雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第65話

 

 梨花ちゃんのお家に泊まらせてもらった次の日のことだった。

 

 梨花ちゃんの風邪の容態については昨日から一変した。彼女の体は小さいが、毎日元気に外を走り回っている。体力があるからか、一晩も寝れば元気になってくれた。

 

 昨日は世話になったから朝ごはんをご馳走してあげるとまで言われたのだが、流石に病み上がりの女の子に任せてぼーっと座ってるわけにもいかない。俺が朝食を作った。卵サンドとミニサラダを作ると、

 

「みー。ボクは和食が良かったのです……」

 

 と可愛らしい顔で駄々をこねられた。それは、知らん。

 

 その朝食を共に食べたあと俺が家に帰ろうとしたところ、彼女も外出の準備をする。

 

「ついでに、ボクもお買い物なのです」

 

 と梨花ちゃん。その言葉に、俺はふと窓の外を見た。

 

 昨日は鉛色の曇天の上に、雪まで降っており、買い物に行くのも、遊びに行くのにも気が乗らない1日だった。しかし今日は一転して晴れやかな空が目に映る。

 

 明るい日差しが神社を照らしていて、陽の光がほんのり温かい。そんな、穏やかな天気だった。梨花ちゃんの家の食糧の備蓄もあんまりなかったし、ちょうど良いかもしれない。

 

「じゃあさ、ついでに俺も買い物にでも行くよ。自転車がないけど……荷物ぐらい、俺が運べば良いか」

 

「ボクの自転車を、台車がわりに使うと良いのです。それなら、重い荷物を持って何度も往復する必要はないのですよ」

 

 というわけで、俺と梨花ちゃんは2人で家を出て、商店街へ向かうことにした。

 

 昨日の夢に出た羽入の慌てようは何だったのか、今は外出も出来るぐらいに、一日で梨花ちゃんの体調はだいぶマシになったみたいだった。

 

 俺たちは連れ立って神社の階段を降りる。

 階段はどこが段差かも分かりづらいほどに雪が積もっていて、スノーシューズを履いてないと歩くのも怖いぐらいだ。今日は快晴なので、少しずつ溶け始めてはいるのだが、昨日の夜に降った雪は、白いカーペットのように薄らと積もっている。

 

 試しに少し歩いてみると、雪の下の方にはみぞれのような氷が張り付くように残っている。

 

 こんなところで転倒したら、洒落にならない。一番下まで落ちたら、命の危険すらある。梨花ちゃんはちゃんと滑らない靴を履いているのだろうか?俺は後ろを振り返った。

 

「みー……」

 

 梨花ちゃんはふつーのスニーカーを履いていて、昨日今日で降り積もった雪を見た後、困ったような顔で俺を見上げていた。……かわいい。こうやって男どもは騙されるんだろうな。

 

 手すりもないこの神社の階段でこんな靴を履いてると、何か掴まるものがないと滑りそうだ。梨花ちゃんはここを毎日通るのだから、雪道を歩ける靴がないと困るだろうに。意外にもそういうものは持ってないらしい。

 

 俺はその靴と、梨花ちゃんの困ったような顔を見比べて、一つ決断をした。

 

「俺が雪を片付けるよ。ちょっと待ってて」

 

 側にあったスコップを掴んで、俺は薄く積もった雪と氷を全部退けることにした。近所の年寄りの家の雪かきもたまにしてるし、これぐらいどうってことない。……階段の長さが目に入ると少しげんなりする。見なかったことにした。

 

 俺は無心でスコップを振り下ろし、雪を掻き出す。そして、振り下ろし、雪を掻き出す!

