある。おすすめの本は今でも悟史くんに紹介したりはするのだが。

 

 少し談笑したのち、俺はゲームの説明を始めた。

 

「ルールは意外と簡単だよ。トランプのラミーみたいな感じで、カードは合計106枚。それぞれ4つの色と13までの数が書いてある。

 自分のターンが来ると、配られたカードから、同じ数字を3つか4つ、あるいは連番の3つ以上をセットにして場に出す。出せない場合はさらに山札から一枚カードを引く。それを繰り返して、誰かが自分の手牌を全て使い切った時、自分が場に出した数字の合計が最も高い人が優勝!」

 

 俺の説明に、魅音ちゃんが補足をする。

 

「これの面白いところは、場に出ている組み合わせを自由に変えていいってとこだね。例えば、手札に6が2枚と3が一枚あるなら、4.5.6で出てるやつを組み替えて、3.4.5と6の3つセットにしたりもできる。発想次第で、いろんなカードの使い方が出来るってわけ!」

 

 そう、このゲームの面白さはここにある。場に出ているカードはターンの終了時におかしなことにならなければ組み替えられる。自分の発想次第で、使えない筈の手札が一気に大きな加点に変わったりするわけだ。

 

「自分の手札に残っていた数字の合計が自分へのマイナスポイントに、そして参加者全員のマイナスの合計が勝者のポイントになるからね。負けるにしても、できる限り手牌を使い切って負けたほうがいいよ。じゃ、最初は試しでやってみよー!」

 

 魅音ちゃんの号令で、今日の部活動が始まる。俺が勝ったら……最下位のやつに今日の晩御飯を作りに来てもらいたい。作るのが面倒臭いから。

 

 

 

 なんだかんだで今日の部活動は終わった。最終的には悟史くんが最下位となり、一位の魅音ちゃんが罰ゲームを考えているところだった。

 

「いやぁーどうしちゃおっかなぁ!おじさんが一位になるのは久しぶりだからね。飛び切り恥ずかしい罰ゲームをしてもらわないといけないねぇ!」

 

 魅音ちゃんはロッカーから色々な衣装をあれでもない、これでもないと吟味する。彼女は知り合いの貸衣装屋か何かから、変な衣装をいくつも仕入れてきてロッカーに入れていた。メイド服とか、際どい水着とか、猫耳や尻尾とか、色々。

 

 魅音ちゃんは極端にゲームが上手いというわけでもないので、罰ゲームを自分で食らうことも割と多かった。

 罰ゲームを全力で遂行して、気恥ずかしさに顔を赤くする魅音ちゃんをみるたびに、北条兄妹を楽しませようという魅音ちゃんの心意気を感じた。

 

 しかし、今日は罰ゲームを与える側だ。魅音ちゃんは自分も全力で罰ゲームを遂行するし、罰を与える時も容赦はしない!

 悟史くんの顔は、処刑執行前の罪人の表情……は言い過ぎだが。今日は何が来るかと恐れ慄いていた。

 

「魅音ちゃん、本当にやばいのは勘弁してあげてね……?」

 

 俺はこそっと魅音ちゃんに耳打ちをした。

 俺は一度、変なスクール水着で村を練り歩かされたことがある。俺がやる分には友達と遊んでるんだなと思われて終わりだが、もし悟史くんがそんなことして、北条家への風当たりが冷たくなったら笑えない。

 

「だいじょーぶだよ。そんな過激な服は着せないし、ここから北条家までちょーっと歩くだけだし。私が一緒だったら、罰ゲームやってるってみんなわかるよ」

 

 魅音ちゃんはそう言って、ロッカーからメイド服を取り出した。いくら雛見沢分校が自由なところだと言っても、こんなものを学校のロッカーに入れてていいんだろうか?

 

「じゃあ、悟史!今日はこれ着て家まで帰ってね!」

 

 魅音ちゃんの言葉に、むぅ、と唸る悟史くん。拒否して違う罰ゲームにしてもらってもいいと思うが……悟史くんは素直に頷いて、嫌々ながらもメイド服に着替えだした。

 

 

 

 そして俺らは家へと帰っているところだった。

 外はだいぶ夏に近づいてきた頃だ。春というにはあまりに暑すぎる。俺らを焼くような日差しが降り注ぎ、みんな額に汗を浮かべている。

 

「まーだ6月だってのにさぁ、こんなに暑いとやになっちゃうよぉ……」

 

