雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第43話

「えぇ!?私たちの入れ替わりがバレたぁ!?」

 

 ある2人の少女は電話をしていた。その声はどちらも慌てた様子だった。

 

「そ、そうなんです、お姉。雛見沢ファイターズの練習中に、突然雄星くんが私を呼び出して……"いつから入れ替わってるの?結構前からだよね?"って言われたの!」

 

「あちゃあ〜……。詩音、やっちゃったねぇ。これからどうしよう。ユウのことだし、あんまり人に言いふらしたりはしないと思うけど。もしもユウの口から園崎本家にバレたら、とんでもないことになっちゃうよ……」

 

 2人の声はそっくりだった。ちょっとした話し方の違いや、使う言葉の違いはあるが、注意して聞かなければ1人が喋っているようにすら思えた。

 

「今日は、私たちが入れ替わってる理由とかを説明する前に向こうが帰っちゃったんです。だから、お姉……迷惑をかけて申し訳ないんだけど、明日、学校で口止めしといてくれない?」

 

「うーん……仕方ないなぁ。私も、もしも詩音と入れ替わってたのが本家にバレたら、絶対に怒られるしね。ユウには入れ替わってる理由とか、バレたらどうなるかとか、色々話しちゃうよ?」

 

「お願いします。大人たちにもバレないのに、まさかお姉の友達にいきなりバレるなんて!思いもしなかったです……」

 

「ユウは変な勘が鋭いところがあるからねぇ……たまに、とんでもない勘違いをしてたりもするんだけどさ」

 

「そんなの、先に言ってよぉ!それに、悟史くんもうっすら気づいてるとか言ってましたし……」

 

「悟史が気付いてる?さすがにそれはないと思いたいけどねぇ……」

 

 2人はこの日、いつもにない長電話をした。しばらく入れ替わるのは控えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 今日は気持ちの良い朝だった。夏にしてはそれほど暑くなくて、過ごしやすい気温だ。空も晴れやかで、清々しい風が教室の窓を吹き抜けていた。

 

「ユウ、雛見沢ファイターズのことで相談があるんだけど、ちょっと来てくれない?」

 

 そんな中で、魅音ちゃんは早朝から俺の席を訪ねてきた。

 俺は朝の準備をする手を止めて、魅音ちゃんの方へ向き直った。彼女は、凄く言いづらそうな顔で俺を見ていた。

 

 やはり、話は昨日のことに違いない。学校や村で噂をされたくないからこそ、雛見沢ファイターズの練習に行ってアプローチしてるんだろうし、学校に昨日の話を持ち込んで欲しくないんだろうな、と思った。

 

「いいよ。それなら、校舎裏に行こっか」

 

「ファイターズのことだったら、僕もついてくよ」

 

 俺たちの会話を聞きつけて、少し離れた席から悟史くんが声をかけてくる。この朴念仁が……彼には黙って座っててもらおう。

 

「いや、これは裏方のお仕事のことだからさ。悟史くんは来てもわかんないと思うから、待ってて」

 

 俺は残念そうな顔の悟史くんを振り払って、魅音ちゃんと2人、校舎裏へと向かった。捨てられた子犬のような顔でむぅ、と黙り込む悟史くんにほんの少し心が痛んだ。

 

 

 

 魅音ちゃんは分校の裏手にある営林署の倉庫の、さらに裏へと向かった。いくつかの重機が置いてあるのだが、人気はほとんどない。冬の日には重機が雪に埋もれているのを良く見る場所だ。

 

「おはよ、魅音ちゃん。今日は何の用事かな」

 

 彼女は分かってるくせに、とでも言いたげに唇を尖らせた。俺がそれに苦笑をすると、ゆっくり言葉を選びながら、魅音ちゃんは言う。

 

「昨日のこと……詩音に、聞いたんだ。私たちが、その……入れ替わってるって……いつから分かってたの?」

 

 ……入れ替わってる?それに、しおんって誰のことだ?