 

 階段の真ん中部分の雪は、昨日の夜から薄く降ったのがちょっとあるだけだ。足で軽く場所を作って、そこから力を込めてそれらを捨てるだけ。

 

 問題があるとすれば階段がすごく長いことぐらいだ。階段一段につき数秒で作業は終わる。頑張れば数分で終わるはず……体力が保てば。

 

「そこまでしなくてもいいのですよ……?」

 

 何段か雪をどかした後、階段の上から、覗き込むようにして梨花ちゃんがそう言う。流石の女王様も、遠慮がちな顔だった。

 

「いーからいーから。風邪なんでしょ。ゆっくり降りてきなよ」

 

 俺の言葉通り、梨花ちゃんはゆっくり階段を降りてくる。

 

「ありがとうなのです。最近は雪でみんな神社にも来なくて、雪かきが大変で困ってたのです。とっても助かりますですよ」

 

 梨花ちゃんはにっこり笑ってそう言った。この笑顔が見れるなら、ちょっとの肉体労働ぐらい安いもんだ。……やはり、こうやって男は騙されるのであろう。

 

 

 

 しばらくすると除雪は終わった。冬だというのに、暑い。

 

 梨花ちゃんは俺の背中を辿ってゆっくりと階段を降りてきた。

 俺たちは連れ立って商店街の方へと向かい、そこで梨花ちゃんの買い物を済ませた。買い物があまりに多かったので、結局、俺もその荷物を持ってもう一度梨花ちゃんの家へ戻ることにした。

 

 この村は助け合い精神で成り立っている。風邪で大変だったら助けてやるのが友達ってものだ。

 

「雄星が荷物を運んでくれてとっても助かるのです。ボク1人ではこんなにたくさん運んだりできないので、この雪の中で、何度も往復しないといけなくて困ってたところだったのですよ。にぱー⭐︎」

 

 そう言って上機嫌に俺を先導する梨花ちゃん。彼女は小さめの袋を一つ。俺はそれに付き従って、2つの袋を抱えて歩いた。……梨花ちゃんは人を従えるのが上手い。この村に生まれてなければ、学校でクラスの男たちを従えてそうだ。

 

 神社の階段前に行き当たったところで俺たちは人影があるのに気づいた。梨花ちゃんは嬉しそうにその人影に駆け寄って声をかけた。

 

「沙都子!どうかしましたのですか?一緒に遊びますですか?」

 

 沙都子はその声にこちらを振り返った。その表情は梨花ちゃんの嬉しそうな声とは空気感が違って、どこか寂しげだった。

 

「やっぱり……2人は一緒だったんですわね。お、お邪魔虫は……帰ることにいたしますわ。をほほほほ……」

 

 泣きそうな顔で沙都子は、そう言って俺たちに背を向けて、去っていった。俺は少し考えて……追うべきだと判断した。

 女の子が寂しげな表情で走り去った時、男はそれを追うべし!……己の勘違いだった場合はお察しの通りだが。

 

 俺は重い荷物袋を持っているため、すぐには追いつけない。沙都子の足は早い。本気で走ってるわけじゃないにせよ、荷物を持ったままで走って追いかけるのなんて不可能だ。

 少しだけ考えて、神社の階段の近くにその袋を置いておいて沙都子を追いかけようとした。

 

「梨花ちゃん、悪いけど置いとくから!」

 

「はいなのです。沙都子のこと、よろしくお願いしますのです!」

 

 梨花ちゃんはそう言って俺を見送った。沙都子がどんなことを考えているのかはわからないにせよ、彼女が悲しい気持ちで俺たちの前を去ったのは確かだった。

 

 沙都子が走り去った方向に向かって俺も走る。結構本気で走るが……背中は見当たらない。それどころか、どこに行ったのかも分からずに俺は途方に暮れた。まずは一旦北条家に行ってみるか。

 

 

 ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん……。

 

 俺はしばらく急いで北条家に向かって、その呼び鈴を鳴らしていた。

 

 しかし、何度鳴らしても誰も出ない。てことは、悟史くんはいない。沙都子の行先を聞くこともできない。

 

 理由は想像がつく。昼間のこの時間だと……悟史くんはバイトで、沙都子はここには帰ってこなかったというわけだ。沙都子も兄がいなきゃわざわざ家に戻ってきて、暇を潰すわけでもないんだろう。

 となると……俺はもう一つの心当たりに向かうこととした。

 

 

「おーい、沙都子、いないのかぁ!?」

 

