雛見沢とかいう田舎に転生した 作:that's the plan
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世界一位 様から素晴らしいファンアートを頂きました!一人称視点ということもあってあまり描写できなかった主人公の雰囲気を完璧に表現して頂いてます!
雛見沢分校のみんなと、謎の女の子、羽入ちゃんも一緒です!みんなとっても可愛いし格好いいので、ぜひご覧ください!!
世界一位様のXアカウント→@Seka_ichi (R-18の作品もありますのでご注意ください)
俺が家で久しぶりにギターの練習をしていた時、電話が鳴った。
俺に電話してくる人といえば、友達が遊びのお誘いをしてくれるか、祖父母からの何かの連絡か……取り敢えず俺はギターをスタンドに戻して、電話に出ることにした。
「もしもし、牧野です」
「ユウ!突然なんだけどさぁ、来週の木曜ヒマ?もちろんヒマだよね!」
電話口の相手は魅音ちゃんだった。
「え、あ、あぁ。ヒマだけど……魅音ちゃんだよね?」
「そうだよん。実は、私の親戚のおじさんがやってるお店で、ちょっとしたイベントのモニターを抽選で募集してるんだ。それが1組につき4人まで来れるんだけど、こっちで席を確保してあげるから、そのイベントに来てみないかな!どう?タダでスイーツを沢山食べれるんだよ?」
「そりゃあもちろん行きたいけど……どんなお店?どうして急に?」
俺の質問に対して、悪巧みがバレた子供のように照れた笑い声を上げながら魅音ちゃんは答える。
「へへへ、バレちゃったか。それはね……悟史と詩音がアルバイトしてるお店だからだよ。私が客として行っちゃうと、入れ替わってるのが完全にバレちゃうでしょ?そこで、私の代わりに詩音に伝言をしてほしいんだ」
「いいけど……どうして?2人は普段から電話をするんだよね。そこで伝えたりしないの?」
「うん。もちろん電話はするよ。でも、最近は電話の頻度が減ってるんだ。……あの子は意外と向こう見ずなところがある。もしかすると、婆っちゃに伝えるよりも前に、悟史に自分の正体を明かすんじゃないと思って」
俺は恐る恐る聞いた。
「それは……悟史くんのことが好きだから、だよな」
「うん。……詩音はもう、このまま隠れて暮らすことは諦めてると思うんだよ。それで、悟史に自分の正体を明かしてしまいそうで……でも、もしそうなれば、詩音がつけなきゃいけないけじめは更に重くなる。自分で婆っちゃに謝るか、正体を他所の人間に明かしてどこかへ逃げ、そのうちに婆っちゃの前に引っ立てられるか……婆っちゃの心象は全然違う」
その声を聞いて、電話口の向こうの魅音ちゃんはきっと悲しい顔をしていると感じた。俺はなんと返して良いか分からず、曖昧な返事をするばかりだった。
「そっか。ま、そういうもんだよな……」
「だから、ユウに詩音と話して欲しいんだ。昔からあの子は、こうと決めたら絶対に曲げないところがある。でも……上手いこと、説得してみてほしいんだよ」
電話口からも魅音ちゃんの苦悩が伝わった。ゆっくりと、絞り出すように伝えられたその言葉は、詩音ちゃんの覚悟と、魅音ちゃんの葛藤を深く感じさせられるものだった。
「なるほど……そりゃあ、難しい役回りだね。でも、もちろん引き受けるよ。魅音ちゃんも悟史くんも、それに詩音ちゃんだって、俺の大切な友達だからね」
「本当?ありがと……いつも頼んでばっかりでごめんね?」
「いいよいいよ。俺、デザートも食いたいし!4人まで一緒に行けるんだったら、沙都子や梨花ちゃんやレナちゃんも呼んでも大丈夫?」
「もちろん!せっかくなら楽しんでよね。じゃあ、明日の昼過ぎ以降ならいつでも大丈夫だから。あんまり遅くなると、シフトに入ってない時間になっちゃうかもだから、それだけは気をつけてね」
「もちろん。これからみんなにも連絡してみるね。じゃ、そういうことで。また何かあったら連絡して!」
「うん。よろしく頼むよ」
