雛見沢とかいう田舎に転生した   作:that's the plan

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第69話

 

 去年のレナちゃんがそうだったように、圭一も俺たちに直ぐに馴染むようになった。

 

 圭一は都会出身なこともあってか俺たちよりはやや体力が劣るが、口先は達者で機転も効く。ノリが良くて熱い男で、もうみんなからも好かれている。

 進学校で一生懸命勉強をしていたということで勉強も得意で、もう魅音ちゃんは彼に勉強を教わるようになっている。部活動にも入れたいと俺たちにも相談していて、彼が部活動に参加するようになるのは秒読みだろう。

 

 熱くなりやすいタイプで直情的だから、沙都子のトラップにも良くかかる。圭一も最初のうちは可愛らしいいたずらだと笑って許していたが、沙都子としては、むしろ許される方が張り合いがなくてつまらないらしい。どんどんトラップは凶悪になっていって、1週間もしないうちに圭一は沙都子を呼び捨てで呼ぶようになった。

 

 沙都子も圭一のことを年の近い悪友として接するようになった。今まで沙都子のトラップにここまで調子良く乗ってくれる奴はいなかったし、新鮮な感じで、ますます教室は賑やかだ。

 

 そうそう、ちょっと前には、みんなで村のあちこちを圭一に案内したりもした。

 あの時は面白かった。レナちゃんが張り切って馬鹿でかい弁当を作ってきて、神社の境内の端っこで食べたんだ。沙都子と圭一は張り合って、限界までご飯を食べた結果、しばらく死人みたいな顔をしてた。俺は美味しく食べられるくらいにそれをいただいて、家で食べたいと言って残ったのをもらった。

 

 そしてそのあと、デザートのりんごを争奪した……圭一や魅音ちゃんに乗せられて、レナちゃんに恥ずかしいことを言ったりもした。忘れたい記憶だ。

 

「何をぼーっとしてますの?そのだし巻き卵、もーらいっ!ですわ!」

 

 物思いに耽る俺の横で、沙都子が俺の弁当からだし巻き卵を持っていく。

 

 俺たちは午前中の入江先生の定期健診を終えて、昼飯を食べてるところだった。俺は今年、身長が割と伸びていたことを知って機嫌は悪くなかった。このまま成長すれば、前世より多分高くなる。よく外で運動してるからだろうか?田舎に生まれた数少ないメリットかもしれない。

 

 悟史くんと詩音ちゃんは今日は2人でご飯を食べてるので、席をくっつけているのは俺、圭一、魅音ちゃん、レナちゃん、梨花ちゃんと沙都子というメンツだ。

 

 圭一も最初こそ女の子たちと肩を並べて弁当を突き合うのに少し抵抗感があったみたいだったが、今では慣れてみんなでおかずの取り合いをしている。

 

「何だか上の空って感じだねぇ、ユウ。どうかしたの?」

 

 魅音ちゃんが俺に聞く。

 

「うん?平和だなあって思ってね。いつまでもこんな日々が続けばいいんだけどねぇ……」

 

「何言ってんだよ、雄星。魅音は今年で卒業しちゃうけどさ。雄星がここを卒業するのはまだ再来年だろ?」

 

 と、圭一。

 

「そうなんだけどさ……」

 

 俺の言葉に含まれている意味が分かっている沙都子と梨花ちゃんは神妙な面持ちになっている。

 

「なぁに?ユウ、みんなと離れたくなくてもうおセンチになってるわけ?いつもは大人ぶってるけど、意外に可愛いとこあるよね〜!」

 

 魅音ちゃんが可愛いものを見るような顔でそう言う。すかさず梨花ちゃんが俺の頭を撫でる。だがその顔は、いつものように余裕たっぷりって感じではない。

 

 梨花ちゃんは今日の朝から、何だか具合が悪そうだった。何かあったのかと聞くと、今日の帰り、自分の家に来てほしいと言う。沙都子にもそれを伝えているようで、俺は彼女に何か重大なことがあったのだと確信していた。それを踏まえて、俺はこの平穏がいつまでも続くなんて思えなかった。

 

 梨花ちゃんの方に目を向けると、梨花ちゃんは薄く笑って言った。

 