 

 俺がぼけーっと考えていると、返事がないので魅音ちゃんはさらに言葉を重ねた。

 

「ユウは広めたりしないと思うけど……私たちが今でも入れ替わってるってことがもしも知られたら、本当に大変なことになるの。だから……このこと、誰にも言わないでっ!」

 

 大切なお願いをするように、魅音ちゃんが俺に言う。

 

「ごめん。入れ替わってるって何のことかな。魅音ちゃんが悟史くんのことを好きだっていうことに関しての話じゃなかったの?」

 

 俺がそう言うと、魅音ちゃんは「え?」と、唖然とした表情をした。

 

「え?え?えぇーっ!?昨日、雛見沢ファイターズの練習で詩音のことを見破ったんじゃなかったのぉ!?」

 

 魅音と、"しおん"。入れ替わってるとか、見破るとか……最初は意味がわからなかったが、俺は彼女が何を言っているのかがわかり始めていた。

 

「ごめん、よくわかってなかったんだけど……何となく理解しちゃったかも、しれない」

 

 きっと……魅音ちゃんには双子の姉か妹である"しおん"ちゃんがいて、その子と入れ替わってたりするんだろう。

 

 で、俺はそのことには気づいていなかったのだが、俺の昨日の言葉を聞いたしおんちゃんあるいは魅音ちゃんは、見破られたと思って今、俺に相談に来たというわけだ。

 

「ええと……今は魅音ちゃんで合ってるよね?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「魅音ちゃんには双子の姉か妹がいて、時々入れ替わってたってことだよね。で、昨日俺が会ったのは、詩音ちゃん」

 

 俺がそう口にすると、唖然としていた魅音ちゃんは諦めたように空を仰いだ。

 

 俺は慰めるように肩をぽんぽんと叩いた。

 しばらくの間、墓穴を掘ってしまったことを後悔していた魅音ちゃんだったが、やがて思い出したように俺の方をびしっと指さした。その顔はどこか晴れやかだ。

 

「もーっ!ユウ!詩音に紛らわしいこと言わないでよぉ!おかげで言わなくて良いことまで言っちゃったじゃないの!」

 

 そして照れ隠しのように俺の肩を手で掴み、グラグラと揺らしてくる魅音ちゃん。確かに言う通りかもしれない……俺は抵抗せず、されるがままだ。

 

 しばらくして、落ち着いた様子の魅音ちゃん。なんだか面白くて緩む口元を隠しながら、俺は言った。

 

「俺は魅音ちゃんが悟史くんのことを好きで、それを応援してあげようと思っただけなんだけど……紛らわしいことしちゃったね」

 

 魅音ちゃんは顔を赤らめた。

 

「わ、私は悟史のことは好きだけど、別にそういう好きじゃないよ。それならユウのことも好きだし、沙都子や梨花ちゃん、レナのことだって……だ、大好きなんだから」

 

 彼女は恥ずかしそうにそう言った。

 

 俺だって口に出すのは少し恥ずかしいが、みんなのことは大好きだ。言ってから恥ずかしくなったみたいだった魅音ちゃんは、少ししてから気を取り直して話を続けた。

 

「……でも、そうだね。言う通り、詩音は悟史のことが特別に好きなんだと思う。2人が初めて出会ってから1ヶ月も経ってないけど、最近の詩音の電話はいっつも悟史の話なんだよ」

 

「雛見沢でアプローチしたら村の人にバレて面倒だから、興宮のグラウンドでアプローチしてるんだと思ってたけど……まあ、遠からずってとこか」

 

 俺の予想は、それほど間違っていたわけではなかったらしい。ただ、興宮でアプローチをしていたのは魅音ちゃんではなくて、双子の妹だったわけだ。

 

「冷静に分析しないでよぉ!……詩音は、私の双子の妹。事情があって、雛見沢には来れないから……あの子が悟史と会いたい時は私のフリをして会ってるの」

 

 今までは照れ隠しをしているのか、おどけた表情だった魅音ちゃんの顔に影が刺した。俺はその変化を感じ取り、彼女のことを茶化したりしないようにしようと決めた。

 

 彼女の事情とやらについて考える……やはり最初に思いつくのは、彼女らの生まれた家。園崎家という特殊な環境のことについてだろう。

 

