雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第66話

 

「今日は何があるかな〜!良いものがあるとうれしいなぁ〜!」

 

「良いものがあると良いね。冬の間はこの辺りにも来れなかったし、色々変わってるかもね」

 

 るんるんとした足取りで先頭を歩くレナちゃん。

 俺は彼女に誘われて、行きつけの遊び場であるダムの工事現場跡地に案内してもらっているところだった。

 

 レナちゃんが雛見沢に引っ越してギリギリ1年も経たないはずだが、彼女はすごくマイナーなスポットを自分の憩いの場としていた。彼女のお気に入りのスポットは相当の穴場だ。何せ、村の人間は誰1人としてここに近づこうとはしない。

 

 というのも、ここにはかつての因縁と、この村が経験した闘争の歴史の爪痕だけが残っているからだ。

 

 村の外れにある細い道を山の方にしばらく歩くと、かつてダムが建設されていた工事現場が出てくる。朽ちて動かなくなったような重機や、長いこと放置されたバリケードみたいなものが、積雪の合間から姿を覗かせているのが、遠くから見えた。

 

 村がピリピリしていたあの頃から、未だに時が止まったままのようなその光景は、少し懐かしくもある。木々の隙間から見えるその景色を、少しの郷愁を持ちながら俺はぼーっと眺めていた。

 そんな俺に、先を行くレナちゃんが振り返って、小首を傾げる。

 

「どうしたの?ほら、早く行こっ?」

 

 俺も、それに頷いた。

 

 

 レナちゃんは、ダムの建設現場跡地で捨てられた家具や資材を漁って、かわいいものを探すのを趣味にしている。

 

 建設現場跡には、いくつものゴミの山が積み上げられている。中には、触りたくないような汚れがついたものもあれば、捨てられてからまだ日が浅いからか、小綺麗な状態でそのままにしてある家具や家電なんかもある。

 

 捨てられてるものとはいえ、黙って持って行って窃盗罪になったりしないのか?初めて連れてきてもらった時の俺には、そんなちょっとした疑問もあったが、こんな村でそんな法律いちいち気にしてる奴は俺ぐらいだろう。

 

 俺がキョロキョロと辺りを見回してるのに対して、レナちゃんはそんなスクラップの山に対してはだいぶ慣れた感じだった。

 

 俺が足場に苦労しながら少しずつ近づくところを、心配そうな顔でこっちの方を何度も振り返りながら、駆け足でゴミ山へ向かって行く。ところどころ、雪がまだ残る場所だって、軽やかに飛び越えていく。危ない。

 離れていくその背中を見て、あぁは出来ないな、と思った。俺は一歩一歩をゆっくりと確かめ、地道にレナちゃんの方へと歩いていく。

 

「あっ!新しい山が出来てるみたい!かぁいいものあるかなぁ〜?」

 

 輝かしい笑顔のレナちゃんが指さした方には、確かに最近捨てられたものらしい、粗大ゴミの山があった。上に雪が積もっていないのが、きっとその証拠だ。

 山の中にはよくわからない何かのマスコットや看板、何かの板や金属パーツなんかがぐちゃぐちゃになっている。建築廃材みたいなものが所々で引っかかっており、何か間違えれば怪我をしそうだ。

 

 ……正直なところ、俺はこのゴミ山を掘り返すのは危険だし、やりたくはない。汚いものに素手で触りたくはないというのもあるが、落ちてきたもので危険な目に遭いそうなのが怖い。まだ、冬の間の雪はたくさん残っている。雪で覆われた下に実は危ないものがあったりとか、滑ったりしたら大惨事だ。

 

 けど、レナちゃんがせっかく自分の遊び場に誘ってくれたんだからな。俺も気合い入れていこう。俺は腕を捲ってやる気を出して、レナちゃんの元へ急いだ。

 

「おまたせ。何からやる?」

 

「うん。雄星くんは外からかぁいいものを探してくれればいいからね。もちろん、取り出すのはレナがやるんだよっ」

 

 俺の気持ちを見透かしたように、レナちゃんはそう言って明るく笑った。せっかく俺を連れてきてくれたのに、やる気がないのを見透かされているみたいだった。

 