「雄星、安心するといいのです。ボクも沙都子も、あと3年も分校にいるのですよ。それに、もしもみんなが卒業したって住んでいる場所はそう遠くないのです。きっと高校に行っても離れ離れになんかならないのです」

 

「そうですわよ。みなさんが目指している高校も興宮なんですもの。学校で会わなくたって、遊ぶ時間ぐらいありますわよ!」

 

 梨花ちゃんに危機が迫っているという俺の懸念を理解している2人は揶揄われる俺に助け舟を出してくれた。レナちゃんもそれに反応した。

 

「2人の言う通りだよ。圭一くんは分かんないけど……魅ぃちゃんも興宮高校でしょ?レナも興宮に行くつもりなんだよ。だから、離れ離れになんてならないんだよっ!」

 

「そうそう、おじさんはむしろ、ユウが遠くの高校に行っちゃうのかと思ってたぐらいだよ。みんながお互いのことを大切に思ってれば、疎遠になったりなんてしないよ!」

 

 魅音ちゃんはそう言って笑う。良いこと言う。でも、圭一はアツいことを言った魅音ちゃんを揶揄って笑ってた。圭一、こういうとこは黙っといた方がいいんだぞ。

 

「そうだね。みんな、信じてるからね!」

 

 魅音ちゃんと圭一の2人がわいわいと騒ぐ中、俺はそう言って弁当を摘んだ。その頃には、俺の弁当にはほとんどおかずは残ってなかった。

 

「雄星くんのお弁当、みんなに食べられちゃったね。レナのお弁当はまだ残ってるから、たくさん食べてね?」

 

 レナちゃんはそう言って微笑んだ。物思いに耽ってる間に色々食べられてしまったらしい。お言葉に甘えてレナちゃんの食べ物を頂くことにした。

 

 

 

 そして時は経ち、放課後になった。

 

「ごめん!みんな。今日はおじさん、バイトだから部活はなし。じゃ、また明日ね!」

 

 今日は悟史くんと詩音ちゃんは雛見沢ファイターズの用事。悟史くんからは俺も来ないかと誘われたが、俺は梨花ちゃんの家に行かないといけない。申し訳ないが、断った。悟史くんはやはり捨てられた子犬のような顔で、しょんぼりしていた。

 

 魅音ちゃんも親戚のおじさんのアルバイトがあるらしく、魅音ちゃんは早々と教室を後にした。

 

 圭一は魅音ちゃんの言葉を聞いて、怪訝な顔で俺に尋ねてくる。この校舎とグラウンドで、何かしらの部活動ができそうな感じはしない。確かに、何の部活なのか気になるのも当然だろう。

 

「なぁ雄星、みんながやってる部活って結局何なんだよ?」

 

「俺から伝えてもいいんだけど、魅音ちゃんがそのうち教えてくれるよ。だから、魅音ちゃんが勇気を出すのをちょっとだけ待っててあげてよ」

 

 圭一の肩をぽんぽんと叩いて俺はにっこり笑った。

 

 圭一はまだ部活に参加していない。魅音ちゃんとしても部活に誘いたい気持ちはあるみたいだが、アルバイトや用事もあって、かつてと比べればみんな揃っている日というのも少なくなっているし、魅音ちゃんも意外と度胸がないからまだ誘えずにいる。

 と言っても圭一が部活のメンバーになるのも多分時間の問題だ。

 

「勇気ぃ?うーん、そう言われると弱いなぁ……ま、いいや。雄星、帰ろーぜ」

 

 俺、圭一、レナちゃん、魅音ちゃんの4人はタイミングが合えば一緒に帰る仲だった。ただ、今日はそうもいかない。

 

「今日は帰り道に用事があってさ……ちょっと寄んないといけないところがあるから、先に帰っててくれないかな。ごめんね」

 

 というのも、梨花ちゃんから何か相談があるらしいからだ。今朝は何かショックを受けることがあったみたいで、俺も沙都子も心配していた。

 

「そうなのか……みんな忙しいな。それなら、俺は先に帰るよ。じゃ、またな!」

 

「うん、また明日」

 