「……事情、か。園崎の跡取りだもんね。双子ならどちらかは権力を掴むことはできない。どうしても現状に納得がいかないやつが双子の片割れを祭り上げれば園崎家が真っ二つに分かれかねないから、遠い場所に隔離してるとか、そんな感じ?」

 

「ほとんどあってる。あの子は、遠くにある全寮制の学校を抜け出してきて興宮に隠れてるんだ。くそぉ、理解力が高いだけにバレたきっかけがなぁ……詩音も私に相談せずに誤魔化し切ればよかったのにぃ……」

 

 魅音ちゃんの言う通り、ここで魅音ちゃんが自分から暴露しなければ俺はきっと勘違いしたままだった。次に雛見沢ファイターズで詩音ちゃんと会う時には、俺の勘違いに気づいたかもしれない。

 

 とはいえ、知ってしまったのは仕方がない。俺はこれからの話をする事にした。

 

「俺も下世話なこと言って悪かったよ。でも、どのみち一生隠し通せるわけでもないよね。詩音ちゃんが大手を振ってこの村を歩けるようにするためには、俺たちはどうしたらいいの?」

 

 俺の中に双子という発想はなかったのだが、バレた、バレないを気にする魅音ちゃんの口ぶりから判断するに、園崎本家の人の多くがそのことを知っているんだろう。で、入れ替わっているのがバレたら2人とも怒られるってわけだ。

 

 詩音ちゃんが隠れて魅音ちゃんになり変わっているということは、詩音ちゃんは学校に行けない瞬間があったりするのは確かだ。とはいえ、まだ中学生の身分では、中学校を卒業しないというわけにもいかない。学校からの連絡が来れば、遅かれ早かれバレてしまうのには違いない。

 

 俺の言葉を聞いて、魅音ちゃんはがっくりと肩を落とした。はぁ、とため息をついて、独白するように口を開いた。

 

「……詩音本人が、けじめをつけるしかないと思う。きっと、痛い思いをすることにはなるだろうけど……ユウの言う通り、一生隠れ続けて生きるなんて無理だからね」

 

「けじめって何?やっぱり、小指詰めたりするの?」

 

 俺は魅音ちゃんの言葉を聞いて、すぐに聞き返した。

 茶化したわけじゃないが、頭の中に咄嗟に浮かんだのは、そういうステレオタイプな罰だった。

 俺はそれを笑いながら否定する魅音ちゃんを期待していたが……彼女は、言い淀んで、辛そうな顔で俯くだけだった。

 

 その態度は、俺のちゃちな想像が現実に起こりうるということを示していた。

 これまで、友人の実家だからといって園崎家は実は悪くない人たちなんだ、と思い込もうとしてきたが……ルールを破れば、そうではないらしい。俺の胸中は驚きと悲しみでいっぱいだった。

 

 どんな事情があるにせよ、中学生の女の子に指を詰めさせるなんて、ありえない話だ。

 

「おいおい、本気で言ってんのかよ……!」

 

 そんなことあり得ないとは、俺には言えなかった。彼女の家は雛見沢や興宮だけでなく、鹿骨市の全体に強い影響力を持つ一族。暴力団みたいなものなのだから。

 

 小さく頷いてから、暗い顔で、魅音ちゃんは語り出した。

 

「あのね、詩音のことを思い遣ってくれる気持ちは、姉妹としてとっても嬉しい。でも……これは村の話じゃなくて、私たちの家の話なんだ。北条家の時とは違って……私たち子供に出来ることはない。……どうにも、出来ないんだよ」

 

 俺には返す言葉がなかった。結局北条の村八分の問題も、俺の嘆願が功を奏したというよりも、俺たちの両親が死んだことでお魎さんの気が変わっただけかもしれない。

 俺が下手なことをすれば、その方が魅音ちゃんや詩音ちゃん、悟史くんたちにまで迷惑がかかる可能性だってある。

 

 俺はそれでも、何かが出来るんじゃないか……そう言いたかったが、やめた。

 何より、一番自分の無力を嘆きたいのは魅音ちゃん自身だろう。その悔しそうな顔を見て、俺たちならなんとか出来るとは、とても言えない。

 

「……でもさ、それならどうするんだよ。けじめをつけなきゃ詩音ちゃんはこのまま村から消えて、二度と悟史くんとも会えないっていうのか?」

 

