雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第48話

「お邪魔します」

 

「お邪魔しますわー!」

 

「ただいまなのです」

 

 俺たちは、梨花ちゃんの家に来ていた。

 

 沙都子は勝手知ったる様子で靴を脱いでとことこと中へ行く。

 俺が入院してる時に聞いたが、沙都子は梨花ちゃんの家にお泊まりして料理を教えてもらったりしてるそうだ。きっと梨花ちゃんの家で過ごすのにも慣れてるんだろう。俺も、それについて梨花ちゃんの家の中に上がり込んだ。

 

 梨花ちゃんの家は神社の敷地内にある。町内会の防災倉庫の2階を改装したものだ。一階の倉庫部分は閉められているが、中は今でも町内会の倉庫として使われている。二階にはキッチンと小さな居間があって、そこが居住スペースになっているわけだ。

 

 ご両親が健在だった頃に住んでいた古手本宅はいまだに健在ではあるのだが、建物が大きすぎて管理することが難しいという理由で、梨花ちゃんはだいぶ前に引き払っていた。今でも、たまに村の人が本宅の掃除をしてくれてるらしい。

 

 梨花ちゃんの家は1人で住むのには十二分な広さだ。前に来た時よりも物が少し増えている気がした。程よい狭さで、前世での一人暮らしのアパートを思い出して落ち着く。俺の家もこれくらいの広さで良いんだけど。

 

「やっぱり、梨花のおうちは落ち着きますわ〜」

 

「ここは沙都子の家でもあるのです。いつでも来てくれていいのですよ?にぱー⭐︎」

 

 満面の笑みを浮かべる梨花ちゃんを見て、沙都子も嬉しそうだった。俺たちは居間の座布団に腰掛けて、お茶を啜った。しばらくみんなでお話なんかして、まったりとした時間を俺たちは過ごした。

 

 しばらくしてから、沙都子が思い出したようにちゃぶ台に手をついた。

 

「ふふん! ユウの退院のお祝いに、私がお料理を振る舞ってさしあげようと思いましたの。もちろん食べてくれますわよね!」

 

 沙都子は胸を張ってそう言った。しかし、その顔からは断られたらどうしようという緊張感も少し感じられた。もちろん、俺は確かに頷いた。

 

「もちろん!とっても嬉しいよ、沙都子。ありがとう。ぜひご相伴に預からせてもらうよ」

 

 俺は沙都子の頭を撫でた。沙都子は俺の言葉の意味はあんまりわかっていなそうだったが、少なくともイエスだ、ということはわかってくれたみたいだ。ほっこりした顔になった。

 

「私はキッチンをお借りしてお料理を作ってきますわ。ユウは梨花とおしゃべりでもしておいてくださいまし!」

 

 沙都子はそう言って座布団から立ち上がり、キッチンへと向かった。何の料理をするのかも聞いていないが、きっと練習してきたものがあるんだろう。冷蔵庫を開けて色々と材料を取り出し始めた。

 

 キッチンと居間は声が聞こえないほど遠いというわけではないが、料理をしている最中におしゃべりはしづらい。それに、慣れない料理をしているところをジロジロと見られるのは良い気持ちじゃないだろう。俺はキッチンの方を見るのをやめた。

 

 俺は沙都子の言う通り、梨花ちゃんとのお喋りに興じることにした。

 

「ほんと、沙都子はいい子だよなあ。あの子を虐める叔母の気持ちが俺にはわかんないよ」

 

「その通りなのです。でも、今の沙都子がこんなにも穏やかなのは、きっとユウの影響もあるはずなのですよ?」

 

「そうかなあ。沙都子の心根が優しいだけだと思うけど……」

 

 少し間を置いて、俺は口を開いた。病室では聞かなかったことを、今聞こうと思った。

 

「それで梨花ちゃん、今年の祟りはもう大丈夫そうなのかな」

 

 俺はそう言ってお茶を飲んだ。梨花ちゃんはそんな俺を見ながら少し考え込んでいる様子だった。

 

「ボクの知る限りでは、6月以外で危険なことはないはずなので、安心してくれていいのですよ」

 

 梨花ちゃんもそう言ってお茶を一口。

 

「じゃあ今年は俺たちの勝ちってことだな。……で、オヤシロ様の祟りとの次の戦いは来年ってとこか」

 