 そう言って圭一は教室を出ていった。その背中はどこか寂しそうで、なんだか申し訳ないような気持ちが湧き上がった。

 

 俺も荷物をまとめて席を立ったところ、レナちゃんが教室の出入り口の前で俺を待っていた。圭一と一緒に帰るんじゃなかったのか?と疑問が湧き上がる。

 

「ねぇ、雄星くん。用事って、何なのかな?……かな」

 

 首を小さく傾げて、レナちゃんは俺を見る。レナちゃんの目はどこか暗い色をしていた。俺はレナちゃんにじっと見つめられていた。

 

 やましいことがあるわけじゃないんだが、俺はその視線にたじろいで、言い訳の言葉が出なかった。

 レナちゃんが怪訝な表情を浮かべて、何かを言おうとして……

 

「雄星は沙都子と一緒に、ボクのお家でお料理のお勉強をするのですよ」

 

 いつの間にかそばにいた梨花ちゃんが、俺に助け舟を出してくれた。"お料理の勉強"。それが俺たちの合言葉だった。俺たちが梨花ちゃんに迫る脅威についての話をする時、俺たちはその言葉を符牒としていた。

 

「なんだ、そうなんだね。それなら、レナや圭一くんが行くとお邪魔しちゃうね。それじゃ、私は圭一くんと一緒に帰るね」

 

 そう言ってレナちゃんは俺の方を見た。その目は少し寂しそうだった。

 俺がそれに小さく頷くと、彼女はくるっと振り返って教室を出ていった。圭一目掛けて、ひとっ走り。……俺は彼女が転校してきた当初、そんなに仲良くはなかったのに、圭一はもう仲良くなったらしい。ちょっと悔しい。

 

 教室には俺と梨花ちゃんだけ。外では子供たちがきゃっきゃとボール遊びに明け暮れている声が聞こえるが、放課後の教室には何とも言えない静寂があった。

 

 安心した俺が小さく息を吐くと、梨花ちゃんは気怠げな目で俺を見る。

 

「あんた、誤魔化すの下手ね。せっかく合言葉を決めたのに、意味ないじゃない」

 

「ごめんごめん。レナちゃんって察しが良すぎるところがあるでしょ?ドキッとしちゃってさ……」

 

 梨花ちゃんは、はぁ、と息を吐いてジト目で俺を見た。

 

「もう……気を付けなさいよね。私たちがみんなに秘密にしてるのは、みんなのためなんだから。ほら、沙都子が帰ってきたらすぐに行くわよ」

 

 などと言っているうちに、教室の入り口から沙都子が戻ってくるのが見えた。

 何をしに何処に行っていたのかはわからないが、トイレか何かだろう。沙都子に背を向けてる梨花ちゃんはそれに気付かない。俺は梨花ちゃんにバレないよう沙都子に目で合図をした。

 

 しばしの間、何のことかと茫然としていた沙都子だったが、すぐに俺の意図がわかったらしい。にやりと口元に笑みを浮かべて、足音を消して近づいてくる。

 

「……分かってるのかしら、今日は大事な話が……きゃあ!?」

 

 沙都子が後ろから梨花ちゃんに抱きついた。大人っぽい顔でくどくどと俺に説教を垂れていた梨花ちゃんは、不意な後ろからの感触に可愛らしい声をあげて驚いた。

 

「うふふ、今戻りましたわ、梨花。さ、行きますわよ!」

 

 沙都子はそう言って笑った。それを見た梨花ちゃんは、してやられたことにほんの少し悔しそうな顔をしたが、可愛らしく笑う沙都子の顔を見て、結局観念したように笑った。

 

「沙都子……覚えておくのですよ」

 

 梨花ちゃんは、自分を楽しませようとしてくれた沙都子に対して、冗談めかしてそう言った。

 

「あはは、それじゃ、行くか。大事な話があるんでしょ?」

 

 梨花ちゃんは、俺の言葉に優しい顔で頷いた。先ほどの思い詰めていた顔から、どこか棘が取れたようだった。

 

「そうなのです。詳しい話は、ボクの家で。とっても大事なお話しなのです」

 

 優しい顔だが、その言葉は真剣そのもの。俺たちは無言で頷いて、教室を後にした。

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