と、そこで電話が切られる。中々大変なことを頼まれてしまったものだ。とはいえ、2人とも大切な友達だし、なんとかしてあげたいのは確かだ。
取り敢えず俺は、このことを梨花ちゃんに相談することにした。
梨花ちゃんはすでに詩音ちゃんのことを知ってるし、何かいい手立てがあったりするかもしれない。それに梨花ちゃんは御三家の当主だし、お魎さんの決断にも何かしらの影響を及ばせるかも。
「もしもし。古手梨花なのです」
俺は梨花ちゃんに電話をした。梨花ちゃんはすぐに出てくれた。
「もしもし、牧野雄星です。梨花ちゃん……突然なんだけど、梨花ちゃんって御三家の一角の古手家の現当主だよね」
「もちろんなのです。どうかしましたですか?」
「実はちょっと事情があって……お魎さんに口利きとかって出来ないかな」
梨花ちゃんの声色は俺の言葉を聞いて、少し不穏な声色になった。
「お魎はボクの話くらいは聞いてくれると思いますですが……何かありましたですか?」
「実は、詩音ちゃんに関わることなんだけど……もしも、梨花ちゃんがお魎さんに嘆願したら、詩音ちゃんがつけなきゃならないけじめは軽くなったりしないかな」
「……詩ぃはまだお魎に捕まっていないのですか?」
その梨花ちゃんの言葉は少しの驚きを孕んでいた。梨花ちゃんの記憶ではそうではないんだろうか。
「そう。でも、もう時間の問題らしくてね。こう……なんとか自首みたいな形になれば、詩音ちゃんがこの村にいられる未来もあるんじゃないかなって思って」
「……雄星がそこまで考える必要はないと思いますのです……でも、お魎とお話しする件についてはボクも考えておくのです。話はそれだけなのですか?」
「いや、こっちが本題なんだけど……明日、魅音ちゃんの親戚の方の店で、スイーツを食べられるイベントがあるみたいで、俺をそれに誘ってくれたんだ。梨花ちゃんも一緒に行かない?これから沙都子とレナちゃんも誘うつもりなんだよ」
「エンジェルモートのデザートフェスタ……この年のは行ったことがなかったのです。ぜひ行きたいのですよ!」
梨花ちゃんは嬉しそうな声で答えた。
店の名前はまだ伝えてないんだが、梨花ちゃんは既に知っているらしい。
魅音ちゃんの親族がやってるお店は沢山あるが、エンジェルモート……聞いたことない名前だ。園崎家の経営してる、地元の喫茶店とかレストランということだろう。結構楽しみだ。
「おっけー!じゃあ、よろしくね。明日、お昼頃に家を訪ねるから、待っててね?」
「はいなのです。楽しみに待ってますですよ!」
梨花ちゃんは詩音ちゃんのことを知っているんだろうが、詩音ちゃんが悟史くんのことを好きで、アルバイトを一緒にしていることなんかは流石に知らないだろう。
彼女を驚かせる為にも、そのことは黙っておくことにした。
俺はレナちゃんと沙都子にもお誘いの電話をすることにした。2人とも、快く承諾してくれた。
魅音ちゃんが招待してくれたお店は、梨花ちゃんが電話で言っていた通り、"エンジェルモート"というお店だった。その店は興宮の一画にある。
場所を聞いた限りでは、興宮の道路沿いにある誰でも入りやすそうなお店なのだが、行き道に聞いた梨花ちゃんの話によると、家族連れ向けのお店というわけでもないらしい。
「じゃあ、どんな人たちが来るんだよ?」と聞いてみると、可愛らしい顔で「行ってからのお楽しみなのです」とはぐらかされてしまった。
というわけで、俺と梨花ちゃんと沙都子とレナちゃんという4人は、俺たちの友人である悟史くんと魅音ちゃん──のふりをした詩音ちゃん──が働くレストランへ向かっているのだった。
「ねぇ、あれじゃないかな?かな!」
俺たちは自転車に乗ってゆっくりと店に向かっていた。そこで、何かに気付いたレナちゃんがわくわくした声で少し遠くに見える店を指差した。
その店は前世にもあったようなチェーン店のレストランを彷彿とさせる、カラフルで綺麗な外観をしていた。一階部分は駐車場になっており、2階部分が店舗になっているタイプで、階段を上がって店に入るみたいだった。
俺たちはひとまず裏手の駐輪場に自転車を停めておいて、店の入り口へと向かうことにした。