 そう言った瞬間、誰も座っていない座布団に何か気配を感じた。俺がじっとそちらを見つめていると……梨花ちゃんが不思議そうな顔だった。

 

「どうかしましたですか?その座布団の上に何が見えますですか?」

 

「いいや、そういうわけじゃないけど……何か、そこにいた気がして」

 

 梨花ちゃんは俺の顔を心配そうに覗き込んだ。

 急に変なことを口走ったことが何だか恥ずかしくなってきて、笑って誤魔化した。

 

「ごめんね?急に変なこと言って──」

 

「もしもその気配が、もう一度感じられたら……ボクに相談をしてほしいのです」

 

 梨花ちゃんは俺の言葉を遮って言う。揶揄われるかと思いきや、むしろかなり真剣に受け止められてしまって、俺は少し意外な気持ちだった。

 

「梨花ちゃんは変だと思わないの?」

 

「……そこに、何か"居る"のは、本当なのかもしれないのですよ?」

 

 梨花ちゃんは不敵にニヤリと笑った。いつもの冗談なのか、俺を心配させないようにという気遣いなのかは俺にはわからなかった。

 

「あははは。確かに、何かいた方が面白いね。オヤシロ様が見ててくれたりしてね」

 

 梨花ちゃんは俺のその言葉に返事はしなかった。

 俺もお茶を一口飲んで、気持ちを切り替えた。

 

「傷の方はどれくらい治りましたですか?入江から、病院に通院するようにとか言われてないのですか?」

 

「あぁ、傷跡は結構残ってるんだけど、もう大丈夫だとは言われたよ。もしも気分が悪かったり、頭がモヤモヤするなら出血の後遺症があるかもしれないから、病院に行く必要があるらしいけど……今の所大丈夫そう。傷跡を押されたら痛いぐらいだよ。心配してくれてありがとね」

 

 今でも俺の脇腹と胸の辺りには赤紫色の傷跡がある。かなり生々しい傷跡なので、とても人に見せられる物ではない。表面は触ってもそんなに痛くないのだが、体の中は完全にくっついていないのか、押し込むと結構痛い。

 

「雄星の、いたいのいたいのとんでけ〜、なのです」

 

 ちゃぶ台を挟んで向かい合う梨花ちゃんが、俺の頭を撫でようとして……手が届かなかった。俺は少し頭を下げて梨花ちゃんに頭を差し出した。梨花ちゃんは俺の頭を優しく撫でた。

 

「でも、自分の体には気をつけないとダメなのです。もしも雄星の怪我が酷かったら、きっとみんなもっと悲しんでいたのですよ?」

 

「そうだね。今回はちょっと……気が抜けてた。まさか自分が祟りに遭うなんて……思ってもなかったから」

 

「ボクも、まさか沙都子の意地悪叔母が祟りの実行者になるとは……」

 

 梨花ちゃんは綿流しの日、俺に北条兄妹を祭りに誘うように言った。しかしその時、俺は十分に身の安全に気をつけるようにとも言われていた。もし危ないと思ったら、自分の身の安全を優先すること、とまで言われていたのだ。

 

 病室に見舞いに来てくれた梨花ちゃんは、俺が刺されたことを自分のせいだと何度も言った。

 俺も不注意なところがたくさんあったし、何より叔母が俺のことを憎んでいた理由は全て、俺がやったことの結果だ。他の誰のせいでもないのだ。俺はそう言われるたび、むしろ申し訳ない気持ちになるのだった。

 

「ま、本当に気にしてないからさ。その話はやめよーぜ」

 

 ちょうど沙都子の料理も佳境に入っているところらしかった。ご飯が炊ける香りと、そして何かを揚げてる音が聞こえてきた。病院の味気ないご飯ばかりだったので、すごく食欲をそそられる香りだ。

 

「お、なんかいい香りがしてきたな。そういえば、沙都子はどんな料理を作ってくれるんだろう。たしか、料理は梨花ちゃんが教えてるんだよな?」

 

「そうなのです。ユウのためならがんばりますわ!って、沙都子はとっても一生懸命練習していたのですよ。そんなに沙都子に好かれていて、ボクもちょっぴり嫉妬してしまうのです」

 