 魅音ちゃんは口を開けてうんざりした顔をする。服をバタバタさせて扇ぎ、少しでも暑さを和らげようとする沙都子もそれに同調する。

 

「全くですわぁ……これじゃ、溶けてしまいますわ……」

 

「雄星、沙都子が溶けたらどんな味だと思いますですか?」

 

 梨花ちゃんの変な質問に、沙都子を上から下にジロジロと眺めて考える。

 暑さに顔をほてらせる沙都子は、ちょっと恥ずかしそうに口を固く結んで、俺の審査を待っている。……可愛い。

 

「そうだなぁ……ほんのり苦味のある柚子シャーベット味だろうね。素直じゃないところもあるけど、本当は優しくて、ほんのちょっぴり寂しがりやだからね。最初はすっぱくても、甘くほろ苦い後味が残るような……」

 

「やめてくださいませーっ!」

 

 悪ノリが過ぎてしまったか、後ろから俺の腰あたりへと沙都子のテレフォンパンチが飛んでくる。痛みを覚悟したが、意外と痛くない。

 

「ごめんごめん。でも、間違ってはないと思うよ?」

 

 ポカポカと俺を殴り付ける沙都子の頭を優しく撫でる。太陽によって温められた髪の毛がほんのり温かい。沙都子は可愛らしくはにかんでいる。

 

「は、はぅ〜……揶揄われて顔を赤くしてる沙都子ちゃん、かぁいいよぉ!」

 

 レナちゃんが手をわきわきとさせて沙都子ににじり寄る。

 

「にーにー!助けてくださいましーっ!」

 

 沙都子は徐々に近づいてくるレナちゃんから走って逃げていった。レナちゃんはそれを追う。今日は悟史くんも本調子じゃないので、沙都子の味方が少なくて可哀想だ。

 

「あはは!ま、こんなに暑くても、みんな一緒なら楽しいね。ねーっ、さ、と、し!」

 

「むぅ……」

 

 暑い中メイド服を着せられている悟史くんは、そのメイド服を汗で濡らしながら顔を真っ赤にして歩いていた。その顔が赤い理由は、きっと暑さだけじゃないだろう。

 

「悟史くん、今日は大変だけどさ。次のチャンスで魅音ちゃんに何をさせるか考えとこうよ」

 

「そ、そうするよ……」

 

 と、そのあたりでレナちゃんと沙都子の追いかけっこも終わったらしく、レナちゃんが沙都子を捕まえてこちらに歩いてくる。汗だくの沙都子は、諦めたような顔でレナちゃんに抱えられていた。

 

 そんな風にお喋りをしていると、もうすぐで神社に差し掛かる。そこで梨花ちゃんとはお別れだ。

 

「また明日会いましょうです。ばいばいなのです」

 

「うん。また明日!」

 

 みんなも梨花ちゃんに別れを告げて、また歩き出す。次に向かうのは北条家だ。悟史くんが家に着くところまで見送ってから、魅音ちゃん、俺、レナちゃんは自分たちの家に帰る。

 ちょっと時間はかかってしまうが、俺たちがいないと、悟史くんが村人に変人扱いされるかもしれないし。

 

 しばらくおしゃべりをして、俺たちは北条家に到着した。

 

 家が見えてきたころ、悟史くんは罰ゲームから解放される嬉しさと、叔母のいるところに帰らなくてはならない辛さを両方孕んだ、複雑な表情になった。

 

「じゃあね。2人とも、また明日!」

 

 俺がそう言った瞬間、玄関の扉が凄い勢いで開かれた。そして、少し前に見たことのある、北条家の叔母さんが現れた。その顔は、まさしく鬼の形相だった。

 

「あんたら、何をやってるんだい!?」

 

「え、あ、えーと……部活動の罰ゲームで……」

 

 魅音ちゃんが焦った顔でそう答える。何も正直に言わなくても良いだろうに!

 

「はぁ!?顔に痣までつけて……悟史、あんたいじめられてんのかい。クソ、いじめを罰ゲームとは、流石園崎の令嬢だね。それに、牧野雄星……あんたも。絶対に、許さないからな……!」

 

 聞いていた話通り、北条玉枝は親の仇を見るような、憎しみのこもった目を俺たちに向ける。

 俺は目を逸らした。前世も含めて、これほどの憎しみを向けられたことはない。思わず、足が止まる。

 

「み、みんな。気にしないで。また明日!」

 

 悟史くんは蒼白な顔で家の中へと入っていった。沙都子は、叔母への敵愾心を隠そうともせず、叔母を睨み返す。

 