いざ入り口に近づいてみると、店の周りには熱気のある人だかりが出来ている。俺たちは互いに顔を見合わせて、何があったんだろう、とそれを不思議に思った。
「なんだか沢山人がいますわね……それに、皆さん凄い熱気ですわ」
沙都子が恐れた顔で言った。言う通りで、既にレストランの周りには何人もの人がいる。なんだか仲間同士で集まって、お互いに何か情報交換をしているようにも見えるが……。
「何してるんだろうね……魅音ちゃんからは、今日は招待された客限定って聞いたから、むしろ空いてるのかなって思ったんだけど。……でも、チケットはちゃんと確保されてるはずだから大丈夫だよ」
俺はそう言って、みんなを連れて店の入り口の階段へと向かった。みんなも、一応は俺のことを信じて着いてきてくれる。が、梨花ちゃん以外はみんな怪訝な顔をしていた。そりゃ当然だ。普通のファミレスは、人だかりが出来たりしない。
「ちょっと見てくるから、ここで待っててよ」
俺も少し不安だが、こういうのはリーダーがビビったら終わりなのだ!俺は勇気を出して、人ごみを掻き分けて店の入り口へ向かった。
「すみません、通らせてください!」
俺が先頭になって、お店の階段に足を掛けた時。階段のそばにいた男から声をかけられた。男は何やら物知り顔だ。
「きみ。今の時間はチケット当選者限定の試食会を開催してるから、普通のお客さんは入れないよ」
「そうなんですね、なるほど……当選していないと入ることも出来ないとなると、とっても貴重なチケットなんですね」
俺は何の気なしにそう言った。しかしそう言うと男はすごい剣幕で俺の顔を覗き込んだ。少し怖い。
「ま、まさか!君は当選しているのか!?」
「ええ、そんな感じです……」
俺がそう言うと、周りにいた男たちは俺の方へ凄い勢いで顔を向けた!まるで蜘蛛の糸に群がる亡者のように、俺の方へと縋り付いてくる。
「チケットは一枚で4人まで入店可能なんだ。俺たちを、どうか一緒に入れてくれ!」
「頼む!俺もだ!金なら払う!」
「わ、私もお願いします!推しの店員さんがいて、今日は出勤しているみたいなんです!」
2.30代のお姉さんも何人かいる。"推し"なんて、この時代にはそぐわない発言だが、店員さん目当てに通っている人もいるらしい。それなら別に、今日じゃなくたっていいんじゃないかと思うが……。
どうやら、ここにいる人だかりはデザートフェスタの試食会の抽選に敗れたが、諦めきれずに当選者のおこぼれに預かろうというわけだ。お金を出すと言う人は一万円札を手に握り、俺の方へひらひらとさせる……流石に少し怖い!俺たちは小中学生だし。
「すみません。友達と来てて……もう4人集まってしまっているので」
俺は後ろにいる友達たちに目配せした。みんな、ちょっと疑うような顔でこっちを見ていた……何、この変なお店?って感じだ。
「じょ、女性3人とデザートフェスタだとぉ!?ゆ、許せん……!」
男たちが俺を見る目に、なんだか妙な雰囲気が混じってきたので、俺たちはそそくさと店内へ急いだのだった。
ガラス扉を開け、俺たちは店内に入った。店内は落ち着いた雰囲気のファミリーレストラン……かと思いきや、そうでもなかった。
「いらっしゃいませ!エンジェルモートへようこそいらっしゃいました。本日はデザートフェスタにつき、チケットのお客様のみの貸切となっております。チケットとご芳名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ウェイトレスさんはかなり過激な格好をしていた。肩を出して、胸の谷間を強調するかのような際どい服装に、フリルのついたアームスリーブ。超ミニなスカート……これのどこがファミリーレストランなんだ。むしろ、メイド喫茶やコンセプトカフェみたいな感じだ。
俺はこのお店に女の子3人を連れてきたことを少し恥ずかしく思いながらも、魅音ちゃんにもらったチケットを渡した。
「ま、牧野雄星という名前です。チケットはこれです」