「いいや。俺は農作業を手伝ったりするし、こういうのは得意だからさ!重いものを掘り返すのは俺がやるよ。ただ、どれを取り出したらいいのかなぁ、って悩んで……」

 

 俺がそんな感じの誤魔化しの言葉を口にした時、レナちゃんはやはり俺の言葉の違和感に気づいたらしい。どこか目の色が変わった。

 

「そうなんだ。でも、いいよ。雄星くんは見ててよ」

 

 俺が嘘をついたのがわかったのか、先ほどよりはどこか冷たい感じでレナちゃんは言った。こんなちょっとした嘘までわかるのか?すごい子だ。

 

 前々から思ってはいたが、レナちゃんは天然の嘘発見器だ。複雑な家庭環境を抱えて、誰かに嘘をつかれることに強い嫌悪感を感じるのだろうと勝手に想像していた。そうじゃなきゃ、俺が嘘をつくときに何か変な癖があって、それでバレバレなのかもしれない。

 

 結局、俺は観念して正直なことを言おうと決めた。

 

「レナちゃんは鋭いなあ……俺が乗り気じゃないのはそうなんだけど……正直なことを言うね?」

 

「何かな」

 

 何処か緊張感を漂わせるレナちゃんに、俺も思わずたじろぐ。でも、やましいことはない。俺は堂々と言った。

 

「もっと安全にやってほしい。あのね、こんな金属のパイプなんかを素手で触るのは危ない。怪我をしてほしくないからさ……まず、軍手を取りに行こう。それで、これを掘り返せる様な道具を見つけて、道具を使って取り出そう。力任せに重たいものを動かしたりしてると、いずれケガしちゃうよ?これが気分転換になるのはわかるんだけど、それでケガしちゃったら嫌な気持ちになるでしょ」

 

「う、うん……」

 

「前までは雪もなかったからいいけど、今は不安定なとこを歩くのは危ないよ。やっぱり、一回戻ろう」

 

 俺がそうやって捲し立てると、レナちゃんは目をまん丸にした。レナちゃんは最初こそ訳がわからない顔をしていたが、それが俺の本心だと知ると、次第に優しい顔に戻って、笑った。

 

「あははは!なんだ、そんなことだったんだね……確かにそうだね、気遣ってくれてありがとう。じゃあ、今からレナが取ってくるね?」

 

 俺の頭に疑問符が浮かんだ。別に俺も着いていくのに。何で1人で行こうとするんだ?

 

 レナちゃんも俺が首を傾げているのを見て、黙る。俺たちの間には少し気まずい沈黙が訪れる。

 

 レナちゃんは、ほんの一瞬、俺を品定めするかのように見つめてから、それを取り繕うように笑顔を浮かべた。

 

「……雄星くんも家に来てもらっても良いかな?」

 

 かな、かな、と繰り返すいつもの口調ではなく、冷静な感じのレナちゃん。今、少し考えてから俺に提案したのは、父親と俺を引き合わせるかどうか悩んだのだろうと勝手に思った。

 

 レナちゃんは家族というものにただならぬ拘りがある、というか、譲れない一線を引いている。俺を家に招くことで、レナちゃんが生きる今の環境に何か影響を及ぼすのなら、絶対に家に呼んだりはしないだろう。

 

 今までの接し方がそんなに悪くなかったのか、俺のことは家に呼んでもいいくらいには信頼してくれてるみたいなのは、素直に嬉しい。

 

 前の学校でやったことだって黙ってるし。俺が何も考えないただの中学一年生だったら、友達の秘密なんてすぐにみんなに話してるだろう。

 少なくとも、俺はレナちゃんの家での態度や学校での振る舞いを誰彼構わず言ったりはしない程度の信頼はあるはず。

 

 俺は頷いた。

 

「そっか。最近お会いしてないし、挨拶させてもらおっかな。じゃ、行こっか!」

 

 そんな感じで、俺たちは建設現場跡を引き返してレナちゃんの家に向かうことになった。

 

 レナちゃんの家は村の中でも、やや外れの方にある。分校までは30分と少しぐらいで、俺たちのグループの中じゃ一番遠いが、ダムの建設現場へは数分もあれば辿り着く。

 

 俺たちは他愛のない話をしながらレナちゃんの家へと向かった。学校であったことや、部活動のこと。他にも、だんだんと寒くなる雛見沢についてとか、いろいろ。そんな時、レナちゃんがちょっと真面目な顔になって言い出した。