 俺は沙都子の城である裏山へ向かった。裏山と言っても、北条家の近くの裏山と神社の裏山があるが……神社は俺たちの目の前で通り過ぎたし、北条家の近くの裏山しかないはず。

 

 裏山は真っ白だった。まだ本格的に冬に突入してはいないにせよ、週に何度かは雪が降る。ほとんど人が歩かないこの辺りは雪はそのまんま残されていて、登るのにも一苦労。

 

 しかし、俺の見立ては正しかったようで、雪道には小さな足跡が点々と上に続いていた。きっと沙都子のものだ。

 

 俺は冬の山道を少しずつ上へ上へと登った。行き道ではいつか一緒に仕掛けた罠があって、俺はそれを懐かしむような気持ちでそれを避けて通った。

 雪が天然のカモフラージュとなって、罠の仕掛けが隠れているのが非常に危なっかしい。たまに、危うく罠にかかりそうになることもある。

 

 俺がもし罠にかかったらどうなるだろう。沙都子はそれに気づいて助けに来てくれるんだろうか?あるいは気付かずに、帰るまで放置されるんだろうか?

 北条家の裏山には危険なトラップもいくつか仕掛けられてる。沙都子が今でも手入れしていて、それらが今でも想定通りに稼働するなら……肝が冷える思いだ。ともかく、俺は命の危険すらも感じながら、山を登るしかなかった。

 

「さーとこー!ここにいないのかーっ!?」

 

 俺は叫びながら山を登った。まだ外は明るい。だが沙都子と出会うまでどれくらいかかるかはわからない。覚悟と、研ぎ澄まされた集中力を持って、しかし早足で俺は歩いた。

 

 積もった雪がザクザクと不快な音を立てて、否が応でも冬を感じた。

 

 

 しばらく歩いて、俺はとうとう沙都子の背中を見つけた。沙都子はいつもの涼しげな格好とは違って、ベージュの動きやすそうなブルゾンを着て軽快に歩いていく。しかし少しふらふらしていて、どこか危なっかしい。

 

「沙都子!ちょっと待ってよ。転んだら危ないよ」

 

 沙都子は、またもや寂しそうな顔で俺を一瞥すると、すぐに踵を返して山道を歩いていく。やっぱり沙都子もただの運動靴なので、滑りそうになったりしている。

 

 靴の違いか、歩幅の違いか。あるいは沙都子はゆっくり歩いているのだろうか?俺は沙都子に少しずつ接近していた。

 だんだん近づいていって、もう少しでその背中に追いつくところでもう一度俺は声をかけた。

 

「沙都子、待ってくれよ。転けたら危ないし、罠にかかったら大変だよ」

 

 俺は沙都子にそう言った。沙都子はその声が聞こえて一度俺の方を振り返った。そして、俺の方を見たまま足を踏み出して……足を滑らせた。

 

「きゃあっ!」

 

 沙都子は一旦はもう片方の足で体勢を立て直し、しかしその勢い余ってまたバランスを崩しそうになる。彼女は運動神経が良いが、雪道を歩く時には、きっと運動神経は関係ない。後ろ向きに倒れそうになる沙都子に向かって、俺は走った。

 

 俺は倒れ込む沙都子の両脇に手を差し出してそれを支えた。しかし今度は俺が何かを踏み抜いた感覚を感じた。沙都子が倒れないようにしてから、俺は来る罠に備えた。

 

「ユウ、あぶないっ!」

 

 沙都子は俺に迫り来る何かが分かっていたらしかった。振り返り、目を見開いて俺に警告する……もちろんその何かを避けたりすることはできず、俺は目を閉じて来る衝撃に備える他なかった。

 

 俺の顔に向かって、そばの木立から何かが飛び出す。そのトゲトゲした木の枝は……いつか俺が用意した物のような気がした。

 

「いってぇ!」

 

 俺は何とか体を捩ってそれを顔面に食らうことは避けた。代わりに肩に棘が刺さる。俺はその痛みに顔を歪めるが、防寒着を着込んでいたからかそんなに痛みはない。

 