 今のように仲良くなる前から、梨花ちゃんは沙都子のことをずっと気にかけていた。それこそ、分校に入学する前からだ。単なる学校で知り合った同い年の友達というだけではない、何か深い理由があるように思えた。

 

「梨花ちゃんだって、沙都子とは凄く仲がいいように思えるけどなあ」

 

「ボクたちは親友ですから、当然なのです。でも、ボクには出来ない形で沙都子を支えてあげることができる雄星が、少し羨ましいと思うだけなのです」

 

 梨花ちゃんは儚げな表情を浮かべた。俺は何と言うべきか思いつかず、部屋には少しの間、沙都子が料理をする音だけが流れた。

 

 梨花ちゃんは御三家の一角の跡取りであり、老人たちが言うところの"オヤシロ様の生まれ変わり"だ。かつては村から嫌われていた沙都子との接し方は難しいものがあっただろう。

 自分の意思とは関係なく、村民は自分を崇め、友達をいない者扱いするのだ。きっと、そのせいで2人がすれ違うことだってあったに違いない。軽率な言葉はかけられなかった。

 

「梨花ちゃんの言う通り、俺にしか出来ない支え方だってあると思うよ。でも、梨花ちゃんにだって、梨花ちゃんにしか出来ないことがたくさんある。それは……羨ましがるほどのことじゃないんじゃないかな」

 

「……言われてみれば、そうなのかもしれませんです」

 

 そう言って梨花ちゃんはお茶を飲もうとした。

 湯呑みに口をつけた後、もう中身がないのに気付いたらしい。事もなげに振る舞うが、俺に見られているのに気づくと、恥ずかしそうに「みぃ」と鳴いた。

 

 話が一段落した。俺は、今日最も聞きたかったことについて、触れることにした。

 

「次のオヤシロ様の祟りは……誰がターゲットなんだ?」

 

 照れたような表情だった梨花ちゃんは、俺の言葉を聞いて急に真剣な表情になった。楽しいところに水を差されたように少し不機嫌さが混じっている気がした。俺も、今の世間話から一転、彼女の生命に関する重大なことについて話すのはちょっと無神経かと後悔した。

 

「今日、沙都子を家に送って行った後……もう一度ここへ来て」

 

 梨花ちゃんはそれだけ言って口を閉じた。今、この場所で話したくはないということだろう。診療所にお見舞いに来てくれた時と一緒だ。

 

 俺は診療所のことを不審に思っている。言わずもがな、病室で内緒話はできない。扉を挟んで診療所の職員がいるわけだからだ。梨花ちゃんとしても診療所と何かしらのつながりがあるのは確かだが、それはお互いに信頼関係があるというわけではないみたいだ。

 

 俺たちにまた少しの沈黙が訪れた後、沙都子が静寂を破って現れた。手にはお盆を持っていて、それにはいくつかの料理が載せられている。

 

「さ!出来ましたわよ!コロッケですわ!」

 

 お皿には、可愛らしいサイズのコロッケが数個。側には綺麗に盛り付けられたサラダに、味噌汁とご飯までついている。もちろん、レストランみたいに綺麗に揃ってはいない。しかし、素朴な温かみを感じる素晴らしい出来栄えだった。

 

「これ沙都子が作ったの?めちゃくちゃ上手じゃないか!凄いよ」

 

「た、食べてもいないのにお料理が上手かどうかはわかりませんことよ。さ、お召し上がってくださいまし」

 

 沙都子は恥ずかしそうに笑った。いつにない、謙虚な口ぶりだった。

 いつもは何でも大口を叩くが、あれが冗談混じりであることはわかってる。自分が努力したものを誰かに見せるんだから、緊張するのは当然だ。

 

 俺は梨花ちゃんと沙都子の分を運ぶのを手伝ってから、この小さな友人が作ってくれた料理をいただくことにした。

 

 

 

「本当に美味しいよ。ありがとな、沙都子、梨花ちゃん」

 

 俺たちは沙都子手作りのコロッケをいただき、少し早い夕食を食べているところだった。

 コロッケはすごく美味しく、これをつい最近料理を習い始めた沙都子が作ったなんて、なかなか信じられないほどだ。味噌汁もほっこりする味で、いくつかの野菜が食材の彩りになっている。白米だってそうだ。俺は土鍋で米を炊いたことなんてほとんどないが、これがすごく上手に出来ていることはわかる。