 

「ねぇ、雄星くん」

 

「何?」

 

「次の綿流しのお祭り……楽しみだねっ」

 

 俺はすんなり頷けなかった。俺が次の綿流しを楽しみにしていると言えば、それは嘘になるからだ。俺は同意する前に、レナちゃんの意図を聞いた。

 

「綿流し……去年のは良かった?俺、刺されてたから行けてないんだよね」

 

 俺が冗談めかして笑うと、レナちゃんは俺の事情を思い出したらしく、慌てて謝った。

 

「ご、ごめん!雄星くんはそれどころじゃなかったよね、ごめんね。嫌なことを思い出させちゃって……」

 

「こうやってネタに出来るぐらいには平気だから気にしないでよ。でも、どうして急に?」

 

「私、雛見沢に来て……お友達もたくさん出来て、本当に幸せなの。それは多分、オヤシロ様が私を許してくれたからなんだと思うの」

 

「うん……」

 

 女王感染者の梨花ちゃんと触れ合うことで、茨城で発症した雛見沢症候群がマシになったからだろう、とは言えない。俺は素直に頷いた。

 

「それでね。私の罪が祓われるきっかけになった綿流しのお祭りがまた来年もあるんだよ?今から楽しみだな、って……次は、みんなで行こうね!梨花ちゃんも、自分の晴れ舞台を雄星くんが見られなくて残念そうだったんだよ」

 

 俺は雛見沢に長年住んでいるから、一々綿流しの祭りの意味なんかを深く考えたことはない。でも、雛見沢に戻って環境が好転したレナちゃんにとってはそうじゃないんだろう。

 

 楽しんでくれてるならそれに越したことはないが、そんなに大した祭りではないような気もする……そんなことを言うとどこかにいる可愛い神様が怒るかな。

 

 俺はそんなことを考えながら、曖昧に頷いた。レナちゃんは俺の顔をチラッと見たあと、一瞬だけ不思議そうな顔をして前に向き直った。

 

 

「お父さん、ただいま!」

 

「お邪魔します」

 

 俺はレナちゃんの家に案内された。

 

 家の前に来たことぐらいは何度かあっても、家に上がったことはない。レナちゃんの父親は仕事をしていない割に、不在であることも多い。

 夕方まで遊んだ後、レナちゃんを家まで送った時だって、いないこともしばしば。引っ越す前以来、ほとんど会っていないので、挨拶をしたいところだった。

 

「おかえり、礼奈。今日は友達と宝探しに行ったんじゃなかったのか?」

 

 居間の方からレナちゃんのお父さんの声が聞こえてきた。俺がいることに気づいてないみたいだった。

 レナちゃんと俺は、一緒に居間のところまで行って、ドアを開けた。レナちゃんの父は、ちょっと驚いたような顔をしていた。

 

「宝探しのために道具を取りに来たの。雄星くんも来てくれたんだよ?」

 

 と、レナちゃんのご紹介に預かる。俺は少し緊張した心地で、レナちゃんの父に挨拶をした。

 

「こんにちは!お久しぶりです、レナちゃんのお父さん。牧野雄星です。レナちゃんが引っ越す前に、何回か会ったことがあるんですけど、覚えてますか?」

 

「こんにちは。久しぶりだね、雄星くん。娘からいろいろ話は聞いてるよ。礼奈はちょっと変わったところもあるけど、仲良くしてくれたら嬉しいな」

 

 お父さんの言葉に、レナちゃんが恥ずかしそうに笑う。家に入ってからというもの、レナちゃんはいつもよりも自然な感じがする。俺は察した。家にいる間は、外のような元気いっぱいな竜宮レナではなく、聡明な竜宮礼奈として過ごしているのだ。

 

 この分では、家では落ち着いた竜宮礼奈ちゃんが、家の外では底抜けに明るい竜宮レナとして振舞っていることもお父さんは知らないのかもしれない。

 

「お父さん、軍手ってどこにあったかな?」

 

 レナちゃんが聞く。

 

「うーん……雪掻きの時に使ってたのがあると思うから、家の裏の倉庫でも見てきたらどうだ?」

 

「うん、そうだね!見てくるね」

 