 あの時、俺が安全そうな枝を選んでたのが良かったのかもしれない。乾き切った枝はパキパキと音を立てて崩れる。

 

「ユウ、大丈夫ですの!?」

 

 沙都子は血相を変えて俺に駆け寄ってくる。

 ペタペタと触って俺の体を確かめる。枝は服すらも貫通しておらず、晒されていた首周りにちょっと枝が刺さったぐらいで、血も出ていない。これがかつての沙都子が作った危険な仕掛けだったらどうなっていたことか。俺は血だらけで、診療所に搬送されていたかもしれない。

 

 俺に怪我がないのを確かめた沙都子は、俺に抱きついてしくしくと涙を浮かべ始めた。

 

「ユウ、ユウ……ごめんなさいですわ。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 沙都子は俺に怪我を負わせる寸前だったのを悟って、何度も謝罪を繰り返す。何だか大袈裟に取られてしまって罪悪感がすごい。

 

「泣くなって、沙都子。怪我もしてないし、気に病むことはないよ」

 

「……わたくしの、わがままで……迷惑をかけてしまいましたわ……」

 

 沙都子は申し訳なさそうな顔をして、俺の胸に縋る。涙が俺の胸元を濡らした、俺はその頭を撫でながら、沙都子の目を見つめて口を開いた。

 

「気にすんなって。さっきはどうしたんだよ?何か、嫌なことでもあった?」

 

 沙都子は目をぱちくりさせながら言った。

 

「ゆ、ユウと梨花が2人でお出かけしてるところを見て、つい動揺してしまいましたの……もう、気にしておりませんわ」

 

「何で動揺するんだよ?俺ら、よく遊んでるじゃないか」

 

 そこまで言うと、沙都子は言いづらそうな顔で黙った。そして少しの間を置いて口を開いた。

 

「ユウと梨花は、お、お、お付き合い……してるのでございましょう?」

 

 沙都子は恥ずかしそうに、そして悲しそうにそう言った。

 

「はぁ!?俺と梨花ちゃんがぁ!?」

 

「ずっと前から話題になっていますもの、私も、お邪魔をしていることぐらいはわかっていて、でも、2人の優しさに甘えて……」

 

「誰がそんなことを?俺のギターの趣味を揶揄うネタとしてそんなことを聞いたけど……今でも言われてるのかよ」

 

 沙都子は目に涙を湛えて、ぽつり、ぽつりと語った。

 

「でも、いつも2人で内緒のお話をしてるじゃありませんの。別に、私のことを憐れんで、隠さなくたって、いいんですわよ」

 

 確かに沙都子の言う通りで、俺たちは秘密の話を良くしている。3人でお泊まりしてる時ですら、沙都子に隠れて酒盛りしながら話したりもしていたのだ。

 沙都子は誰よりもそのことを知ってるだろう。それを、何か親密な会話をしてると受け取ってもおかしくはない。……実際は俺が酒を飲まされて潰されてるか、あるいは来年の梨花ちゃんを待ち受けることについて相談をしてるだけなんだけど。

 

「あれはそんな会話をしてるわけじゃないよ」

 

「私に気を遣わなくたっていいんですわ。2人とはお友達としてでもいいから、遊びたくて……でもさっきは、2人のおうちに行ったのに誰もいなくて、つい悲しくなっちゃって……」

 

 沙都子はまた悲しそうな顔で俯いた。自分と仲のいい2人が自分に隠れて付き合っていて、仲間外れにされてると思ったのだろう。

 

 俺の家に行って、誰もいなくて、梨花ちゃんの家に行って、誰もいなくて……寂しい心地で帰ろうとしていたら、にこやかな表情の俺たちが帰ってきたのだから……それは確かに気分が悪いに違いない。

 

 こんな足元の悪い冬の日に、わざわざ家を出て神社と俺の家まで来たんだ。その悲しみもひとしおだろう。

 俺は沙都子のことを慰めてあげたくて……一部、俺と梨花ちゃんの秘密を語ることにした。

 