「はい、確認いたしました!特別招待の牧野雄星さんですね。お席へご案内いたします!どうぞ」
店員さんに案内されて店を歩く。なんだか、テーブルについているお客さんは男性のグループばかりだ。たまに女性の4人組もいるんだが、誰も彼も、目がどこかギラギラしている。少し怖い雰囲気がある。
……魅音ちゃんめ、驚かせるつもりでこのことは敢えて言わなかったんだろうな。
「こちらへどうぞ。ただいまメニューをお持ちいたしますね!」
そう言って俺たちの席を指すと、ウェイトレスの女性は去って行った。
「ゆ、ユウ。魅音さんが招待してくれたのは、本当にこのお店であっていますこと?」
ウェイトレスが去った後、沙都子が怪訝な顔で俺に小声で話しかけた。きっと、ウェイトレスの格好や周りのお客さんの雰囲気を変に思っているんだろう。俺も同じ気持ちだ。
「あ、あってるよ!チケットも渡したし、デザートが食べ放題のはずなんだよ」
と、いうところでメニューを持ったウェイトレスが帰ってきた。そこには種々様々なデザートが書かれており、どれを注文するか悩むところだ……。
ふと横に座るレナちゃんを見ると、レナちゃんはウェイトレスの服から目が離せないようだった。
「はぅ〜……と、とってもかぁいい衣装だけど……目のやり場に困っちゃうかな。かな……!」
今にもウェイトレスさんをお持ち帰りしそうな顔でにやにやとしていた。まぁ……嫌な気持ちになっていないならいいか。
「店員さんのコスチュームはともかく、このお店のデザートの味は確かなのです。ボクも今年の新メニューは初めて食べるのですよ!」
電話口でも店のことを知っていた通り、梨花ちゃんは別にこの店に驚いた様子はなかった。わくわくした顔でメニューを眺めている。
俺たちはしばらく相談した後、近くにいた店員さんを呼び止めて注文を伝えようとした。
「よく来たね、みんな!今日はデザートフェスタだからね。よぉく楽しんでね?」
そこにいたのは魅音ちゃん……でなく、魅音ちゃんのふりをした詩音ちゃんだった。
詩音ちゃんは悟史くんに対してはほとんど素で接しているみたいだが、俺たちにはちゃんと魅音ちゃんのふりをして接している。……中々大変そうだ。
「お疲れ様!魅音ちゃん、招待してくれてありがとね?たっぷり楽しませてもらうよ!」
俺がそう言うと、詩音ちゃんは意味深な笑みを浮かべた。もちろん、俺たちを招待したのは詩音ちゃんではないのはお互いに分かってるが……入れ替わっているのを黙っておくという意思表示をしたまでだ。
詩音ちゃんはお淑やかに一礼をして、こちらへと微笑んだ。
「ええ。そうしてくださいね。では、ご注文をお伺い致します」
「じゃあ、この季節のフルーツタルトと……」
俺たちが適当に注文を終えると、詩音ちゃんは下がって行った。
「魅ぃちゃん、ここの制服もとっても似合うね……!」
レナちゃんは手をぷるぷるとさせて、エンジェルモートの衣装を着た詩音ちゃんをお持ち帰りする寸前だった。梨花ちゃんに撫でられて、ちょっと落ち着いた……かと思えば、今度はなでなでする梨花ちゃんに怪しい目を光らせていた。
そして梨花ちゃんは俺の隣のレナちゃんの頭を撫で終わると、ちらりと魅音ちゃんの方に目をやってからこちらへ目配せをした。……あれは詩音なのね?と確認するようだった。
俺はその目配せに対して小さく頷いた。梨花ちゃんは、静かに小さく溜め息をついた。また厄介なことに首を突っ込んで……とでも言いたいんだろう。
しばらくして、見覚えのある見た目の男の子が料理を運んできた。洒落た執事服と、ばっちり整えられた髪の毛がいつもとは違うキリッとした雰囲気を醸し出す。
たくさんの料理をお盆に載せたその子は、落とさないように、落とさないようにと慎重に歩いて俺たちの席まで来た。
「お待たせいたしました。えっと、季節のフルーツタルト、いちごとマンダリンオレンジのムース、ブルーベリーとクリームチーズのケーキでございます。……って、みんな!?ど、どうしてここに?」
料理をお盆に載せて運んできたのは悟史くんだった。コスプレみたいなものをしている姿を見られて、少し恥ずかしそうだ。