 

 俺は長い間の一人暮らしで、煮るか焼くかという一切技術が問われない調理方法しかやっていないのに。……とても俺にはこんな料理は作れそうにない。

 

「そ、それほどでもありませんわ。コロッケも、綺麗なものをユウのお皿に盛り付けただけで、破れてしまったり、焦げてしまったりしたものも多かったですし……」

 

 沙都子は少し恥ずかしそうにして、自分の皿を指差す。そこには確かに、焦げたものや破れて中身が溢れているものもあった。

 

「いやあ、それでも良く出来てると思うよ。きっと、凄く練習してくれたんだよな。とっても嬉しいよ」

 

 俺は純粋な自分の気持ちを伝えた。沙都子は照れながら、おほほ、といつもより控えめに笑った。

 

「お、おかわりもありましてよ?お味噌汁と、ごはんも。男の人はたくさん食べると聞いてますわ」

 

「そうなんだ。ありがたく頂くよ!」

 

 俺は台所に向かって、コロッケのおかわりを取りに行った。

 そこには、確かに沙都子の言う通り、俺の皿に並べられたよりは出来栄えがよくないものが並んでいた。しかし、だからって先ほど食べたものの価値が下がるわけもない。よく出来たものも良くできてないものも、そのどちらもが、素晴らしい彼女の優しさの結晶なのだ!

 

 俺が沙都子の料理に感動しつつ居間に戻ると、沙都子と梨花ちゃんの間には何だか妙な雰囲気が流れていた。沙都子は何事もなかったようにご飯を食べているが、梨花ちゃんはにまにまと笑みを浮かべている。

 

「何の話してたの?」

 

「何でもありませんわ!」

 

「ユウが気にすることではないのですよ」

 

 2人がそう言うなら、いいか。俺は再び、コロッケを貪る作業に戻った。……退院直後にこんなに油ものを食べていいんだろうか。それだけが、少し心配だった。ま、味気ない病院食にも飽き飽きしていたところだし、今は俺もピンピンしている。大丈夫だろう。

 

 しばらくの間、俺たちは団欒とした食事を楽しんだ。長い間温かい食事は食べていなかったのもあるが、何より、こうして親しい人と食卓を囲めるのは本当に幸せなことだ。

 

 何の因果か、この食卓を囲む俺たち小学生は全員親を亡くしている。それは全て、"オヤシロ様の祟り"と呼ばれる連続事件のせい。そしてその祟りは来年、とうとう俺の向かいにちょこんと座る梨花ちゃんにまでその魔の手を伸ばそうとしている……。

 

 俺が梨花ちゃんの顔をじっと見つめていると、2人は不思議そうな顔で首を傾げた。慌てて、口を開いた。

 

「梨花ちゃん、やっぱり沙都子は料理が上手いよなあ。俺なんかもう何年も一人暮らしだけど、こんなに上手に料理できないよ」

 

「確かに沙都子は料理のセンスがありますですが……このコロッケがおいしい理由はそれだけではないのです」

 

 俺も沙都子も、何のことだろう?と顔に疑問符を浮かべる。梨花ちゃんはにっこり笑って続けた。

 

「きっと隠し味に、たっぷりの愛情がこもっているのです」

 

「あははは。確かにそうだね。本当に美味しかったよ、沙都子」

 

 梨花ちゃんの言葉に、沙都子は恥ずかしそうに俯いた。梨花ちゃんはよくこういう揶揄いをする。でも、決して馬鹿にしているわけではない。

 

「あ、もうこんなお時間ですわね。にーにーが待っているかもしれませんから、洗い物が終わったら私はお暇いたしますわ!」

 

 沙都子が立ち上がってそう言った。時計を見れば、時刻は6時に迫ろうというところ。今日は少し早めの晩御飯というわけだ。いつもならもう少しゆっくりして帰ると言いそうなものだが、兄妹二人暮らしなら家事をやらないといけないのかもしれない。

 

 そうそう、入院中に聞いた話だが、叔母がいなくなってからは沙都子と悟史くんは交代で晩御飯を作ってるらしい。沙都子が料理を練習してるのは、兄の負担を助けてあげたいという理由もあるんだろう。もしかしたら、家に帰ったら悟史くんがご飯を作って待ってたりするんだろうか。