「俺は沙都子を親友だと思うから言うよ。

 梨花ちゃんはたまにちょっとした予言をするでしょ?その関係で、梨花ちゃんは、来年の綿流しの祭りの後、自分に危険が及ぶかもしれないって、そう思ってる。俺はそれの相談に乗ってるんだ」

 

「でも、なんでユウだけに?私にも、教えてくれてもいいのに……」

 

「先に言っておくけど、沙都子が信頼できないから言わなかったわけじゃないんだ。……俺が梨花ちゃんからそれを聞いたのは、偶然じゃない」

 

「……どういうことですの?」

 

「昔……俺の両親が亡くなったこと、覚えてる?」

 

 沙都子は怪訝な表情をしたまま、黙って頷いた。

 

「村じゃ“オヤシロ様の祟り”だって噂されてた。今だから話せるけど……あの時、俺は梨花ちゃんのことをちょっと疑ってた。だから、梨花ちゃんを問い詰めたんだ。梨花ちゃんは寂しそうな顔で、事故への関与を否定して、最後には、来年の綿流しの後、自分にも同じようなことが起きるかもしれないって打ち明けてくれたんだ」

 

「……だから、ユウだけが……」

 

「ああ。俺が無理やり聞き出したんだ。梨花ちゃんは、誰にもこのことを話すつもりはなかったんだと思う」

 

 沙都子は少し俯き、そして顔を上げた。

 

「それなら……私にも、話してくれてよかったのに」

 

「梨花ちゃんが沙都子に言わなかったのは、深く関わると沙都子の身にも危険が及ぶかもしれないからだと思う。俺に話した時も、『他の人には絶対言うな』って念を押されたよ。でも……ふふ、こうして、話しちゃったね。ごめん……」

 

 沙都子は小さく息を吐き、ほんの少しだけ笑った。

 

「別にいいですわよ。そのことは、梨花とユウ以外には黙っていればよろしいんでしょう?」

 

「うん。だれが梨花ちゃんのことを狙っているのか、俺たちにもわからないから」

 

「それで……お2人は、そういう関係というわけではございませんのね?」

 

 恥ずかしそうな顔をして、沙都子は言った。

 

「もちろん。あ、でも……お酒を一緒に飲むことはあるよ。俺が一方的に飲まされて、潰れるだけだけどな」

 

「ふふ、何それ!お酒は大人になるまでは飲んではいけませんでしてよ?」

 

「それは梨花ちゃんに言ってくれよな。ほら、一緒に帰ろう?雪が降ったらせっかくのお洋服が汚れちゃうよ」

 

 俺は沙都子の手を引いた。俺はいつか、この辺りで沙都子に手を引かれてこの裏山を下っていったことを思い出した。俺たちは穏やかな雰囲気で、共に山を降り始めた。

 

「ユウ!覚えていらっしゃらなくて?そこを真っ直ぐ行くと縄を張っていますわ。こっちを歩けば大丈夫ですのよ」

 

 ……少し歩くと沙都子は俺がトラップをうろ覚えなのに気付いて、むしろ俺を引っ張るようにして裏山を降りていった。そのうちに彼女の顔はいつものような快活な笑顔に変わっていったのだった。

 

 その後、俺たちは梨花ちゃんの家に戻って今日のことを話した。沙都子の勘違いには目を見開いて驚かれたし、さらに俺が沙都子に俺たちの秘密の一部を語ったことに関しても驚かれた。

 でもいずれは話さないといけないことだから、と納得してくれて、そのまま沙都子は梨花ちゃんのお家で遊ぶことになった。

 

「雄星は家に帰っていて欲しいのです。ボクたちは2人でいろんなお話をするのですよ」

 

 梨花ちゃんはそんなこと言った。もちろん長居するつもりもなかったので、俺は家に戻って家事や学校の用意なんかをした。

 沙都子はああ見えてすごく大人な奴だ。来年にまで迫っている梨花ちゃんの窮地にも、俺たちでは思い浮かばないような解決策を思いつくかもしれない。

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