「何だい、その目は……!もういい!出ていけ!沙都子!お前なんて、一度も役に立った試しはないんだよ!二度と帰ってこなくていい!」

 

 血走った目で、唾を飛ばしながら叫ぶ叔母。沙都子は売り言葉に買い言葉で、負けじと返す。

 

「私の方こそあんたのいる家なんて願い下げですわ!早く私たちの家から出て行ってくださいまし!にーにーも私も、あんたにはほとほと迷惑しておりましてよっ!」

 

「沙都子!やめろって。あの、叔母さん。本当にすいませんでした。今日のところはもう行きます。その……迷惑をかけようとか、そういうつもりはないんです」

 

 俺はそう言って深く頭を下げた。が、あんまり意味はなかったようで、北条玉枝の鋭い目つきが変わることはなかった。沙都子の方も、今にも叔母に噛みつきそうな勢いのままだ。

 このまま沙都子をあの叔母のいる家に帰らせるのは怖い。

 

「沙都子、行こう」

 

 俺は沙都子の手を引いて、歩き出す。少し遅れて、魅音ちゃんとレナちゃんも着いてくる。そんな風に、俺たちはそそくさと北条家を後にした。

 

 今までにない気まずさで、俺たちは北条家が見えなくなるまでずっと無言で歩いていた。さっきまで暑さに文句を言って盛り上がっていたのが嘘みたいに、涼しい風が吹いている気がした。

 

 その沈黙に耐えかねてか、最初に口を開いたのは魅音ちゃんだった。

 

「あ、あのさ。私の罰ゲームで、変な空気になっちゃってごめんね……」

 

 魅音ちゃんは、しおらしい顔で言った。別に、魅音ちゃんのせいじゃない。たまたま悟史くんの顔にあざが出来てしまった次の日、悟史くんが罰ゲームを受ける事になって、しかもその日にたまたま叔母が玄関口にいたなんて……運が悪いってもんじゃない。

 

「魅音ちゃんは悪くないよ。……レナちゃんも、変なものを見せてごめんね。ちょっと、こう……色々あるんだよ」

 

 レナちゃんは、申し訳なさそうな顔でこっちを見ていた。

 

「れ、レナは……別に気にしてないよ。ちょっとビックリしちゃったけど……」

 

 嘘だ……とは言わない。レナちゃんはめっちゃ気にしてそうな顔をしていた。まあでも、気にしないと言ってくれたのは確かなのでそこは触れないでおく。

 レナちゃんはともかく、魅音ちゃんはずっとしょげた顔をしていて、声も出さない。なら、俺が喋るしかない。

 

「ま、時間が解決してくれると思うしかないね。今の感じで俺らからあの人に接触することは不可能だろうから、しばらく待ってほとぼりが冷めるのを待とうよ」

 

 俺も内心では、おばさんの剣幕に大きな衝撃を受けていた。しかし、みんなを安心させるためにもそれは隠した。

 

「皆様、その……私の叔母が、申し訳ありませんわ。どうか、お気になさらず……」

 

「沙都子。大変なのも、俺たちを庇ってくれたのもわかるけど……あんな言葉遣いしちゃ自分が損しちゃうよ。それで……今日、帰って謝れるか?」

 

「……」

 

 俺の言葉に対して、沙都子は黙って俯いた。

 ほんのついさっき大声で喧嘩をした叔母に、帰って謝れというのも酷な話だろう。それなら、俺の家に泊めてあげるというのも一つの手だが……沙都子も女の子だ。それを自分から提案するのは、ちょっと気が引けた。

 

 不安そうにこちらを見上げる沙都子と目線が合う。……でも、この子を放っては、おけないよな。そんなことを考えている時、魅音ちゃんが言った。

 

「沙都子。よかったら、うちに泊まる?婆っちゃにも聞いてみないと分かんないけど……多分、事情を話せば許してくれると思う。どうかな」

 

 沙都子はちょっと驚いたような顔をした。そして、少し考えてから頷いた。

 

「ありがたいご提案ですわ。では、魅音さん……一晩だけ、泊めて頂いてもよろしくて?」

 

「うん。みんな、沙都子は私がきっちり面倒見るから。安心していいからね。ほら、行こっ!」

 

 魅音ちゃんはそう言って、元気な風を装って先頭を歩き出した。俺たちも、それについていく。

 

 今日一日、楽しかったが……思わぬところで、衝撃を受けた。あんな奴と一緒に暮らしている悟史くんと沙都子の身が、ますます心配になった。

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