 レナちゃんはそう言って一度家を出る。俺もそれに着いていって、倉庫から軍手を取り出すのを手伝おうとした。

 

 家を出て裏手の倉庫に回る時、車も置かれていない空のガレージの中に、いくつかの看板や像みたいなものが雑多に置かれているのが目に入った。それらはコーディネートされて配置されてるわけではなかった。端っこに固められるようにして置かれており、景観的にはあんまり美しくない。

 

 最初は玄関先に置いてる装飾かオブジェか何かかと思ったが、どうやらそういうものでもないらしかった。俺はちょっと不思議に思って、レナちゃんの方を見た。レナちゃんも俺の方を見て、恥ずかしそうな顔でその説明を始めた。

 

「あ、あのね?これは、レナの部屋に入りきらないものをここに置かせてもらってるの。もちろん、雄星くんにもらったキーホルダーなんかは部屋に置いてるんだよ!」

 

「へ〜。自分の部屋を好きなもので埋め尽くすのって、良いよね。俺の部屋もそんな感じだよ。ま、俺の場合は物が多すぎてめちゃくちゃなんだけど……」

 

 レナちゃんはうんうん、と頷く。要するに、これもレナちゃんのコレクションの一部だと言う訳だ。

 

「雄星くんもレナと一緒だね。えへへ」

 

 レナちゃんはそう言って恥ずかしそうに笑った。……かわいい!俺の周りに可愛い女の子が多くて困る。ロリコンじゃないつもりだけど、体が中学生だからだろうか?周りの子達を、いちいち可愛く感じてしまう。いかんいかん。俺は気を取り直した。

 

「よし、じゃあ今日何か持って帰ってきたら、一緒に綺麗にしてここに飾ろう。何なら、他のやつも綺麗にしてもいいかもね」

 

「ほんと?嬉しいな!」

 

 レナちゃんの家の裏にある倉庫はだいぶ長いこと使われていないみたいで、埃っぽい香りがした。中には雪掻きの道具や使う機会がなさそうな電動ドリルがあった。

 中でも驚きなのは持ち出したら銃刀法違反に引っかかりそうな鉈が置いてあったことだ。鉈は人の腕くらいの刃渡りがある大きな物で、持ち手の部分には泥がついてる。

 

 軍手だけつけて手でゴミ山を掘り返すというのも大変なので、何かしら道具が欲しいところだったが……使えそうなのはこの鉈ぐらいしかない。俺はレナちゃんの方を見た。

 

「……これ、どうする?」

 

「持って行ったらダメかな?」

 

 レナちゃんは鉈を拾い上げて、小首を傾げた。凶器を手に持って、可愛らしい表情を浮かべるその顔が、不釣り合いでなんだか笑えた。

 

「法律的にはちょっと危なそうだね……少なくとも、大石さんが見たら多分事情を聞かれるだろうね。ま、でも建設現場までは近いし、村の人には怒られたりしないだろうし……持っていくか!」

 

 レナちゃんは大きく頷いて、その蛮刀のような鉈を手に取った。

 

 

 最後、レナちゃんの家の洗面台を借りた。どうせこの後、すぐに手は汚れるのだが、これからずっと手が汚れっぱなしというのも嫌なので、手を洗いたくなった。

 

 そこで、俺にはちょっとした疑問が生まれた。

 

 洗面台に掛けられているマグネットのケースには歯ブラシが3つ。鏡台の側にはよくわからない化粧道具が入っていて、中には鮮烈な色味の口紅とかもある。

 

 これをレナちゃんが使ってるのか?……いや、とてもそうは思えない。あのレナちゃんが、こんな化粧道具を使って誰かと会ってるなんて……ありえない話だ。

 村の人に気付かれずに、こんなお化粧をして興宮にお出かけをするというのも、多分不可能だし。

 

 これはおそらくレナちゃんのお父さんの交際相手のものとかだろう。

 両親の離婚を経験して、母親に対して良いイメージを持っていないであろうレナちゃんは、親父と交際する女の人を見て、どんな気持ちなんだろうか。

 

 洗面台に並ぶ化粧品を見て、何とも言えない嫌な感じを抱えながら、俺は汚れた手を洗い流した。手についた黒っぽい汚れは、吸い込まれるようにして排水溝へと消えた。

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