 俺はこれまで、詩音ちゃんを詩音ちゃんとして認識して会話をしたことはなかったが……今思い返してみれば、興宮で魅音ちゃんと会った時の多くは、実は魅音ちゃんではなく詩音ちゃんと会っていたに違いない。

 

 少し前の、バイクの話だってそうだ。魅音ちゃんがあの時のことを覚えていなかったのは、きっとそれを経験したのは詩音ちゃんで、詩音ちゃんがその経験を魅音ちゃんに話していなかったからなのだ。

 

 俺は、昔から詩音ちゃんにも何度も会っているはず。そんな子が"けじめ"とやらで大きな傷を負うのは俺にとっても悲しい。それに、友達の妹なんだからな。幸せになってほしいのは当然だ。

 

「……仕方ないよ。ユウは悪くない。私たちがこの家に、双子で生まれたのが、悪いんだよ……」

 

 諦めるように魅音ちゃんはそう言って、俺の横を通り過ぎて、どこかへ行こうとした。俺はその手を掴み、引き留めた。

 

「君らが双子で生まれたのが悪いって?誰からそんなことを言われたの?」

 

 魅音ちゃんはちょっと驚いた顔になって、周りを見回してからその重い口を開いた。

 

「……これは言っちゃダメだから、黙ってて欲しいんだけど……園崎のしきたりだよ。双子が生まれたら、片方を間引かないといけない。婆っちゃにもどうにもできない、昔からのしきたりを無理矢理曲げて、私たちは2人とも生かされてるんだ。だから……生きてるだけで、恵まれてるんだよ」

 

「そんなこと言わないでくれよ。2人は生きてていいし、それが当然のことなんだ。魅音がいなきゃ部活もなかったし、俺たちを盛り上げてくれるやつもいなかった。詩音がいなきゃ、悟史くんは雛見沢ファイターズを辞めてたかもしれないだろ。頼むから、そんなこと言うなよ……!」

 

 俺は魅音ちゃんの両肩を掴んで、強く語りかけた。思わず、気持ちが溢れ出してきた。

 

「……熱くなってごめんね。呼び捨てしちゃって……」

 

 少しして俺は急に恥ずかしくなって、誤魔化すように言った。魅音ちゃんは顔を少し赤くしてこくこくと頷いた。

 

「こ、こっちこそ、ごめん……」

 

 魅音ちゃんまで謝る。少しの間、俺たちの間には気まずい静寂が生まれた。

 そんな時、校舎の方でハンドベルの音が聞こえてくるのが聞こえた。それはつまり、授業が始まる合図だった。

 

「ベルが鳴っちゃったね。今日の話……くれぐれも、秘密にしてね。ま、ユウのことだし、ペラペラ話したりはしないと思うけど」

 

「もちろん。……園崎のしきたりがどうこうっていうのは、確かに俺がどうこう出来るものじゃないよね。でも、もしも俺に何か出来ることがあるんだったら、何でも言ってほしい。2人の、助けになりたいから」

 

「ありがとう。でも、あんまり巻き込みたくはないから……無茶なことはしないでね。それじゃあ、戻ろっか」

 

 俺たちは気まずい空気のまま、倉庫裏を去った。

 教室へと戻る途中、魅音ちゃんの言葉を俺は頭の中で反芻していた。

 

 子供には、何も出来ない……俺は子供であるが故に、北条の村八分を何とか出来たのかもしれない。しかし、逆に子供では何とも出来ないことだってあるのだ。俺は悔しい気持ちを堪えて教室に戻った。

 

「あら、こんな朝からどこに行っておりましたの?」

 

 教室に戻った俺に、座ったままの沙都子から声がかけられる。

 

「あー、ちょっとね。魅音ちゃんと」

 

「何の話をしてらっしゃいましたの?」

 

 覗き込むように俺の顔を見る沙都子。

 

「雛見沢ファイターズのことだよ」

 

「ふぅん……なら、良いですわ」

 

 沙都子はつまんなそうな顔で頷くと、ぼけーっとした顔で先生の話を聞き始めた。俺も教材を広げて、今日の授業に取り掛かる事にした。

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