 

「後でボクが明日のご飯の下準備をしますですから、洗い物はやらなくていいのです。雄星に家まで送ってもらうといいのですよ。にぱー⭐︎」

 

「い、いいんですの?それなら、お言葉に甘えさせていただきますわ」

 

 沙都子は残っていたお茶を一息に飲んだ。6時となると、小学生が出歩く時間としては遅めだ。

 

 あんまり遅くなると悟史くんも心配するだろうし、そろそろ帰るとしよう。……俺は沙都子を送った後、梨花ちゃんから話があるみたいなのでもう一度戻ってくるつもりではあるが。

 

「確かにもう遅いし、帰ろうか。今日は色々お世話になったね。ありがとう、梨花ちゃん」

 

「梨花、今日はお邪魔しましたわ。またお料理を教えてくださいまし!」

 

「ここは沙都子とボクのおうちなので沙都子はいつでも来ていいのです……ゆ、雄星もたまにならふらっと来てもいいのですよ」

 

 梨花ちゃんはそう言ってにっこり笑った。

 

 

 俺たちはそんなこんなで梨花ちゃんの家を出た。

 

「久しぶりにこんなにあったかい雰囲気で食卓を囲んだよ。沙都子、ありがとな」

 

「もう、何度も言わなくてもいいんですのよ。そんなに嬉しいなら、次はユウのおうちに行ってお料理を作って差し上げますわよ」

 

「いいの?是非来て欲しいよ。毎日でも!1人じゃあまともな料理はしないからねえ」

 

「ふふふ、褒めてくださるのは嬉しいですけど、毎日は難しいですわ。でも、1人でもちゃんとお料理はしないとダメですのよ?ユウのおうちの冷蔵庫を見たら、同じ食べ物がたくさん入っていて驚きましたわ!」

 

「あはは……1人だと中々手の込んだものは作れないよ。片付けも面倒だしね」

 

「手の込んだものでなくとも、きちんとバランスのいい食事を心がけなさいませですわ。毎日うどんではろくな栄養はとれませんでしてよ?それから……」

 

 沙都子はくどくどと俺の食生活について話し始めた。

 沙都子は人の面倒を見てあげるのが結構好きみたいで、頼られたいタイプなんだろうなと俺は勝手に思っている。俺は素直にその言葉を受け止めた。

 

 ……俺は両親を亡くしたあの事件から数年どころか、前世を含めればプラス4年間も一人暮らしをしているのだ。なのに、この子よりも生活能力は低いかもしれない。沙都子の説教は心に刺さった。

 

「沙都子はきっとしっかり者の良いお嫁さんになるね」

 

 何気なく俺はそう言った。沙都子はちょっと悲しい表情に変わった。……冗談のつもりだったが、沙都子はきっと家庭や結婚というものに嫌な記憶がある。いらないことを言ってしまったと後悔の念がよぎった。

 

「ごめん、冗談のつもりだった。嫌な気持ちにさせちゃったかな」

 

「いいえ。昔は結婚なんてしないって思っていましたけれど、今は何とも思っていませんわ。私が仲良くなれなかった父も、離婚のたびに私たちに当たった母も……きっと、それほど悪い人ではなかったのですわ」

 

 少し寂しそうに笑う沙都子は、いろいろな気持ちを込めてその言葉を口にしたように見えた。

 

 出会った当初、沙都子は両親、特に父親のことを激しく嫌っていた。今からもう5年ほども前になるが、あの頃は悟史くん以外の誰とも仲良くしようとはしなかった。そこから学校でのいろいろな人との交流を経て、少しずつ今のようになっていった。そして沙都子は、事故で亡くなる少し前には両親とも仲直りしたのだ。

 

 俺は少し勘違いしていたかもしれない。沙都子は、とっくの前に自分のトラウマを克服していたらしい。

 

「さ、辛気臭い話はもうなしにして、明日からの夏休みでどう遊ぶかをお話ししましょうですわ!」

 

 沙都子はあっけらかんとした表情でそう言い切った。俺も暗いことを考えるのはやめて、明日からの予定を考えた。……無茶な遊びをして、傷跡が悪化しないようにしないとな。

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