……なるほど。たまにいる女性客のグループはこういうのを目当てに来てるってわけか。確かに悟史くんがこんな格好で給仕してくれるなら、お姉さんたちのアフタヌーンティーの場所としてはちょうどいいかもな。
差し詰め、このお店はファミレス風コンセプトカフェってわけだ。悟史くんも詩音ちゃんも、こんなに体を張って働いてるんなら、多めに給料をもらってて欲しいところだ。
「に、にーにー……随分と綺麗な格好をして働いていますのね」
「今日の悟史くんはとってもカッコいいね!」
「みー……初めて見る光景なのです。ボクも流石にびっくりなのです」
みんなが口々に感想を言う。
悟史くんは顔を赤く染めて照れた表情のまま、無言でカトラリーを並べる。その振る舞いはなかなかに瀟酒な感じだ。黙っていれば、イケメン執事って感じ。喋ったら子犬みたいな可愛らしさもある。それはもう女の子受けは抜群というわけだ。
悟史くんはカトラリーを並べ終えると、俺の方をじっと見つめる。理由を説明してよ、という顔だった。
「実は魅音ちゃんに呼んでもらったんだよ。悟史くんのお仕事を邪魔する気はないから、心配しないで!」
俺がそう言うと、照れた顔でむぅ、と唸ってから、悟史くんは一礼をした。誰かに呼ばれたらしく、慌ただしく俺たちの席を離れた。
「まさか、悟史がここで働いているなんて思わなかったのです」
悟史くんが去った後、梨花ちゃんがそう言って飲み物を口にした。
どうやら梨花ちゃんはこのお店がどういうお店かは何となく知っていて、その上で黙っていたみたいなのだが、悟史くんがここで働いているということはやはり知らなかったようだ。
俺も、入店する前は普通のファミレスだと思っていたので、なかなか驚き。それと、こんなお店で自分の妹と友達を働かせようという魅音ちゃんにも驚き。
面白半分っていうのもあるだろうけど、この制服を着せた悟史くんを詩音ちゃんの前に出して、詩音ちゃんをキュンキュンさせようという意図も感じる。魅音ちゃんもなかなか策士だ。
「でも、執事服、なかなか似合ってたねぇ……」
「当然ですわ。にーにーはあれでいて、なかなかスタイルはいいんですのよ!」
俺が悟史くんを褒めると、沙都子が自分のことのように胸を張る。
実際、詩音ちゃんがコロッと惚れてしまうのも納得できるぐらい、悟史くんはスタイルが良くて格好いい。日頃はふわふわしてるが、責任感もとても強いし、頼れる男だ。
悟史くんはその後もたびたびホールに現れては、女性客の席に華麗な一礼をして食べ物や飲み物を配膳していた。中々様になっていて、悟史くんが現れるたびに女性客たちは嬉しそうな声をあげていた。
……格好いい友達を持つと、俺のようにそうでもない奴はちょっとテンションが下がる場面がある。俺は気にしないことにして、両手を合わせた。
「一応、デザートフェスタをやってる時間も限られてるみたいだし。もう食べ始めよっか!いただきます」
そうして、俺たちはデザートフェスタを楽しんだ。色とりどりのデザートに俺たちは舌鼓を打った。入店時に声をかけられたように、ここの入場券が高値で取引されてるのもわかるぐらい……凄く堪能させてもらった。あ、でも紅茶はちょっとぬるかった。……紅茶だけは俺が家で淹れたほうが美味しいかも。
みんながある程度お腹を満たし、お喋りに花を咲かしているその時、ある事件が起きたのだった。
俺がホールで忙しなく働く詩音ちゃんをぼーっと眺めていると、詩音ちゃんが通るところのボックス席に座る男が足を掛けたのだ!詩音ちゃんはお盆に載せていたデザートを落として、その男の服にかけてしまった。
「す、すみません!」
詩音ちゃんは慌てて謝る。その男は激昂しているのか……と思いきや、そうでもなさそうだった。
「いやぁ、困りますよぉ……服が汚れてしまいました。これは、店員さんが拭いてくれないとねぇ……」
その男はニヤニヤした笑みを浮かべながら、自分の服の胸あたりについたクリーム状のものを指さして笑う。……野郎!わざと足を掛けて転ばせておいて服を拭かせるだって?
どうやらその席に座る奴らはグルのようで、みんながいやらしく笑って申し訳なさそうな詩音ちゃんを眺めていた。
俺は怒りに打ち震えた!ここがキャバクラならまだしも。制服がちょっと如何わしいだけのファミレスなんだぞ?よくも白昼堂々こんなことを。
それに相手は中学2年生とかの女の子だ。世が世なら速攻逮捕だ!到底許せない。
「ちょっと、俺行って来る!みんな、骨は拾ってくれよな!」
みんなが不安そうに一部始終を見守る中、俺は立ち上がった。隣に座るレナちゃんも、前に通学路で俺に迫った時のような、鋭い目をして立ち上がった。
「レナも。確かに魅ぃちゃんはかぁいいけど……あんなことをするなんて、許せない!」
「2人だけにいい格好はさせませんわ。私たちは同じ部活メンバーですのよ?もちろん私も行きますわ!」
沙都子も立ち上がった。沙都子のその手には、どこから取り出したのか謎のロープとハサミがあった。これさえあれば、こいつはどんなことも可能にする。
「ボクもなのです。……どんな報いを与えてやるか、今から楽しみなのです」
梨花ちゃんは薄く笑っていたが、それはいつも俺たちに悪戯をして笑うような可愛いものではない。まるで、怪我をした獲物が目の前で逃れようとするのを愉しむような、そんな目をしていた。
と、俺たちがその男たちに報いを受けさせるために立ち上がったその時だった。奥から早足で悟史くんが現れた。意気込む俺たちは、何が起こるのかと固唾を飲んでそれを見守った。
詩音ちゃんの窮地に悟史くんが駆け寄ってきて、その男たちに代わりに謝りに来た。それは、詩音ちゃんを気遣っての行動だ。厨房で何か洗い物でもしていたのか、腕まくりをしたまま。
でもそれが、詩音ちゃんを気遣った悟史くんの熱い気持ちを物語っていた。腕まくりをしてるのも、凛々しくて格好いい。
「うちの従業員が申し訳ございません。僕が代わりに謝罪させて頂きます。さ、魅音は厨房に戻って」
悟史くんは深くお辞儀をすると、持ってきた布巾で客の服についたクリームを拭き取った。魅音ちゃんはそばで不安そうに頭を下げていた。
客は最初は不服そうだったが……悟史くんの顔がいいからか、途中からは満足気に胸を拭かれていた。……アホか。
「お客様。お席から通路に足を伸ばされますと、お客様同士のトラブルにもなりかねませんので、お気をつけください」
服を拭き終えた悟史くんは毅然とした態度でそう言って下がった。詩音ちゃんはそんな悟史くんの横顔を見て、顔を赤らめていた。
執事服の悟史くん目当ての女性客は、それを遠くから見守ってうんうんと頷いている。男性客たちも、同僚を身を挺して守ったその悟史くんの行動に対して、賞賛しているようだ。今や店全体がそのやりとりを見ていて、店全体が悟史くんの味方をしているようにも思えた。
「どうなることかと思いましたけれど……やっぱりにーにーは頼りになりますわね!」
「悟史はやる時はやる男なのです」
「いくらかぁいいからって……あんなことしちゃダメだよね。でも、悟史くんに助けられて恥ずかしそうにしてる魅音ちゃん……お持ち帰りしたいなぁ〜!ダメかな。ダメかなあ〜?」
みんなはさっきの殺気立った表情から打って変わって、ニコニコしながらスイーツを口に運んだ。一件落着というわけだ。